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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
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共和国探訪 side C 1-13

 仲間たちへの連絡を控えたシエルだったが夜になって通信魔道具が着信を知らせる光を放つ。カード型の魔道具は誰からの着信かを色で判別できる。その赤色に輝くカードを見つめてシエルは苦笑いする。

『ったく……、セレナたちにも言っておくべきだった』

 姿は現さないがテコが頭を抱えている様子はきっとシエルの想像どおりだろう。

「あはは、定期的に連絡は取り合おうって言ってたからね」

 カードを手にして通信を開始する。

「もしもーし、シエル?」

「はいはーい、お待たせ。何か分かったことあった?」

 テコは姿を見せると通信に使われている風魔法に闇属性を混ぜて暗号化する。

「即席だからな」

 話しながらシエルの表情はテコに感謝を伝えていた。自分たちが話している一瞬の間に技術が進化したことなど知らないセレナは話を続ける。

「その前にヘルマさんと連絡取れないんだけど、あなたたち別行動中?」

「ああ、それなんだけど……」

 ヘルマが軍の内部へ潜入し何故か1日で共和国軍中枢へ行くことになった事をかいつまんで話す。

「……嘘みたいな話だけれど、あの人ならやりかねないわね。アルさんには後であたしから伝えておくわ。ほんと自由人すぎてついていけない。このチーム編成で正解だったかも」

「ノアちゃんとはどう?」

 ノアの処遇をめぐってシエルとセレナは衝突する事があったが、喧嘩をしている意識はなく、互いに感情と現実的な対応のせめぎ合いで落とし所を探っている、そういう気持ちだった。

 ただ、セレナはルゥという大切な仲間の命を奪った仇の一人であるノアを憎む気持ちが強かったことは本人も自覚している。

 許す事ができないでいるから辛く当たってしまっていた。

「うん……、まあ何とか、できていると……思う。意外と知識があって観察力も鋭いわね。相変わらず遠慮気味なのがイラつくけど。出来ることに対してはちゃんと自信を持ちなさいよ……っていうのは、あたしの押し付けかなあ」

 まだ3日だが思いのほか気にして見てくれている。このまま二人が仲良くなってくれる事をシエルは願うばかりだった。

 ノアは加害者であるが、呪われた力を利用される被害者でもある。

 能力を酷使させられて長く生きられず、呪いを抱えたまま、同じ自分に転生してしまう。生まれて意識がはっきりしだす頃には逆らえなくされて能力を利用される。

 そんな人生を幾度となく繰り返して来た。

 ひとりの少女に課せられた理不尽な理を断ち切りたい、そう思ったシエルはノアを擁護し続けている。

「ちゃんと見てくれてありがとう。ノアちゃんもきっと変わると思うよ」

「……あの子の話はもういいわ。それよりも、町で色々な人に出会って調査していたんだけれど——」



 *******



 エンロー商会の下っ端たちを使ってブライトリーの身辺調査をさせている間、セレナたちは再びジョージが営む商会の倉庫に顔を出す。

「おお、お前さんたちか。昨夜来なかったから宿は見つかったんだな。せっかく俺の家に招待して一晩中商人談義に花を咲かせるつもりだったのに」

「心遣いは嬉しいのだけれど、行かなくて正解ね。昨夜はエンロー商会ってところの宿にタダで泊めてもらったの」

 商売敵かもしれないが聞きたいこともあるから敢えて口に出す。するとジョージの顔色はみるみる暗くなる。

「エンロー商会だって? それは最悪じゃないか」

「最悪ってどういう事? もしかすると競合相手なの?」

「いいや、俺たちとは競合するとはないだろう。何故なら客層が俺たちとは真逆だからだ。奴らは軍を相手に商売するこの町で最も危険な死の商人だからだ」

 いくら何でも大袈裟ではないかと、いつもなら思うだろう。しかしチンピラのような絡み方やその後の三下ムーブは十分に小悪党の匂いがする。しかし、ジョージのリアクションからはただのチンピラと関わった感じがしない。

「とにかく悪い噂しかないんだ。競合相手は徹底的に叩きのめされて軍の仕事どころか町での商売すらもできなくなった奴もいる。素行の悪い従業員が多くて関係ない人たちが迷惑する事もしばしば。それと最悪なのはボスのエンロー本人だ」

 とてもじゃないが下っ端たちのリーダーがボスだとは思えないからボスらしき人物には会っていないのだろう。

「エンローは冷酷非道で金のためなら女子供であろうと容赦しない。しかも敬虔なイーリア教信者であり、過激なイーリア派だという。噂だが獣人狩りをして軍に売り渡したり、温厚なアイリス派の人を騙して獣人の居場所を聞き出して火をつけたりとやりたい放題だ」

