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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
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共和国探訪 side S 1-13

 ソルフィリアはやや緊張気味のポポンを文字通り背中を押してあげる。

 目が合って微笑み返すと、そんなに緊張しなくても大丈夫だという思いが伝わったようで、ポポンは平常心を取り戻していた。

「初めまして、獣国アフティアから参りました……狐狸家当主代行のポポンなのです。今日は市長閣下にお願いがあって来たのです」

「ほう、遠路はるばる。で、要件とは?」

 市長は仮面でもつけているかのように表情は変わらない。

 突然の訪問に警戒しているのかもしれないが不満や焦りは見られない。

「お願いは二つ……。一つは、犯罪によって捕まり収監された獣人が何処へ行ったのかをお教えくださいなのです。捕まったあと行方不明の獣人がたくさんいるのです。噂では……獣人だけ別の場所へ連れて行かれると聞いたのです。捕まえた獣人たちをどこへ連れて行ったのですか?」

 ポポンは獣国の中でも名家の出身なのかもしれない、そう思うよりも先にあまりにも直球すぎる質問にソルフィリアは内心焦った。これでは疑いの目を向けていることが明白でお願いどころではない。

 だが市長の表情は全く変わることがなく眉ひとつ動かさない。

——まったく感情を表に出さないなんて

 得体の知れない不気味さが恐怖心を掻き立てる。

「それの件に触れますか……」

 まずい状況になったかもしれない、そう思った矢先に表情が一変して笑顔になる。

「いや〜、ご心配をおかけしてしまい申し訳ないですな。実は彼らのことは我々も思うところがありまして特別に職業訓練の場を設けたのです。そこで罪を償うと同時に更生した後も真っ当に働いて生きていけるような取り組みを始めたのです」

「職業訓練……、更生……?」

 困惑しているのはポポンだけではない。ガウルとソルフィリアも顔を見合わせる。

「奴隷として働かされていた彼らを解放したのは良いが、一般市民としてどう暮らしていけば分からない。だから彼らは犯罪に手を染めてしまった。これまでの憎しみを我々にぶつけて憂さを晴らそうとする者も。だから私は考えた……、生きる術を、働いて生きていくことで自分自身の価値を再認識できるように教育してあげれば、きっと皆が幸せになる! だから彼らだけ別の場所に収監しているのです」

 突然始まった市長の演説にポポンは疑問すら口に出させてくれない。

 一方的で独善的、そして理想のような話はまだ続く。

「なぜ犯罪者だけなのかと聞きたいのでしょう? すでに多くの獣人が仕事を見つけて普通の生活を手に入れたからです。そんな彼らに強制することはできません。だから困り果てた末に犯罪に手を出した者にだけ機会を与えることにしたのです」

 では先に手を打って置かなかったのかという疑問が浮かぶがそれも演説に組み込まれていた。

「これは獣人だけのプログラムですから公にしてしまうと他の人々も同じようにするよう求められるでしょう。しかし悲しいかなそこまでの予算は我々にはありません。それだけではなく、これは獣人たちに対する我々からの贖罪でもあるのです。だから不公平と言われようとも、獣人のみを対象に非公式にやっていることなのです」

 ようやく話に区切りができたのをポポンは逃さず疑問を口にする。

「お、お話はよく分かりました。ですが、行方不明になる理由は……」

「施設を出た後まで面倒みるわけには行きませんから分からないが答えです。彼らは彼らで思うこともあってどこかで暮らしていることでしょう。一時、魔が差したとはいえ犯罪者の烙印を押されてしまったのですから、故郷に顔向けできなくなったのではないですかね?」

 突然他人事のように無表情で冷たく言い切る。

 感情の起伏というよりも突然スイッチが切り替わっているようにも思える。

 話の内容以上に彼の不気味さにポポンは思考が停止しそうになっている。

「一つ目に関しては理由は説明した通りですが、その後の行方までは私たちにも分かりかねます。で、2つ目は? こう見えて忙しい身でね」

「あ、はい……、ふ、二つ目のお願いというのは、ええっと……。そう、獣国としても同胞たちに何かできるのではないかと考えまして、ここラウェストに獣国の大使館を設立できないかと……」

「ほう、大使館ですか」

「はい、あまり大袈裟なものではなく同胞たちの相談窓口のようになればと思うのです。そうすれば犯罪も減ってご迷惑をおかけすることも減ると思うのです。それに外交の場として活用してもらえるなら関係改善にも繋がると思うのです」

 市長は顎に手を当てて目を閉じて考え込んでしまう。しばしの沈黙のあとまた張り付いたような笑顔を見せる。

「それはとても良い考えです! 両国の友好の場にもなりそうですね。場所は……、空き地がありませんからどこかのビルの空室を……、そう! この中央庁舎の空室を使ってはどうでしょうか。こちらとしては前向きに検討させてもらいますよ」

