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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 君がため 惜しからざりし 命さへ
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君があれなとおもほゆるかなⅤ

 頭を抱えるファウオーや大きなため息をついているルクソリアを見るとやはり迷惑なのではと困惑しているところに、両サイドからセレナとシエルが抱きついてくる。

「これからは悩んでいることはちゃんと話す! いい?」

 はい、と言ったあと自分が笑顔になっていることに気がつく。同時にセレナは不思議な人だとつくづく思う。

 初めはシエルに救われて惹かれた。でも自分とは縁遠い人物なのだろうとも思ったし過度に人と関わるつもりがなかった。だから遠目に見ているだけになると思っていた。それなのにいとも簡単に壁を取り払って連れ出してくれる人――それがセレナだった。

 強引にチームに加入させられてからは当たり前のように一緒にいる。困っている無国籍の子供たちのために思いつきで魔道具を作ったこともあった。今までなら騎士団本部襲撃などという無謀な行いなど絶対に止めていただろうし、少なくとも別の方法を提案していただろう。それでも作戦に賛同してついてきたのはいつの間にかセレナと同じくシエルの横に並び立ちたいという気持ちに気がついたからだった。

「負けませんよ、セレナ」

「え、何が?」


 一つの心配事が解決しほっとした表情のグーテスだったが、棚上げしていた自分のことを思い出してまた唸り出した。

「あとはお前だけだぞ。どうすんだ? てか決まってんだろ?」

 ルゥに声をかけられて渋い顔で見上げたまま動かなくなる。

「彼女のように何か懸念があるのなら話してみてはくれないか?」

 カウコーは今決める必要はないと初めに言ったがここまでくれば決めてしまいたいと考えている。恐らくはあと一押しが必要なのだろうとも。

「少し言いかけていた学費の事についてかい?」

 自分だけお金の話を口にしてバツが悪いのか猫背がさらに丸くなり小さくなっていくようだった。

「いやまあ、その……それもありますが……」

 ルゥのように初志貫徹でもなく、セレナのように真っ直ぐでもない。ましてやソルフィリアのような特殊な事情があるわけでもない。

 大した志もない凡人が必要なのだろうかと懐疑的にもなるし、自分はただのオマケなのではないかと思う。

「念願の騎士団に入れるのだからいいじゃない? お兄さんも喜んでくれるわよ」

 顔を上げると目の前には、かなり近い距離でセレナがいた。顔から火が出たかと思うほどのけ反ってしまう。

「騎士になるのが夢で、それをお兄さんが応援してくれているから試験を受けられて今があるのでしょ? 何も問題ないじゃない。言ったでしょ? あんたもチームの一員なのだから一緒に来なさい」

「はは、僕だけ強制ですか?」

 言葉とは裏腹に肩から力が抜けて自然な表情に戻っていた。

「後悔はしたくないんです。折角一緒に騎士団に入ったのに力になるどころか足手纏いになるなんてのは……僕はイヤです」

 グーテスもまた一緒にいるだけのただの友ではなく、並び立つ事を望んでいた。自分に自信がないだけではなく、そう思うことの資格があるのかとも考えてしまう。

「オマケで入ったなんて言われるようでは兄さんに申し訳が立たないので」

 なるほどと呟いたカウコーがゆっくりと落ち着いたいつもの口調でグーテスに語りかける。

「彼女に見合うだけの実力を身につけてこそ一緒に居られるのだと考えているんだね?」

 小さく頷くグーテスをみてルゥが大きなため息を吐くと背中を思い切り叩き大きな音と叫び声が響く。

「いっ……たあー‼︎」

 あまりにも大きな音にソルフィリアは肩をすくめて目を瞑り、セレナとシエルは痛そうな音に顔をしかめる。

「バカがっ!」

 グーテスの悲鳴の後ではルゥの怒号も小さく感じたが、実際にあまり大きな声は出していなかった。

「良い加減にしろよ。シエルを除けば俺はお前だけ勝てるイメージが湧かねぇ。負けなくても勝てる気がしねぇんだ」

 テコとイルヴィアが同時に発声する。

「は? 俺には勝てると?」

「は? アタシには勝てると?」

「面倒くせぇからお前らは黙ってろ!」

 怒気の混じった声が二人に突き刺さっておとなしくなる。

「お前はマナの保有量も多いし、何より扱いが上手い。感覚で扱っているんだろが、それを周りは……天才って呼ぶんだよ」

 ルゥの視線は自分と合っているのに誰の事を言っているのか理解できずにいる。

「それよりももっとスゲーのは、お前はずっと努力し続けているってことなんだよ! 何があっても訓練を欠かすことはなかった。精密な操作は日頃の訓練の成果じゃねぇのか? だから誰も死なせずにここまで来れたんだろ?」

 激しい戦闘で騎士団の負傷者が少ないのは彼のおかげなのかとカウコーは目を細める。

「他のみんなには申し訳ないが君こそ最も入団してもらいたい人材なんだ。鉄壁の魔力障壁に建物を一棟丸々倒壊させる力……ぜひ我が騎士団で振るってほしい」

 建物の倒壊と聞いてその時のことを思い出したのか急に青ざめていく。

「ほっ……とうに申し訳ございません!」

 頭が地面にくっつきそうなほど腰を折って謝罪する姿が余程面白かったのか声を出してセレナが大笑いを始める。それに吊られてシエルとソルフィリアも笑いを堪えている。

「気にすることはないよ。どうせ取り壊す予定だったから手間が省けた。そう言えば君のお兄さんはウェッター商会の代表だったね。彼とは面識があって色々頼み事をしているんだ」

「え、兄さんと?」

「これから話すある計画にも関わっている。お兄さんには借りが沢山あるから君の心配することは大体なんとかなるよ」

「なんとかなるってよ。良かったじゃねぇか。で、お前はどうしたいんだ?」

 ルゥに促されて改めて自分の気持ちを整理する。整理するというよりも余計なものを取り除いていく感覚であり、その奥にある想いを確認するとシエルを見る。

「僕も一緒にいかせてください! 騎士団に入って目の前の弱い人たちを守る、それが僕の夢だから」

 もう一度ルゥに背中を叩かれる。痛みは全くなく、熱い何かが張り付いていた。


「シエル・パラディス、セレナ・エリオット、ソルフィリア・ナフリーゲン、グーテス・ウェッター……以上の入団をここに許可する。ルゥ・アインザム、君の処分はない。引き続き勉学に励んでくれ。ああそう、入団選考の際は君の希望に沿うよう取り計らおう。その時に心変わりしてくれていたら嬉しい」

「悪いけど変わんねぇです」

 カウコーは頷くと「それは残念だ」と嬉しそうに笑った。


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