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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 再会Ⅱ
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課外授業Ⅸ

 森を出ると更に街の近くまで転移しあっという間に帰ってくることが出来たが、あたりはすっかり薄暗くなり街灯が灯り始めていた。

 ギルドで買い取ってもらう分だけの獲物を荷台に乗せて馬車のままギルドへ向かう。

 ギルドの前まで来ると今朝壊した扉はすっかり元通りに修理されていたが、その扉を通ることなく馬車は裏口の方へと向かう。

 裏手側は馬車が通れる大きな門があり、そのまま建物の中に入ることが出来る。建物の中は広く、いくつもの作業台が並んでいた。

 一つの作業台の前に馬車を横付けすると、ちょうど奥から作業着を着た男が入ってきた。

「今日は随分遅かったじゃねーか」

「ただいま戻りました」

 同年代とはなかなか上手く話せないシエルが普通に会話している姿を見ると皆は何故なのかと不思議な感覚になる。

「しかし今日はいつもに増して大漁だな!」

「今日は皆が頑張ってくれたんだよ!」

「おお、そうかい! お前ぇが友達連れてきたっていうからどんな奴かと思ってたんだが……こりゃ想像以上だな!」

 奥から同じ作業着を着た男たちがぞろぞろと入ってきて、荷台に積まれた魔物たちを次々と作業台に移していく。

「これってどれぐらいで出来そうですか?」

 男は顎鬚をさすりながら見積もりを立てる。

「そうだなぁ…………明日の昼までには終わらせてやるよ。それでいいか、嬢ちゃん?」

「そんなに早く⁉」

「へへっ、実はこうなることを予想してて夜通し作業できる若ぇ奴ら集めといた」

「おお!」

「あいつらのとこに持って行きてぇんだろ? だったら早い方が良いと思ってよ」

「ありがとう!」

 シエルは男の手を取ってぶんぶんと上下に揺らす。男は喜んでいるのか苦しんでいるか分からない微妙な表情をしている。

「じゃあ後よろしくな、おっちゃん!」

 テコも気さくに声を掛けるとシエルもペコリとお辞儀で続く。

 セレナたちは一連の流れを理解できないまま作業着姿の男たちに挨拶だけしてテコたちの後に続いた。

 テコが今日はもう遅いから取っておいた宿に向かうというと、シエルはお腹が空いたのでご飯を食べに行こうとテコの手を引き繁華街の方へと方向転換させる。

「あんだけ暴れといて元気すぎないか?」

「ほんと……体力無尽蔵なのかしら?」

 二人の会話を聞いてイルヴィアがうしろから声を掛ける。

「マナの使い方だよ。二人は何か大きな行動する時にしかマナを使えていない。普段から自然に……歩くときも、走るときも、飛び上がるときも常に少しのマナを使えるようになれば変わるよ」

 グーテスもソルフィリアもそれを聞いて納得したのか顔を見合わせて頷いている。

「おめえに教わる事なんざねーよ!」

「先輩はそう言っても一番参考にするくせに」

「うるせぇ‼」

 セレナは嬉しそうにシエルの方へ駆け出し隠れる。急に抱き着いてきたセレナに「どうしたの?」と少し驚くが、楽しそうなセレナを見て何故だか一緒に楽しい気持ちになっていた。


 セレナが良い匂いがするという食堂へ皆で入る。

「いらっしゃい! 8名様ですね? 奥の席どうぞ!」

 声のよく通る若い女性の給仕係が大きなテーブルの席を案内してくれた。

 それぞれが席について初めて全員が人数の違和感に気が付いたが、もはや驚きもしなくなっていた。

「何でお前がいるんだよ! クロリスっ!」

「貴方様だけずるいです! それに何でも驕っていただける約束ではなかったのですか⁉」

「いや約束はしたけど、それは今なのか⁉」

「あの日からずっと楽しみにしていたのに……」

「テコ、クロリス泣かさないでよ。ちゃんと責任取って」

「テコぉ? これはどういう事?」

 シエルが怖い顔でテコに詰め寄っていた。

 クロリスがイルヴィアの肩でウソ泣きをしている事は初対面でも安易に分かるのだが、かの<風神>と<雷神>はすっかり騙されている様だった。

「わかったよっ! 今日は俺の驕りだ! みんな好きなだけ食え!」

 やったー、と一番に喜んだのはセレナだった。



 ひとしきり飲み食いしてから宿屋に向かう。

 部屋は男女で分かれ、女子3人は夜通しお喋りする気ではしゃいでいた。

「先輩とグーテスも来る?」

 といつもの悪戯っぽい顔でセレナがふたりをからかうが

「明日も早ぇんだろ? さっさと寝ろ」

 とルゥには軽くいなされていた。

 グーテスは何を想像したのか顔を赤くしながら

「おやすみなさい」

 とルゥの後を追った。

 女子たちもテコは男か女かの議論から結婚するならどんな人が良いかなどで盛り上がっていたが、いつの間にかセレナが眠ってしまった。

 ソルフィリアもシエルに寄りかかってきたので起こさないよう寝かせる。

 ふたりの寝顔を眺めながらシエルも眠りについた。


「グーテス……俺にマナの操作方法を教えてくれ」

 突然の申し出に驚いたが、ルゥの真剣な目に断る事はできなかった。

 何より平民の——しかも商人出身の自分に頭を下げて頼む姿は真摯に強さを求め、目指す場所へ進むための強い意志を感じた。

——ぼくも、ルゥ先輩のように強くなりたい!

 グーテスには目標とする憧れの騎士がいる。この時からもうひとり、目標ができた。

「ぼくもついこの間までは何もできませんでした。でもぼくなりに操作するコツ……というか、訓練の方法を見つけたので、それならお教えできます」

「それで構わない。頼む」

 こうしてふたりは遅くまでマナ操作の訓練を行っていた。


「で? 寝坊の言い訳はないわけ?」

「申し訳ないです……」

「……すまん」

 ふたりが起きてきたのは昼前であった。

「ははは、まぁ良いじゃない。どうせ昨日の素材買取は遅れてるんだし」

 イルヴィアも合流し全員が揃った。

「イルヴィア先輩は甘いです! 集団行動には協調性が大事なの!」

 これを聞いたシエルとイルヴィアがビクッと少し身体を振るわせ、それを見ていたソルフィリアがクスッと笑っている。

「罰としてお昼はふたりの奢りよっ!」

「……タダ飯食いたいだけじゃねーのか?」

「はぁ⁉︎ 先輩何か言った⁉︎」

「何も言ってねーよ……」

「皆さん、仲が良いのですねぇ」

 いつの間にかクロリスが輪に加わっている。

「一番タダ飯食いたいヤツ出てきちゃったよ……」

 食事の間も他愛のないやりとりを楽しみ、一行はギルドへと向かう。


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