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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
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共和国探訪 side S 1-16

 治安局へ着くとシドたちは裏口の職員用の出入口から応接室へ通される。来客用の部屋である事は見て取れるから容疑者扱いではないことに安心する。

 しばらく二人だけで待っているとバドが飲み物を持って現れる。

「すまないな、保護した人用の部屋があって今用意させている」

「ありがとうございます。ところでバドさんは市長とムーリエさんがあのホテルに何をしに来たのか知っていますか?」

 バドはソファーに腰掛けると力が抜けたように沈んでいく。手にしていたカップの中身は揺れていたが一滴も溢すことなく水平になると、今度はバドに吸い込まれていく。

「ふう……、アイツらが何をしに来たかなんて見当もつかないな。宿泊しに来たわけではない事は間違いないだろう。あの市長は本当に何を考えているのか読めないからな」

 再びカップに口をつける。

「市長はホテルを取り壊して劇場建設を目論んでいたようです」

 バドは口に含んでいた飲み物を噴き出す。咄嗟に真横を向いてシドたちに被害はなかったが驚いたアーラがシドにしがみついていた。

「なっ……⁉︎ ば、バカを言うな……なんの冗談だ」

「冗談ではありません。あのホテル、街に点在する建物と同じで建築様式が違う。年代が違うというよりも、別の文化の建物をあえて建てたような異質感がある。建て替えの行程で残っただけかもしれないけど、何か秘密がありそうな気がする。市長が取り壊しを考えているのもそこに何かがあるからじゃないですか?」

 汚してしまったところを拭きながらバドは少し考え込む。もう一度ソファーに腰を下ろすと上目で天井を見つめながら、いつもの快活な声は鳴りを潜めて迷いのある声で話しはじめる。

「子供の頃……、何で街にはウチのホテルと同じような家があるのかと聞いたことがある。あれは……宇宙人が住んでいた家でウチの家系は宇宙人だと聞かされて本気で信じていた」

 顔を赤くさせながら話すバドをみてアーラは微笑んでいる。当然、馬鹿にしているのではなくかわいいと思っているだけだ。そこそこの年齢の男性に向かって失礼かと思い口には出さないが、表情が全てを物語る。

「片手ぐらいの歳の頃の話だぞ! まだらな髪色のやつらがいるだろう? あれは宇宙人の子孫だと嘘を教えられていたんだ。実際にあれは遺伝らしいからな」

 二人は街に来た時にみたカラフルな髪色の人を思い出す。

「髪を好きな色に染めているのでは?」

「ああ、今じゃファッションでそういう事する奴もいる。髪を染める技術は周りと同じ髪色に……つまり落ち着いた色にするためのものなんだ。特に教会関係者に多色髪の人が多いから真っ黒にしないと完全に染められないそうだ」

「その多色髪の人たちがウチュウ人……なのですか?」

 シドは宇宙人が人種かなにかと思って真面目な顔で聞き返す。勿論笑っていたアーラも同じだ。

「宇宙人っていうのは空高く、夜見える星から遥々やってきた人間だよ。いやまあ……、お伽噺だから本気にしないでくれ。不思議な力を持っているうえに見た事もないような不思議な道具を使う怖い存在で、いうことを聞かない子供を連れ去るから良い子にしてろ、っていう親が子供を躾けるための作り話さ」

 自分の恥ずかしい話から逸れて安心したのかソファーに勢いよくもたれかかる。


「とはいえ、あの建物がいつ作られたのかは謎が多いらしくてホテルも軍が調査にやってきた事があった。その時、確か……」

 身体を起こして額を指でトントン叩き始める。何かを思い出そうとしているようだ。シドたちがその仕草をしばらく見ていると指の動きが止まる。

「カ……カヴ……、そうだ! 確か『カヴレスは見つからなかった』と言っていた!」

「カヴレス?」

「この国にある古い建造物や出土した遺物には未知の力や技術が眠っているらしくてな、その総称として使われているんだ。俺が渡した名刺で治安局の位置がわかるのもカヴレスから得た技術のおかげなんだ」

