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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
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共和国探訪 side S 1-4

 ソルフィリアがリンの表情をよく観察すると警戒しているが何かを案じているようにみえる。

——警戒というよりも身構えている? 何かを企んでいる、ようには見えませんね。

「私たちはテネブリス王国から来ました。彼らはシレゴー共和国出身ですが、さまざまな理由で難民となり今は王国民として暮らしています。ここへは生き別れの家族がいないか手がかりを探しに来ました」

 あまりにも直球すぎる質問に裏の意図はないと感じた。

 怪しければ通報なりすれば良いが天の声たちが周囲を探っても怪しい人物は見当たらない。

 ならば素直に直球で返す方が良いと判断しての答えだった。

——他の目的もありますが……、今は言うべきでは

 リンの表情は一変して影を落とし両手をテーブルに置いたまま俯いてしまう。

「ごめんなさい、あなたたちが他国から来たことは何となく分かっていたから。でも子供だけで来るような街ではないから危ないことを考えているなら止めなくちゃって。怖そうな大人たちにも物怖じしない勇気は認めるけど、危ない目に遭ってからでは遅いの。だから少し心配になっちゃってね」

——何かすごい勘違いをされていたのでしょうか

 心配していてくれた事が嬉しくてアーラとソルフィリアは顔を見合わせて互いに笑顔になる。シドは顔には出さないが感謝を言葉にする。

「心配してくれてありがとうこございます。俺たちはたまたまこの街へ寄っただけで、手がかりを探しに来ただけですから。危ない事に首を突っ込む気はありませんのでご心配なく」

「それなら良いけど、最近は暴走を繰り返す走り屋と呼ばれる子たちや獣人が徒党を組んで何か悪企みしているって噂もあるからね」

 バドからも似たような注意を受けたなと思い出し、それをリンに伝えると少し嬉しそうだった。

 ただシドたちには気がかりがあった。ロビーでのやりとりを思い返すとこの国には獣人排斥の風潮があるのかもしれない。

「獣人族をひどく警戒しているように感じますが、もしかして教会の教えでしょうか?」

 あまり触れたくないのか口にすることをためらったように見える。

「彼らは、昔は奴隷だったからね。市民権を得たあとハメを外したのは自業自得ともいえるけど、いまだに根強く残っているのよ。見ていてあまり気持ちの良いものではないからウチは宿泊を許可しているけど、お断りのところは多いわね」

 シドたちにとっては居て当たり前の存在で共生になんの支障もないから差別はおかしいと思える。

 ソルフィリアは教会の教えこそが世界の全てだという民を知っていて『神がそれを悪だと言っている』、そう司教が口にすれば信者はそうなのだと思い込む人たちを見てきた。

 そんな実態を知っているから既視感があり、きっとここでも同じことが行われているのだろうと思い気が滅入る。

 ただ気になるのは奴隷制度を廃止した理由だった。

「暴れたり盗んだりで捕まって服役していたら奴隷の時と変わらないのにね。どこかに獣人専用の収容所があるって話だけど、一度入ったら出て来れなくなるって。今じゃ子供を躾けるネタにされているわ」

「連れて行かれた人は帰って来ない?」

「知り合いに捕まった人がいないから分からないけど、噂じゃそうらしいわね」

「ウチには獣人族の子供もいて……」

 リンは今にも泣き出しそうな顔でシドを見つめる。目を瞑って大きなため息を吐いたかと思うと眉を吊り上げ遠くを見つめる。

 怒っているようだが表情はどことなくバドに似ていた。

「12年前の紛争がなければこんな事にはならなかったのに」

 思い当たるのは共和国が王国の都市——旧ベルブラントへ侵攻し壊滅的な打撃を与えたのち炎剣フラムによって返り討ちにされた、あの紛争しかない。

「長らく占領されていたサンシティを奪還したにもかかわらず、非人道的な兵器で街はメチャクチャになって……。あなたたちもサンシティで孤児になったのでしょう? 辛かったわよね。でも生き残った人も沢山いると聞いているし希望は捨てないで。王国では難民を人質にしていたって話もあるけど、その中には居なかったの?」

「難民を人質に? それは共和国側の流言で、その所為で王国は表だった支援をできずに俺たちは苦しい時間がながくなってしまったんだ」

 シドの口調は淡々としているが強い怒りが込められている。本当に長く苦しい時間を過ごしてきたのだから当然といえば当然だろう。

 アーラも思い出したくない辛い過去に苦悶の表情を浮かべている。

「ああ、ごめんなさい。辛いことを思い出させてしまったわね」

「……いえ、俺の方こそ、すみません」

 重たい空気が流れるなかソルフィリアは妙な違和感を覚える。


「あのう、長らく占領されていたというのは一体……。私は神聖国出身で王国と共和国の間で何があったのかを知らないのでよろしければ教えてくださいませんか」

 王国から来たと言った以上、知らないわけがないだろうと言われても仕方がないから神聖国出身を明かす。立て続けに教会関係者と間違われているから手段としては有効だろう。

 しかし効果は思ったよりも大きかったようだ。リンは驚愕したあと手を祈りの形に組んでソルフィリアに祈りを捧げようとする。

「え、あの……ちょっと待ってください!」

「いや、聖地から来られた司教様ならお祈りをしておかないと! なんて、冗談よ。異国から来たのなら知らなくても仕方ないわね」

 ソルフィリアは胸を撫で下ろし改めて共和国側から見た歴史に触れる。

「サンシティは国境沿いにあった街でね、貿易の拠点だったの。でもある日突然王国が攻めてきて街を一瞬で廃墟にしてしまったらしいの。共和国軍も反撃に出たけど帝国も攻めてきて三つ巴の戦い。泥沼の戦いになるかと思いきや停戦協定が結ばれたわ」

 話の区切りにリンはお茶で喉を潤す。

「随分と不利な協定を組まされたみたいだけど、国民が一致団結することで乗り切れる、そんなふうに思わせてくれたのがこのラジオよ」

 シドたちは差し出された音の出る不思議な箱をみつめる。

 ソルフィリアはラジオを手に取ってゼピュロスにあればどう使うかを考える。咄嗟に思いつくアイデアはすでに共和国で実践されているものだろう。

「このラジオからサンシティの悲劇や停戦協定の話題が流れてきたのですね」

「そうよ、ニュースと言ってね、国どうしの話題だけじゃなく街の何でもない情報や、沢山お金を出せば宣伝もしてくれるそうなんだけど……ウチにはそんな余裕はないからね」

 どうやら三人が知っている事実と異なる事実が国中に広がっている。

 虚実を織り交ぜた情報は国民の信頼を勝ち取っていて、ラジオから流れる情報は全て真実だと思い込んでいるのだろう。

 自国の常識が通用しない外国で更に認識の食い違いがあることがわかり、明日以降の予定にソルフィリアは頭が痛くなる思いだった。


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