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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
221/240

共和国探訪 side S 1-21→side C 1-1

 ラウェストで起きた一連の事件は市長をはじめとする著名人や地位ある者の逮捕で終幕を迎える。

 市長は歌手のムーリエと共謀して街で見つかった太古の技術やエネルギー資源である通称カヴレスを国に報告せずに何処かに横流ししていた。

 カヴレスのお陰でシレゴー共和国は他国にはないテクノロジーと莫大なエネルギー資源を利用した兵器を持つことができている。実質的な軍政である共和国はこの兵器を王国や帝国に対して使用し脅威を与えていることは間違いない。

 博物館の館長も同じことをしていた。彼は展示していたカヴレスや美術品、歴史的に価値があるものをどこかへ売り払いレプリカを展示していた。

 これに関してムーリエは知らなかったようで、彼女は彼女で展示品を盗まれた体で売り払うつもりだったらしい。そして館長は偽物と知りながらその話に乗った。

 博物館の経営は苦しく、街の補助金だけでは破綻寸前だった。それは館長の杜撰な管理と大した企画もしないで客足が遠のいたことに原因があるから自ら招いた破滅ともいえる。


 博物館と、ホテル・オハラで起きた殺人事件はムーリエが雇っていた手品師とダンサーの二人の犯行で間違いないと治安局が断定した。

 これに関して証拠らしい証拠はない。しかも逮捕した二人は心神喪失状態でまともに話せる状態ではないから動機や死体を移動させた手段も不明のままである。

「彼らは不思議な力を使っていたのでしょう? 別大陸の超能力……といえばまだ分かりやすいですか。とにかく、そういう不可思議な力で犯した罪、それで構いません」

 ラウェストを訪れていた国軍少佐のグーデリアンの一言で片がついてしまう。

「軍の一言で決まるなんてな。俺たちや法は必要か?」

 バドたち治安官は愚痴を口にするが、どんな形であれ権力を振りかざす悪者を捕まえて懲らしめるのは気分が良い。コーヒーで乾杯もしたくなるだろう。

 明け方になって走り屋メンバーに付き添われて出頭してきたのはムーリエの取り巻きたちだった。詳しい計画内容は把握していないが、全員が何かしらに関わりがあるからだというが、国軍に追われるよりも素直に罪を認めて刑務所暮らしした方がマシだと考えたのだろう。

 心を壊して見る影もなくなった手品師の男を連れてきたのも彼らにとっては点数稼ぎに過ぎない。治安局にいる子供二人を襲いに行って、戻ってきたあとは別人のようになってしまっていた。取り押さえるのに小一時間かかったが、彼の実力を知る者にとっては取り押さえられたことが奇跡だったし幸運だった。


「これまた……、信じられないものばかりを見ている気がする」

「気がする、じゃなくて見ているんですよ」

 ソルフィリアの案内でバドと数人の部下が向かった先はスラムから離れた何もない荒地が続く場所だった。そこには氷漬けになった車が放置されていて、中にはムーリエがハンドルに突っ伏したまま動かないでいた。

「死んでいるのか……?」

 氷の壁を叩くと簡単に割れて足元に氷塊が散らばる。

「全体を凍らせたのは一瞬で囲いだけにしましたから死んでいないと思います。ただ、少し寒かったと思いますが」

 彼女の体は冷たかったが肩をゆすると反応はあったので病院へ直行した。

 それよりも前に氷漬けにされているとの報告を受けたグーデリアンは死なせないよう先に病院で治療を受けさせよと命じていた。ムーリエを連れて病院に着くと当然のように国軍兵士が待機しており、治療後は国軍で身柄を預かると言ってバドたちは返されてしまう。

