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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 共和国潜入
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共和国潜入

 謎が多い共和国に対して受け身だったゼピュロス騎士団とシデレニオ帝国はシエルたちプロトルードを始めとした少数精鋭を送り込み調査を行うこととなった。

 その中にはアウローラとシド、アーラの非戦闘員も含まれていて、彼らが選ばれたのには理由がある。

 一つは民間人として堂々と共和国内の街を探索すること。そして敢えて目立つことで共和国の注意を引き、隠密で動くメンバーから目を逸らす役割がある。その大役にはシドとアーラ、そしてソルフィリアの三人が選ばれた。三人はテコの転移魔法で共和国内のある街の近くまで来ていた。

「お二人は私がお護りします、と言いたいところですがルシファーさんやサタンさんの方が実力は遥かに上ですからお役に立てないかもしれません。ですから危険な目に遭わないようにすること、それが私の役目だと思っています」

「私たちも周囲に気を配っておきます。あまり気負いすぎませんように」

 ルシファーの心遣いに感謝しつつも自分は必要なのかとため息が漏れそうになる。

「ごめんなさい、フィリアさん。本当はわたしたちじゃなくて他のみなさんたちと一緒が良かったですよね。わたしたちがわがままを言ったばかりに……」

 アーラは周りをよく見ていて気配りができる性格だが、彼女に気を遣わせてしまうほど表情に出ていたのかと思って反省する。

「その……グーテスさんとも離れてしまって、寂しい……ですよね?」

 突然グーテスの名を口にされて驚きで顔が熱くなっていく。

「な、え……、か、彼は関係ありません、ありませんから! 独りであなたたちを守らないといけないと気負いはあったかもしれませんが何事も気を引き締めていないといけませんから多少の緊張があって表情に出てしまって不安にさせてしまったのは申し訳ありません。ですが……」

「フィリアさん」

 アーラに止められてようやく我に返る。

「わたし、フィリアさんと一緒で良かったです。正直に言うと一番お話しやすいので」

 笑顔を向けられてしばらく見つめあっていたが、フィリアは短く息を吐いて気持ちを入れ直す。

「不安だったのは私の方かもしれませんね。私たちはあくまでも民間目線での調査ですし、あなたたちの親族の手がかりを探すのが目的なのですから、気を楽にして行きましょう」

「はい。それと……グーテスさんとのお話も聞きたいです」

「もう……」

 少し先を歩いていたシドが振り返って進行方向に指を指す。

「見えて来ました。シレゴー共和国の街が」

 少し大きい川の橋向こうに街が見える。橋を渡ればどこからでも入れそうだ。ただ川に沿って並ぶ建物はどこまでも続いていて街の大きさが測れない。近づくにつれ王国のものとは違う箱型の建物がいくつも高くそびえ立っている。城壁のようでいて高さが均一ではない奇妙な建物は一つ一つが砦のように感じられた。

「ここが、共和国……」



 テコは異なる地点に三つのパーティを転移魔法で送り込んだ。軍事施設などを調査するパーティにはシエル、セレナ、ノアに加えてヘルマとアルドーレの5人で組むことになった。

「鉄の鳥が飛んでくる方向や角度を計算した候補のうち最も可能性が高いのがこの辺なのよね?」

「ああ、間違いない。ウチの魔法士や経理とか数字に強そうなやつ集めて出した結果や。絶対にここから飛んできよるはず」

 いつになく真剣な面持ちでヘルマは地平を睨む。

「それで…………、ここの何処に拠点があるのよ⁉︎ 見渡す限りの平野じゃない! 人影どころか、なーんにも無いじゃない!」

 平野の真ん中でセレナは地団駄を踏みながらヘルマに抗議するが両手で耳を覆って聞こえないフリをしている。

「あいつの絶対は絶対に信用ならねえ」

 アルドーレは岩に腰掛けてヘルマとセレナを眺めている。シエルとノアも苦笑いで眺めるしかなかった。

「悪いな、あんなのに付き合わせてしまって。本当に俺たちだけで良かったのに」

 アルドーレは遠い目ではるか先を見ながら呟く。

「ダメよ、少しでも目を離すと何をしでかすのか分からないもの。戦力としても申し分ないしあんたたちを監視するのもあたしたちじゃないと。少しでも情報は持ち帰りたい、できれば相手の戦力を削っておきたいもの。ロージアさんのことはあたしたちも気になるから。いい、勝手な行動は慎むように」

