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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 再会Ⅱ
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フラッシュバックⅡ

 一行は馬車に乗り込み、街を出て少し離れたところで前日と同じように何もないところで停まっていた。

 街の外は相変わらず殺風景に草原が広がる。

 何も積まれていない荷台では6人が輪になって4等分された金貨を眺めている。

「これ……本当にもらっていいの?」

「うん、みんなが頑張った成果だから」

「当たり前のように居る暇人騎士はともかく……おめぇの取り分は? 討伐数は一番だろうが?」

「いやいや。アタシの方が一頭多いから」

「うるせぇよバカっ‼︎ てめぇはハナから頭数入ってねぇよっ‼︎」

「ルゥのくせに酷いなぁ」

「はぁっ⁉︎」

 頬を膨らませて横を向くイルヴィアに噛みつきそうな勢いのルゥを抱きつく形で止めるグーテスをみてセレナは大笑いしている。

 楽しそうに笑うセレナに吊られてソルフィリアもシエルも笑い出す。

 少し落ち着いてからシエルは事情を話しはじめた。

「実はちゃんともらっているんだ。イルヴィア先輩は騎士団の人だからって断られちゃったけど」

 イルヴィアはそっぽを向いたままだ。代わりにクロリスが説明する。

「そもそもギルドの登録カードは入団時に返納していますし。……何より……ヴィアとこうしていられる事が何よりの報酬ですから」

 クロリスの優しい眼差しの方向に導かれるように視線を向けると照れて耳を真っ赤にしているイルヴィアが居る。彼女は相変わらずそっぽを向いたままだった。

「先輩、かわいい〜」

「でしょう? 本当にもう、この子ったら!」

 きゃーきゃー騒ぐセレナとクロリスに冷たい視線を浴びせながら“親バカ”とテコが呟く。

「テコさんがそれ言うんだ……」

「ああんっ⁉︎」

 グーテスの独り言にテコが睨みを入れる。が、シエルは周りの状況などお構いなしに話を続ける。

「わたしの取り分は殆ど換金してないんだ」

 そう言うと袋から魔石を取り出して見せる。

「他にも魔獣のお肉や素材をもらったから」

「へぇ……本物の魔石ってこんなに綺麗なんだ」

 袋から見える魔石を取り出して中を覗き込むように眺めるセレナの横からソルフィリアも魔石を見つめたまま素直な感想を漏らす。

「凄く綺麗……この国の魔石はこんなにも純度が高いのですか? ……もっとこう…………濁ったものだったかと」

 誰も他国の魔石事情を知らず、そもそも魔石を見る機会など滅多にないから比べる事もできず想像で話すほかない。

 流石のシエルもそのあたりの知識はないらしく、テコに説明をしてくれと目で訴える。

「単純に魔力の質と密度の違いだな。色が付いてなくて濃度の高いマナを魔宵の森の住人は食らい続けているからな。他の動植物を食らう魔獣は不純物が混ざるから少しくすんだ色に変わるんだ」

