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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
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共和国探訪 side S 1-3

 用意された部屋は2つ。支配人のリンは男女で分かれるのだろうと気を利かせた結果だ。

「俺とアーラは一緒で良いのでフィリアさんはひとり部屋を使ってください。今までも兄妹で同じ部屋で寝ることはよくあったので」

 他の子たちもいて二人きりはないだろうと思っていると案の定アーラはもじもじとしている。

——というか私は三人一緒のつもりだったのですが。今からでも、と思いましたが、アーラさんはシドくんと二人が良いのでしょうか?

 どっちが正解なのか、ソルフィリアは判断がつかずアーラに委ねる。

「えっ⁉︎ わ、わたしは……どっちでも…………」

 やはりというべきか決まらない。どうせ明日は分かれて行動するのだからひとり部屋を選ばせてもらった。

 何となくだが教会関係者を装っていると誰かに狙われる気もしていた。

「獣人男性からずっと敵意を向けられていたような気もしますし、分別がつくなら私だけを狙ってくれるでしょう。あなたたちには頼れる護衛もいますから」

「何かあれば呼んでください。サタンも警戒してくれるそうですから」

「ありがとう。今後の方針とも言えるのですが、襲撃にあった場合は戦わずに逃げてください。天の声は強大ですがタダで力を使えるわけではありません。あなたたちは訓練を受けていない一般人なのですから急激なマナの消費に耐えらないかもしれないからです」

「マナの消費に……? 耐えられないとどうなるのですか?」

「馬車酔いのような気分の悪さと倦怠感を伴う脱力、……ひどい時には意識を失う事もあります」

「そうなったら、逃げるも何もできない……ですよね」

 アーラは魔力切れになる事よりもそうなった時にどうなるかを想像して怯えている。ソルフィリアは目先に囚われない姿勢に感心すると同時に安心もする。長い難民生活での経験がこんなところで活きるとは思わなかっただろうが。

「わかりました。でもどうしてもという時は俺たちの判断で良いですか?」

「ええ、構いません。危険だと思えば迷わず応戦してください」

 但し、とやや語気を強めて続ける。

「制圧する事は考えずに、隙ができれば逃げてください。戦闘が長引くと危険が増す、そう思っていてください」

 ふたりは声を揃えて返事をする。丁度そこへノックと共に支配人のリンの声が聞こえてくる。

「失礼します。お食事の用意ができましたのでご案内します」

 三人はリンの案内で併設するレストランへ向かう。


 フロアは広くいくつもの席が用意されていて、すでに何組かの人たちがいた。

 周りを見渡すと仕切りで囲われたところもあり、シドたちはその一つに案内され席に着く。

「食事が終わった頃にお声がけしますので、少しだけお話しさせてもらってもよろしいでしょうか」

 ソルフィリアが快諾するとリンは礼を言ってその場を離れた。入れ替わりに別の従業員が食事を運んできてテーブルに並べる。従業員は食べ終わりを見計らって次の皿を持ってくると説明し引き上げていった。

「えへへ、これだけで終わりかと思っちゃった」

 照れ笑いするアーラにソルフィリアも同じことを思ったと笑い合う。

 食事が終わり休んでいるとリンがやってきた。

「お口に合いましたでしょうか」

「はい、とても美味しかったです。それでお話はここで?」

「いえ、場所を変えましょう。あちらのお部屋へお越しいただけますか」

 リンの後について行く途中あちこちから視線を感じる。フロアにいる別の客からのものだ。

 大半は興味本位でちらりと見る程度だが、中にはまじまじと、まるで品定めするような視線が混じる。

——これは、人を下に見ている目……

 ソルフィリアは気持ち悪さを顔に出さないように、視線についても気づいていないふりをしてやり過ごす。

——人を差別的に見る目だ。この場合、対象はどっち?

