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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 再会Ⅱ
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課外授業Ⅶ

『さて……何からお話いたしましょうか……?』

『何故、イルヴィアの天の声をしている?』

『それは貴方様の所為ですね』

『はぁ? 俺の⁉ 俺は何もして…………、あ』

 突然自分の所為にされて腹がたったがシエルの誘拐未遂の時のことを思い出して言葉が止まった。

『前代未聞の出来事を一瞬で次々と起こされましたので天の声事業部は大騒ぎ。……本当に大変だったのですよ』

 その時の状況を思い出したのかこめかみに指を当てて辛そうな表情をする。

 このクロリスという女神とも見紛うほどの存在は出会った頃と同じように、芝居掛かった身振りで話を茶化す。

『しばらく様子を見ることになっても貴方様がこちらの監視に気が付いて接続を切ってしまわれた所為で事業部内はこれまた大パニック』

『あれって監視だったのか? 覗き見されているみたいで気持ちわりーから削除したんだよ』

『う〜ん……能力自体が全世界から削除されてしまったのですが……』

 これに関しては本当に問題だったらしく、笑ってはいるが本気で苦い表情がみえる。

『話が逸れてしまいましたが、何故彼女の天の声になったかというと天の声の可能性を見出したからにほかありません』


 ここはクロリスの意識の世界。

 テコはこの意識の世界に自分の意識を繋げている。


『天の声はこの世界で物質の身体を持って生きる魂に憑く、もう一つの魂の事』


 一つの身体に二つの魂が存在している。

 二つの魂はリンクしお互いに意識を共有できるはずだが殆どの生物はこれができていない。天の声の魂は意識が薄いものが多く、多くはその声を届けることができずにいた。


『貴方様はアーカイブにアクセスしこの世界にかけられている呪いについてもご存じでしょう』

『ああ……。強い力を持った魂は死後、別の世界へ転生もしくは転移させられる……ってやつだな。初めは魂の強さの意味が分からなかったけど……』

『はい、そのとおりです。ある程度の力を持てば強制的に連れ去られてしまう。何故こんな事になってしまったのか、誰によるものなのか? 今では真相を知る術がございません。搾取され続けてこの宇宙には強い魂が残らないのではと我々は長い時間悩んでおりました』


 強い力を持った魂は生命の樹に帰らない。強い力とは身体能力や戦う力だけではない。並外れた高い知識や技術。時には思想や発想力でさえも対象になる。


『ですがこれは身体を持つ方の魂……いわば主となる魂だけが対象でした。今までに強い力を持った天の声は存在しませんでしたから。……我々が考えたのは貴方様がこの呪いの対象になり得るのかどうか』

『……』

『もし天の声の魂が呪いの対象にならないのであれば、主となる魂とのつながりで転移を防ぐことが出来るのではないかということです』

『両方持っていかれる可能性もあるってことだよな?』

『はい、おっしゃる通りです。それでは根本的解決にはつながりません。でもこの呪いから逃れられるなら……魂のサイクルを保てる可能性があるのならと、我々は天の声を強化する方法を試してみることにしたのです』

『それで自分自身を実験台に……元々意識レベルの高い魂を天の声にしてみたわけか?』

『概ねそういう事ですね。私自身が貴方様の偉業を間近に見て興味が湧いた事もあって立候補しました』

『そもそも魂のサイクルを保つ必要はあるのか? 別に全部盗られるわけじゃあるまいし。基準はわからないけど、それほど強い魂はいないと思うんだが? ついでに言うと弱いままでいいんじゃないか?』

『そ、それを言われますと……』

 折角育てた有能なカードを盗られて悔しい。それぐらいの、ほぼ感情的な理由のように思えてあまり深刻な話には感じなかった。

『ただ弱いままですと種の保存に関わるかもしれません。それと新しい生命を創り続けることでセフィロトにどのような影響が出るのかも。………もし生命が生まれなくなったとしたら……?』

『なるほどな。危惧する理由はわかった。次に何故イルヴィアに憑いた? あとすぐに接触してこなかったのは何故だ?』

 最初の問いから容易に想定される二つめの質問。

 まるで面接のようだと思った途端、初めて出会った時と立場が逆であることが可笑しくなり笑みが溢れそうになる。今はその感情を抑えて彼女は答える。

『イルヴィアの魂のルーツはある人物にたどり着くことがわかっていました。生まれる前から強くなる可能性を秘めた子供で既に天の声は憑いていましたが、上が権限で私と配置転換を行いました』

——配置転換なんてできるのかよ⁉ もしかしたら俺も異動させられていたかもしれないのか?

『あの時点で権限を拒否できるぐらいに貴方様は強くなられたので大丈夫ですよ』

 最初に心の声もすべて読み取られてしまうことを思い出し意識を分けていたが、うっかり繋げた意識で考えてしまい読み取られてしまう。負けてしまったような気持ちで悔しさが込み上げてきたが、それは気取られないように本体の方の意識に仕舞う。繋げた意識の方では腕組みをして平静を装った。

『すぐにお会いしたかったのですが、今の貴方様の状況が分かりませんでしたので。イルヴィアにはシエルさんや貴方様の事をお話しておりました。偶然騎士学校試験でお見掛けし、あとは様子を見ながらと思っておりました。ですがどう接触すればいいのか……術がないことに困っておりました』