「へぇ〜……」

 解ったのか解らないのか、曖昧な返事をしながらも魔石を眺め続けるセレナはひと通り手に取った魔石を眺めては袋の中に戻していく。

「何だよ、興味ないのかよ?」

 拗ねた感じの言葉を放つテコに二人は普段の真面目な授業態度と同じ表情を向ける。

「では何故なのでしょうか……?」

「ねえ。何でだろうね?」

 同じ疑問を持ったらしく、セレナが最後の一個をテコの前に差し出して問いかける。

「どうして属性がついているの?」

 ふたりからの問いかけに驚いた表情を見せたが、テコはすぐに嬉しそうに笑う。

「魔獣が魔石を宿す理由は何だと思う? 膨大な生命力やスキルの消費を補う為とも云われているが、魂が結晶化したとも云われている」

 ルゥやグーテスも興味を示し耳を傾けている。

「その魔獣が生きてきた痕跡 ――魂の在り方が属性として現れたと思えばさ……」

 テコはまだ話の途中であったがセレナは構わずに口を開き、テコと声が重なる。

「確かに! より輝いて見えるのも納得だわ!」

「奪った命の重さがわかるだろ?」

 ふたりだけでなく皆がえっ? という顔で互いを見合っている。

 いやいや、おかしいだろと、グーテスとルゥも参戦して口論が始まる。それを見てシエルたちは笑っていた。



「魔石は取っておきたい気持ちはわかるけど、なんで他の素材まで換金せずにいるの?」

「えっとね、今から行くところに……」

 話の途中でテコが遮り、自分で言葉を繋ぐ。

「行けばわかるさ。これも授業の一環さ」

 そう言うと転移魔法を発動させ馬車は光に包まれた。

 目を開けると景色は荒野に変わっていた。

 街外れの平原と違い草木は少なく、瓦礫や岩が点在した文字通りの荒地だった。

「何ここ? 王国にこんな寂しげな場所なんてあったのね……」

「ここはもしや…………」

 ソルフィリアが暗い表情で呟く。

「多分そうだろう。ここまでじゃねぇが、俺は似た光景を知っている」

「一体、何の話ですか?」

 この光景に思い当たらないのはグーテスとセレナだけだった。

 馬車を降りると遠くには丸く窪んだ場所や煤けて黒くなった岩や木材が見える。

 周りの木々は枯れてしまい、今にも朽ちてしまいそうだった。

 大きな岩はよく見るとたくさんの傷がついている事がわかる。

「ここは元戦場。かつて町があった場所だよ」

 岩に見えていたのは瓦礫と化した石材だった。風化した為か何かの魔法の影響なのか、石材が溶けて引っ付いた様に一塊になっていた。

「戦場……? でもここには……街の……痕跡が………」

「滅んだんだよ」

 瓦礫にそっと手を触れながらルゥが静かに話し始める。

「魔法で焼かれ、吹き飛ばされて、あっという間に何年も経ったみたいに風化される。活力を奪われた土地に住み続けられる訳もなく、運よく生き残った人達はここを離れるほか生きる道はないんだ」

 その過程を知っているかのように語るルゥは遠くを見つめ寂しげだった。

「先輩……」

「王国じゃ北部や北西部にこんなところが多い。10年くらい前に東部の一部では大規模なテロリスト掃討戦が行われた時、小さな村が犠牲になったが村民は全員避難して無事だったらしい。……必ずしも犠牲があったとは限らねぇよ」

 どうしても犠牲者について考えてしまうところを、敢えて犠牲がない事例を出して安心させようとする。ルゥにはそんな気遣いができる優しさを持っていることを皆はわかり始めていた。



 一時間ほど馬車を走らせていると、ぽつぽつと雨が降り始めてきた。

「あと少しだけど急ぐぞ」

 手綱を握っていたテコが荷台のいる皆に声をかける。

 幌から顔を出して周りを見渡したイルヴィアがため息をつく。

「やっぱりここかぁ……」

 そう呟くとシエルに声をかける。

「悪いけどアタシはここで降りるよ。これ以上一緒にいるところを見られるとマズいし。……ここにアタシがいる事自体が問題だったりするし……」

 シエルだけではなく皆が何故という表情で声をかけられずにいると、立ち上がり馬車からすぐにでも飛び降りられる体制でいた。

「近くにはいると思うから、何かあれば呼んでくれて良いから」

 こちらの返事も聞かずにじゃあねと飛び出して行った。

「全く……相変わらず人の話を禄に聞かずに行動して…………困った子ですね」

 呆れ顔のクロリスが大きなため息を吐いていた。

「いや、お前はおるんかーいっ‼︎」

 御者台からテコの大きなツッコミが聞こえてくる。その声に少し笑いそうになったセレナが尋ねる。

「天の声って一緒にいなくて大丈夫なの?」

「昨日、シエルさんとテコさんがかなりの距離を離れても状態を維持しておられたので実験です。ヴィアと接続が切れるとどうなるのかも試しておかないと」

 どうやら具現化された自分とイルヴィアの状態を色々と確認している。不測の事態やデメリットを把握せずにこの状態を維持するのは危険と考えたのであろう。

 テコは具現化された長い時間で把握できていることも多いだろうが、クロリスはそうではない。

 メンバーの中で天の声を具現化したのはセレナだけだが、他の三人もいずれ具現化できるようになるだろう。その前にメリットとデメリットを検証しておく必要があった。

 テコとシエルは特別で、皆がそうではないことを知っている。

 万が一に備えておいて損はない。自分自身を使わなければならないが仕方ないこととして割り切っている。

「ヴィアには騎士団としての責務がありますからね。あの子が求める自由のために責務を果たしてもらわなくては」

 色々と聞きたい事が出てくる言い方であったが、テコの声で遮られた。

「着いたぞ」

 馬車を降りるとそこは古びた教会だった。所々壊れた箇所を補修したあとが見られる。それは素人がやったような不恰好でまたすぐに壊れてしまいそうなところもあればしっかりと修理されて暫くは問題なさそうな箇所など様々であった。

 とても人が居るような雰囲気ではない。

「本降りになってきたな。馬を繋いでくるから荷物持って先に入ってろ」

 小雨が続いていたが、テコのいうとおり雨足が強くなってくる。皆はギルドで積んでもらった荷物をいくつか担いで教会の門に向かって走りだす。

 シエルが鍵のかかっていない扉を開けて中に入り声をかける。

「こんにちはー」

 中は薄暗く見通せないが奥にポツポツと灯りが灯され、それがひとつ、ふたつと徐々に増えていくところだった。

 中には数人の小さい影が見える。その中のひとつが駆け寄って来るのが見えるが逆光でこちらからは顔が見えない。恐らく向こうも外の灯りで逆光となってこちらが見えないだろう。

 5メートルほど先まで近づいてきた影は先にこちらを認識したようで明るい元気の良い声で話かけてくる。

「ああっ! シエルお姉ちゃんだ! みんなー、シエルお姉ちゃんがきたよー‼︎」

 奥からわぁと喜びの声が聞こえてくると、数人の影がこちらに向かってくる。

 シエルたちも中へと入っていくとお互いに顔がわかるぐらいには明るい場所で立ち止まる。

「みんな、こんにちは」

「まぁシエルさん。ようこそおいでくださいました」

 出迎えてくれたのは幼い少年少女たちと初老の女性だった。


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