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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 禍福糾纆
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運者生存Ⅰ

「これより試験の説明をする。今回はバトルロイヤルだ」

 生徒たちは騎士学校の敷地内で管理している森の前に集まっていた。

 森はおよそ3キロメートル四方とかなりの広さであり、10メートルほどの高さの木々が並ぶ。比較的平たんではあるが場所によって最大高低差は5メートルある。

 人の手はあまり加えずに自然のままの姿を残すようにしているが、各所には監視や転移に用いる魔道具が設置されている。

「文字通り生き残りをかけたサバイバル戦と森林内でのゲリラ戦を混合した模擬戦でもある。相手チームを倒すことも大事だが今のお前たちは生き残ることが最も重要だ。だから最後まで生き残ったチームには高い点数が付けられる」

 生徒たちは一様に暗い表情でそれはそうだろうと言いたげに説明しているフラムを見つめる。それに対してフラムは生徒たちに同情と激励を心の中で思うしかできなかった。

「今回もチームポイントの高い順に振り分けたが……この組だけ徘徊型ボスモンスターがいるので上手く回避してくれ」

「え? この森ってモンスターでるの?」

「いや、あんたの事よ」

 目を輝かせたシエルにセレナが全員を代表して突っ込みを入れる。

 今回の試験については実力差が大きいためシエルは免除となる予定であったがどうしても参加したいと懇願し単独ソロで武器なし魔法なしのハンデを付けての参加となる。

 それでもトップ候補のセレナたちでも歯が立たないとの噂が広まり同じ組になった生徒たちは絶望していた。

「負けないからね、シエル」

「うん」


 生徒たちに魔道具が手渡されていく。数名の教師が手分けして配っていたが、その中にルゥの姿もあった。

「先輩! あたしたちにもそれ頂戴!」

「うるせぇな……順番だ。待ってろ」

 ルゥは元々学年主席の実力があるのに素行の悪さを問題視されていたが、最近はシエルたちとの研鑽に加えて更に力を付けていることが評価され特別授業として教員たちのサポートを行うようになっていた。

「その首輪型の魔道具は結界魔法シールドと位置特定するためのものだ。シールドは弱い打撃でも砕けるがダメージはすべて無効化される。身体がバラバラになるような衝撃でも防ぐことはできる」

 説明を聞きながら受け取った魔道具を首に取り付けていく。

「効果は1度のみでシールドが無くなれば赤く発行する。その状態で別の誰かが魔力を注入チャージしてやればシールドは復活する」

 セレナが取り付けた首輪を指でさすりながら素朴な疑問を口にする。

「すごい……これがあれば無敵じゃない?」

「そうもいかねーらしい。まだ試作段階らしいし連続攻撃は捌ききれねぇから実践では役に立たないそうだ」

 ルゥが説明してくれたことをフラムも説明していた。

 加えてチャージはどれだけ魔力量が多かろうと一律で5秒はかかる。頭と胴体、両手足とも独立してシールドが張られていて砕かれると魔道具に記録され減点対象となり、全6か所のシールドを失うか致死量のダメージを計測するとダウン判定となり強制的に退場となる。

「魔道具には視覚情報もこちらに共有される。危険と判断した場合は強制退場させる」

 各チームを教員がモニタリングするのだが人手が足らずに駆り出されたのがルゥというわけであった。

「先生のお手伝いだなんてルゥも大変だね」

「何でお前まで居んだよっ⁉」

「ヴィア先輩! 頑張るから見ていてくださいね! 今日こそシエルに勝っちゃいますから」

「あはは、頑張ってね。でも……シエルは手ごわいよ?」

 シエルを先に倒すのは自分だと言わんばかりにイルヴィアの周りに風がつむじを巻きはじめる。

「あの方ですか? 例の……入試の時にフラムさんに勝ったという生徒は?」

 イルヴィアの隣にはノトス騎士団副団長のデシテリア・ヌビラムとお付きの騎士がいた。

 セレナがルゥにデシテリアについて尋ねようとするとイルヴィアと共に向こうから近づいてくる。

「紹介するよ、ノトス騎士団副団長のデシテリアだよ。で、こっちの子がシエル」

 イルヴィアはセレナたちも順に紹介していく。

「ヴィア先輩が他人の名前を覚えてる……」

 イルヴィアが他人の名前を覚えない事はセレナたちも知っていたから驚きの声をあげる。

「初めまして、デシテリア・ヌビラムと申します。今日は試験を見学させていただきたくお邪魔しております。皆さんの事はヴィエント副団長から伺っています、優秀な候補生だと。今日は怪我がないように頑張ってください」

