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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 再会
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ダンジョン実習Ⅱ

 実習が行われる管理区域R01は騎士学校からみて南側位置し東西に伸びる標高五百メートルにも満たない山塊である。

 山塊のひとつがR01と呼ばれる岩山で、その中腹がダンジョンの入口になる。岩山だけにダンジョン内も岩肌がむき出しの洞窟のようになっていて、場所によっては岩山が吸った雨水が滴り壁面を濡らしていた。

 入ってすぐの第1層の道中は分岐するが最終的に下層へと続くセーフポイントと呼ばれる安全地帯へたどり着くようになっている。セーフポイントは今回の実習の目的地にもなっている。

 分岐は大きく分けても3つ程度で余程のことがない限りは迷うことはないようにされている。

 “されている”というのは実習用に騎士学校が整備したからだ。当然灯りも必要がなく等間隔で松明が洞窟内を照らしている。

 往復の平均所要時間は30分程度である。約10分おきにスタートすれば他の組と鉢合わせすることもあるが魔物の討伐や探索が目的ではないので問題ない。今回の実習はダンジョンがどういうものかを知ることであり、仲間との協力や魔物との実戦などの経験を積むことが目的だ。

 故にこの実習において評価はなく、成績には全く関係がなかった。


「君たちもう来たのか? 今までで最速での到達だな」

 はじめに出発したエターマたちのパーティは10分もかからずにセーフポイントへと到達していた。

「ボクの力を持ってすればコレぐらいは容易いのですよ」

 教員に褒められイード・エターマは高笑いをしている。

——いやナフリーゲンさんが事前にマップを記憶していたからだけど……

 取り巻きの二人が思ったことは同じで、顔を見合わせたタイミングも同じだった。

 幼いころから三人は見知った関係で、ふたりは事あるごとに親からイードの面倒を見るように言いつけられていた。

 ふたりの家はエターマ家と主従のような間柄で、逆らうことは許されない。機嫌を損ねて親同士の関係が悪くなるようなことを言われないように気を遣うことが当たり前になっていた。一度のミスも許されない。だから絶対に口には出すなよとお互いに牽制しあった。

「これなら帰りも問題ないだろうが一応最短ルートが記された地図を渡しておく。これがセーフポイント到達の印になる」

 教員は地図をイードに手渡し付け加えた。

「ここまでは大して魔物にも出会っていないだろうけど今まで以上に気をつけて戻るんだ。この先の合流ポイントを見ただろ? あの広い空間は魔物が潜んでいることも多く、戻っていく冒険者の油断を突いて襲いかかってくる。弱い魔物でも不意打ちで急所をつかれれば死ぬこともあるからな」

 イードと取り巻き二人は恐怖で顔をひきつらせたが、イードはすぐにそんなものは怖くはないと虚勢をはって胸を叩いた。

 教員は心配になって警戒を怠らないようにともう一度注意換気し、一番しっかりとしていそうだった留学生の女子生徒——ソルフィリア・ナフリーゲンに向かって気をつけてくれと目で訴えた。

 ソルフィリアも察して黙って頷いた。その間にイードたちは先に進んでいたのでソルフィリアは教員に丁寧なお辞儀をして追いかけていった。


 セーフポイントで教員が言っていた分岐の合流地点とは、入口から大小の様々な分岐を経てたどり着く広い空間のことで、そこから2つのルートを経て再び合流しセーフポイントへたどり着く。ちょうど8の字の交点に当たるので第1層は通称“八の字の間”と呼ばれている。

「しっしっし……ここであいつに仕返ししてやる」

 合流地点に到達したイードたちは慎重に歩を進めていた。そこは円形の空間で2千人くらいは優に入ることができる広さがあった。天井も高く声がよく響いた。

 イードは急に走り出し懐から取り出した拳大の球体を空間の中央に置いた。

「イード様、何をされているのですか?」

 取り巻きの一人がイードの行動に気が付き訊ねた。

 イードは慌てて何もないから気にするなと先を急ぐように早足になり、取り巻き二人もそれについて行った。

 ソルフィリアもあとを追おうとしてイードが置いた物体に目をやり、驚いて足を止めてしまった。

「イードさん……これはもしや……?」

 声をかけた先のイードは足を止めてちょうど今しがた到着したシエルたちと鉢合わせしていた。

「げっ! お前たちもう来たのか!?」

 シエルとセレナはあからさまに嫌な顔をしてみせただけで無視して先へと歩を進める。進んだ先には青ざめた表情のソルフィリアを見つけ、何かあったのではと彼女に駆け寄ろうとした。

