表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
205/240

共和国探訪 side S 1-5

 リンは仕事が残っているからと部屋をあとにする。

 残された三人はソルフィリアの部屋へ戻り感じたことを話し合うことにした。

「ねえ、シド」

 戻るなりアーラは抱えていた疑問をシドに投げかける。

「シドはどうしてサンシティっていうこの国の街を知っているの? 始めはでまかせかと思ったけどバドさんには通じていたし、リンさんは昔あった街だって言っていたけど……」

「それは私も気になっていました。小さい頃に住んでいた街、でしょうか」

「いや、住んでいた場所は、もう覚えていない。サンシティは知っている名前が咄嗟に出ただけ。他にもいくつかあるけど、もう存在していないかも知れないから気をつけるよ」

 普段から淡々と話すシドは声色や表情から感情や意図を汲むのは難しい。

「うん、わかった。わたしは全然思い出せないから。やっぱりシドは記憶力いいね」

 アーラに褒められると少し照れているように見えるから全く感情が表に出ないわけではない。それがあるから更に分かりづらくしている節はある。


 ソルフィリアが話を本題に戻す。

「サンシティについてはベルブラントのことかと思いましたが共和国内の街であり何らかの事情で消滅した。そして王国だけではなく帝国も紛争に加わり最終的に和平が組まれた。これは私の推測でしかありませんが、和平とは王国内で貴族が告発された三国間での不正な取引を指すのではないかと。つまり街の消滅に王国が係わっているかについては真偽不明ですが、裏で取引するための口実に使われたのではないかと」

「貴族、不正な取引……、シドとトルネオさんが教えてくれた王国が分断した理由のこと?」

「いや、それよりも少し前、エクシム王子が貴族を追放したあれだよ」

 王国では長年にわたって一部の貴族が他国と不正に取引し私腹を肥やしていた。

 その事実を掴んだエクシムが議会で告発し関わっていた多くの貴族を処分した。今となっては後のクーデターの邪魔になるからだったのではと目されている。

「輸出入の税金逃れもそうだけど、武器や資源を横流ししていたらしい。ベルブラントを襲った武器や爆薬が王国から買ったものであれば、処罰されて当然だ」

 シドの補足にアーラはそういう話だったと相槌をうち、最後には『教えてくれてありがとう』と笑顔で礼を言う。二人にとってはいつものことだ。

「ああ、ごめんなさい。わたしったらまた話を逸らしてしまって」

「別に構いませんよ、気になることは聞いてください。その方が大事なことを見落とさずに済みます。この国には私たちが知らない技術や文化があり、歴史や事実も私たちの知っているものとは違っている。このようなズレが積み重なると危険に陥る可能性が高くなりますから」

「俺もそう思う。アーラは俺たちにない視点で見てくれる」

「うん、わかった」

 今回アーラを参加させた理由でもある。


 シドはトルネオの元で交渉など勉強しているし状況判断や臨機応変さは大人が顔負けするほどだ。難民街では一人で弟妹を守ってきたのだから多少の危険も切り抜けられるだろう。

 一方でアーラはただの一般人だ。荒事は勿論だが潜入や調査に役立つスキルも持ち合わせてはいない。

 では何故、彼女が同行を許可されたのか。理由は単純だった。

 普段から気の利いた性格はソルフィリアの負担を軽くする。最も重要なのはシドを抑制することだ。

 騎士団は一般人のシドを作戦に参加させる気は無かったが、一人で勝手に行ってしまう恐れがあるから参加させてくれとトルネオが進言した。珍しくアーラが着いて行きたいと言い出したためアーラを連れて行く条件を提示したら流石のシドも諦めるのではないかと考えたが甘かった。

 二人に憑いた天の声は魔王エタルナの側近であり、戦力は最高レベルとくれば安全面で拒否できなくなる。潜入するなら一般人としての方が都合も良かった。アーラが一緒であればシドも危険に身を投じるような無茶もしないだろうと許可された。


