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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 再会Ⅱ
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フラッシュバックⅨ

 魔宵の森での魔獣狩り、難民地区で必死に生きようとしている子供たちとの出会い。様々な経験を得ることができた課外授業から1週間が過ぎた。

 普段通りに学校生活を送りながら、各々ができる事を考え実行しようとする。

 誰かが言い出したわけでもなく、昼休みと放課後は5人で集まり意見の交換やマナとエーテル操作の訓練を行うようになっていた。

「おい……あの狂犬が1年と一緒にいるぞ? 文字通りの一匹狼じゃなかったのか?」

「しかもあの1年、ダンジョンで事故に遭った例のパーティだろ?」

「美女と野獣……」

「ああ⁉ なんか言ったかぁ?」

 周りの声にルゥが反応し声を荒らげる。

 良くも悪くも何かと話題に上がり校内の有名人となっていた彼が一年の有名人たちと席を並べて談笑しているのだから無理もない。

 見た目と人を寄せ付けない雰囲気で対話を一切拒絶してきた獣人族の青年が楽しそうに会話している姿は同級生の目からは衝撃的であった。

 まるで人が変わったようであると。

 実際に彼は変わったのだろうか?

 恐らく本質的な部分は変わっておらず、偏見を持たずに接してくれる仲間に巡り合えただけであろうと教師たちは胸をなでおろしその様子を見守っていた。


 そのルゥよりも特異な目で見られている者がいる。

 グーテス・ウェッター。騎士科を補欠で入学し、早々に魔法士科に転科した平民出身の男子生徒。転科すること自体が珍しいのだが、騎士科で最低クラスの彼が魔法士科ではBクラスと上位の教室に席を置いている。

 更に貴族出身であるシエルやセレナとパーティを組み、狂犬と恐れられるルゥに気さくに話しかけては何かを教えている。

 この姿を見るだけで彼には何かあるのかと一目置かれる存在へと評価が大きく変わってしまった。

 そんな彼だが今は項垂れ大きなため息を吐いている。

「ちょっと! 何暗い顔してんのよ?」

「はぁ……すみません……」

 あからさまに困った顔で謝られても心配が増すばかりだ。

「話ぐらいなら聞いてあげるから。で、どうしたの?」

 セレナの優しさが嬉しく、少し気持ちを持ち直して話始める。

「実は……兄さんがこっちに引っ越してくるんです」

 グーテスの兄は家業の商店を継いで王国東に住んでいる。グーテスは定期的に西側の状況を手紙で知らせていると聞いていたので、そこでのやり取りがあったのだろう。しかし引っ越してくること自体に問題はないように思える。グーテスの話を聞いて西側に商機を見出して移り住むのであれば、それだけ魅力的な情報を提供したことになる。役に立てたのだから喜んでも良いのではと皆は思い顔を見合わせる。

 彼の表情が晴れない理由はまだ分からない。

「シド君たちの事を兄さんに相談したんです」

 難民街で暮らす7人の子供たちと彼らの面倒を見ている年配の女性について、彼らの暮らしや将来について、手助けできる妙案が何か無いかを手紙に書き記した。その他にも商業ギルドで出会ったネーネという職員が実家の商店を利用したことがあり今も贔屓にしてもらっていると聞いた事。高名な鍛冶師のオリハも子供たちの件に関わっていることも伝えた。