「大丈夫? 何かあったの?」

 セレナが声をかけながら近づこうとするとソルフィリアは大声で静止する。

「ダメ! 今すぐここから離れて!」

 訳が分からなかったが咄嗟にセレナは足を止め、シエルとグーテスもそれに続いた。

『おい、気を付けろ! 部屋の中央にマナが集中している!』

「部屋の中央が危ないみたい!」

「なに? どういうこと!?」

 ソルフィリアもシエル達の方へと駆け出し、間もなくイードが置いた球体が光を放って弾け飛んだ。

 眩い光にセレナたちは目を覆い、球体が弾ける勢いでソルフィリアは吹き飛ばされた。シエルだけは飛ばされるソルフィリアの姿を確認し抱き止める。

「怪我はない?」

「大丈夫……です。ありがとう……」

 光が収まるとそこには一匹の魔物が膝をついて佇んでいた。それはゆっくりと立ち上がり、その巨体から光る眼がシエルたちを見下ろした。

「ひぃ! あんなのが出るとは聞いてないぞ!?」

 イードたちも巨大な怪物に腰を抜かして座り込んでしまっている。

『あれはロックゴーレムだ。あんなデカいなんてアーカイブにはなかったぞ!』

 声を聞いたシエルが聞いたままをつぶやく。

「ロックゴーレム……」

 つぶやきを聞いたソルフィリアが驚き、再びイードを睨みつけ叫ぶ。

「イードさん! あれが何かわかっていて使ったのですか!?」

 怒鳴られて更に体を縮こませながら頭を手で隠しながら返答する。

「し、知るわけないだろう! ちょっと強めの魔物が集まる魔道具だと聞いて買ったんだ! あ、あの女に仕返しするために!」

「なんて愚かなことを……」

 ソルフィリアは呆れて開いた口が塞がらない程度では済まされないほどに軽蔑の目を向けている。

「あれは……、ああっ!」

 話を遮るように急に体が別の場所へと飛翔する。

 突如現れた魔物はシエルたちを攻撃し始めた。それを躱すためにシエルは抱き止めたままだったソルフィリアを担いで後方へ飛んだ。

「ごめんね! とりあえず話はあとで!」

「ふたりとも、行くわよ!」

 剣を抜いたセレナの号令と共にグーテスとシエルも戦闘態勢に入った。


 ロックゴーレムは動き自体早くはなかったが、土魔法【ストーンバレット】を両の腕から放ち近づけさせなかった。

 人の頭ほどの大きさの岩が10個ほどまとめて飛んで来るのをセレナとグーテスは上手く躱しながら左右へと展開する。

 シエルはソルフィリアたちを守るためにその場にとどまり両剣で軌道をずらすか粉砕し続けている。

「わたくしも応戦します!」

 ソルフィリアも剣を抜き前へと出る。

 攻撃対象が増えたことでロックゴーレムの放つ魔法が一時止まる。

 この隙を見逃さなかったセレナが切り掛かったが岩石の体は固く無傷ではじき返されてしまう。

「何こいつ⁉ めちゃくちゃ固い!」

 遅れてグーテスも相手の腕に切り掛かったが全く歯が立たなかった。しかしロックゴーレムは少し動きを止めるような仕草を見せた。

「関節などの可動部を狙ってください!」

 グーテスの声に反応しセレナは炎を纏わせた魔法剣を右腕に叩き込む。ソルフィリアは剣を振るい水の刃を左肩めがけて放った。

 右上腕と左腕を落とされたゴーレムはよろめいて膝をついた。

「よし! 一気に畳みかける!」

 セレナが首めがけて剣を振るおうとしたその時、足元から岩石が舞い上がりゴーレムを包み込んだ。

「セレナ!」

 間一髪、飛び込んできたグーテスがセレナの手を引いてそのまま距離をとったため無傷で済んだ。

「ありがとう、グーテス……」

