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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 再会
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ダンジョン研修、その後

「嘘でしょ? 文字通り飛んできたんだけど」

「ご苦労だったな。帰っていいぞ」

「ねえ、ふざけてる?」

 気に掛かけていたシエルと思しき生徒数名がダンジョンの崩落事故に巻き込まれて消息不明の一報を受けて、イルヴィアは得意の風魔法で空を飛んできた。

 風魔法で空を飛べる者は王国内でも数えるぐらいにはいるが、イルヴィアのスピードについていける者はいない。

「しょうがないだろ、自力で戻って来たんだ。それよりも、ここの調査ともっと面倒くせぇ事案の発生だ」

「面倒ごとならいらない。帰る」

「生徒が召喚玉で魔物を召喚させた」

 踵を返してすでに背を向けていたイルヴィアの足が止まり振り返る。

「召喚されたのはロックゴーレム。周囲の魔力を帯びた岩石を吸収した所為で崩落が起きた可能性がある」

「穴の原因がそれ?」

「明日から取り調べを行う。騎士団からも人を出すように言っておいてくれ」

「……」

 わかったと言い残し再び来た道を戻っていく。

「あいつは怪我もないしピンピンしてたぞ」

「まあ……そうだろうね」

 歩きながら顔だけ向けてイルヴィアは笑ってみせた。


 保護された後シエルたちは学校に戻り、メディカルチェックと事情聴取が行われてその日は帰宅させられた。シエルだけは遠方ということで今日だけ寮の空き部屋に泊まることになった。

 翌日から授業はなく、しばらく休校となり個別で当時の出来事を再び聴取される。

 聴取は主に魔物召喚に関わった2組。内容は魔物召喚時の様子やどうやって戻ってきたかなどについてだと予想はついた。だがテコのことを話す事は出来ないと思いつつも口裏を合わせる時間がなかった。

 脱出に関しては三者三様に曖昧な答えではあったがセレナとグーテスはシエルのおかげということにしておけば解決すると思い至る。打ち合わせなどしなくともうまく話が噛み合い、怪しまれるどころか納得された。

 学校や騎士団側にとって脱出の経緯など無事でさえあればどうでも良かった。

 本題はイードたちのパーティが魔物を召喚したことについて。この事に於いては詳細な情報を求められた。

 事情聴取など受けたことがない三人でもこれは暗にテロに関する調査である事と察することができる。

 事実を隠すことも歪曲することもしないが、慎重に答える必要があった。

 この件がイード単独なのか、取り巻きを含めた共謀なのか。

 ソルフィリアも関わっていたのかどうかは三人には分からない。

 戻ってからソルフィリアは重要参考人として拘束され連行された。勿論イードをはじめとする他のメンバーもだ。


 3日が経ちようやく授業が再開された。

 昼休み、シエルたち4人は学食のいつもの席で昼食をとっていた。

「本当に……お見苦しいところをお見せし……申し訳ございませんでした」

 3人に頭を下げているのはソルフィリアだった。

「ううん、気にしなくていいよ」

「そうそう、本気で心配してくれてたんだって嬉しかったもの」

「先生たちへの報告や他のみんなへの支持など迅速で的確だったと、先生たち褒めてましたよ」

 それぞれに温かい言葉をかけられ更に申し訳ない気持ちと照れが混じってどんな顔をすれば分からず俯いてしまう。

「まあでもあなたの嫌疑が晴れて良かったわ」

 同じクラスのセレナに有無を言わさず食堂まで連れて行かれる道中、どんな叱責をも受け止めようと構えていた。はずだったのに拍子抜けするほど自分の心配をしてくれていた。更にシエルに抱きつき大泣きしていたことを弄られ、変な笑い方でなぜか照れているシエルが弄られる光景に和んでしまった。

「結局あいつ単独での犯行ってことで解決したの?」

「はい、本人がそう認めているそうなので。ただ入手経路は不明な点が多い為、騎士団へ護送されて取り調べを受けるそうです」

「そう、騎士団で……」

 セレナの可哀想にという表情に気づいたグーテスが質問する。

「あの、騎士団で取り調べというのは、その……かなり重い罪に問われるということでしょうか?」

「はい、テロの疑いをかけられています」

 ソルフィリアのテロと言う言葉にシエルとグーテスは暗い表情を見せる。

「私は他国から来ていますが、この国のテロに対する厳罰は有名です。計画しただけでも重い罪に問われることも承知しています。騎士団は他国からの侵攻を防ぐと同時に地方から中央へのテロを未然に防ぐために設立されたことは皆さんの方がよくご存知でしょう。その騎士団へ連行されたと言うことは……つまりそう言うことになります」

「多分だけれど、あの魔物を召喚した魔石? 魔道具? ……あれの出どころを突き止めたいのでしょうね」

「あれは東方の大陸にいると言われる“魔物使い”が使役した魔物を持ち運ぶための魔道具です」

 魔道具と聞いてグーテスが何かを思い出し口を開く。

「使役した魔物を持ち運ぶ……? そう言えばそんなものを輸入しようとして没収された商人がいたとの噂が流れていたような。この国には魔物の使役なんてできる人がいないから売れるわけないのにと誰も相手しなかったそうですが」