 服装の違いからよそ者であることは明白で、自分たちが場違いな待遇を受けているからと考えるのが自然である。

 しかし教会がこの地である程度幅を利かせているようであれば憎悪の対象である可能性もある。

——はあ、面倒なことに巻き込まれなければ良いのですが


 案内された部屋は豪華な作りで今夜泊まる部屋よりも広く煌びやかな雰囲気がする。アーラも思わず感嘆の声を漏らしていた。

「ここは特別なお客様をお招きするためのVIPルームです。少しぐらい大きな声を出しても問題ありません。政府のお偉方もここで秘密の会談をされるぐらいですから」

 席に着くよう促されると従業員がお茶とデザートを並べて出ていく。リンはその場に残って席についた。

「ふう……、やれやれ、やっと一息つけるわ」

 人が変わったように畏まった雰囲気が解けてリラックスした顔を覗かせる。

「仕事中はずっと気を張っていなくちゃならないからね。こんな姿を小さい頃から見ていたからあの子もここを継ぎたくなかったのかねぇ」

 あの子というのは街の入口で検問をしていた治安官のバドの事だろう。息子の事を聞きたいと言っていたから早速話題に入っていく。

「色々良くしていただきありがとうございます。バドさんの紹介がなければまだ宿探しに奔走していたかも知れません」

「たまにあの子の紹介で来る旅行者がいてね、親孝行のつもりなのか、ここを継がずに飛び出した罪滅ぼしのつもりなのか……」

 リンはカップの中に映る光を遠い目で見つめる。彼女が思い浮かべているのは幼き日の息子なのだろうか、今なのか。

「もう何年も会っていないのですか?」

 珍しくシドが踏み込んだ質問をする。弟妹以外には関心が薄くプライベートな質問はトルネオにでさえ皆無であるのに。

「そうね……、治安官になると言って飛び出して十数年になるかしら。一度も顔を見せたことはないわ。元気にやっているのかとか、結婚して子供は居るのかとか、気になるけど……」

「何故バドさんは治安官に?」

「あの子が小さい頃にラジオで聴いていた物語の影響かしら」

 聞き慣れない単語にソルフィリアが反応する。

「あのう、ラジオというのは?」

 何故知らないのかという顔をされたが知らないものは知らない。だがリンはこちらが異邦の旅人だということに気がついているらしく、すぐにはっとした顔を見せると周りを見渡して何かを見つけ立ち上がる。

「これよ、これ。これがラジオ。詳しい仕組みは私には分からないけどニュースや音楽、朗読劇なんかも流れてくるの」

 小さな箱型の機械を操作すると音楽が流れる。リンは側面のダイヤルをくるくると回すと音は途切れて人が話す声が聞こえる。

「これは……」

 アーラは目を丸くして言葉にならない言葉で口をぱくぱくさせている。

「このラジオで流れていた治安官のお話が好きでよく聴いていたから、憧れがあったのかもね」

 それにと暗い声音で付け加える。

「私たち両親が忙しくて構ってあげられずラジオが話し相手みたいなものだったから、きっと……そんな仕事は嫌だと思ったんだろうね」

 寂しさよりも哀しさが勝る、そんな表情で俯いてしまう。

「もしも……」

 シドは言葉を区切ったあと沈黙してしまうが、服の裾を握ってもう一度口を開く。

「もしもバドさんが帰ってきて……また一緒に暮らしたいと言ったら……、どうしますか?」

 リンはしばらく考え込んでいた。

「それは……このホテルの跡継ぎに、てこと?」

「それは分かりません。ただ単純に離れて暮らしていたけど、また一緒に暮らすなら」

「それなら嬉しいに決まっているよ。何年離れていても私の大事な子供だからね」

 この答えにシドは表情を変えない。その先にまだ求める答えがあるのだろうかとソルフィリアとアーラは思ってしまう。

「でもそれは叶わないと分かっているの」

「何故?」

「だってあの子がそんな虫のいい事を言うはずないもの。きっとホテルの事を考えて治安官を辞めると言い出すに決まっているわ。憧れの治安官になれて続けられているのなら性に合っているのでしょう。無理してまで一緒にいる必要はないの。たまに帰ってきて顔を見せてくれたら十分なんだけど」

 今度は笑っているが少し無理しているようにも見える。

「あ、あのう、……バドさんに会ったら、伝えます。お母さんが、顔を見せて、て……」

 アーラは必死で励ましの言葉を考えたが思い浮かばずにいた。親代わりとして弟妹の世話をしてきたが本当の親ではない。自分もまだ子供の部分を自覚しているから親の気持ちを想像できないでいた。

「すみません、立ち入ったことをお聞きして」

 シドもまたアーラと同じだが、別ことを考えているようにもみえる。

「いいのよ、あの子がしっかりお勤めを果たしていることが分かっただけで十分。治安官になって何をしているのか知らなかったから話が聞けて良かったわ。ありがとう」

 治安官としてのバドに出会っただけしか話していないのにリンが満足そうにしている理由がシドには分からなかった。

——情報が少ないことを察知して気を遣っているのか? まさかだけど、駆け引きが始まっている?

 リンはカップのお茶を飲み干すと手ずから淹れなおし、シドたちにもおかわりをすすめてくる。リンが再び席に着くと、今度は彼女から質問を投げかけられる。

「あなたたちはどこから来て、何の目的でラウェストに来たのかしら?」

 やや警戒するような眼差しに三人に緊張がはしる。


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