 思った以上に色の良い返事にポポンにも笑みが溢れる。

「ではこの件は改めてお話ししましょう。私は次の約束がありますので……」

 市長は立ち上がって見送る姿勢を見せる。

 大使館については難色を示されるかもしれないと思っていたが予想外にうまく行ってしまい、もう一つの目的が果たせなくなる危機に瀕する。

「おい、どうすんだよ。全く足止めになってねーぞ」

 ガウルがソルフィリアに耳打ちする。焦りが伝わるまでもなくソルフィリアも焦っていた。

「あ、あの……次にお話しできるのはいつなのでしょう? ポポンたちもあまり長く滞在するわけにはいかず、その……」

 ポポンも何とか引き留めて時間を稼ごうとしてくれている。

「ふむ、そうですね……私も予定がありますので。しかしこんなチャンス……、いや良い話は早めに実現させないと。では明日の午後はどうでしょうか?」

「大丈夫です!」

 即答してしまいガウルのため息にポポンが我に返るとドアをノックする音が聞こえ女性の声が聞こえる。

「市長、そろそろお時間です」

——この声は

「分かった、今行く。それでは皆さん、失礼する」

 ドアが開いて三人が出ていくのを市長は待っている。ソルフィリアが察して先に出るとポポンとガウルもあとに続いて部屋を出た。

 案の定、ドアを開けたのはルシファーだった。無言で作戦の成功を告げると中央庁舎から離れるよう促し、三人もそれに従う。


「一時はどうなることかと……」

 ポポンが涙目で胸を撫で下ろしていた。

「全くだ。しっかりしてくれよ、“当主代行“様!」

「うう……、面目ないのです」

 今度は本当に泣きそうになり、それを見ていたソルフィリアがガウルを睨みつける。

「な、何だよ……本当のことだろうが」

 ソルフィリアからの無言の抗議に耳と尻尾は垂れ下がり顔を背けてしまう。

「ルシファーさんの方は首尾よく行きましたか?」

「ええ、勿論。お陰で期待以上の成果でした」

「いったい何を探していたのですか?」

 ルシファーは手にしていた書類をソルフィリアに見せる。詳しい内容は理解できなかったが、これが鍵になることだけはわかる。

「この書類、持ち出して来たのですか?」

「いいえ、複製魔術です。原本は持ち出すことも処分できないようにも細工しましたが」

 流石だと感心すると同時に彼女に任せておけばシドたちが抱えるトラブルは解決できる確信が持てた。

「では、あとはお願いします。ところで、ポポンさんはアフティアの名家のご出身なのですか?」

 改めて出自を聞く必要はないと思っていたが、独断で動いていることやこれからゼピュロスとアフティアとの関係性を考えれば知っておいた方が良い気がしたからだ。

「お若いのに当主代行を務められているのですね」

「若い……、こいつがか? ははっ! こいつは傑作だ」

 ガウルが笑い出すとポポンは恥ずかしそうに顔を真っ赤にして反論する。

「狐狸族の中では若い方なのです!」

 何を言っているのか分からずルシファーに意見を求めようとしたがすでに姿どころか気配すらも消えていた。仕方なく当人に聞いてみる。

「すみません、年齢の話題をするつもりではなかったのですが」

 あまり力が込められていない拳でガウルをポカポカ叩いていて聞いていなさそうだったから代わりにガウルが答える。

「気にすんな。こいつはこう見えても200歳を超えるババアだからな」

「え、200……?」

 流石のソルフィリアも唖然とする。ポポンは顔を手で隠して指の間からのぞいている。

「うう……、獣人の中でも狐狸こり家は特別長寿なのです。他の長命種族……、亀鶴きかく家、妖樹ようじゅ家と力を合わせてアフティアの王を支えてきたのです。王は強い者がなるのが慣例なのですが、三家は代々王を支え国を護る役割を担ってきたのです」

 どうやら実質的に政権を握る家柄らしい。

「そこまで身分の高い方とは知らず、申し訳ありません」

「いえ、ポポンはそういうのではないのですから! その……、今まで通りで接して欲しいのです」

 知り合ったばかりだが身分を笠に着るような人物ではないことはわかる。

「精神年齢はお子ちゃまだから、今までどおりで良いぜ」

「20年ちょっとのお子様に言われたくないのです!」 

 なぜかガウルが答えることにソルフィリアは違和感がなく、二人の掛け合いが微笑ましくも覚えてしまう。

 何となくだが年齢を超えた絆が二人にはあるようだと。

「取り敢えず場所を変えてお話しませんか?」

「あんたの仲間の方は良いのか?」

 ガウルもポポンも気にかけてくれていたことが少し嬉しく思う。

「ええ、私の仲間はそんなに軟じゃありませんから」


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