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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 再会Ⅱ
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課外授業Ⅷ

 結局のところセレナ以外は天の声どころか物質の具現化さえもできずにいた。

「んな魔法みたいなことできるかよ!」

 苛立ち紛れにルゥが悪態をついていたが

「いや、普段から魔法使ってんじゃん。要領は同じだぞ」

 とテコに軽くあしらわれる。

 分かってはいるけど出来ないのだと皆が同じ思いでいた。

 集中力が途切れてくる頃合いで休憩にしようとシエルが呼びかける。

 昼食はパンにチーズや肉、野菜を挟んだものと飲み物が用意された。

 両方ともなぜか熱々で全員が首を傾げ二人を問い詰めていたが、給仕したシエルとテコは企業秘密だと口を割らなかった。



 午後からは森の奥深くまで進み、ついに魔獣狩りが始まった。

 対峙しているのは巨大な角を持つ体長3メートルのホーンボアだ。

 周りには“漁夫”狙いのシルバーウルフの群れが潜んでいる。

 テコとシエルの二人は周囲を警戒し、イルヴィアはルゥたちのサポート……といっても本当に危なくなるまでは手を出さないことになっている。

 イルヴィアにとってはどこからが危ない状況なのか測りかねてテコに聞いてみた。

「わからないならさっさとクロリスを具現化して聞いてみろよ」

 と突き放すように言われてしまった。流石に困った表情をみせるが、よくよく考えれば具現化しなくともイルヴィアにはクロリスの声は聞こえている。

 サポートを行いつつエーテルを使いこなす訓練を行えということだと解釈した。

 いざ戦いが始まってみると危ない場面ばかりのように思え、自分の訓練どころではなかった。 

 傷こそ負ってはいないがホーンボアの突進を紙一重で避けては体勢を立て直し、また突進を躱わすばかりであった。

 グーテスは魔法で攻撃を試みるも動きが速すぎて当たらない。ソルフィリアに至っては当たっても威力が弱すぎて傷の一つも与えられずにいる。

 セレナは勇猛果敢に切り込んでいくが、吹き飛ばされる寸でのところでルゥに助けられてばかりだった。

「いい加減にしろ! 命がいくつあっても足りやしねぇ!」

「だってこのままじゃ埒があかないでしょ⁉︎」

「二人とも前!」

 グーテスの障壁でろうじて防いだがホーンボアの突進は二人の目の前にまで迫っており、仲良く轢き殺されるところだった。

「あっぶねぇ……」

「ありがとう、グーテス!」

「二人ともよそ見してないで! もう一度来ます!」

 Uターンし助走をつけたホーンボアが再びルゥとセレナへ突進してくる。

「おらぁ!」

 突撃を躱しつつ剣での一撃を見舞う。しかし巨大な牙で阻まれダメージを与えられない。

「ちっ! やはり近距離は無理か?」

「距離をとっても速すぎて当たらないし!」

「だったら!」

 前に出たグーテスは巨大猪の突進を再度止めて見せる。

「マジで硬ぇな……土属性のマナだからなのか? ……マナの属性?」

 巨大猪が後退りUターンしようとした瞬間、地面が大きく陥没しその巨体が見えなくなるほど埋もれてしまった。

「やった! これでもう突撃はできないわね!」

 嬉しそうにはしゃぐセレナにテコがのんびりと声をかける。

「そいつ巨体に似合わず飛ぶぞ」

「……は?」

 意味を理解せず嫌な予感だけで再び武器を握る手に力が入った。

 全員の視線が巨大な穴に向けられた瞬間に垂直に飛び上がる黒い影が見えた。その影は空中で止まると岩石が落ちてくるかのように回転しグーテス目掛けて突撃してきた。間一髪のところ障壁で防ぐが、今までにない衝撃で壁ごと吹き飛ばされてしまう。

「危ない!」

 吹き飛ばされたグーテスをスライムのような粘性のある水の網を使ってソルフィリアが受け止めた。

「ありがとうございます……。びっくりしたぁ……」

 再び大地に四肢を下ろした巨大猪は突撃を繰り返すのかと思いきや、大きく飛び上がって回転しながら向かってくる。躱してもそのまま回転して地面を這い、体勢を戻せば先程以上のスピードで突進してくる。不規則にジャンプして空中からも攻撃してくのでルゥ達はますます躱わす事しかできなくなってしまった。

