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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 君がため 惜しからざりし 命さへ
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雲隠れにし 夜半の月かなⅥ

「さあ、今のうちに!」

 エヴァンは複数人を相手にしながらもこちらの戦況を把握していた。

「ここは任せて行って。あなた達がほとんど押し流しちゃったから、この人数なら私たちでもなんとかできるわ」

 リーシャが笑顔で余裕を見せると、グーテスに想定以上の魔力を譲渡してしまった魔法士3人もよろけながらも立ち上がる。

「私たちも大丈夫です。行ってください」

「つ、ついて行っても……ど、どうせ役には立ちません、から……」

 周りを見渡せば同じ制服を着た仲間が必死で騎士たちを引きつけてくれている。

「エリオットさんは先に行っているのでしょ? あなた達も追いかけなくちゃダメじゃない。……それと、これは勝手なお願いだけど……私はまだ直接お礼が言えていないの。みんなも……謝りたかったり、私と同じでお礼が言いたいはずなのよ。だから…………絶対にパラディスさんを学校に連れ戻して来て!」

 リーシャだけではなく他の3人も同じ思いで参戦しているのだと表情を見ればわかる。そして、ここで戦う仲間たちも同じなのだと。

「先輩、フィリア……先に進みましょう」

「ああ……ここはお前たちに任せた。頼んだぞ」

 ルゥとグーテスは駆け出す。ソルフィリアは水系の回復魔法を4人にかけてからふたりの後を追った。

「エル、ユン、ケリン! エヴァンたちを援護するわよ」

 エヴァンも三人が前へ進むのを確認すると仲間たちへ大声で発破をかける。

「ここを死守するぞ! ひとりも後を追わせるな!」

 学生たちは雄叫びのような掛け声で応じ、格上の騎士たち相手に奮闘を続けた。



 マナで作られた水はすでに消え去っている。一緒に流されたヘルマたちと数人の騎士たちは生き埋めになっている仲間の救助を行っていた。

「あいつら滅茶苦茶やりおる。頭イカれとるぞ」

 文句を言いながら瓦礫を一つひとつかき分ける。流される直前にグーテスが全員を保護していたため怪我の心配は必要なかったが生き埋めの団員が窒息してしまうおそれから救出を急いでいる。グーテスの魔法の効果時間も彼らには未知であることも急ぐ要因となった。

「ウチがいっぺんに消し飛ばすほうが早くないか?」

「団員ごと消し飛ばす気か?」

「こんな“噛ませ”みたいな事、俺等の仕事ちゃうやろ」

 面倒くさそうに瓦礫を一つ掴んでは放り投げ、一つ掴んでは放り投げを繰り返す。作業自体は山が崩れないように慎重かつ的確に掘り進めていて、生存者を見つけてはきれいに掻き出して救助している。だが一動作ごとに愚痴をこぼしていたためアルドーレは苛立っていた。

「文句言ってないで手を動かせよ」

「やっとるやろ! 見てわからんか?」

「口閉じたらもっと早くなるんじゃねーのかって言ってんの俺は!」

「お前こそ黙ってやれよ! ……大体、こいつらも団員の端くれやったら自力で……あ、痛っ‼️」

 顔と同じぐらいの大きさの瓦礫がヘルマの顔面を直撃し後ろ向きに山を転げ落ちていった。瓦礫が飛んできた方を見るとアルドーレが鬼の形相でもう一投するためにロージアを睨んでいた。

――OK……今は黙って作業に集中しよう……。ヘルマ、お前の犠牲は無駄にしない

 作業のピッチを上げると瓦礫を投げ捨てる音が聞こえ命拾いしたと安堵の息を漏らす。


 先へと進んだルゥたちは押し流された瓦礫の山へとたどり着く。

「押し流すだけでは無駄のようですね……」

 アルドーレとロージア、その他の騎士たちを前に3人は足を止める。戦闘不能までとはいかずとももう少し足止めか戦力を削れられればと思っていた。ひとりは見当たらないがどこからか奇襲されるかもと周囲を警戒する。

