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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 君がため 惜しからざりし 命さへ
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雲隠れにし 夜半の月かなⅣ

 一方で階下から先を目指す事になったセレナは一階まで降りて奥の建物へと進む。中には多数の騎士が待ち構えている。

 レベル違いの相手を目の当たりにして逃がしてもらったが、ここからは自分で対処するしかない。

 武装した騎士が建物から次々と現れ、上階には弓兵や魔法士がこちらに狙いを定めている。

「邪魔……しないで‼︎」

 炎の弾丸を連射し弓兵や魔法士の腕や肩を貫いていく。外れてもその威力の高さから周りのあらゆる物を粉砕していった。だが多勢に無勢で放つ弾丸よりも向けられる矢や魔法攻撃の数の方が圧倒的だった。

「仕方ないわね……グラウリ!」

 セレナの手元に収まると小竜は光を放って姿を変える。蛇のように手足がない細長い身体にセレナの手元だけはボウガンのような取手とトリガーがついていた。形状変化したグラウリを両手で支え脇を締めて固定してトリガーを引くと龍の口から炎の弾丸が連射される。威力は落ちるが尋常ではない連射で騎士たちは防戦一方となり徐々に後退を始める。

 ある程度の距離ができるとセレナは魔法で炎の槍を生み出し頭上高くに掲げる。元の小竜に戻ったグラウリはセレナの炎の槍を十数本に複製し同じタイミングで放つ。建物や騎士たちの間に放り込まれた槍はその場で燃え広がっていく。

 幾つかは窓を突き破り屋内へと入り込むと、やがて黒い煙が登り始めた。侵入者よりも消火だという声が聞こえセレナに集中していた視線の多くが一時的に火の手の方へと分散された。

「よし、今のうちに」

 駆け出した先には剣を構えた騎士がまだ大勢いる。突っ込んでくるセレナを屋内に入れさせまいと相手も向かってくる。両者の距離はあっという間に縮まり激突が始まると思われた。だがセレナはスピードを緩める事なく騎士の目の前で踏み込む。

「ここっ‼︎」

 両足の裏で小さな爆発を起こしその勢いで大きく飛び上がる。マナの強化もあり悠々と騎士たちの頭上を飛び越えて屋上へと着地する。

「思いつきだったけど、上手くいったわね……」

 ルゥたちといた建物よりも低かった事もあり着地も難なくこなせた。同じ高さではきっと屋上までは届かず、どこかの窓を割って侵入するほか無かっただろう。そう思い高さを比べるために振り向いた。敢えて見ないようにと振り返らず走ってきたが、やはり仲間の事が心配だった。

 それなりに距離も離れていて、戦闘を行なっている屋上は角度的にほとんど見えない。派手な戦闘は行なっていないようだが、決着がついてしまっている可能性もある。

――もしかしたら……いや、悪い方に考えちゃダメ!