 文化レベルに似合わない超技術は誰かが残した遺産を利用しているという事らしい。

「なるほど、俺たちの居場所を把握できていたのもこの名刺のおかげですね?」

 シドが名刺を見せるとバドは気まずそうに笑って目を逸らす。次の瞬間には両手を膝に置いて頭を下げていた。

「すまん! 疑っていたわけではないんだ。物騒な地域もあるから事件に巻き込まれる前に止めに行くつもりだったんだ」

「わかっています。俺たちの事を心配してくれていたからですよね。お陰で博物館で長く拘留されずに済みましたから」

 追跡されていた事はアーラも気にしていないようで笑っている。

「バドさんたちって駆けつけるのが早いなあとは思っていたけど、そういう事だったのね」

「うん、館長は通報していないようだったし、俺が指摘した後からだと到着は少し早過ぎる気がしていたんだ」

 二人が気を悪くしていない事よりも大人の対応にバドは頭が下がる。同時に想像もつかない苦労をしてきたからなのだろうと思うと鼻の奥がつんとする。

「話を戻しますが、以前の調査でホテルにはカヴレスは無かった。だが市長とあの人はホテルそのものがカヴレスだと言っていたようです。誰かに先を越されないようにか、今は焦っている」

「ああ、本来は国のものになるからな。その方が有効活用しやすい。だが、エネルギー資源の場合は別だ。回収して分配するよりもその街で使う方が効率も良いし、国が買い取ってくれれば莫大な資金にも変わる。資源系のカヴレスは鉱石が多いらしいが……まさか、建材に?」

 シドは首を振るが否定ではなく不明の意味である。

「俺はアノ人の狂言の可能性もあると思っています。だから罠を張ってみました。上手くかかれば殺人犯まで釣れるかも」

 罠の内容をバドに聞かせるために顔を近づけて小声で話す。

 アーラはその輪に入る事はないが把握している。別行動中のルシファーが伝えたからだった。

 そもそもこの罠はルシファーが考えアーラとサタンに伝えていた。シドはサタンから聞いていてバドに伝えるタイミングを見計らっていたのだった。

「そんなこと信じられん……。そうだとしても危険じゃないか」

「心配はいりません。信じてもらえないかもしれませんが、この街を滅ぼせるぐらい俺の仲間たちは強いので」

 シドはコインを一枚懐から取り出すと指で弾いて天井付近まで上げる。宙を舞うコインはバドの目の高さまで落ちてくると綺麗に4つに分裂する。

 3片はテーブルに転がり残りの1片だけが空中に留まり浮いている。見えない何かの上に乗っているコインの欠片にバドが手を伸ばそうとすると、ゆっくりと斜めに滑り落ちて手の中に収まる。

「⁈……」

 空いた口が塞がらない、を体現するバドは手にするコインとシドを交互に見る。

「信じられない力を信じてくれというのは難しいので、俺たちを信じて任せてもらえませんか?」

 シドの真剣な眼を見つめて、バドは大きく頷く。

「わかったよ。でも、危険な事には変わりない。無茶はせんでくれ、いいな」

 シドとアーラも大きく頷く。


 一方、建設会社を訪れた市長とムーリエは血相を変えて責任者を呼びつけていた。

「どういう事だ⁉︎ ホテルの取り壊し中止など命じた覚えはないぞ‼︎」

 普段から無表情の市長が顔を真っ赤にして怒鳴り声をあげる光景が珍しいのか、他の従業員も遠巻きに眺めている。

「そうは言われましても、そちらの担当者さんが中止を伝えに来られたのではありませんか。発見されたのは建物ではなく遺物だったと。なんでも珍しい高圧縮された資源カヴレスだとかで、見つけた少年が届け出たらしいですね。今は治安局で少年ごと保護して明日の朝には軍に引き渡すと」

 驚きのあまり市長とムーリエは目も口も開いたまましばらく動けないでいた。

「なんて事なの……本当にカヴレスがあったなんて。しかもあの子供が⁈ 忌々しいガキが……」

 悔しさのあまり爪を噛み始めたムーリエに手品師の男が耳打ちする。

「このままでは軍の物になってしまう。また、あの狂科学者サイレントオークをのぼせ上がらせる事に……。それだけは絶対に‼︎」

 怒り心頭の市長をムーリエが無理やり連れ出す。

「市長、良いことを思いついたわ。これで全て丸く収まるわよ」

 ほくそ笑みながら企みを話すと市長も不敵な笑みをみせる。

「良いだろう、やれ。上手くいけば報酬も弾んでやろう。その方が士気も上がるというものだろう、傭兵」

 市長とムーリエたちは上機嫌で帰っていく。まるで全てが成功したかのように意気揚々と。

 それを陰から見ている者がいる事も知らずに。


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