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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 大陸騒乱
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meetingⅡ

 街の人々は黒い影を見上げていた。ゆったりと旋回する姿は鳥のようであったが大きさもシルエットも違っている。四足に首が長く大きな翼が生えたその生き物は遥か上空から街の様子を窺っている。

  時折、砦の見張り台から視認できる程度に高度を下げてくる。空からの攻撃に備えているベルブラント砦の見張りが見逃すはずもなく、情報はあっという間に街を囲む城壁を一周する。

「何だ、その空飛ぶ怪物とは?」

 画面越しにファウオーが伝令の騎士に尋ねると正体不明の生物の特徴を伝える。多種多様な魔物や魔獣を見てきた騎士団員も知らない未知の生物の出現に共和国の関与が頭をよぎる。しかしそれもテコが映し出した映像を見ることで正体が判明する。

「あれは黒龍……いつの間に逃げ出したのだ」

「コクリュウ? 知っているのか、ルシファー」

 テコに尋ねられて一瞬顔が強張ったように見えたが変化に気づけたのは今の主人であるアーラぐらいだろう。

「はい、あれはこの世界を廻るマナの潮流を管理する……はずだったドラゴンです」

 聞き慣れない言葉が続いて皆の頭に疑問符が浮かぶのが見えたルシファーは少しだけ思案して説明を始める。

宇宙せかいにはここ以外にも生命が住む大地があります。大地をめぐるマナは強大で一度地上へ吹き出せば一瞬で小さき生命を飲み込んでしまう、そうやって多くの生命はすぐに絶滅してしまうのです。それを防ぐためにマナをコントロールするのがドラゴンの役割なのです。彼らは不死に近い生命力と高い知能を持ち大地に流れるマナを操る能力で星の安定を維持する、所謂星の護り手、なのですが……」

 映し出された黒いドラゴンを見て顔を曇らせたがすぐに表情は戻って話を続ける。

「彼の者は品性も能力も劣るうえに使命を果たそうともせずサボりまくった挙句、一度大地はマナの奔流にのまれて消失しかけたのです。寸でのところで魔王様がマナを抑えてことなきを得ましたが、それ以降は代行者をたててマナをコントロールすることになり黒龍は大地深くに幽閉されていたのですが、なぜ今になって……」

 自然とテコに視線が集まる。それは、なぜお前は知らないのかと言う疑問とドラゴン復活の原因ではないのかという疑いの目だった。

「いや、完全に記憶が戻っているわけじゃないし! 俺は何もしてないからな‼︎」

「それはわかったけど、どうすんのよアレ。人を襲ったりしないわよね?」

 セレナの懸念は当然だろう。傷ついた街に追い討ちをかけられる訳にはいかないのだ。

「魔王様の復活に関係がないとは言い切れませんが、監視を怠った私たちの責任です。我が手で再びオスタリスの地下深くに苦痛と共に封じてまいります」

「封じる? それって生きたまま?」

 ノアの質問に子供はおかしなことを聞くものだと思ったが、ほんの少しその目を見つめて理解する。

「ええ、生きたまま封じます。完全な不死ではないので生死はあります。竜は死しても竜に生まれ変わるといいます。またあのようなポンコツがどこかで生まれてしまっては他の星に迷惑をかけることになるでしょうから。では早速行って参ります」

 他の七司も姿を現して討伐へ向かおうとしたがテコが待ったをかける。

「待ってくれ、良い事を思いついた。魔王おれが関係しているなら試してみたいことがある。ちょっと行ってくるわ」

 そういうと誰の言葉も聞かずにテコは転移してしまう。

 取り残された七司は行き場を失って気まずい空気が流れる。話も中断してしまい一先ずはテコがドラゴンをどう対処するのか見守ることになる。

「あのう、あのような巨大な生物が存在しているのに記録がないのはどうしてでしょうか。私も世界中の文献を読んだわけではありませんが、一切の記述もなく、誰も知らないなんて、古い書物にもない歴史があるのでしょうか」

