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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 再会Ⅱ
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フラッシュバックⅣ

 3人が皆のいる部屋へ戻るとシエルが事の経緯を話し始めた。

「ここには外国からの難民が沢山集まっていたの。王国は受け入れを認めないから仕方なく、戦争で壊されたこの街に居るしかなかったの」

 気付いてはいたがここも戦地のひとつであった。

「食べるものもなくて飢えていく人が沢山いて……。それでお父さんが個人的に支援を始めたの。そうしたら騎士団のひとたちもボランティアとして支援を始めて」

 父や騎士団の行為を誇らしく思うのか嬉しそうに笑う。それでも空色の瞳は悲しそうなままだった。

「放棄されたこの街はいつ戦場になるか分からない。それでも、帰ることも王国に行くこともできない人たちはここで暮らすしかなかった」

 セレナが恥ずかしそうに、いつもより自信なさ気な声でシエルに尋ねる。

「なんで王国は難民の受け入れをしなかったの?」

 己の無知を恥じたのだろう。それでも今知ることに意味があると思い勇気を出す。

 誰も彼女の事を笑えない。貴族だけではなく平民も含めてほとんどの国民が知らない事実である。

 その事実を知っているのは関りがあるものだけだから恥じることはないとマリアが気遣う。そして意外にもルゥがフォローしてくれた。

「騎士団のトップが個人で動かなきゃいけねぇ事なんだ。国は敢えて隠している。……そうだろ?」

 確認を求めるとシエルは無言で頷き続けた。

「難民を受け入れた帝国は共和国に人質を取られたと難癖をつけられて開戦。帝国はそれを模倣し王国を狙っていた。だから受け入れが出来ずにいたのだけれど、痺れを切らして共和国、帝国共に攻めてきて……………」

 言葉を詰まらせて下を向いてしまう。何も言えずに沈黙が続くとテコが言葉を繋ぐ。

「街は更に破壊されて多くの人が犠牲になった。……こいつらの親もその時に……。今ここに残って住んでいるのはチビたちを入れても20人程だ。実は帝国で代替わりがあって国政が色々変わってきているらしい。受け入れしてもらえるからって大人たちはこぞって帝国へ向かった。未だ動かない王国に失望してな」

 各々がしばらく考え込むようであったがソルフィリアがはたと気づきマリアに尋ねる。

「子供たちの前でこのような話をしても……?」

 マリアは彼女の気遣いに感謝するように微笑む。

「この子たちは自分たちが置かれている現状をよく理解しています。本当は教えるべきではなかったのかもしれませんが……彼ら自身が望んで事実を知りたいと願ったのです。だからこの子たちにとってはもう、過去のことでしかないのです」

 アーラも気にしなくて良いと言いながら捕捉する。

「流石にミィには……まだ話していませんけれど。他の子はみんな……理解していますよ。シドが……丁寧に分かり易く教えてくれるから」

 シドを見て微笑むが、笑顔を向けられた当人は無表情のままである。

「私たちは子供だから……何もできないけれど……そんなに馬鹿でもないから現実は受け入れていて、……これからどうするかを決めていかなくちゃって考えています」

 他の子どもたちも同意するように頷いていたり笑顔を向けていたりする。

 セレナは明るく健気な子供たちを見て泣きそうになるのを堪えながら元の大きな声を取り戻す。

「みんな偉いわ! 今日はお姉ちゃんがいっぱい褒めてあげるから!」

 喜んでミィが抱き着いてくると年下組の獣人族、ビシーとエファもセレナの側に駆け寄る。

 少し空気が和んだところでシエルが改まった声で呼びかける。

「実はみんなに相談したいことがあってここに来てもらったの」

 シエルからの相談。ほとんどの事は自己解決してしまっている才女からの申し出に少しの驚きと彼女に頼られることに心が躍る。

「ここにいる皆を救う方法を考えてほしいの」

 予想はついていた。各々がどうにかできないものかと考えていた。

 改めて提示されるとより難しい事なのだと思わされるが、ひとりで考えるよりも皆で話し合って考える。シエルが辿りついた着地点に自分たちを連れてきたことに意味があるのであれば何が何でも解決したい。皆の想いは一つだった。

「とは言っても国を動かすほどの事だからしっかり考えないと」

「騎士団で引き取ってもらう事は出来ないのでしょうか?……いえ、出来るならばこのような問題には……」

 ソルフィリアの言葉にルゥが反応する。

「騎士団も王国の組織のひとつだからな。ボランティアで支援しているのも目を瞑ってもらえていると考えていいだろう。

 ルゥの側にはソージが正座して控えている。完全に弟子になったつもりの様だった。

 はじめは口々にアイディアや問題点を出しあっていたがやがて考える時間が多くなり沈黙が続く。

 そこにシドがアーラに目で合図するとマリアに向き直る。

「先生、俺たち食事の用意をしてきます」

「まぁそんな時間? では私も行きますよ」

「いえ、俺たちだけで大丈夫です。ディーレ、手伝ってくれないか?」

「うん、いいよ。折角だからアー姉、あのスープの作り方教えてよ」

 ディーレはアーラのひとつ年下の11歳だが見た目はもう少し上に見える。エキゾチックな顔立ちは男女問わず目を見張るものがある。王国南の一部集落の出身者に見られる顔立ちだが多くは共和国の南東に多い。

