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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 君がため 惜しからざりし 命さへ
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雲隠れにし 夜半の月かなⅡ

 時は数日前に遡り、場所はゼピュロス騎士学校の会議室。中からセレナが出て来ると待っていたグーテスたちは彼女の元へと集まる。

「セレナ……痛むところはありませんか?」

「……」

 心配するソルフィリアの声にも表情は変えずに場所を変えようとする。

「……ったく、いったい何があったんだ?」

 騒ぎを聞きつけてルゥも駆けつけていた。


 事件のトラウマもまだ癒えないなかで他の生徒や教員は彼女の言動にうんざりしていた。

 シエルに「人殺し」の暴言を吐いた人物が許せなく、今だにその行いが「悪」であるとする風潮に怒りを撒き散らしている。

 セレナに対しても同じ穴のムジナであると言わんばかりの視線と陰口を投げかける者がいる。それと同じぐらい平穏な日常を待ち望んでいる者もいて、他人事の態度をとる彼らにもセレナの憤りは収まらなかった。

 悪循環のまま周りもストレスを溜めていく。彼女の気持ちはわかるが、それが原因で全体の雰囲気が殺伐とする事に納得できる者はいない。遂に真っ向から意見を言い出す。

「いい加減八つ当たりはやめろ!」

 至極まっとうな意見ではあるが、他人事の様な言葉にセレナが遂にキレる。複数の男子生徒と殴り合いになり、止めに入ったフラムにも強烈な一撃がクリーンヒットする。その後は簡単に組み伏せられそのまま数人の教員に会議室まで連れて行かれ、その場で処分をくだされて今に至る。

「停学一週間……」

 心配して合流したエヴァンたちは小さな悲鳴をあげ、グーテスとルゥは絶句する。

「何故あの様なことを⁉ ……あなたまで……居なく……なるの、ですか?」

 激しくセレナの肩を揺すっていたが徐々に力をなくし泣き出してしまう。

 セレナはそのままソルフィリアを抱きしめる。

「ごめん……でも、これであたしの覚悟は決まったわ」

 決意に満ちた声は、いつもなら勇気が湧いて来るのに今日ばかりは不安しか感じない。

「こんな所に居たって何も変わらない。……シエルが居ないんじゃ意味がない」

 ソルフィリアは抱き止めてくれたセレナから離れ、涙を拭って見た表情は不安を覚える反面、清々しさも感じる。

「取り返しに行くわ」

 答えはわかっているのにグーテスは聞いてしまい後悔する。

「取り返しにって……どこへ?」

 それを口にする事で彼女の決意は更に固まり、変える事のできない事実へと向かおうとするのだから。

「ゼピュロス騎士団本部へ……シエルを取り返しに行く!」

「バカ言ってんじゃねぇ! 騎士団本部に行ってどうするんだ⁉︎ 門前払いに決まってんだろうが! お前も……無理な事はわかってんだろ?」

「わかっているに決まっているじゃない、そんな事! だからってそれが何よ? 邪魔するなら押し通るまででしょう⁉︎」

「はぁ⁈ お前本気で言ってんのか? 教員ひとりに組み伏せられた奴に何が出来る?」

「うっさいわね! もう邪魔なものは全部燃やすって決めたの!」

 流石にルゥも言葉に詰まる。

「燃やすって、おまえ…………まさか……? 騎士団本部にカチコミに行く気なのか?」

「シエルはこの学校が大好きなの。あんな奴らの事だって仲間だと思ってる。……きっと今だってそう。あんな事を言われても謝れば許してあげるに決まっている。あんなに……仲間思いで優しいコ…………」

 ずっと堪えていた涙が溢れて止まらなくなる。

「酷いじゃない……理不尽すぎるわよ…………みんなを……助けるためにした事なのに……何で? ……何でシエルだけ……」

 同じ思いでいた。でも、と思ってしまう。

 自分と相手の気持ちに優劣はつけ難い。しかし今この状況でセレナほどシエルを想い、悔しさと怒りを昂らせて行動に移れるのだろうか? そう考えると想いの差は行動することなのかもしれない。

「何も言ってあげられていない。せめて……シエルに会ってあたしは……あんたは悪くない! あたしはいつだってあんたの味方だって伝えたい!」

 自分自身の不甲斐なさと苛立ちで八つ当たりしている自覚はある。どうする事もできずに諦めそうになる気持ちもあって心に蓋をしそうになっていたが、泣いて堰が切れ仲間の前で宣言した事で自分の中に燻っていたものに整理がついた。



