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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
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共和国探訪 side S 1-1

 長い橋を渡って街の入口へ辿り着いたシドたちは改めて建物の大きさと異文化の雰囲気に圧倒される。

「ねえ見てシド、すごく高い建物がこんなに……、近くで見ると本当に大きな町……」

 興奮するアーラに袖を引かれてシドも早足になる。ソルフィリアも後を追いながら空を見上げる。

「中心へ行くほどに高い建物があるようですね。まるで騎士団本部の主塔のよう。これが砦でも何でもない、ただの一都市だなんて……」

 街の隅々まで探索するには途方もない時間が必要だと思うと少し気が遠くなる。これだけ大きな街で人探しとなると尚更だ。

 シド、アーラ、ソルフィリアの三人の目的は一般人として各都市を周ること、そしてシドたち孤児の親族探しである。もとよりシドが言い出したことだが当人はすぐに見つかるとは思っていない。何か手がかりが一つでもあれば十分だった。

——せめて俺たちが居た証があれば……

「シド…………、シド!」

 はっと気が付くと息がかかるほどの距離からアーラがのぞき込んでいる。

「もう……また考え事? 歩きながらは危ないからダメって言ってるのに」

「ああ、すまない」

「あそこを見て、検問所みたいなところが見えるよ」

 アーラが指さす方向には人ひとりが入る程度の大きさの小屋が見える。傍には制服を着た男があくびをして立っている。門番のようだが腰に棒のようなものを下げている他に武器は見当たらない。ここだけ道幅が広いが遮断棒が道を塞いでいる。

 後から来たソルフィリアにもアーラは同じように小屋のことを話す。

「迂回すればどこからでも入れそうですが何故あそこにだけ門番が、ということですね。何か特別な施設への入り口かもしれませんね」

 周りをみても自分たち以外に街へ入っていく姿は見えない。

「思案していても始まりません。直接聞いてみましょう」

 今度は三人で並んで歩いていく。ある程度距離まで近づくと男の方もシドたちに気が付いてじっとこちらに視線を向けていた。


「こんにちは——」

「お前たち、どこから来た?」

 ソルフィリアの挨拶が終わらないうちに男の方から質問を投げかけてきた。明らかに不審者を見る目で腰の棒に手をかけている。警戒というよりも妙なことをすれば痛い目にあうぞという脅しのようにも見える。

「あのう……」

 脅しはさしたる脅威ではないが予想以上に警戒されてしまい言い淀むとシドが進み出る。

「俺たちはサンシティから来ました。しばらくここに滞在したいのですが」

 シドの言葉に男は方眉を吊り上げたまま沈黙していたがシドは何も言わずに男の言葉を待つ。

「お前さんたち戦災孤児か?」

「はい」

 長い沈黙が続いたが徐々に男の表情は崩れていき最後には泣きそうになっていた。

「そうか……よく生き延びてここまで来てくれた、本当に良かった。ここまでの道のりは大変だっただろうに……かなりの距離があっただろう。お前さんの身なりをみるに……ある程度生活は落ち着いたのか?」

「はい、親切な方々が助けてくれたので。ここへも途中まで送っていただきました。目的は他の孤児たちの離散した家族を探すためです」

 男はシドの肩を叩きながら本当にうれしそうな表情を浮かべている。

「他の孤児……、君の家族は……?」

「俺に家族はいません。だから弟妹となった子供たちの家族を……」

 ついに男は手で目を覆ってむせび泣き始める。

「そうかあ……、年下の子供たちのために……。いや君もまだ子供じゃないか、それなのに……」

 自分で涙をぬぐうと表情は一転して険しいものに変わっている。だがその感情はシドたちに向けられていないことは遠くの空を睨む姿で分かる。

「まったく政府は何をやっているんだ、まだ大変な思いをしている子共がここにも居るというのに! 元を辿れば卑怯者の帝国がサンシティを奇襲による空爆なんてしなければこんなことには……」

 男の言葉にソルフィリアとアーラは耳を疑う。

「帝国? 奇襲……空爆?」

 ソルフィリアのつぶやきに男は反応し一瞬しまったと思ったが意外な言葉がかけられる。

「そこのお嬢さんは教会の人だろ? 黒髪は珍しいが西大陸に多いと聞くしイーリア教会の人は黒髪が多いからな。またいつものように手助けしてくれているなんてなあ、本当にありがとう。国を代表するような身分じゃないが一市民として感謝を伝えるよ」