「使役した人物以外が使用しても魔物が出てくるだけですから、普通は流通させないはずです。おそらく何者かが密輸してそれをイードさんが……」

 しばらく沈黙が流れ、セレナの大きなため息が聞こえた。

「あいつの……タマーエ侯爵家は良くて降爵、最悪……爵位剥奪になるわね。自業自得だけど」

「子供がしたことでも……、況してや嫡男ではない子供であってもそこまで厳しい罰を受けるのですか?」

 グーテスが恐る恐るセレナに尋ねると、黙って頷かれ背筋が寒くなる。

「昔は王都でもテロが頻発していたらしいのよ。それを当時も宰相だったヌビラム様が厳罰化したらしいの。貴族にとっては厳しすぎる内容に反発があったそうだけれど、王政派だった宰相は“王族に仇をなすことがなければ問題ないだろう”って強行したそうよ」

「かっこよー」

 シエルが感激して小さく拍手をし、何故かセレナが得意げに笑っていた。

「確かに街中であんな魔物を出されては困りますもんね」

「気の毒ではありますが、セレナさんの言った通り自業自得ではあるかと」

「それはそうとお前、精霊と契約でもしてるのか?」

 いつの間にかソルフィリアの隣にはテコが座っていた。その声に驚き全員の重たい雰囲気が吹き飛んでしまった。

「っ!? あの……どちら様でしょうか?」

 男性とも女性とも思える容姿に吸い込まれそうな星空の瞳をもつ人物が突然隣に現れたら誰しも驚くに違いない。しかしその人物は制服を着ておらず明らかに部外者だった。しかもかなり近くまで顔が迫っていたので反射的にのけぞり、隣にいたグーテスの顔に後頭部が当たりそうになる。

 慌てたのはセレナとグーテスで周りの生徒や教員に見られでもすれば問題になることは必至だった。

「ちょっとテコ! 近いってば!」

 シエルは直ぐ様立ち上がってテーブルの向かいに回り込み、テコの腕をひっぱり引き離そうとしている。

「あんた、それどころじゃないでしょう!」

「そ、そうですよ! 早く隠れて!」

 テコもうるせぇななどと言いながらシエルに羽交締めにされて手足をばたつかせていると、彼らのテーブルに背の高い影がひとつ近づいてきた。

「おい、テメェ誰だ? 部外者がどうしてここにいる⁉︎」

 その影は狼系獣人の生徒だった。かつてイードとの揉め事でシエルの怒りを買った一人だった。

「はぁ⁉︎ ここの食堂は一般人も入れるんだよ! 学校に入れた時点で食堂にいてもおかしくないだろ! 知らねーのか、ばーか!」

——正規で入ってきたとは言ってないけどね

 シエル以外はそう言えばそうだったと気がついた。獣人の生徒は顔を真っ赤にして怒りを抑えるのに必死の様子だった。

「み、皆さん! ちょっと落ち着きませんか⁉︎」

 グーテスの呼びかけに場が収まろうとした瞬間だった。

「やるならやってやるぞ? その代わりにまたシエルにされたみたいにビリビリでもイイならなぁ」

 流石に子供のような挑発には乗ってはこないだろうと思いつつも皆の不安は的中する。

「いい度胸じゃねぇか……西館の修練室まで来い」

「いや、ちょっと先輩……ですよね? あそこは一般人立入禁止ですよ⁉︎」

「うるせぇ! いいから来いつってんだよっ!!」

「よし、みんなで行こうぜ!」

 遊びに行くかのようなノリのテコに皆呆れて止める気が失せてしまっている。

「はぁ……もう、どうにでもなればいいわ」

 セレナは早々に匙を投げ、手づかみで食後のデザートを食べ終わっていた。

「勘弁してくださいよ……午後の授業始まっちゃいますよ?」

 グーテスの言葉通りに午後の授業の予鈴がなる。

「ちっ! 放課後だ! 放課後絶対に来いよ、いいな!」

 獣人の生徒は怒りのオーラを漂わせながらその場を去ろうとしたが、ふと凪のようにオーラが消える。

「お前らだろ、事故の被害にあったのは? その……無事でよかったな……」

 そう言うと早足で行ってしまう。突然の見舞いの言葉に呆気に取られて5人は固まってしまったが、同時に顔を見合わせて困惑の表情を確認しあった。

「何、突然? あれがツンデレ?」

「もしかしてですけど、あれを言うためにここに?」

「めっちゃ良い人かも〜」

「いや、お前がこの前、電撃くらわせた奴だぞ?」

「ですから、こちらの方は一体……?」

 それぞれが戸惑いを胸に午後の授業に向かっていく。放課後に再び集まり、その時に改めてソルフィリアにテコを紹介することになった。すでにテコの姿はなく、彼女はまるで幽霊でも見たような気分だと顔を青白くしていた。

 セレナとグーテスも近い気持ちではあったが、ふたりにとってはもう恐ろしいものだけではなく、言いようの無い高揚感を抱かせるものでもあった。

 ダンジョンの奥底で見た底知れない力の片鱗に触れる機会かもしれない。

 期待に胸が高鳴る。


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