 そして今、ゼピュロス騎士団正門前に立つ四人は静かにマナを体内に巡らせていた。

「先輩は来なくて良かったのに」

「……」

「本当は来たくなかったんでしょ? 今ならまだ間に合うわ」

 ルゥは何も言わずに真っ直ぐに騎士団本部を見つめる。

 グーテスとソルフィリアはふたりの会話を静かに見守る。

「……何とか言いなさいよ」 

 ゆっくりと息を吐くと呼び出したシェルティオを肩に乗せてひと撫でする。

「俺が入りたいのはボレアース騎士団だ。ゼピュロスじゃねえ。ゼピュロスからシエルを奪還した実績を引っさげて行きゃ……」

「ニヤつかないでよ……キモい」

「んだとぉっ⁉︎」

 二人の会話を聞いていたグーテスとソルフィリアが吹き出す。

「でも、ありがとう先輩。騎士団入りどころじゃなくなるかもしれないのに……。グーテスとフィリアも……ありがとう」

 4人が目を合わさないのは照れもあるが、遥か先の一点に目標を見つけたからだった。

 目視は出来ていない。それでもそこに居るのだと感じる事はできる。

「止めても無駄でしょうから。一緒に居れば守ってあげられます!」

 グーテスは入学当初のオドオドとした雰囲気は微塵もない。

「セレナも無茶し過ぎです! 私はもう誰も失いたくありませんから……」

 少し距離があったソルフィリアも打ち解けてきている。彼女自身の事も聞ける日がきっと来るだろう。


 門番の騎士が数人立ち並んでおり門は固く閉ざされている。騎士の一人がセレナたちを見つけて近づいてくる。

「君たち学生か?見学の予定は入っていないぞ。今日は帰って申請してからもう一度来なさい」

 門番の騎士は槍先をこちらに向けてはいないが応戦できる構えではある。4人は足を止めて距離をおく。

「申請したってすぐに却下されてたじゃねぇか」

「作戦通りに……ってことですね」

 気合を入れ直すかのようにグーテスは自分の両頬をパンパンと2回叩くと先頭を歩くセレナの数歩先へと進む。

「それじゃあ……行きます‼️」

 グーテスは掛け声とともに魔力障壁を階段のように前方へ展開すると4人は一斉に走り出した。追って来られないよう後方の足場を消しながら門番の頭上を超えて正門も一気に超えようと駆け上る。

「侵入者っ‼️ デフコン・イエロー‼️」

 門番が叫ぶと鐘が激しく鳴り響き建物から次々に騎士が姿を現す。駆け上がって行く侵入者を見るや否や弓矢と魔法で攻撃を開始する。だが下からはもちろん両サイドからの攻撃もグーテスの魔力障壁がすべて防いだ。

「このまま突っ切る!」

 シエルがいるキープまでには距離があり障害となる建物がいくつかある。それすらも飛び越えようと上へ上へと駆け上がっていく。


「来た」

「へぇ……あいつらの攻撃かすりもしねぇじゃん」

 細身の剣のようなものを背に携え弓を持つ長身の騎士が低い声でつぶやき、魔法士らしき女がそれに応える。遅れて隣に立った騎士をみるや煽るように声を掛ける。

「なぁ、ヘルマ……お前ならあのシールド破れんのか? 流石に無理か?」

 三人の中で一番背の低い彼女はニヤニヤしながらヘルマと呼ぶ彼の顔を下から覗き込む。

「シールドブレーカーと呼ばれた俺ができん理由わけないやろ?」

「いつ呼ばれたんだよ……」

「アルドーレ……おまえはいっ……つも俺の活躍を忘れるなぁ? 」

「ずっと見てるから言ってんだろ? ロージア、おまえも煽んな。また何かやらかすぞ、こいつ」

 ヘルマに突っ込みを入れるアルドーレがロージアも窘める。

「はぁ? やらかすってなんやねん⁉」

「じゃあアルはあのシールド破れんのかよ?」

「何でそんな話になる?」

 急にふたりの矛先がこちらに向き、またかとうんざりした表情となる。

「出来んか? お前のへなちょこ弓矢じゃ出来んか?」

「ウチの魔法は届くけど、ここからじゃ届きもしないか?」

 表情は変えずに黙って聞いていたが徐々に煽りが激しくなると静かに弓に矢を射かける。

「おお、やってやろうやないかい! あれを壊せばいいんだろうがっ!!」

 アルドーレは眼前の建物よりもまだ遥か先に見える魔力障壁の階段に狙いを定めて矢を放つ。

 放たれた矢は渓谷の強風や重力をもものともせず、ただ真直ぐに空を引き裂きグーテスが作る階段を打ち抜いた。

「うほー、やるじゃん!」

「まあまあやな。……っしゃあ、詰めるぞ!」

「……」

 三人はロージアの風魔法で向かいの建物へと飛び移る。

 足場を失ったセレナたちは落下の最中だった。落下の際にバランスを失い真っ逆さまに落ちるセレナの手をルゥが辛うじて掴む。

「【疾風の爪(ガストファング)】」

 衝撃の勢いで落下スピードを瞬間的に殺すと体勢を立て直してグーテスが新たに作った足場に着地する。

「ありがとう、先輩」

 グラウリに掴まれば問題なかったのだが敢えて言わずに礼だけ言ったが、ルゥもそのことに気が付いている様子だった。

「ふたりとも前!」

 グーテスの魔力障壁が魔法と弓矢を防ぐ。

「わお! 魔法も物理も両方止めるじゃん」

 攻撃された方向にはロージアとアルドーレがいる。上空からグーテスとソルフィリアも降りてくると3重の障壁を展開する。

 その障壁は破裂音と共に砕かれると衝撃で二人が吹き飛ばされる。

「グーテス! フィリア!」

 恐ろしいほどの殺気が襲い掛かりルゥはセレナを庇うために前に出るが相手はまだ離れたところにいた。

「1枚残ったうえに足を凍らされて動けんのやけど」

「あははは! なんだよ、それ? ダッさ!」

 片足を凍らされて動けずいたヘルマを見てロージアが大笑いしながら足元に炎球を放つ。それと同時に巨大な氷の塊を造りだし残った障壁に向けて放つと障壁もろとも砕け散った。

「デュアル……チャント?」

 王国唯一の別属性同時詠唱が出来るロージア・エスラン。

 超遠距離必中の弓使いアルドーレ・イグラーチ。

 未だ戦場で傷を負ったことはなく<風神>とも互角に勝負できると云われている剣士ヘルマ・ボディハルマ。

 ゼピュロス騎士団が誇る剣撃・射撃・魔法撃のトップ騎士が4人の前にいた。


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