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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
202/236

共和国探訪 side S 1-2

 まずは街の中心へ向かうことになり背の高い建物を目印にする。バドの助言に従い大通りを進んでいくと人の姿が増えてくる。

 街並みは王国とは全く違い無機質で理路整然と並んでいるように見えるが、いくつかは外壁に凝った意匠を施したお洒落な建物が間に挟まっている。まるで周りの変化について行けずに取り残された遺跡の入り口のようだった。

「四角い建物はベルブラントにもあるけど、なんだか冷たい感じがするね」

「ああ、でも変わった様式の建物が混じっている。徐々に変化したのか、それとも突然現れて重なり合ったのか」

 シドはたまに変わった表現をすることがあってソルフィリアは理解できない事がある。アーラにこっそり聞いてみたが彼女も同じだった。

「どういうことか聞いたら教えてくれますけどやっぱり分からなくて。それでも良いって言ってくれるから、気にしなくても良いと思いますよ」

 アーラの言葉を聞いて気にせずにいたが今の言葉には理解できなくても感覚でわかる気がした。

 異なる二つの世界が同じ場所に現れた。

 そういう意味だと考えればわかる気がする。どういう原理で重なったのか、一方はどうなったのかなど今は知る由もない。


 先に宿を確保しようとバドにもらった地図を頼りに散策しながら進む。至るところに珍しいものがあってアーラは興味津々で辺りを見回す。

「ふわぁ、すごい……見て、シド! 歩いている人みんな変わった格好しているけどすごくおしゃれ」

 周りから見れば三人の方がおかしな格好をしていると思われるだろう。だが道行く人は気にも留めずに歩き去る。

「周りの人に興味がないのでしょうか。それとも見て見ぬふりを? 私やシドくんの髪色は明らかに目立つと思うのですが」

「王国では珍しくてもこちらでは意外と珍しくないのかもしれませんよ。ほら、あそこの女の人もシエルさんみたいな金髪だし、……えっと、なんだかカラフルな人もいるね」

 髪の一部が赤、青、緑のラインが入ったような人を見つけて流石に奇抜だなとアーラは苦笑いしていた。

「アーラが楽しそうなら別に良いよ。それに、今はまだ目立ちたくなくて髪を染めてこようかと思っていたけど、丁度いい。ただ何かあったら時は悪目立ちするからその時は変装を考えます」

 シドに視線を向けられたソルフィリアは自分も変装をさせられるのだと理解した。

——どんな変装をさせられるのだろう

 色々な妄想をしているうちに広い通りにでる。立ち並ぶ建物はどこもかしこも壁に透明なガラスが埋め込まれていて中には服や道具などの商品が並べられている。アーラは一件ずつ立ち止まって見ていくがシドも陳列方法に興味があるのか一緒になってまじまじと観察している。

 ソルフィリアは二人の様子を微笑ましく見ていたがガラスに反射する日の傾きに時間の経過を知る。

「流石に日が暮れそうなので先ずは宿へ向かいましょう。お店は明日ゆっくり見ていきましょう」

「そうですね、すみません」

「ごめんなさい、フィリアさん」

 本当に申し訳なさそうにされるとソルフィリアの方が悪いことをしたと思ってしまう。普段から弟妹の世話に追われている長男と長女は初めて自由な時間を手に入れたのかもしれない。

 そう思ったソルフィリアは明日の予定は自由行動にしようと提案する。

「この街は広いですし手分けした方が良いでしょう。二人には心強い護衛もいますし、私も少し気になる事ができましたので」

「気になる事?」

「はい、教会です。イーリア教がどうやってここまで広まったのか、この地域で教会が何をしているのかを確かめたいのです。それに神聖国との繋がりがあるならば気になります」

「フィリアさんは、イーリア教の人だったの?」

 アーラに指摘されて教会に関わりがあったことを言っていない事に気がつく。

「そういえば言っていませんでしたね。私は元ですが神聖国の出身でイーリア教の修道院で育ちました。騎士学校へは留学です」

「それでバドさんが教会の人だと言っていたのね。でもどうしても分かったのだろう」

「それは私の髪色のようでした。黒髪は神聖国でも珍しいので私のルーツを探ることにもなりそうです」

「もしかするとフィリアさんも共和国出身? だってシドの白髪とか共和国には色々な髪色の人がいるのかなって」

 その発想はなかったとシドとソルフィリアは顔を見合わせる。

「確かに私の父は黒髪で母も……」

 苦い記憶が蘇るが父の顔も育ての母の顔も綺麗さっぱり忘れてしまっていた。再会してからひと月も経っていないというのに。それよりも顔は見た事がないが自分に似ているという生みの母の姿を朧げに思い浮かべている。

「フィリアさん、大丈夫? ぼうとして……」

「ごめんなさい、少し考え事を。それよりも明日は自由行動で良いですか? 別れて探索した方が効率も良いでしょう、この街はかなり広いみたいですから。滞在期間も決めておきましょう。そうですね……、5日間はどうでしょう?」

「俺はかまいません。アーラもそれで良いか?」

「うん、わたしも構わないよ」


 話をしている間に目的の宿にたどり着く。

「思ったよりも豪華……」

 アーラは驚きながらも目をキラキラさせて辺りを見回す。王城のように煌びやか、とまではいかないがそれなりの爵位を持った貴族の屋敷ぐらいの豪華さはある。

 エントランスを通りロビーに入ると正面のカウンターに客が並んでいる。待合所にもなっていて柔らかそうなソファが四角くテーブルを囲んでいて部屋の左右対称に配置されている。壁には誰かの肖像画がかけられ部屋の中央高くに吊り下がるシャンデリアが描かれた人物に絶妙な影を落としている。アンティークな調度品も格式の高さを表しているようだった。