「あ、お前らか。通って良いぞ」

 警戒していただけに罠としか思えず戦闘態勢のまま様子を伺うが周りの騎士たちもこちらには目もくれず救助作業を行っている。

 どういう事かと辺りを見渡すとやはり全員が瓦礫の除去や救助された団員の手当などを行っていた。勝ち気で口の悪いロージアでさえしょぼくれ顔で黙って作業している。

「何だよ、これ……いったい? 本当に通っていいのか?」

 ルゥたちが困惑した顔を見合わせていると瓦礫の向こう側から聞き覚えのある大きな声が聞こえてくる。

「うおおおい! 何してくれてん……痛あああああ‼️」

 転げ落ちた先から駆け上がってきたヘルマの顔面に今度は一回り大きい破片が当たり再び転げ落ちて行く。鬼の形相のアルドーレが再び現れたがロージアをはじめとする団員たちは誰も彼の方を見ることはなく無言で作業スピードだけが上がっていた。

「忙しいからさっさと行ってくれ」

 表情は戻っていたが妙な迫力に気圧されるがまま迂回しその場をあとにする。

「行かせちまって良いのか? 後で団長に怒られてもウチは知らないぞ」

「どう見ても完敗だろ。被害が大き過ぎる……ここまでやる意図が俺にはわかんぇよ」

 瓦礫をまとめて掴んでは放り投げまた一人、また一人と救出していく。

――団長の考えに間違いなんてねぇよ……

「団長やったら俺等の行動なんか全部お見通しやろ。最後にはお前があいつらのこと行かせることもな」

「……うるせぇよ……つまんねぇ事しやがって……」



 瓦礫を迂回した先は城壁と一体になったゲートハウスで正門を越えた時のようにグーテスの障壁を階段状にすれば飛び越えられる高さだった。

「行きます!」

 外壁には所々煤けた痕が見られる。きっとセレナが炎の魔法で攻撃した痕なのだろうと思えた。突然襲っては消えた洪水と運ばれてきた瓦礫の山への対応で人員を割いているとはいえあまりにも静かだった。

 ふと、すでにセレナは捕まってしまっているのではと不安がよぎる。

 ゲートハウスの上に降り立つと眼前には二の丸がそびえ立つ。建物までは少し距離があるが所々で煙が上がっており、屋上からは戦闘音がかすかに聞こえてくる。

 三人は顔を見合わせてセレナがいることを確信する。

「ここから屋上まで橋渡しします!」

 今度は階段状ではなく一直線に屋上まで続く道を作り出すとルゥを先頭に走り出す。たどり着いてわかったのはロの字になった中庭を擁する建物だということ。中庭を挟んだ先にはセレナと思しき人物が複数人の騎士や魔法士を相手に攻防を繰り広げていた。

「あそこだ!」

 ルゥはセレナを見つけると中庭を飛び越えようとジャンプする。

「無茶ですよ、先輩‼️」

 案の定、飛距離が足りずに落下しかけたがグーテスのかけた魔力障壁の橋に着地する。

「すまねぇ!」

「セレナ!」

 橋を渡って来たソルフィリアは水撃でセレナの周りにいる騎士を数人吹き飛ばす。

「フィリア⁉️ ……みんな!」

「追いつきました! 怪我は?」

「大丈夫! ……それよりも心配したのよ!」

 そう言いつつもセレナは切り傷や打撲のあとが見られる。ここまで一人で戦って進んできたのだから体力も尽きかけていてもおかしくはないはずだが普段通りに真直ぐに剣を構えている。

「回復します。お二人共援護を」

 ソルフィリアが水の回復魔法でセレナを癒やす。水属性では火属性のセレナの回復には時間がかかるうえに完全にはできない事はわかっている。どれぐらいの時間がかかるかも全員が把握している。共に切磋琢磨し歩んできた成果なのだろう、王国一とも云われる騎士団が相手でも普段通りの動きで対処出来ている。

 それでも上手くいった喜びなどはなく、ここにあるはずのピースがもう一つない事を改めて実感させられるだけであった。

「あのゲートを越えればキープにたどり着くわ……行くわよ、みんな」

 四人は巨塔の最上階に目をやると一斉に屋上から飛び出した。


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