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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
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共和国探訪 side S 1-18

 現れた魔物は様々な種類がいる。猿、カマキリ、鷲、猪――、中には大きな角や牙を生やした獰猛な獣や形容し難い異形の魔物までいる。

「何だ、この化け物たちは⁉︎」

 部下を引き連れてシドたちの近くまで駆けつけたバドが声を上擦らせながら叫ぶ。

「魔物を閉じ込めておいて戦闘時に放逐する魔道具です。バドさんたちは下がって!」

 相手が魔物だろうと下がれと言われて下がるわけにもいかない。ましてや事件の犯人を包囲した状態で下がれば取り逃す事になるだろう。

「いや……、君たちこそ下がっていなさい! 全員、構え!」

 治安官たちは腰からL字型の武器らしきものを取り出すと両手で構えて魔物たちに向ける。

 大きさや形は違うがシドにはそれが噂に聞く――セレナも使用する銃という武器なのだと直感的に理解する。

 バドを始めとする治安官たちは一斉に魔物に向けて発砲する。

「ど、どうだ……、やったか?」

 魔物たちは一瞬怯んで見せたものの無傷であり、発砲した治安官たちを目で追い狙いを定めている。

「まずい! 早く逃げて!」

 シドの声と同時に魔物は周囲を囲む治安官たちに飛びかかって来る。勿論シドたちにもその牙や爪は向けられていて距離を詰めてくる。

「ふん……」

 突然動きを止めた魔物たちはその場でバラバラになって崩れ落ちる。

「動くな」

「サタン、言葉が遅いです」

 剣の血を振り払うサタンをルシファーは咎めるが彼女の方も何も言わずに魔物を消し去っていた。

「な、何をした? あの数を一瞬でだと⁉︎」

 手品師も予想外だったようで驚愕して頭を抱える。

 治安官たちは安堵して胸を撫で下ろすが、手品師のそれは振りだけだった。

「なんてな」

 両手を上げると大量のボールが宙を舞う。ボールの内側から光が漏れ出し破裂する。するとまた先程と同じ魔物が現れ空中からそのまま近くにいる人に目掛けて襲いかかっていく。

 暗闇から目だけをぎらつかせた魔物は、瞬く間にその光を失う。

 またしても何も言わずにサタンとルシファーが全滅させていたのだった。

「鬱陶しい」

 サタンがもう一度何もないところで剣を振るっている。照明で照らされているとはいえ辺りは薄暗くはっきりと見えない。

 それでも何かいる気配はシドにも感じとれる。正確にはサタンの行動によって感じ取れるようになった。

「そこに何がいるんだ?」

 一瞬の静寂から男の叫び声が聞こえる。

「ぎゃあああっ! お、俺の……、手……、足がぁ……⁈」

 姿を見せたのはダンサーの男だった。両手足がなくなっているのに血は一滴も流れていない。

 地面に仰向けになり、それでも転がりながらサタンから距離を取ろうとする。

「お、俺に……、何をした、んだ……」

「動きが煩いから斬った。アーラに血を見せるなと、こいつに言われているから傷口を焼いて塞いだ」

 事もな気に言い放つサタンにダンサーの男は戦意を喪失する。

「化け物…………、勝てる訳が……」

 最早、目が合う事もかなわない悪魔の姿に怯え、気を失う。


 包囲の中心にいる手品師の男は打つ手が無くなったらしく、手にかいた汗を服の裾で拭っている。

「無駄な抵抗はやめて投降するんだ」

 今まで薄笑いを浮かべて余裕を見せてきた手品師はシドの警告が気に入らなかったのか初めて顔を歪ませ不快感をあらわす。

「投降? これで終わりだと……、思うなよ!」

 裾から出てきた球体を地面に投げつける。凄まじい音が耳を突き抜け、激しい閃光が周囲を覆って視界を塞ぐ。

 治安官たちは目も耳もやられて大声で叫んでいる。

「小癪な真似を!」

 バドは咄嗟に目を瞑り両腕でガードしていて目は守られた。しかし爆音による耳鳴りまでは防げず周囲の叫び声は聞こえないし、自分が発声できているかも怪しいと感じる。

 辛うじて守った視力でシドたちの無事は確認できた。

 シドもアーラも目はやられていないようだった。何かを話しているのは口の動きで分かるが、自分と同じで耳は無事ではないかもしれない。

 同僚たちは軒並み目も耳もやられて戦力にはならない。混乱の中で手品師の姿は忽然と消えていた。

「くそっ! まんまと逃げられるとは。俺一人でも追いかけて……」

 逃げた背中が見えないか辺りを見渡していると目の端に何かを見た気がする。それは真っ暗な空で、もう一度見上げて目を凝らしてみる。

 星の光ではない、暗い空にうっすらとした影が近づいてくるのが見えた。

「危ない!」

 それは鳥型の魔獣で、鋭い嘴と爪を立て獲物を仕留めにきている。その軌道は真っ直ぐにアーラに向かっていて、バドは自分が盾になるようアーラに覆い被さる。

 少しでも痛みに耐えられるように身を硬くしているが全く痛みを感じない。あまりの激痛に痛みを感じるまもなく即死したのかと思ったが、徐々に同僚たちの悶える声が聞こえてきて生きていると分かる。

「怪物は……?」

 振り返るとシドが逆手に持った短剣を魔物に突きたてて仕留めていた。

「シド……くん? 君が、倒したのか? ははは、俺が居なくても大丈夫だったようだな。しかし、いつの間に武器を……」

「えっと……、万が一の為の護身用です。彼に借りています」

 サタンに目配せすると無言で頷く。

「それよりも、そろそろアーラを放してやってくれませんか?」

「ああっ! す、すまん!」

 バドは慌てて背後に下がりアーラから離れる。アーラは困惑しながらも助けてくれたバドに礼を言う。

「あ、……庇ってくれて、ありがとう……、ござい、ます」

 普段のアーラなら男性に抱きつかれたりすれば、たちまちパニックに陥り、ひどい時であれば過呼吸で落ち着くのに相当な時間がかかる。

 アーラがこうなってしまったのはシドが弟妹を見つけだして難民街の教会で住む前のトラウマが原因だった。

 助けるためとはいえ男性に覆い被されるなどアーラにとってはショックが大きいはずなのに、アーラのこの反応はシドにとっては意外だった。


「そ、そうだ! 奴を取り逃がしてしまった! まだ遠くには行っていないはず、手分けして探し出そう」

 バドが同僚たちにも呼びかける。

「その必要はありません」

 捜索に向けて動き出そうとする治安官たちを制止したのはルシファーだった。

「精神干渉の魔術を施しました。泳がせておけば雇い主を連れてくるでしょう。私たちの役目はここまでです。後は……フィリア嬢が何とかしてくれますから」

「フィリアさんが? ルシファー、君は一体どんな罠を仕掛けたんだ?」

 アーラを抱き寄せて落ち着かせながらシドはルシファーに尋ねる。単独で行動していたことはアーラから聞いていたから益々その行動に興味を惹かれる。

「そうですね、得た情報を手がかりに悪巧みを暴いただけです」

 その過程と詳細を聞きたいのだと言いたかったが、ひとまずこの場の危機は去った事に安堵することにした。

「今はアーラを休ませてあげる方が先決、という事にしてあげるよ。二人ともお疲れ。テコさんの腹心だけはあるよ、……君たちはあの人によく似ている」

「お褒めに預かり光栄です」

 この日、初めてルシファーは笑った。


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