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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 禍福糾纆
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運者生存Ⅲ

 生き残っているパーティーの数は10部隊。魔道具の効果範囲は1.5キロ四方と4分の1にまで縮まったが効果範囲外での退場を免れたパーティーは流石に慎重な者が多い。物影から周囲の様子を伺いつつ小休止を兼ねた作戦会議で次の移動と戦略を練っていた。

 シエルは意図せず範囲の中央に位置する大木の天辺にいた。ぐるりと周囲を見渡し移動を開始したパーティーを見つけて小石で狙撃するもはずしてしまい気づかれて隠れられてしまった。

 高所からの景色は間伐された場所以外は遮蔽が多くて遠方からの攻撃には向いていない。それでも敢えてそこからは動かなかった。

 一方セレナたちはグラウリに上空を監視させながら進んでいた。

「ある程度の範囲収縮の予測はできました。このタイミングで出会えれば……勝機はあります」

「わかったわ! グーテス、周囲の警戒よろしくね」

「了解です!」

 森の中にはいくつかの開けた場所がある。魔法攻撃での不意打ちを警戒するならばこの様な場所に陣取る事はない。

 だがグーテスの鉄壁の盾があれば心配する必要はなく、寧ろ敵の位置が特定できるので誘ってさえいた。

「さあ……かかってきなさいよ!」

 火と水の砲台はいつでも相手を撃ち抜く準備をしてい。

 上空では赤い小竜が旋回しながら哨戒を続けている。


「で、あんなの……どうやって倒すのよ?」

「わ、わたし達には……む、無理ではないでしょうか……?」

 魔道具が機能する効果範囲外から5人組のパーティーが走ってくる。

「うーん……無理そう……かな……?」

「しっかりしてよ、エヴァン。次も範囲外ならまた走るの?」

「リーシャ、急かさないでくれよ……少し休まないとみんなが……」

 パーティーの中心にいる男女はB組、他の三人はC組で魔法士科の生徒だ。

 エヴァンと呼ばれる生徒はパーティーリーダーで息を切らせながらも着いてくる仲間を気遣っていた。

 リーシャも息を整えながら他の仲間に水分補給をすすめている。


 この二人はかつてイード・エターマという公爵家の三男に付き従っていた。

 イードはダンジョン内でシエルを陥れる為に謎の人物から購入した召喚石を使い、崩落の要因を作った生徒である。テロの疑いと禁止魔道具の使用などで騎士団に連行され投獄。実家も爵位を剥奪され実質取り潰しの扱いであった。

 エヴァンとリーシャは家同士の取り決めで歳が近い事もあって幼い頃からイードと仲良くするよう親から言い付けられていた。イードの機嫌を損ねると親の立場も悪くなる事から逆らえずに言われるがまま過ごし、イードの親からも面倒を見るよう言われていた。

 イードは幼少の頃から我儘であり、気に入らなければ女の子のリーシャにも平気で暴力を振るった。

 我慢できずにエヴァンが反抗すると実父から殴られ最悪の言葉を浴びせられる。

『たとえ殺されてもエターマ家の人間には逆らうな』

 エヴァンは生まれた時から人生は終わっていたのだと悟った。逆らわなければ殺される可能性は低いだろうし、せめてリーシャだけは守ってやりたい。そう思って日々を過ごしてきた。

 リーシャもイードの嫁候補として勝手に人生を決められてしまっていた。数いる候補のひとりでしかない為、選ばれなければ家を追い出されるのではと密かに怯えていた。イードからはぞんざいに扱われることが多かったので多分選ばれる事は無いだろうと諦めていた。どうせ追い出されるのなら、その日が来るまではいつも側で励ましてくれるエヴァンの支えになりたいと思っていた。


 ふたりはイードの行いに関与していないとしてお咎めはなかった。更にエターマ家との縁も切れた事で実家は大慌てだったが、自分たちを縛るものも偽る必要もなくなり自由を得た。

 貴族とはいえ後ろ盾はなく自分たちの力で生きていく事を考えた時、ふたりの想いと答えは同じだった。

 取り敢えずパーティーを組み直そうと思いソルフィリアを探したが既にセレナの強引な勧誘で引き抜かれてしまっていた。仕方なく仲間の募集をかけようとした時に今のメンバーと偶然に出会い今に至る。

「取り敢えず前へ進もう。少し危険だがこの先の開けたところを進んでスピードをあげよう」

 エヴァンの提案に全員が賛同して進み始めた。足元は平坦でぬかるみもなくしっかりとしているが、背の低いメンバーが隠れてしまう程に雑草が生い茂っていた。雑草を掻き分けた先はエヴァンの背よりもやや高い崖が見える。左右を見てもそれは長く続いていて迂回はできなさそうだった。

「俺が先に上がって引っ張り上げる」

 よじ登ってから手を差し伸べて一人ずつ上がっていく。全員が登り切って前を向くと少し先にやけに明るい場所が見えていた。あまり時間はないだろうと駆けだすと大木に囲まれた開けた場所に辿り着いたがエヴァンたちは見覚えがある三人組と鉢合わせする。砦のような陣形を組んで待機しているセレナたちだった。

「あ……」

「あ……」

 物音で気が付いたセレナはエヴァンと目が合う。

――しまった……【気配遮断】で見つからないと油断した……

 全く探知に引っ掛からず虚をつかれたグーテスとソルフィリアは反応が遅れたが直ぐに臨戦態勢に入り先手を撃とうとする。

「ま、待ってくれ!」

 武器を持たずに前に出たエヴァンは両手を突き出して攻撃中止を訴える。少し腕を上げ過ぎていたため降伏のポーズにもみえる。

 見知った顔であった事も判断を鈍らせて攻撃の手を止めてしまった。

 先を取られずに命拾いした好機を逃すまいとエヴァンは口撃に転じる。

「俺たちに戦う意志はない……共闘しないか?」

 敵も味方も何を言っているのだと余計に思考を掻き乱される。

「チーム同士で組んではダメとは言われていないだろ? たぶん君たちはパラディスさんを倒すことが目的なんだろ?」

 自分の元主の所為で絶望的な状況から怪我ひとつなく帰還したパーティーと自分と同じパーティーでありながら事故後に的確な指示で場を捌いてみせた留学生。謹慎が解かれてリーシェとふたりで謝罪に行った後は話をする機会はなかったが、彼女たちを気にしないわけがなく、自然と動向を追ってしまう。

 だからこそ彼女たちが対決を望んでいる事もわかっていた。

「俺たちでは相手にならない事はわかっている。……でも横槍を入れてこようとする奴らへの対処は邪魔に思わないか? 俺たちが邪魔者の相手をするからそれまでは一緒に行動を共にしなか? 決着が付いたら俺たちは降伏するからさ……」

 突然の申し出にグーテスとソルフィリアは困惑し判断を仰ごうとセレナの方を見る。

 セレナは眉間に皺を寄せて険しい表情でいる。突然出された敵チームからの提案を訝しんでいる様にもみえる。

――咄嗟の思い付きだし……やはり無理があったか?

 だがセレナの目は誰にも焦点を合わせておらず、遠くを見つめているようであった。

「セレナ? ……どうかしましたか?」

 様子がおかしい事に気がついたソルフィリアが声をかけた瞬間だった。

「「みつけたっ!」」

 ふたりの声は離れていたが確かに重なりあっていた。


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