 聞いているうちにセレナはとんでもない悪党の下っ端を手懐けてしまったと内心後悔する。

「これも噂の域を出ない話だが、奴らが仕入れる武器などは出所不明のかなりヤバいところから仕入れているという噂だ」

「それなんだけれど、昨日会ったブライトリーさんも軍に武器や火薬を納入しているのでしょう? 彼もエンローに目をつけられているんじゃないかしら?」

 実際に目をつけられているがエンローはまだ実態をつかめていないから彼に実害はないのだろう。しかし、ジョージの話からすると今後危険な目に遭う事も予想される。

「やり方や加減を間違えれば危険かもしれないが、あいつもここで働いていたからエンローの事をよく知っているはずだ。奴らの利益を奪わない程度に上手くやっているのだろう。軍と取引しているのはエンロー以外にも数社にのぼるからな」

 なるほどそうかと少し安心するが本題はそこだけではない。

「そのブライトリーさん、なんだけど……、彼も怪しい事していないわよね」

 元従業員が危険な橋を渡っている事は知っているから当然気にかけているだろうと思っていたがそうでもないらしい。

「あいつの父親は軍の大尉でここの基地に限って言えばかなり権力ちからを持っている。お偉い方の殆どが汚職に手を染めているのに対して清廉潔白なよくできた人物だと評判だ。ただ同僚や上官の汚職に気付かないわけないから、立場的にも苦しいだろう。それでも俺たちの最後の希望であり砦だからな、その息子のブライトリーが汚い真似をする事はない。ここで働いていた時からあいつは真面目で一生懸命だったからな」

 ジョージからの評価は悪くないどころかベタ褒めで信用しきっている。

 銃を忍ばせていたのも危険な相手がいるから護身用だったのかもしれない。

 ブライトリーから軍について何か探れるのではと思ったが当てが外れてしまう。それよりも急いでエンローの下っ端に調査を中止させて手を出さないよう釘を刺しておこうとセレナたちは待ち合わせ場所へと赴く。


 エンローの下っ端二人はセレナたちを見つけると全力で駆け寄ってくる。

「姐さん、探しましたよ! ヤバいことになりました」

「どうしたのよ、落ち着いて話して」

「実はブライトリーの奴、ヤバい奴らから商品を仕入れているみたいなんです。それもウチのボスが贔屓にしている商人らしくて……。俺たちも勝手なことしてぶっ殺されそうになったんですけど、ブライトリーのことを話したら怒りだして急いで探して連れて来いって」

 信用しかけた人物にまた黒い疑惑が現れ、しかも危険な競合相手に狙われる事実を突きつけられる。そして今、エンロー商会が総出でブライトリーの行方を捜しているという。

「くう……、あたしたちも原因の一端みたいなところあるし……。アルさん、ノア! あたしたちもブライトリーさんを探すわよ。この人たちのボスよりも先に!」

「よし、俺は一人で行く。見つけ次第拉致してタゲット商会で匿ってもらおう」

「分かったわ。その時は連絡して、あたしもそうするから」

 そういうとセレナはグラウリを顕現して空からの捜索を始める。

「あたしはグラウリと視覚を共有できるから空から探す。ノア、あなたは目も勘も良いのだから頼んだわよ」

 力強く頷くのを見届けてアルドーレは跳躍して屋根伝いに行ってしまう。

「あ、姐さん、俺たちは……協力できないっす」

「あんたたちを頼る気なんてないわよ。良い感じに見つけられないでいて!」

「はいっす!」


 *******


 ブライトリーの捜索にセレナとノアも動き出すが、結局のところ彼を見つける事ができずにエンローの下っ端たちも今日は捜索を打ち切っている。

 そしてセレナも散々探し回って疲れたとシエルに愚痴をいう今に至る。

「町を出て仕入れに行く事もあるからって彼の恋人も言っていたわ。また明日探すけど、エンローてボスがどう動くのか分からないから彼の身の安全が保証されるまで気が気でないわ」

「お疲れ様。明日も探すの? わたしも手伝おうか?」

「うーん、ありがたいけど、シエルだってやる事あるでしょう。成り行きだけど自分たちの事は自分たちで解決するわ。それに怪しい仕入れ先っていうのも気になるし」

「うん、じゃあ頑張ってね」

「ありがとう、おやすみなさい」

 それぞれの報告を終えて次の日を迎える。


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