「折角バドさんに紹介してもらったけど、ここお高いのかな?」

 心配そうにシドとフィリアの顔を交互に見ている。

「心配しなくても大丈夫ですよ、それなりに資金はいただいてきていますから。そうはいっても気になりますからカウンターで聞いてみましょう」

 三人は列の後ろについて順番を待つ。列から離れたところにフード付きコートを着た背の高い男が立っている。フードで頭を覆っているが目つきが鋭く厳しい。男は入口の方を向いて微動だにしないが目玉だけ左右に動かして周囲の様子を窺っている。

『シド、あの男には注意しろ。あれは獲物を狙う目だ』

「わかった。多分、俺たちが入ってきてからだよね」

『うむ、いざとなれば出るぞ』

「ああ、構わない。頼んだよ」

 シドはサタンと会話を腹話術のように口を閉じて行う。男の方を警戒していると今度は列の先頭で女の怒鳴り声が聞こえ館内は騒然となる。

「何度も言わせないで、獣くさい奴隷人種と一緒の宿になんか泊まれないわ。あなた達は外で寝れば良いじゃない。それとも何、このホテルはペット同伴可なのかしら」

 高笑いする女に合わせて黒服の男達も下卑た笑い声を発する。彼らの前には背の低い女の子が困った様子で受付の書類に記入している。

 女の子は狸の耳に大きくふかふかの尻尾を持つ獣人だった。

「あら、その耳は飾り? 獣人の癖に耳が遠いなんて、ほんと役立たず」

「ムーリエ様はツアーの真っ最中でお疲れなんだ。さっさと消え失せろ!」

 黒服の男は女の子に掴みかかる勢いで迫ってくる。

「彼女に触れないで。これ以上は見過ごせませんよ」

 二人の間に立ったのはソルフィリアだった。

「な、なんだお前は⁉︎ ん……、黒髪? お前、教会の人間のくせに獣人の肩を持つのか?」

 まだ土地の状況も分からないまま思わず割って入ってしまったが、これもシエルやグーテスたちの影響かと思ってしまう。

「私が何者であれ、こんな小さな子を大の大人が寄ってたかって罵る姿は見たくありません。あなた方がどなたか存じ上げませんが、嫌ならあなた達が出て行けばよろしいのでは?」

 相手に明らかな怒りが見て取れるがここまで来たらとことんやり合う覚悟のソルフィリアだった。暴力は勿論、弁論でも負けるつもりはない。

 だが勝負は始まる前から終わってしまう。言い争いを聞きつけてカウンターの奥から現れた年配の女性が毅然とした態度でムーリエと呼ばれた女に言い放つ。

「お客様、申し訳ありませんがお引き取り願います。当ホテルは団体のお部屋はご用意しておりませんし、何より五月蝿い方は他のお客様にご迷惑となりますので。どうかお引き取りを」

「な、なんですって⁉︎ あたしを誰だと思っているの!」

「ええ、存じ上げております。数年前に首都にある大劇場の舞台で緊張のあまり歌詞を飛ばして一音も発する事なく歌い終わった“無音のムーリエ”様ですよね。長く生きていると色々なことを耳にしますので」

 女は顔を真っ赤にして怒りと恥辱で顔を歪めて出ていってしまう。女性は狸獣人の女の子に向き直り頭を下げる。

「お騒がせして申し訳ございません。獣人といえどもお客様ですから、心置きなく当ホテルに……」

 女性が言い終わる前に鋭い目つきをした男が振り返り言葉を遮った。男はフードを取ると長い狐の耳が姿を現す。

「ポポン、もう良い。俺様たちも行くぞ」

「え、でも……、今晩、泊まるところが……」

「教会の人間がいてもか?」

「うう……」

 男はソルフィリアに敵意の目を向け、ポポンと呼ばれた女の子は怯えた様子でいる。ソルフィリアも教会関係者を装って調べたい事もあるから否定もできないでいる。

 男が歩き出すとポポンも慌てて跡をついて行くがドアの前で立ち止まって振り返る。

「あのう、さっきは、庇ってくれて、ありがとう」

 深々とお辞儀をして出ていってしまう。見送って姿が見えなくなるとシドが大きく息を吐いた。

「ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。私は当ホテルの支配人リン・オハラでございます」

 女性の丁寧な振る舞いと柔らかな笑顔に場が一気に和む。

「私の方こそ申し訳ありません。騒ぎを大きくするつもりはありませんでしたが、結果的にご迷惑を」

「いいえ、お気になさらずに。お詫びに今晩は無料でお泊りください」

 無料と聞いてアーラが一番驚いていた。

「タダほど高いものはないってトルネオさんが……あ、ごめんなさい!」

「私たちはバドさんという治安官の方の紹介で来ました。5日間の滞在予定でして部屋をお借りしたいのですが……」

 女性は驚いたあと急に素に戻って雰囲気が変わる。

「バド⁉︎ あのバカ息子の紹介だなんて。宣伝するぐらいなら跡を継いでくれれば良いのに……。ああ、ごめんなさい! 息子のことになるとつい」

 照れ隠しのように笑う彼女の母親の部分が垣間見えてアーラとソルフィリアの頬が緩む。

「そういうことならいくらでもお泊りくださいな。料金は結構ですから、後で少しだけお話させてもらえませんか。息子がどうしていたかなど聞かせてもらえれば」

 シドたちはこの『ホテル・オハラ』をラウェストでの拠点として滞在することになった。

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