「よし、行こう。シビーとソージは呼んだら配膳を頼む。エファはミィを頼む」

 名前を呼ばれた男の子ふたりは揃って返事をし、エファは頷いて見せた。

 シドもまだ13歳であるが、シエルたちとそれほど変わらなく見えるのは落ち着いた雰囲気の所為だろう。大陸では珍しい銀髪に少し赤みがかかった瞳が一層ミステリアスな雰囲気で大人びて見える。

「今日はごちそうにしましょう」

 アーラがここに来たのは最後であったが姉のように振る舞い、シドと一緒に兄弟たちの世話をしている。自らの役割であるとともに、自分を救ってくれたシドと先生への恩返しであると思っているからだった。



 三人が部屋を出ると再び会議が始まる。そこでセレナが再び疑問を口にする。

「みんなはここでどうやって生活しているのですか? シエルの支援だけじゃ、その……生活できない……ですよね?」

「はい、その通りです。これもシエルさんが提供してくださる素材を加工し、それを売ってお金にしています。私は一応王国民ですから街へはいけますので」

 それを聞いたルゥはマリアの顔を見る目が険しくなる。

「先生あんた、王国の人間なのかよ? だったら養子にでもすりゃいいじゃねぇか。何でそうしないんだ⁉」

 怒りを抑えているのは分かるが語気が強まり責めるような口調になる。

 間髪入れずに宥めるようにシエルがゆっくりと話す。

「それはウチのお父さんも考えてくれてやろうとしました。でも、多くの反対により養子は王国内で生まれた人に限られてしまいました」

「はぁ⁉ なんだそれは!」

「わたしも養子だからというわけではないですけど、国内にも多くの孤児はいます。その子たちの里親を見つける方が先だと」

「受け入れないための方便だろが⁉」

「戦争の口実にならないように反対したのは貴族ですが、養子について反対したのは平民の方たちです」

 意外な話の展開にルゥも口を開けたまま黙ってしまう。

 彼だけではなく皆が何故との思いが表情に出ている。

 国中が反対しているようにも思える難問。シエルが苦悩している事に納得するには十分だった。

 グーテスが少し息を吐き、シエルの弁護をはじめる。

「生まれたけれど生活が困難で育てられない。奴隷として売る事は親としてしたくないから孤児院に預ける。国内の貧しい地域では珍しくない事です」

 平民出身で実家が商人である彼は市井の事柄をよく知っている。

 厳しい環境でひどい差別を受けながらも強く生き抜いてきたルゥには余りにも弱々しく他人頼みの手段に、より怒りが込み上げてきて拳を強く握る。

「平民の暮らしは大半がギリギリでもなんとか暮らしていけます。でも格差が大きくて本当につらい思いをしている人たちが多くいるんです。東は特に顕著で……宗教に救いを求める人や、テロの原因なんてことも云われていますから」

 王国が抱える問題に関心がなかったわけではない。しかし現実に知らない事が多く、問題に向き合うには大きすぎるとも考えてしまう。

 目の前の子供たちを救いたいだけなのに問題の根深さが邪魔をする。

 考え込んだまま時間が流れていく。テコが子供たちの相手をしてくれていたが考えはまとまらない。

 そうこうしているうちに部屋の扉を開きシドが顔を覗かせる。

「ビシー、ソージ。そろそろ手伝ってくれないか?」

 部屋の雰囲気が少し重く、シエルたちの表情から察したのであろう。シドが言葉を発しようとしたときグーテスに名を呼ばれ驚いた表情を見せた。

「シド君は……将来やりたいことってあるのかな?」

 突然の質問は今までに考えたこともないようなことだった。

 幼い弟妹たちの面倒をみて毎日の暮らしを不安に思う事ばかりだったから。

 将来と聞かれても、皆が幸せに暮らせるようにと先生への恩返しぐらいしか思い浮かばない。


――別にやりたいことなんて、何もない……


「あとで皆にも聞きたいなぁ。それと君たちが作った商品を見せてもらえないかな?」

 何か妙案があるのだろうか?

 セレナたちはグーテスがいつもと違う人に見えていた。それはテコも同様だった。

「グーテス、おまえ……何か思いついたのか?」

 流石にテコも気になる様子で尋ねてみる。

「いえ、ただ……問題が大きすぎて今は考えても答えは出ないと思います。それよりも彼らの希望や将来どうなりたいかを聞いて……その実現に向けて動く方が良いと思いまして」

 重苦しい雰囲気が少し軽くなる気がした。

「あんた、良い事言うじゃない!」

 セレナに背中を思いきりたたかれ『いたい!』と大きな声をあげるとミィが大笑いする。

 ミィの明るい笑い声に皆がつられて笑いだすと、シドも目を細めて部屋を出た。


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