 アウローラの疑問は大半の者には興味がないことだったがルシファーは丁寧に答える。

「黒龍を封じたのはニンゲン族が生まれる前のことですから記録どころか存在を知る者自体少ないでしょう。当の黒龍も眠らされていたから世界の変容に驚いているのかも知れません。あと人を襲うのかという話ですが、ドラゴンは大地に流れるマナを吸収してエネルギー源とします。自生したマナを放出することもあるので、どちらもコントロールを誤れば大災害となって地上に住む生物には甚大な影響をあたえることになります」 

「直接襲わないけど間接的に被害を及ぼす、というわけね。壮大すぎて人同士の争いが馬鹿みたいに思えてくるわね」

「ははは、確かにそうだ。だが我々は我々のスケールで話をする必要がある。誰が何の目的で戦争を起こそうとしているのか、それにどう対処すべきかを考えて行動しなければな。ただの殺し合いが何世代にも渡って続くなど戯曲のネタにもならん」

 アレックスの言葉に一同は頷くしかなかった。共和国に興味を持つのも紛争の原因を知り打開策を見つけるためなのだ。



 テコが残した映像には黒龍が空中で静止する姿が映し出される。黒龍の視線の先にはテコがいる。

「貴様は何者だ? 我が前に立ち塞がるなど笑止千万、薙ぎ払われる前に立ち去れ。さすれば生命は見逃してやろう」

「は? 随分と偉そうだな」

「我は星の護り手、世界に調和をもたらす者。貴様ら小さき者が短い命を紡げるのは我の力があってこそ。敬い、諂い、礼を尽くして崇め奉れ!」

「誰がそんな事するかよ。ふざけてんのか?」

「貴様……我を愚弄するか。無知なる礼儀知らずには死をもって教えてやろう!」

 翼と両手足を広げた黒龍は小さな砦ほどの大きさであるがテコは動じることもなく薄ら笑いを浮かべている。

「何がおかしい? それとも恐怖で顔が引き攣ったか?」

「いや、滑稽だなと思ってさ。やるならさっさと来いよ、木偶の坊」

 手招きで挑発するテコに怒りを露わにした黒龍の咆哮ははるか上空から大地を揺らす。

「もう許さんぞ! 消え去れ‼︎」

 黒龍が大きく口を開くと高エネルギーのマナが集中し回転しながら球体を形成する。

「くらえ! 【死の息吹(デス・ブレス)】」

 マナが圧縮しきるとテコに向けて光線のように放たれる。だが高圧縮されたマナはテコに届く前に消え去り何も起きなかったように静けさが戻る。

「何がデス・ブレスだよ、カッコつけやがって。魔力と一緒に息吹きかけてるだけだろ? クセェ口塞げよ、バカが」

 何が起きたのか分からず黒龍は唖然と口を開けたままになっている。

「聞こえないのか? その口を、塞げつってんだよ!」

 テコは黒龍の顎を掴むと街から遠く離れた平野に向けて投げ飛ばす。地面に叩きつけられた黒龍にダメージはなくともまだ事態を把握できずに呆然と大地に横たわったままだった。仰向けになった腹に降りてくる勢いで蹴りを入れられ激痛で我に返る。

「き、貴様……何者なんだ⁉︎ 我を投げ飛ばすなど……投げ飛ば、すのは、魔王様ぐら、い……、魔王様?」

「俺の名はテコ。魔王エタルナの転生した姿だ。お前は俺のこと覚えているのか?」

 混沌のマナを感じ取った黒龍は手足を折りたたみ巨体を丸めてひれ伏す。

「ま、魔王様、どうかお許しを! 目が覚めたら封印が解けていて見張りもいなくて様子を見に出ただけなんです! すぐに、すぐに戻りますから、どうか命だけは‼︎」

 人で言うところの土下座のような姿勢で許しを請う姿は威厳も何もなく、人語を操る巨獣とは思えない滑稽さに見ていたアフリが大笑いする。するとつられて何人かが笑いそうなのを堪えていた。