「どうすんのよ、これ!」

「……」

「何か打開策を……」

 一歩間違えれば突撃の衝撃か巨大な角と牙の餌食になる。力も速さも全く衰える気配がない巨大猪に持久戦は不利に思える。

「まだ早かったかな……?」

 テコは少し諦めかけていてイルヴィアに助けるよう合図を送ろうとした。だがイルヴィアの方はじっと四人を見つめて助けに入る気はなさそうに見えた。

——任せてみるか……

 イルヴィアの判断に委ねつつも様子を見守っているとルゥが前に進み出ていくことに気がつく。

「ちょっと先輩! そんな前に出たら危ない……」

 セレナが呼びかける間も無く猪の突進はルゥめがけて始まっていた。

「まずい! 壁を……」

「余計なことするな! 見てろ!!」

 驚いたグーテスは障壁を作る手を止めてしまった。だがルゥから目を逸らすことだけはしない。

 巨大猪の突撃はすぐ目の前に迫っていた。

 ルゥは剣を左手に持ち替えて空いた手を高々と掲げると向かってくる猪めがけて振りかぶる。

「【疾風の爪(ガストファング)】!」

 鋭い風の爪が巨大猪の牙ごと深く切り裂く。大きな傷を負った猪は傾いた巨大な身体を地面に滑らせながらルゥの真横を通りすぎ、木に激突して止まった。思わぬ反撃と激突の衝撃でダメージは相当のはずであったが、それでもすぐによろよろと立ちあがろうとしている。

 だが立ち上がる前に背後からルゥの容赦ない攻撃を受け絶命した。

「すごい……あの猪を倒した……」

「風の爪?」

 手も足も出なかった巨大猪を一人で倒したことに自分でも信じられないのかルゥは暫く右手を見つめたまま呆然としていた。

「……先輩、大丈夫?」

 セレナが近づいて声をかけると我に帰ったのか大きく息を吸い込み一気に吐き出した。

「声が聞こえた……。グーテスの障壁が硬いのは土属性だからかと考えたら……属性を乗せた攻撃ができるんじゃないかって……」

「魔法剣とかじゃなく?」

 セレナが興味深げに尋ねる。グーテスもソルフィリアもルゥの元に駆け寄っていた。

「魔法とは違う。風のマナを使いたいと思った。多分これは……俺のスキルだ」

 風のマナを鋭利な爪に変え切り裂くルゥの作り出したスキル。

「俺が考えたことを天の声が応えてくれた……。マナとエーテルの使い方……なんとなく掴んできたぞ!」

 手応えを感じてルゥの頬が緩む。学校ではトップの実力を持ちながら力の限界に悩み騎士としてどこまでやれるのか、目指す先への不安を抱いていた彼にとって自身の成長を感じられた瞬間だった。


「ほら次来るぞー!」

 淡々と機を伺っていたシルバーウルフが20頭ほどの群れで襲いかかって来る。

 テコ達の牽制がとれ一気に攻め寄ってきたが群れの長であろう個体は数頭の部下を携えてテコとシエルを警戒している。

「グラウリ教えて! あたしがやりたいことってできる?」

「イメージを力に……? 咄嗟に出来たあれも……」

「ぼくにできることは!?」

 三人はグーテスの障壁に守られながらルゥのようにできることを探し始める。

 その間ルゥは新たに得た武器で狼の群れと戦っている。だが、新しい力は思うように狼に傷を負わすことはできずに苦戦を強いられた。

「速ぇし、さっきより的が小さくて当たらねぇ!……くそっ!」

——思ったよりも成長が早いな。もっと早くに教えられていたらシエルみたいに……

 チラリとシエルの方に目をやると視線に気がついて笑い返してきた。

——ああっと……この娘は特別だったわ。この世界でシエルほどの才能を持った奴はいないだろうし……

 イルヴィアの方にも視線を向ける。彼女はこちらには見向きもしない。四人の戦いに目を逸らすわけには行かないこともあるが、彼らを見ることによって何かを得ようともしているようにも見える。恐らく視線に気がついていても敢えて無視をしている。

