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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
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共和国探訪 side S 1-8

 大喜びする一同に説明を求めるがまともな返事はない。

 もう一度水流を浴びせて頭を冷やしてもらおうかと杖を握るとポポンに手を取られる。止められたのかと思ったが違ったようで彼女は手を握ったまま嬉しそうに飛び跳ねている。

「まさかこんな所でお会いできるとは思ってもみなかったのです。ゼピュロス騎士団エルーゾン隊の方々が大陸北部に住んでいた同胞を送り届けてくれたのです。と言っても王国とは国交がないので途中までだったそうですが、大変助かったと皆が感謝を口にしていたのです」

「エヴァンたちが……。そうですか、彼らは多くの獣人を保護していましたから。同僚として鼻が高いですね」

 エヴァン隊はボレアース騎士団の獣人狩りから逃れてきた人々を保護してゼピュロス領へ移送する任務についていた。

 隊員の一人で魔法士のケルンは転移魔法が使えるため移送役に抜擢された。彼女の転移魔法は長距離移動ができないので繰り返し魔法を発動させる必要がある反面、一度に大勢の人や物を転移できる。

 彼らが獣国まで贈り届けていたという話は初めて聞く。

「そのような縁もあったのだという事は分かりましたが、それでもこの喜びようは……」

「実は国を出る前に有名な占い師にみてもらったのです。お婆婆さま曰く——」


『黒き西風 虹は降り立ち 月の矢落つる』


「——全体の意味はあまりよく分かりませんが、西風はゼピュロスの事で間違いないかと。エルーゾン隊の方々かとも思いましたが、ポポンたちの旅に直接関係あるわけではなかったので。きっと黒髪のフィリアさんとのご縁を指していたのです」

 ソルフィリアは占いの類を信用していないが他人が信じる事に否定的でもない。

「ええ、まあ……、そういう事にしておきましょうか。まずはこの街で教会がどのような活動をしているのか知りたいので案内をお願いできますか?」

 この街のことは住んでいる人に聞いた方が良いだろうと走り屋を自称する彼らに尋ねるが、戸惑いと困惑した顔で返事がない。

 ソルフィリアもいきなり教会へ連れて行けは無茶だったかと思ったのだが、真相は別にあった。

「えっと……、ソルフィリアさんは、どっちの教会に行きたいんですか?」

 今度はソルフィリアの頭に疑問符がつく。

「どっち……というのは? まさか教会が二つ…………、宗派が分かれているのですか?」


 イーリア教は秩序の女神イーリアを主神として崇めている。

 教会の総本山がある神聖国メガリゼアでは当然主神であるイーリアを崇める。

 だがイーリア以外にも神がいる。それが女神アイリスだ。

 アイリスとイーリアは姉妹神として知られ共に秩序を司る神として崇められてきた。だがアイリスはいつしか混沌を齎した悪神として忌み嫌われる存在に成り代わる。

「イーリアが主神でアイリスは物語としては悪神……、一般的にはイーリアを唯一神としていると思うのですが、アイリスを主神とする派閥が……?」

「多分ですが獣国独自の流れで一部のシレゴー人にも伝わったのではないかと思うのです」

 戸惑うソルフィリアにポポンが解説してくれるようだ。

「アイリス様が混沌を齎したというのは少々誤解がありまして、ポポンたちの伝承では災害や飢饉で苦しんでいた獣人族のために混沌を司る神、エタルナ様をお連れいただいたのです」

「エタルナ……、前世のテコさん……」

「エタルナ様は直轄地のオスタリスへの移住をすすめてくださったのですが、一部の者たちは生まれ育った地を離れられずにそれを拒否したのです。エタルナ様の怒りを買うのではないかという恐れ、神の慈悲に対して無礼だという者も現れ仲間割れ寸前でした。ですがアイリス様は――」


『離れたくない気持ちは分かります。この地に留まることは苦難が伴いますが、きっと乗り越えられるでしょう。いつか本当の困難に直面するときは、彼がきっと手を差し伸べてくれます。……ね、エタルナ』