 妙なところだけ抜けている天然気質は変わらないと少し懐かしさを感じる。

『他にも居るのか? その、配置換えとかで意識レベルの高い天の声を持った奴は』

 クロリスは首を左右に振る。

『実は私より以前の試行は悉く失敗。……原因は分かりませんが成功事例は私だけでした。以降の状況についてはわかりません。イルヴィアに憑くと事業部との交信ができなくなりましたので』

『成功したとしても外部との接触の手段はない……ということか』

 無言でうなずき申し訳なさそうに俯いていた。

『なあ、俺たちに会ってどうするつもりだったんだ?』

 クロリスは困ったような表情で笑う。

『イルヴィアをここまで導くことができましたが、正直これらからどうすれば良いのかわからなくなってしまいました。彼女が死ぬまでにはまだ随分と先のことで、それまでにできる事も思いつかず……』

 お互いに無言が続く。クロリスが何かを言いかけては止めていることには気が付いていた。テコは腕組みを解いてクロリスが本心を語る事を待ち続ける。

『……本当は』

 ようやく話す決心がついたのか小さな声で話し始める。

『少し心細かったのです。イルヴィアに心配かけないようにと思っておりましたし。幸いあの娘は力を付けることに前向きで、私もそれにやりがいを感じておりましたから。ですが……貴方様の、シエルさんがすぐ近くにいることを知ってからは……』

『困っていたのなら頼って来いよ! それにイルヴィアとももっと本音で話した方が良い。もしかするとお前の気持ちに気が付いていて知らないふりしていただけかもしれないぞ? そんなんじゃアイツだって辛かったかも、だろ?』

 クロリスははっとした表情を見せた後は手で顔を覆って座り込んでしまった。

『存在だけほのめかしてきて何も言ってこないから揶揄われているのかと思ってイライラしてたんだ。 接触の方法がないなんて……思いもしなかったし』

『……本当に……ごめんなさい』

 顔は見せないがクロリスの心からの言葉だとはすぐに分かる。自分の思い違いもあって気まずかったが、和解と再会が出来たことの喜びが勝って笑いが込み上げてきた。

『よし! イルヴィアにも色々教えるぞ。とりあえず俺に任せとけ!』

 クロリスはゆっくりと顔をあげると次第に表情が明るくなり、最後は笑顔を見せる。

 女神とも見紛う美しい容姿の天の声は、時に悪戯ぽい笑顔で本音を隠してきたが、柔らかく優しい本当の表情を見せる。

 テコはもう一度「任せろ」と力強い言葉をかける。



「クロリスはどうだった? 久しぶりの再会だったんでしょう? 何を話したか聞いてもいいのかな?」

 接続を終えて戻ったテコにイルヴィアは矢継ぎ早に話しかける。あまり他人に興味を示さない彼女にとってクロリスは幼いころからの話し相手であり、師であり友人であり、もしかすると家族だったのかもしれない。

——お互い気にかけているのに本音で話せないとか……。いや、俺とシエルも最初はそうだったか

 自分たちは似たモノ同士だと思う。この風神と呼ばれる少女にも何となくだが不思議な縁を感じ始めていた。

「エーテルの扱いを教えるからクロリスをここに呼んで直接聞いてくれ」

「え、本当⁉ 君みたいに……てこと?」

 これまでは物理的な距離は2、3歩遠くに取られていた気がするが、喜びのあまり普通よりも1、2歩近くなった気がした。

 元々人との距離感を適正に取れないのだが、彼女の場合は心の距離に比例している。

「どうやるの⁉ 早く! 早く教えてよ!」

「わかった……わかったからそう焦んなよ! あと少しだけ離れてくれ……」

 今にも抱きついて来そうな勢いよりも、背後からの突き刺さる視線の方に困惑する。

 イルヴィアにはセレナたちと同じようにエーテル素子を両手から流し込んで体感させる。全員を集めてイメージとの連動、マナとの組み合わせなどの実演を交えて説明を行った。

 それぞれがコツをつかみ始めたところでシエルからも天の声を具現化するための方法を聞き試行錯誤を繰り返す。

 さすがのイルヴィアも勝手が違うエーテルの扱いには苦戦を強いられている。

 マナの体内保有量が多く、扱いにも慣れてきたグーテスもすぐには上手くいかなかった。当然、ルゥとソルフィリアも同じだった。

 その中でも唯一セレナだけが違った。ナイフの先ほどの刃物の生成には時間がかからなかった。しかもマナを通して遠隔操作するまでに至った。

 ここまではテコも想定外だったらしく、驚きと同時に最大の称賛を送った。

 予想では天の声の具現化はイルヴィアが一番先に出来て、他は数日かかると考えていた。

 だがセレナが一番初めに、しかも教え始めてから左程時間はかからず天の声の具現化に成功した。

「何これかわいい! これがあたしの天の声⁉︎」

 真っ赤な小さな竜が生まれた。セレナと同じ火属性の力を有した小竜は小さな羽でセレナの周りを飛んでいる。

「意思の疎通はできそうか?」

 テコの問いかけに満面の笑みで答える。

「この子の言葉がはっきりとわかるようになったの! 鳴き声だけで全部わかるわ! そうだ、この子に名前を付けてあげなくちゃ!」

 興奮していつになくはしゃぐ様子に流石のテコも声を掛けづらくおたおたしている。

「え? 名前あるの? ……そう。あなたの名前はグラウリっていうのね! これからよろしくね、グラウリ!」

 炎のような真っ赤な小竜を嬉しそうに抱きしめると小竜は世界の声に呼応するようにその声を響かせた。


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