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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
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共和国探訪 side C 1-2

 照り付ける太陽が空を低く感じさせ、乾いた風が赤茶けた砂を巻き上げている。暑さはやや穏やかな時期ではあるが、じっとしているだけで額に汗が滲んでくる。

 国境線に近い町イーマイムに時代遅れの馬車が近づいて来る。町の入り口に立つ兵士が訝しんだ目でゆっくりと近づく馬車の到着を待っていた。

「おい、停まれ! 今時馬車を使ってやってくるなんて……お前たち、何者だ?」

 馬車は兵士の目の前で静かに止まる。すると御者台に乗っていた若い女が笑顔を向けて口を開く。

「あたしたちは町から町へ渡り歩く旅の行商人。良い商売になると聞いて遠路はるばるやってきました」

 若い女の隣には目つきの悪い大柄な男が手綱を握り、布に覆われた荷台には子供が座っていた。

 兵士の一人が荷台の方へ向かい足を止める。

「積み荷が何か確かめさせてもらう」

 言うや否や兵士は持ち主の返事も待たずに覆っていた布を勢いよく捲る。

「これは?」

 兵士が目にしたのは魔物の角や牙、毛皮などの素材、それに小分けにされた袋が複数ある。

「その袋はなんだ?」

 兵士は緊張した面持ちで武器を握る手に力が入っていた。

「ああ、これは……魔石です。これに限らず全て貴重なものだから手には触れないでくださいね」

 若い女が振り向いて説明をする最中、子供が袋を広げて中を兵士に見せる。そこには確かに小粒の魔石がいくつも入っていた。

 中を確かめた兵士は安心したのか肩から力が抜けたのが分かる。

「あたしたちはこれら売りに来たのです。魔物の角や牙は道具だけではなく、煎じれば薬にもなりますから」

「そ、そうのか? ……よし、入って良いぞ」

「ありがとうございます」

「分かっていると思うが、今は立ち入りができない区画が多い。妙な行動をしているとその場で射殺されることもあるから気を付けろよ。あと……、その男はしゃべれないのか?」

「いえ、このヒトは口を開けば暴言に聞こえるような話し方の生まれなので」

「そうか……。じゃあ気をつけてな」

 女が会釈すると馬車は動き出し、町の中へ入って行く。


「ふう……、なんとか乗り切ったわね」

「酷くないか、セレナさん。俺、普段からそんなに口悪いかな?」

 手綱を握る背中が丸くなって小さくなったアルドーレをセレナもノアも密かにかわいいと思ってしまう。

「あの場を乗り切るための嘘に決まっているでしょう。変に威圧するぐらいならしゃべらない方が良いの。それにアルさん、ヘルマさんと一緒の時は口悪いから全部嘘でもないわ」

「じゃあ、あいつの所為じゃねえか……」

 シエルが提案した組分けはアルドーレ、セレナ、ノアの三人だった。テコが用意した馬車に持っていた魔獣の素材を積み込み、行商人を装って情報を集める作戦だ。

「さあて、素材は本当に売って良いって言ってたし、……とはいえギルドみたいなところなんてこの国にあるのかしら」

 セレナが周りを見渡して何があるのか確かめていると荷台からノアの小さな声が聞こえてくる。

「市場へ行けば、良いと思う。勝手に商売をすると町の商人に嫌われて情報が集まらなくなるから……」

「……そう」

 ノアの言葉にセレナは素っ気ないどころか冷たさも感じる。

「ノアさん、よく知っているな。とりあえず市場をさがして向かうとするか」

「そうね、行きましょう。道すがら聞いていけば辿り着くでしょう」

 重たい雰囲気のまま三人は口を開かず、馬車はスピードを変えずに進み続ける。


——はぁ……、なんで俺がこの二人と? てっきりヘルマと組んで好きにさせてくれるのかと思ったのに。仲悪いのは知っているけど、俺に仲裁を? いや、無理だろ……、俺にできるわけがない


 シエルの提案に反対したのはアルドーレとセレナだった。

「どういうこと⁉ なんであたしがあの子と……」

 詰め寄るセレナにシエルは冷静に答える。

「軍の施設調査ならヘルマさんに潜入してもらって、いざという時はわたしとテコで脱出させるから」

「だったら俺も一緒で良くないか? 俺ならヘルマを置いて逃げられる」

「おい!」

 アルドーレはロージアを救う手立てを探りたい気持ちがあるから軍施設行きを強く希望する。

「逃げたり壊したりする前提だと必要な情報が手に入らなくなるよ。それにアルさんには護衛もお願いしたいです」

「ちょっと、あたしに護衛なんて必要……」

「ああ、セレナじゃなくてノアちゃんの方」

 シエルの言葉に思考が止まりノアの方を見てしまう。

「ノアちゃん、きっと自分のためには能力を使えないはずだから何かあったら大変なの。軍施設の方は危険があるかもしれないし、国境線に近いから戦闘に巻き込まれでもしたら困るの。だから町の調査の方へ入ってもらって、セレナとアルさんの二人で守ってあげて欲しいの」

 ノアは言葉を相手の魂と幽体へ直接指令を送り込み意のままに操れる。その呪いともいえる力はノアの寿命を糧にしていることが分かった。しかもノア自身が死んでもその魂は浄化されることはなく、もう一度同じ自分に生まれ変わる。能力も残っているから物心がつく前に悪用され続けてきたのだ。

 死ぬことを極端に恐れ、生きたまま封印されることを願っている。その方法が見つかる日までは、力を使わずに寿命を残しておきたい。

 故に、無駄に能力は使わないとシエルは断言する。

 死にたくはないのに自分の価値を低く見ているから自分のために能力を使うことをためらうだろうこともシエルは数日一緒に過ごしてみて感じたことだ。

 シエルはノアにこの組み分けで良いかと尋ねる。ノアが拒否することができないことはわかっていたから無理やり多数決で決めてしまい今に至る。



 ノアは自分が意見できる立場にないからと黙っている。それだけでなくセレナに嫌われている、いや憎まれている自覚があるからでもある。

 それは大切な人の命を奪ったからに他ならない。

 罵られようと殴られようと、それは自分が受けるべき罰なのだから一向に構わない。しかしセレナの方は顔も見たくないであろう自分と一緒に行動するのは苦痛ではないのではないかと心配になる。

「自分の身も守れないのに何で連れてきたのよ。置いていくのも危険だけど」

 きっと睨みつけているだろう。俯いているから予想でしかない。

 目があってもっと気を悪くすると思い、申し訳ないからフードを目深にかぶって顔を隠している。

 傭兵団や自分を利用しようとする人たちと一緒にいた時のように。


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