『……狡いぞ、そんな顔をするな。分かった、……でも一度きりだ』


「こうして多くの人は救われて、残った人たちはアイリスさまの加護のもと、何とか苦難を乗り切ったのです。そして……時を経て今、獣国は滅亡に瀕しているのです」

 少し話が大きくなっていないかと首を傾げているとポポンは察したのか詳細を話す。

「獣人の行方不明者はラウェストだけではないのです。各地でも謎の失踪があるとの報告があるのです。それにまた戦争になった場合……獣国は完全敗北を喫するのです。恐ろしい兵器を使う共和国相手にもう幻装は通用しないのです」

 ポポンの言葉にガウルが反対する。

「そんな事はねえ! 手練れが集まればあんなのには――」

「一度にたくさんの人を殺す武器になす術なく降伏したのは事実なのです。何故か国土の3分の1で手打ちになりましたが、あのまま蹂躙されていてもおかしくはないのです」

 冷静な反論にガウルは歯を食いしばっている。分かっているからこそ言い返せずに耐えるほかないのだろう。

「強い力にはそれ相応の熱が必要なのです。丁度その熱が途切れたからとも考えられますが、それ以上に不気味な風を感じたから獣王は停戦に応じたのです。そしてその停戦状態を維持することこそが今できる最善の策なのです」

 国の現状は多くの人には見えづらく、迫る不気味な影が覆い隠しているから認知されないまま侵食されて気付いた時には手遅れ……、そうなりかねないという。危機感を感じている者にとっては『滅亡に瀕している』は比喩でもなんでもないのだ。

「情報が多過ぎて困りました。教会や獣国の内情は一旦置いてポポンさんの目的を優先しましょう。それには街のこと……、市長や消息不明となった獣人たちについての情報が知りたいのですが、どこか良いところはありますか?」

 皆が頭を悩ませているとガウルが車で街を見て回ってはどうかと提案する。

「見た方が早いだろう。幸いこいつらは車を持っているし、土地勘もあるから打ってつけだ」

「ガウル! あなたまた——っ⁈ ふがふが……」

 ガウルはポポンが何か言う前に口を塞いで後ろに隠してしまう。

「こいつの言う事は気にするな。それよりもどうする?」

 しばらく真顔で見つめていたがガウルは変な愛想笑いを浮かべている。

――なんて分かりやすい。折角ですから乗ってあげましょうか

「車というのはマナを動力にした鉄でできた乗り物ですね。興味がありましたのでお言葉に甘えて乗せていただけますか?」

 魚が釣り針にかかった時のようにガウルは喜んでいる。

「よし善は急げだ、お前ら用意しろ!」

「はいっ!」

 ガウルから逃れたポポンはソルフィリアと目が合う。すると彼女は人差し指を口元に当てて笑っていた。

 ポポンも意図を察して声を出さずに笑うことで承知する。


 丘を下って住宅街を抜けると人も車も少なく、ソルフィリアを乗せた車は猛スピードで駆けていく。

「なるほど、これはスピードがあって便利ですが専用道路が必要ですね。建物より高い位置に橋をかけて走らせるか地下も……、色々と検討の余地がありますね」

 ガウルは窓から入る風でふかふかの毛を靡かせて不貞腐れている。

「ちっ、なんだよ……、もっと怖がるかと思ったのに」

「このぐらいの速さなら問題ありません。寧ろ歩いている人を轢いてしまわないかの方が心配ですね」

「アニキ……もうスピード落として良いスか?」

 馬車とは違う独特の浮遊感に驚くかと期待したがソルフィリアは内部構造や操作に興味津々で全く怖がる事はなく後部座席から身を乗り出して運転席を観察している。

 代わりにポポンが恐怖でソルフィリアに抱きついて叫んでいた。

 戯れは程々にしてソルフィリアたちは街を見下ろせる山道を走ったあと街の中心へと向かう。

 市長がいる中央庁舎を目指して一路中心街へと向かう。


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