「大丈夫ですか?」

「うん、大丈夫。……あれによく気が付けたわね」

「停止したように見えましたが、……何か魔力が集中しているように見えて」

 二人が体勢を整えている間にゴーレムは失った両腕を修復し再び魔法を放つ準備に取り掛かっていた。

「コアである魔石を破壊すれば停止するはずです! もう一度‼」

 ソルフィリアの声に素早く反応し二人は攻撃に移る。岩の弾丸をギリギリで躱しながらも距離を詰めてグーテスが腰に剣を突き立て、セレナが足を切り落とした。少し遅れてソルフィリアが再び腕を狙って切り落とした。

「みんなっ!」

 シエルの声が聞こえると同時に接近していた二人は後方へ飛びゴーレムから離れた。

 後方から一瞬にして接近してきたシエルはゴーレムの胴体を両手の剣で左袈裟切りに切断。胴体の中央にあった魔石も真っ二つとなり、ただの岩石と化し姿を保てなくなったロックゴーレムは崩れ落ちていった。

「……す、すごい」

 自分よりも後方にいたはずが一瞬の跳躍で距離を詰めたこと。何よりも、恐らく最も防御力が高かったのであろう胴体を切り裂く斬撃。あまりにもレベルの違いにソルフィリアは感動さえ覚えていた。

「やったー! さすがシエルね」

「な、何とかなりましたね」

「それよりもパーティでの初討伐よ! 思った以上に連携出来ていたと思うのだけれど、どうだった?」

 興奮気味のセレナを中心にパーティが寄り集まって無事に初討伐を終えた喜びを分かち合っていた。

 ソルフィリアもその輪に入りたいと一瞬思ってしまった。だが自分がいるべき場所ではないと目を閉じた。自分のパーティメンバーに怪我はないだろうかと振り返ると三人は身を寄せ合い、まだ震えていた。

「あんな化物を……。あいつの方が化物じゃないか……」

 イードが泣いているのは怖かったからなのか悔しくてなのかは分からないが、ひとまずは大丈夫そうだと胸をなでおろす。

 すると突然、地響きと共に足元が揺れ始めた。

「じ、地震⁉」

 大きな揺れではないが揺れる時間が長く気持ちが悪い。

 イード達は悲鳴を上げ、更に三人が寄り添って小さくなる。

「落ち着いてください!」

 ソルフィリアも声を掛けながら揺れの気持ち悪さに膝をついてしまう。

 シエルたちは問題ないだろうと思いつつも心配になって振り返り様子を見る。

 すると揺れは収まった。

 シエルたちは彼女が思った通り問題はなさそうで安心し立ち上がる。長く続いた揺れの所為でまだ揺れているような感覚だった。

 気を取り直し、そういえばシエルに助けてもらったお礼をまだ伝えていないことに気づく。

 イード達のことは後回しにして、お互いが出発してしまわないうちに一声かけておこうとシエルたちのもとへ行く矢先だった。

 ゴーレムが倒された位置を中心に広範囲の崩落が起きる。足元の地面が崩れ落ち、一瞬で半径十数メートルの大きな穴へと変わり三人を飲み込んだ。

「——⁉」

 セレナとグーテスの悲鳴と共に三人は突如出現した大穴に飲み込まれてしまう。

「そ、そんな……」

 ソルフィリアもあと数歩前に踏み出していれば共に落ちていた事だろう。

 穴の底は暗くて見えない。セレナたちの声もかなり長い時間聞こえたから相当な深さに思える。

 先ほどまでの戦闘やイードの見苦しい言動と打って変わって静寂が場を包み、深遠とも思える黒く暗い大穴が口を開き、そこからは恐怖が漂い始めていた。


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