「いえ、そんな……私は彼らにしてあげられることをしているだけです」

 男は勝手に勘違いして話をすすめているが、こちらの答えは全部が嘘でもないから話を合わせていく。今はここを乗り切って街へ入ることが先決だ。今抱えた疑問はゆっくり解消していけば良い。

「なにはともあれ、ようこそラウェストへ。ここは東側最大の都市だが最近は走り屋や物騒な連中も多いから気を付けてくれ、お嬢さん方は特にな。夜道は二人でも出歩かないこと、近道しようとして路地を入ると悪い奴らのたまり場だった、なんてこともある。できるだけ人が多い道を選んでくれ」

 男は胸ポケットから何かを取り出してシドたちに渡していく。それは軽くて固いが金属ではないカードで文字が書かれている。ソルフィリアは表と裏を入念にチェックする。表には『バド・オハラ』と書かれていて、裏には地図のような図が記されている。

「これは……?」

「俺の名刺だよ。バド・オハラと書いてあるだろ、それが俺の名前だ。裏には位置情報を探知して最寄りの治安局派出所までの地図がでてくる。何か困ったことがあれば尋ねると良い、そして俺の名前を出せば大概のことは何とかしてくれるはずだ。俺も週に何回かはどこかの派出所でデスクワークだから、また会えたらいいな」

 屈託なく笑うその笑顔に心からの親切心を感じるしきっと悪い人ではないのだろうが『位置情報を探知して』という言葉が引っかかる。

「バドさん、これをもっていれば俺たちがどこにいるかすぐにわかりますか?」

 シドもソルフィリアと同じ懸念を抱いたらしいがあまりにも直球で質問していく。

「例えば俺たちが何か問題を起こした時や身の危険があった場合にこれでどこにいるのか知らせられるのかなって。」

「残念だがそれはできない。個人のプライバシーが何とかって一部の市民がうるさいからな。仕組みは俺もよくわかっていないが、街の各所に設置した機械が情報を発信していてそれを名刺が受け取っているそうだ。こっちから場所が特定できたら俺たちがサボっているのもバレちまう」

 大声で笑うバドにアーラだけが愛想笑いして沈黙が訪れる。


「まあともかく、旅の無事を祈っているよ。しばらく滞在するならここの宿が安くておすすめだ。実は俺の実家なんだが跡を継がずに治安官になったから顔を出しづらくてなあ……、まあそのぉ……良かったら利用してやってくれ」

「色々ありがとうバドさん。最後に一つ、どうしてここだけ警備を?」

「歩いてなら街に入るにはルートはいくつもあるから君たちはどこからでも入っていけば良い。他にもいくつかゲートはあるんだが、ここは車専用なんだ。軍から降りてきた技術が民間に広がって車で行き来する奴が増えてな。最近事故も多いし、悪さして外へ逃げる奴やさっきも言った走り屋が外と街を何度も出入りして物流に影響がでている。そういう奴らを取り締まるためだから君たちが気にする必要はない。ただ、街の中でもたくさん走っているから注意してくれ」

 車を知っている前提で話をされてもそれが何なのかが分からない。バドの助言もどういう意味か分からず知っているフリをしてやり過ごす。

「分かりました、親切にありがとうございました」

「ああ、家族が見つかると良いな。君たちに幸せがあらんことを」

 バドは首に下げていたネックレスをシャツの内側から取り出すと両手で握りしめて祈りをささげる。

 その光景はソルフィリアにとって嫌な記憶を呼び起こさせる。青く光る石は持つ人のマナを吸い取り逆流させれば怪物へと変化させてしまう。神聖国がイーリア教徒に渡した忌むべきアイテム——。

 バドにそれを捨てさせるべきか、それをいうと怪しまれないか、と考えがまとまらずに気持ちだけが焦っていく。そんなざわつく心をアーラの声が鎮めてくれた。

「透明な石がキラキラしていてきれい……」

「そうだろ? まぁガラス細工だけどな」

 一瞬ひやりとしたが良く見ると確かに透明なガラスのようだった。それでもバドの発言からもこの地にイーリア教が入り込んでいることは間違いがなくソルフィリアは警戒してしまう。

 シドたちはバドに別れを告げて異国の地に足を踏み入れる。


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