「あの子たちの将来の夢を聞いて何とかしてあげたくて。帰ってすぐに手紙を書いて出したんです。……そうしたら爆速で返事が来て……」



 少し遡って、教会を訪れた日にグーテスは食事をしながら子供たちに将来は何がしたいのかを聞いていた。

 シドからは『特になにも……』とそっけない返事だったが無理に聞かずにいた。

「将来の……ユメ? って何?」

「大きくなったら成りたいものや、やってみたい事なんかの事だよ」

 ビシーの質問にグーテスが答える。それを聞いて食事の手を鈍らせながら考え始めた。

「あーしはアクセサリーや小物のお店をやりたい」

 真っ先に答えたのはディーレだった。

「オリハさんに教えてもらってすっごく楽しいんだよね。初めて売れたって聞いたときは胸爆発すんじゃねってぐらいドキドキした!」

 その時の喜びようが伝わってくる程の明るい表情にエファが目を輝かせて言葉をつなぐ。

「あたし服を作りたい! ディーレおねえちゃんのお店においてもらってもいい?」

「もちらんだよ! かわいい服とアクセサリーでいっぱいにしようね」

「うん!」

「おいらは世界一美味い野菜をつくりてぇな。そんでみんな腹いっぱいにしてやりてぇ」

 ビシーはスープに入った野菜を掬って眺めながら呟くように思いを口にする。

「今でも十分においしいけれど楽しみね!」

 セレナの言葉にビシーも嬉しそうに頷く。

「ぼくは師匠みたいに強い騎士になりたいです!」

「先輩、すっかり憧れの的だね」

 セレナがニヤニヤしながら顔を覗き込むとルゥは自身の決意を固めたように表情は真剣だった。

「茶化すな。心配しなくても俺はこの国の英雄と呼ばれるくらいの騎士になって見せる」

 真っすぐに前を向いて発した言葉は誰の方にも向けられてはいなかったが、ソージは感激のあまり身体が震えた。

 アーラにも聞いてみようと皆が視線を集めるとディーレが先に話し出す。

「アー姉はお嫁さんだもんね?」

 揶揄うような口調に怒ったというよりも恥ずかしさで顔が真っ赤になっている。

「ちょっと、何言って……」

「おお……」

 シエルが興味津々で聞きたそうにしていたが察したセレナとソルフィリアが話を逸らそうと同時に口を開いた。

「皆さん素敵な夢をもっていますね」

「ミィちゃんは……まだ分かんないか?」

 セレナにそう言われてミィはきょとんとしていたが、やがて首を大きく横に振って元気な明るい声を響かせた。

「ミィちゃんはね、ちゃんと大人になってみんなにおいしいごはんをつくってあげるの!」

 思ったよりも具体的な答えに皆一様に驚き食事の手が止まってしまう。

 一番驚いた表情をしてみせたのはシドだった。

 ミィ以外の夢は前にも聞いて知っているという感じだった彼が、幼い彼女が考えていた事を聞くのだけは初めてのようだった。

 すぐにいつものクールな表情に戻ったが少し微笑んでいるようにも見えた。



 子供たちが語る夢を思い出して穏やかな気分でいたが、グーテスの暗い溜息に反応したセレナは彼の肩を思い切り平手打ちする。乾いた音が響き周りの視線を集める。

 一同は気を取り直しグーテスの話を聞くことにする。

「で、何でお兄さんからの返事がすぐにあったら困るのよ?」

 痛みよりも音の大きさに驚き、違和感が残る肩を摩りながら話し始める。

「えっとですね、東はもうダメだからこっちに来て店を開くと。それでは取引先の商店主さんが困ると泣きつかれたので、じゃあ一緒に来いと……」

「なかなか強引なお兄さんね」

「いや、これくらいはいつもの事でして」

 さらりと流すあたり兄の強引さに耐性がついてしまっているのだろう。

「子供たちを雇うから顔合わせの段取りをつけろっていうんです……」

 話を聞く全員が耳を疑い返答出来ずにいた。グーテスはその状況を見逃し言葉をつなぐ。

「そんな簡単に雇えるなら困らないのに……絶対に良からぬ方法を企んでいるに決まっているんです。ギリギリ合法とか法の抜け穴とかならまだ良くて、完全にアウトを平気でやる事もあって…………はあ、今回ばかりは捕まるんじゃないかと」

 事態をまるで飲み込めずにいたが、かなり危ない事を画策している可能性があるという事までは理解できた。

 何を企んでいるのかは本人から聞くしかないとの結論に至り、兄トルネオが指定した日にはグーテスとシエル、テコが同行する事に決まった。

 セレナもビシーやエファに会いたくて着いて行くと駄々をこねたが、ルゥの馬鹿にした笑いをきっかけに喧嘩になり有耶無耶になった。



 当日になり待ち合わせ場所のギルド前でグーテスとその兄を待っていたが、現れたのはグーテスひとりだった。

「お兄さんは?」

 グーテスの申し訳なさそうな表情や態度は何度も見てきている。心の底から謝罪されているように感じる。ふたりは何かのスキルなのではないかと疑い、注意深く観察するが今はその時ではないと思い直す。

「本っ……当にすみません! 他に行かなければならない所が出来たから今日はキャンセルすると……。しかも1ヶ月後に荷物まとめてここに連れて来いと……」

「ここって……ギルドに?」

「はい……このギルド前です」

 ドタキャンにも驚くが本人たちの意向も聞かずに色々決めてしまっている事にシエルは唖然とし、テコは苛立ちを見せる。

「随分と勝手なやつだな、お前の兄貴ってヤツは!」

「本当にすみません……」

 シエルは深々と頭を下げるグーテスの肩に手を置いて顔を上げさせると声をかける。

「何も言わずに勝手に進められるのって不安だよね? めっちゃわかる、わかるよ!」

 テコも何も言わずに決定した事だけを伝えてくるから困っているのだと言う。

「ええ……どちらかと言うと俺の方が振り回されてませんか?」

 ふたりとの付き合いは僅かな期間ではあるがグーテスは冷静に考えてどっちもどっちだと思う。

「兎に角だ、今日はお前の兄貴には会えないんだろ? 何を考えているのか聞きたかったけど……どうする?」

 グーテスの兄と会うことは叶わなかった。

 だがシドたちの生活をなんとかしたいという弟のために動き出している事は間違いがないようだった。

 ようやく何かが動き出しうまく行くような気持ちを持ち始めた矢先だった。今度は下手に動く事も出来なくなり閉塞感に襲われそうな空気が漂いだす。

「……」

 しばらく続いた沈黙を破るようにギルドの扉が勢いよく開く。

「あーもう、あったまくる! ……て、あれ? シエルちゃんじゃない」

 薄暗いギルドの中から現れたのは商業ギルドの職員ネーネだった。


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