 シエルたちも挨拶を済ませるとフラムが始めていいかと咳払いが飛んで来る。

「それでは試験を開始する。チームごとに各ポイントへ転送する」

 首の魔道具と足元の魔法陣が呼応し魔力の光を放ち始める。

「そうそう言い忘れたが……時間経過ごとに魔道具の効果範囲が狭まり範囲外に長くいると退場となる。リーダーのみ効果範囲への最短距離を示すガイドが表示されるからそれを指針にすれば良い。では検討を祈る」

 各チームとも転移し試験会場の森へと消えていった。


「いや……最後のだけ事前説明にもなかったじゃない……」

 ふくれっ面のセレナに苦笑いしながらもグーテスは防御障壁を各自に付与し、ソルフィリアも周囲を見渡しながら地形の把握と相手チームが近づいてきていないか警戒をしていた。

「まあいいわ……。グラウリ!」

 セレナも小竜に具現化させた天の声に高所からの周囲警戒を命ずる。視覚を共有できるため高所からの異変もいち早く察知できる。

 グラウリの視覚情報は魔道具に反映されるのかは事前にルゥが確認しており問題なかったが、天の声具現化については秘密にしていたため自分の視界には入らないようにする。

「さあ、シエルもだけれど……他のチームにも後れを取らないようにしないとね」

「水の気配がするので北東の湖付近ですね」

「効果範囲がどのあたりまで収縮されるのか分からない内は少しずつ移動した方がよさそうですね」

「ランダムかも知れないけれど……敢えてチームが少ない場所へ寄せて戦いながら移動もあるかもしれないわね。……どっちにしても、まずは近くのチームを潰しながらシエルを探すわよ」

 三人は気配を消して森を進む。


 一方でシエルは小石を拾っていた。

『なぁシエル……そこまでして試験受けたい理由って何だ……?』

「ええ……わたしだけ仲間外れは嫌だもん」

『別に仲間外れってわけじゃ……お前もルゥと監督の話はきてたんだし。これじゃルゥが仲間外れだろ?』

「うーん、そう言われると……。でもね、卒業した後とかにみんなであの時の試験はって話する時にわたしだけ参加してないのは寂しくて……。ルゥ先輩は1年時に参加してただろうし」

『どういう事をしていたか一緒に話がしたいわけか』

「うん、そういう事」

 シエルは立ち上がり豆粒大の小石をポケットにしまい、細くて短い枯れ木を手にしたまま高い位置で伸びる枝までジャンプする。

「この小さい石10個が魔法代わりでこの枝が剣」

『ハンデがすぎないか?』

「先生がこれなら良いだろうって」

『違う! 俺が言いたいのは武器を持つこと自体がハンデにならないって事!』

「ええっ⁉ それは流石にセレナたちに勝てないよ?」

『あいつら以外には勝てちまうだろが! 唯でさえ一般人の天の声は機能していない事が多いから訓練の機会を奪っちゃ悪いだろ?』

「御尤もすぎて何も言えない……」

『……まあ……あまり暴れすぎるなよ。よっぽど油断している奴らだけ狙って厳しさを教えてやれ』

「うん、わかった。……あ、早速見つけた」

 視界の先には周囲の警戒もせずのんびりと歩いているパーティーが見えた。人数は5人と多いが陣形も組まずに談笑している。

『緊張感がないなぁ……貴族同士のパーティーみたいだな。……シエルさん、やってしまいなさい』

「試しに腕狙ってみようか? ……力加減がムズいけど…………こんな感じかな?」

 ポケットから小石を取り出して狙いを定めて投げてみた。小石は先頭を歩く生徒の左腕に命中しシールドが割れる様が見えた。

「うん、これぐらいなら怪我させない」

 続け様に小石を投げつけ、先に左腕を射抜かれた生徒の顔と隣にいた生徒の胴に命中した。

 小石を当てられた二人の生徒はダメージ超過で転移し退場となった。

 一瞬で二人を失ったパーティーは混乱状態に陥り慌てて木々に身を隠す。

「流石にここからは隠れて見えないや」

『まぁ300メートルも離れた高所から狙撃されて上手く隠れられたことは褒めてやろう』

「じゃあ移動しよう。セレナたちと早く会いたいし」

 高い木のほぼ天辺付近で枝は細いが意外と丈夫で、そのしなりを利用して枝から枝へ飛び移り移動を開始する。

「今日のテコは探知禁止だからね」

『わかってるよ。アドバイスもしないし、相手が怪我しないかだけ注意しててやるよ』

 大勢が見守る中でバトロワ試験が始まった。


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