 セレナはアルドーレとヘルマを交互に見ながら釘をさす。

「いや、俺らの方が先輩やのに何でおまえが仕切るねん⁉︎」

「ロジは“さん”で俺たちは“あんたたち”の時点でそういうことだろ?」

 アルドーレが苦笑いしながらの自虐にヘルマがヒートアップしそうになるがセレナの一手の方が早い。

「ファウオー団長直々の命令なんだから素直に従いなさい。今はあたしがこのチームのリーダーなんだから」


 本来騎士団を辞めるつもりでいた二人だったが共和国行きが決まった後、ファウオーは二人に頭を下げていた。

「ロージアを助けてほしい」

「は? 元からそのつもりで行く言うてるやろ」

 ファウオーは少し思い詰めた顔でそうではないと首を振る。

「元を辿ればロージアに共和国への潜入を指示したのは兄さん……だからな。危険な任務である事は承知していたがもし一週間連絡が途切れたら捜索部隊を編成して救助に向かうはずだった。だが兄さんが殺され、王国の政変で人員を割けなくなってしまった。ロージアの安否は私と兄さんの心残りなのだ。生きていてくれた事には素直に嬉しい。それでも敵に寝返ったことは信じ難いし、悪しきものに囚われているなら救いたい。頼む、彼女を……兄さんの心残りを救ってほしい」

 ヘルマとアルドーレはしばらく黙っていたがファウオーは一向に頭を上げない。二人で顔を見合わせるとファウオーに頭を上げさせる。

「ドあほ! カウコー団長の名前出したら俺らが大人しくなるとでも思ってんのか?」

「そういうつもりでは……」

「まあ、そんな事言われたら、そうせざるを得ないか」

「せやな、団長と団長のために俺らが何とかするしかないな。まあ任せとけって」


 ヘルマも何もない平原を見渡して途方に暮れたのかアルドーレたちと一緒に地べたに座り込む。

「あのやり取りなんやってん。なんでこいつがリーダーやねん」

「これからどうする、リーダー?」

 やっと方針の話ができると待ちくたびれた顔のアルドーレがセレナに尋ねる。

「当てが外れてしまった以上、ここに長居は無用でしょう。近くの村か町に行って情報収集しましょう」

 全員が立ち上がって目指す方向を見定めているとノアがシエルの袖を引っ張り何か言いたそうにしている。

「どうしたの?」

「えっと、このあたりなんだけど……」

「あんた、勝手に喋らないでって言ったでしょう⁉︎」

「ご、ごめんなさい……」

 ノアが言葉を発する事に異常な警戒心をしめすセレナは彼女に対してだけはいつもきつい口調になる。ノアもすっかり萎縮してしまっていた。

「セレナ、もう少し優しく言ってあげて」

 シエルはもうノアが悪い事に力を使わないと信じている。一方でルゥを殺されたセレナの怒りもノアに対する警戒心と恐怖心も理解していて複雑な気持ちでいる。ただ何とか分かり合えないかと思い、仲を取り持つ術を持たない自分の不甲斐なさに心を痛めていた。

「ノアちゃん、ここに何かあるの?」

 セレナの顔色を伺っていたノアだったが話して良いと言われて恐る恐る口を開く。

「こ、このあたり、僅かだけどマナの反応が残っているの。複数のマナが混ざりあったようなあと。街を壊した瓦礫にも同じ反応が残ってた」

「奴らが持っていた爆弾と同じ、ってことか?」

 アルドーレの質問に何度も頷いて答える。

「良いところに気がついたな、ノア」

 いつものように音もなく現れたテコは周囲を見渡してから一点を指差す。

「あれを見ろ。でっかい馬車みたいな轍がいくつも残っている」

 馬車という表現はいささかスケールの違う巨大な溝がいくつも平行線を描いて西に向かっていた。

「巨大な荷車が移動した跡だ。鉄の鳥を運んできてここから飛ばしていた。複数混合された残留マナはあれを飛ばすためのエネルギー源だろう。そしてベルブラントでは爆薬以外に魔導兵器と同じ原理の爆弾が使用され、爆発痕はここに残る残留マナと似ている。そうだろ、ノア」

 テコの解説に言いたいことが全て含まれていたからまたしてもノアは首を何度も縦に振っていた。

「この跡を追っていけば手がかりが見つかるかも、ってことやな。じゃあこの先へ行くしかねぇよな」

 荒野に刻まれた跡を辿ってヘルマたちは西へと歩を進める。


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