 頭を2度3度と振って悪いイメージを振り払うとシエルがいるであろう方向に目を向ける。

 城のように高くそびえる砦の頂上にシエルの姿が見えた気がする。

――あそこに……。待っていてね、シエル……

 屋上まで登った要領で一気に駆け上がりたいが今の力では届かないだろう。それでも着地さえ何とかなればかなり近づく事はできる。

 助走をつけようと少し下がった瞬間、轟音が聞こえ振り返ると後方の建物が崩れ落ちていくのが見えた。

 つい先程まで屋上でルゥたちが戦っていたはずの建物は土煙と共に無惨な瓦礫の山と化す。

「嘘……そんな…………」

 恐怖に足が震える。

――助けに……行かなきゃ……

 しかし瓦礫の山からどう助け出せばいいのかと自分は何のためにここに居るのか、二つの思いがセレナをその場に縛りつける。

「ど……どうしたら……こんなのって……」

 引く事も進む事も出来ずに思考がぐるぐると混ざりながら止まっていく感覚に目の前の景色も見えなくなっていく。

 視界が黒く閉じかけた時グラウリの声が聞こえる。

『――セレナ……、セレナしっかりして‼︎ 上を……上を見て!』

 意味を理解できずにその声に言われるがまま空を見上げる。

 そこには主人によく似た目つきの蒼い鳥が羽ばたいていた。

『くそ……滅茶苦茶しやがって……マジで死ぬかと思ったぞ』

 蒼い鳥からはルゥの声が聞こえる。その声にセレナは我に返る。

「せん、ぱい……? ……無事なの⁉︎ フィリアとグーテスは⁉︎」

『セレナか? 俺たちなら大丈夫だ。グーテスのマナコートで守られている。生き埋め状態だが、あいつの事だからここから先の事も考えがあるはずだ』

「……良かった…………」

 ルゥの天の声シェルティオは視覚を共有し離れた場所でも彼を通じてルゥの声を届ける事ができる。

『お前もまだ捕まっていないようだな。こっちはいいから気にせずに行け! 俺たちはこれぐらいでくたばらねぇよ』

 突然の出来事に対応できず、また思考を止めてしまったことに成長していない悔しさで拳を握りしめていたが声だけはいつものように振る舞う。

「わかったわ。行ってくるね」

「おう、頼んだぞ!」

 本当に仲間に恵まれている――そう思って泣きそうになったが今は仲間のためにも前を向こうと駆け出し、屋上から飛び出した。



「でもって……無事は良いが身動き取れねぇのは詰んでるだろ? にしてもアイツ……こんな力持ってやがるのかよ…………クソっ……」

 グーテスが倒壊させた建物の下敷きになって身体を動かす事はできないが、全身をマナの膜で覆われていて無傷であるだけではなく瓦礫の圧迫にも耐えられていた。

 しばらくすると身体の下でモゾモゾと何かが動く感じがする。かなり深くまで落ちたのか暗闇で何が起きているのかは見えず、シェルティオを呼び戻し視覚共有で外から見ても瓦礫の山しか見えない。

 やがて巨人の大きな手で全身を掴まれたような感覚がすると押し上げられるように上昇する。あっという間に青空が広がり瓦礫から抜け出す。明るいところで見ると全身を掴んでいたのは樹の根のようなものだった。

 開放され瓦礫に降り立つと中心には巨大な樹が根を広げ、伸びた枝には数十人の騎士たちが救助されていた。

「ご無事ですか?」

 ソルフィリアの声の方にはグーテスもいた。

「お前らも無事か?」

「はい、グーテスさんのおかげです。ですが……」

 グーテスの方を見るとかなりのマナを消費したらしくしゃがみ込んだまま肩で息をしている。

「全員を助けたのか……」


 誰も犠牲にしない。


 これはシエルを取り戻しに行くと決めたときに四人で決めたこと。そこには自分たちは勿論、騎士団員に対してもだ。

 多少の怪我は致し方なしとして死者だけは出すまいと固く誓う。誰かの犠牲の上で助けられた事実をシエルは受け入れないからだ。

「よくやった、グーテス。……しかしこれだけの人数に囲まれると……俺達はここまでか……」

 周りには助けた騎士と倒壊をみて救助に駆けつけた騎士、更にヘルマたちの応援に集まった騎士たちなど数十人がいる。

「おまえら……マジで狂ってんな? 死ぬとこやったぞ」

 ヘルマ、ロージア、アルドーレの三人は当たり前のように無傷でルゥたちの前に姿を現す。彼らはマナコートで守られはしたが自力で瓦礫から抜け出てきた。

「お前ら……終わったな。ウチらをあんまり舐めんなよ?」

「クソが……ハナっから舐めてねぇよ」

 万事休すだと思いつつも最後まで抵抗しようとルゥとソルフィリアは構える。

 最後の抵抗を試みようとしたとき後方からヘルマをはじめとした騎士団員に向けて魔法攻撃が複数放たれる。振り返ると騎士が数人うめき声とともに吹き飛ばされていた。

「なんだ? ……何が起きた?」

 絶え間なく魔法を放つ集団と前衛で騎士と対峙している者が複数名。おぼつかない剣技で相手にはならないが複数人で一人を相手にする戦法で徐々に押し寄せて来る。

 その中で一人だけ剣を持たずに徒手空拳で次々に騎士を倒していく男がいる。

「みんな、助太刀にきたぞ!」

 学生服を纏ったその集団はゼピュロス騎士学校の生徒であり、セレナと対立していた同級生たちだった。

 その中心にいるのは素手で戦う男子生徒エヴァン・ハータ―と彼のパーティーメンバーたちだった。


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