 ソルフィリアはバドにもらった名刺を手にしている。

「では明日の予定ですが私は街を散策して情報を集めます。先ほどのラジオやこのカード、王国にはない技術にも興味があるので他にも何があるのか見てきます」

「俺はこの街の歴史資料を見てきます。アーラもそれでいいか?」

「うん、良いよ。時間もないし手分けして調べよう。でもどうやって調べるの?」

「リンさんに聞いてみようと思う。調べるところが無ければ歴史やサンシティについて詳しい人を探そう。目的を明かしている以上、怪しまれることはない」

 やはりアーラがいる事でシドの行動は慎重になっている。

「では明日に備えて休みましょう」

 ソルフィリアの言葉に応じてルシフェルとサタンが姿を現す。

「夜間は我々が見張りをしますのでご安心を。何やら良からぬ者が屋敷の周りをうろうろとし始めたようですが脅威にはなり得ません」

「万が一の場合は排除しても良いか?」

 サタンはやや好戦的なきらいがあるがシドが冷静な判断をすることに一役買っている。

「できれば捕らえて情報を聞き出したい。できる、サタン?」

「それは冗談か? 容易い」

「それじゃあ頼んだよ。でも相手が手を出してきてからだ。それまでは手出ししないでくれ」

「承知した」

 この流れをサタンが計算していたとしたら良いコンビかもしれないかもとソルフィリアは思う。

 ——シドくんも分かっていて? ……あり得そうですね

 この夜は特に何も起こらずゆっくり休めた。シドと同じ部屋でなかなか寝付けなかったアーラを除いては。


 翌朝、食堂で朝食をとっているとリンが声をかけてきた。

「おはようございます。皆さん、昨日の夜はよく眠れましたか? あら、アーラさんは少し眠そうですね」

「おはようございます。ちょっと考え事をしていたら寝付けなくなって」

——緊張して眠れなかったのですね。悪いことをしたかも……、今夜は私と一緒の部屋で休んでもらいましょう

 アーラが喜ぶと思ってシドと同じ部屋にしたが逆効果だったようだとソルフィリアは密かに反省する。

「今日はどこかへ行く予定はあるのかしら?」

 こちらから尋ねるつもりだったがリンの方から先に切り出してきた。家族を探す手掛かりのための来訪であることを知って気に留めてくれていたのだろう。

「歴史やサンシティのことを知りたくて、資料などを見られる場所は何処かにありますか?」

「うん、だったら歴史博物館なんてどうかしら? 街の中心区で少し距離はあるけど、あそこならこの国の歴史と一緒に美術品なんかも見られるわ。地図を書いたメモを用意しているから出かける前にロビーに取りにいらっしゃい」

 元から紹介してくれるつもりでいたのだろう。その親切心にシドも少し表情が和らぐ。

 ソルフィリアは礼を言った後に教会についても尋ねる。

「そうねえ……、この辺りは商業区だから、でも住宅街まで行けば小さな教会が点在しているわ。ただ司教さまが治めるような大きな教会はないの。昔は聖堂があったけど獣人の奴隷解放後に襲われて今じゃ荒くれ者の住処になっているって噂よ」

「それは何処に……」

「絶対に行かないって約束してくれる? 危険なところには行かせられないから」

「ご心配ありません。寧ろ地理に詳しくないので行かない方が良い場所を教えていただければ近づくことはありませんから」

 なるほどと納得したリンはそれも書き出して一緒に渡すと約束してくれた。

——絶対に行くつもりだ

——絶対に行くつもりよね

 シドとアーラは同じことを思いながらも顔に出さないよう努める。フィリアがリンと話している間にアーラがシドの耳元に顔を近づける。

「フィリアさんって、みんなの中で一番冷静なのに時々大胆よね」

「海……見たことがないけど、穏やかなときと船を沈めるぐらい荒々しくなる時があるらしい。フィリアさんはそんなイメージだ」

「二人とも、聞こえてますよ」

 シドは目を逸らしてアーラがシドの分まで謝る。すでにリンの姿はなくソルフィリアはその光景に笑っている。

「怒っていませんよ。その代わりに内緒ですよ」

 口に人差し指を当てる姿にふたりはやっぱりかと顔を合わせる。

「では私は先に出かけます。夜までに戻らなくても探さないように。通信魔道具は深夜に、周りに人がいない事を確認してから使用してください」

 最後だけ周りに聞かれないよう小声になる。同じような道具があるかもしれないが慎重を期すべきだということだろうと二人は理解した。

 ソルフィリアが出かけた後、シドとアーラはフロントへ向かい従業員からメモを受け取る。

 メモは2枚あり、ラウェスト博物館までの道程を図で記されたものと危険区域が書かれたものだ。危険区域は地域名だけだが通りに地域名の看板があるから必ず見るようにとリンからの言伝を従業員から聞いた。

「よし、行こう」

 シドとアーラも地図を頼りに目的地へ向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