「気の毒に……、歌手のムーリエを見ることはもうないだろうな」

 治安局から国軍へ容疑者を明け渡しても、その逆はない。市長や博物館館長もいずれは国軍が身柄の引き渡しを要求してくるだろう。

 悪党を捕まえて喜んでいたものの、彼らのその先に同情を禁じ得ない。

 被害にあった人たちのことを考えればその気持ちを誰かに聞かせる事は一生ないだろう。


 稲妻のような一日から一夜明けてアーラは目を覚ますとベッドから飛び起きる。

「え、もう朝⁉︎ 朝食の支度をしないと! ……て、シド?」

 アーラの目の前には本を読むシドの姿が映る。

「おはよう、アーラ。よく眠れたかい? 昨日は大変だったからもう少し寝ててもいいよ」

 寝ぼけていた頭が冴えてくると昨夜のことを思い出す。

 治安局での騒ぎの後、泊めてもらうはずだった部屋は壊されていたし留まる理由もないことから、シドとアーラはホテルへ送り届けてもらった。

「怖い目にも不安な思いもあっただろうから疲れていたんだろう」

「そっか、戻ってきて安心したのかな、私すぐに寝ちゃったみたいだね。そういえばフィリアさんは?」

 本を閉じてお茶を淹れたシドは用意したカップの片方をアーラに手渡しベッドに腰掛ける。

「戻ってきていないみたいだ。スラムがある街区であのムーリエをフィリアさんが捕まえたらしくて、彼女が逃走する際に車で暴走して人や建物に被害があったそうだ。今頃、怪我人の治療をしているんじゃないかな」

「大変なことが起きていたのね。ねえ、私たちも手伝いに行こう」

「アーラならそう言うと思ってバドさんに場所は聞いておいた。支度ができたら行こう」

 シドとアーラがスラムの教会前に着くとちょうどソルフィリアがいた。

「シドくん、アーラさん。問題は解決したようですね」

 3人は一日ぶりの再会を喜び、各々で起きたことを報告しあった。

「私たちはホテルでの一件で絡まれただけなのでしょうけど、偶然が重なって一連の事件を明るみにしたというわけですか」

 全くもって迷惑でしかないといったため息を漏らすとポポンとガウルが少し離れたところで待っているのが見えた。手を振ってこちらへ来るよう促す。

「紹介しますね、こちらはポポンさんとガウルさんです。お二人は獣国アフティアからの使者で行方不明になっている人たちの捜索と外交目的で訪れたそうです」

「は、初めまして! ポポンはポポンなのです。そしてこちらは従者のガウルというのです」

 頭を下げて挨拶するポポンとは対照的にガウルはシドとアーラを鋭い眼差しで見つめる。その奥に潜むものを見ようとするかのように。

「このバカト……、ゴホン、無礼なのです!」

 ポポンはガウルの服の裾を引っ張りなんとか頭を下げさせようとする。ソルフィリアは彼が横柄で子供じみたところがあると知っていたから時間の無駄だと思って自分の仲間を紹介する。

「私の仲間でシドとアーラです」

 紹介されて挨拶を交わしているとサタンとルシファーも姿を見せる。突然の登場にガウルはポポンの前に立ち臨戦体制をとるが、シドが両者の間に立ち敵意がない事を示す。

「なんのつもりだい、サタン。それにルシファーまで」

「疑っておられるようでしたので。私の姿を見ればご納得いただけるかと」

 先に答えたのはルシファーだった。彼女の言うとおり市長との面会時や逮捕のきっかけとなる資料は彼女のおかげだから改めて挨拶しておくのは良いことだ。問題はサタンの方だ。友好的な場が一転して敵意むき出しのガウルとサタンをみると、相性の悪さは火を見るより明らかだ。

「化け狐……いや、狐化け? 何者だ?」

「テメェこそ何者だ?」

 睨み合う両者が別の殺気に当てられ同時に同じ方向を見る。

「二人とも良い加減にしてください」

 睨むソルフィリアに気圧されて一歩引くと、その勢いでシドとポポンに腕を掴まれて引き離される。

「ガウル! フィリアさんはほとんど寝ずに怪我人の治療をしてくれていたのです。これ以上困らせたらあなたも氷漬けにされるのです!」

 シドとアーラから見ても相当疲れているのが分かっていたから早く休ませてあげたかった。

「フィリアさん、後は俺たちが引き継ぎますから休んでいてください。あと、今回のトラブルのせいで本来の目的が果たせていないので、あと2、3日滞在しても良いですか? リンさんも構わないと言ってくれています」