——クロリス次第だけど、対抗できる可能性があるのはあいつだけかもしれないしな……

 そんなことを考えているうちに戦況は動き始めた。


「皆さん! 耳だけ貸してください!」

 普段からあまり大きな声を出すことがないソルフィリアが叫んだ。

 3人は戦いつつもソルフィリアの声を待つ。

「前衛のお二人はできるだけ多く、一か所に集まるように陽動してください」

「こいつら連携してくるぞ!? そんなこと……」

「わかったわ! やってみる!」

「っんな!?」

「つべこべ言わず先輩もやるっ!」

「っせえな! わかってんよ!」

 二人は視線で集めるポイントを確認。狼たちの攻撃を躱しながら追い詰めるための反撃を始める。

「グーテスさんはみんなを……私たちを守ってください!」

「!」

 ソルフィリアの言葉で思い出した。何のために魔法士科へ転属したのかを。

 騎士としての身体能力は劣るが並の魔法士以上には蓄積魔力量が多い。

 しかもただの魔力ではなく魔力素子であるマナとしてであり、その扱いも無意識下で身につけていた。

——そうだ……ぼくが攻撃する必要はないんだ。なら、ぼくが出来る事……それは!

 ルゥとセレナは上手く立ち回り、狼たちがグーテスとソルフィリアの方へは近づかないようにしていた。

 だが狼たちを一か所に集めるというタスクが一つ増えたことにより後衛の二人を守ることへのリソースが割けなくなってしまう。

 一瞬の油断を突いて2頭が前線を離れ後衛の二人に襲い掛かる。

「まずい!」

 離れた2頭を目で追って目前の数十頭の狼から目を離す。当然その機を逃すはずがない狼たちは一斉に襲い掛かって来る。

「【大樹の根】」

 4人が一斉に受けた攻撃は透き通る緑と黄のグラデーションの壁に阻まれる。

「空中にいない限りはぼくが守ります!」

 グーテスとソルフィリアに攻撃が通らなかった狼は驚いて立ち尽くしていたが、やがて炎の弾丸に射抜かれ倒れた。

「【炎の弾丸(レッドバレット)】……この速さで狙いを予測すれば……当てられる!」

——へぇ……グーテスは味方を感知する根を這わせて、そこから防御障壁を付与しているのか。多い敵を感知するよりも少ない味方の位置を把握して守る方を選んだか

 テコはグーテスの能力を高く買っている。エーテルの扱いもすぐに出来るのではと考えていたがマナの扱いを伸ばす方が良いかもしれないと思う。

——セレナは生み出した金属弾に炎魔法を付与して魔法剣ならぬ魔法弾を考え出したか。従来の魔法とは違い物理的な攻撃も含むから面白いな!

 意外と柔軟な思考を持ったセレナに対しても評価を改める。


 徐々に各々のスキルを駆使して狼たちを徐々に追い詰めていく。ある程度の数が集まったところでソルフィリアが動き出した。

「【水色の織手】」

 太陽の光を反射させ輝く水色の網に狼たちは包み込まれ動きを封じられる。

「今です!」

 ソルフィリアの声に反応しルゥとセレナが身動きの取れない狼たちに攻撃を開始する。網から逃れた狼もグーテスの守りに阻まれたじろいでいるところを地面から突きあがる土の針の餌食となる。

「こ……攻撃だって、で……できた……?」

 十数頭いた狼の群れが瞬く間に討伐され、テコとシエルを牽制しながら様子を窺っていた群れの長はあっさりと引き下がっていった。

「お疲れ! お前らよく頑張ったな!」

 樹の上から降りてきたテコとシエルを見ると4人は座り込んでしまう。

 疲れを隠せないながらも新しいスキルの習得と天の声を聴けたことに満足そうな笑顔を見せた。

「よしっ! それじゃ次の狩場に行こう!」

 テコの言葉を聞くと、4人から笑顔が消えた。


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