 気を取り直したソルフィリアが笑顔で頷く。

「実は私からもお願いするつもりでした。市長が逮捕されポポンさんの目的を一つ潰してしまったので行方不明者探しを手伝いたいのです」

「フィリアさん……」

 そんな事を考えていたのかとポポンは驚く。声をかける間もなくソルフィリアは続ける。

「今なら中央庁舎で手掛かりが見つかるはずです。その後、お二人に同行して行方不明者を探しに行ってもいいでしょうか?」

 流石にそこまでは申し訳ないと断ろうとするが、ソルフィリアとシドの会話は台本があるかのように割って入ることができない。

「構いません。どうせ次の目的地を決める必要もありますから。アーラも構わないかい?」

「うん、私も良いよ。よろしくお願いします、ポポンさん。……えっと、……ガウル、さん……」

 アーラから男性に挨拶する姿を見てソルフィリアは驚いたがすぐに嬉しさが込み上げてくる。これは彼女にとって必ずしも必要な前進ではないが、変わろうとする姿に成長を感じて嬉しくなった。

「あのう……、本当によろしい、なのですか?」

 ガウルも予想外の提案に戸惑い大人しくなっている。ポポンにとっても初めて手掛かりが掴めそうだが、見ず知らずの獣人にそこまでする理由はないのではと思う。

「そうですね……、協力関係にある、そう思っていただければ。私たちの目的にもつながる予感がするのでお互いに利益はあるかと」

 本当は利害の一致だけではないはずなのに気を遣わせないためなのだろうとポポンは思う。

「わかりました。よろしくお願いするのです」

 ポポンとソルフィリアは手を取り合った。


 ―――――――――


「くしゅん!」

「ん? シエル、風邪でもひいたか?」

「ううん、わたし風邪ひかないもん」

 黙々と森の中を進んでいるとテコとシエルが久しぶりに口を開いた。

「おお、俺も風邪ひいた事ないわ。やっぱ強者はそういうもんなんやな」

 得意げなヘルマの横でアルドーレは呆れ顔で呟く。

「何とかは風邪ひかないの証明と反証が同時に出るなんてな」

「風邪ひいた事ないからって、病気にならないわけではないでしょう? ここには何があるか分からないのだから気をつけなさい」

 セレナも口で言う以上に心配している。

「うん、ありがとう。でも本当に大丈夫。誰かが噂しているのかも」

「何よ、それ? 噂されたらくしゃみが出るなんて変なの」

 妙な迷信を信じていることが可愛いと思いつい笑ってしまう。

「それ、何処かで聞いた覚えがある」

「え、そうなんだ!」

 ノアが話題に入るとセレナは離れてしまう。

 ルゥが殺されたことを傭兵団に与していたノアにも責任があると思い許せずにいた。例えそれが、強制的に力を行使させられていたとしても。

 まとまりの無いチグハグなメンバーで構成されたチームはかつての仲間であるロージアの不死に関する謎を追う最も重要な任務を背負っている。


【サクリファイス・リバイブ】


 この呪いともいえる力を植え付けられたロージアを救うためだが、テコは少し不安に思っていた。

——ヘルマとアルとは初めてのチーム。セレナとノアは相変わらずだし。シエルは何とかなるって言うけど、俺はシエルの天の声だから全員の面倒は見られないぞ……

 チームは森を抜けて高台に立つと寂れた町が見えた。

「あそこが……」

「ああ、ロジが最後に訪れたかも知れん町や」

 先に進もうとする二人をシエルが呼び止める。

「あのう、街へ入る前に良いですか?」

 彼らにはまだ逸る気持ちがないから素直に応じてくれる。それとは別に後輩思いの一面は騎士団でもよく見ていた。

「二手に分かれて行動しませんか?」

 全員が顔を見合わせるが、シエルの事だから何か考えがあるのだろうと提案に乗る事となった。


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