「お前不死じゃないんかい? 手加減はしてやったけど本気でやっても死なないんだろ?」

「いやいやいや、普通に死にますよ! それに存在ごと消されるのと眠るのどっちか選べと良いと言ったのは魔王様でしょう? 存在を消されるとか死よりも酷い……」

「俺そんなこと言ったのか? 確かに酷いな」

「ところで、本当に魔王様ですよね?」

 お前がそう思ったのだし、そう答えたのだがと眉間に皺を寄せて睨むと黒龍はまた萎縮してしまい手で顔を隠す。

「いやでも……アイリス様と一緒じゃないなんて。一瞬でも離れたら死ぬんじゃないかってくらい側に置いていたのに今はあんなに離れて……」

「アイリスの居場所がわかるのか⁈」

 意外な食いつきように驚いた黒龍はまた身を縮めて怖がるが恐る恐る開いた指の間から見える魔王の表情に危害を加えられることはなさそうだと理解する。同時に疑問も生まれて勇気をだして尋ねてみる。

「居場所も何も、あのニンゲンたちの集落の中にいるじゃないですか。清らかなマナは、ってちょっと違う? 側にいるの人は混沌のマナも混じって……現神あきつかみも子供できるんですか? こっちはイーリア様っぽいけど、これもイーリア様の子供?」

 馬鹿なことを言うとぶちのめすと言いながら黒龍の鼻先を殴るテコの表情は落胆の色が見える。

「ち、違った⁉︎ 似ているからてっきり……」


 話を聞いていたシエルの表情も複雑だった。

「テコって束縛するからタイプだったんだ。わたしはされたことないけど」

「あんたぁ、今その話しなくても」

「でもノアちゃんはわたしとテコの子供かもしれないんだね。これからママって呼んでね」

 抱きしめられたノアは困惑したまま苦しいと呟く。

「ダメだ……シエルが壊れた」

 頭を抱えるセレナだったが一向に話が進まないことにファウオーも同じく頭を抱える。

 そこにアフリを移す画面にデシテリアの部下であるバウトが映り込みその大きな声が響き渡る。

「アフリ団長、大変だ! 副団長が眠った隙にイルヴィアさんが飛び出して行っちまった!」

「はあ? よく見とけって言っただろう」

「デシテリア副団長以外に止められるわけがないでしょう! 王都に行って直接叩くつもりらしい」

「デシテリアが予見してたんだろ? それなら止める方法も教えとけよ」

 イルヴィアが単騎で王都へ向かったとなるといよいよ覚悟を決める必要がある。王都には団員の家族も多くいて、街の人たちにも親戚縁者や友人が数多くいるだろう。国の都合で分断されることがないように戦争状態を避けてきたが対立は避けられなくなる。

「イルヴィアを止めれば良いんだろ?」

 テコの声に注目が集まる。

「何とか出来るかもしれない。俺に任せてくれ。……ほら行くぞ、クロ」

 黒龍の首を掴んで転移して映像から見えなくなる。

 何をするつもりかわからないが任せるほかないと皆は諦めにも似た思いで意見が一致する。

 アレックスだけは期待を口にする、シエルは膨れっ面でいる。

 黒龍の騒ぎなどで一時中断なった会議はテコの帰りを待つことになり、一同は疲れたのか誰も口を開くことなく静けさが漂う。

 しばらくして沈黙を破ったのはアルドーレだった。

「団長……俺とヘルマを共和国へ行かせてくれ。ロジを、止めなきゃならねぇ」

「どうしてもダメって言うなら、俺とアルは騎士団を辞める」

 フラムは早まるなと止めようとしているが、ファウオーは目を瞑り考え込んでいた。

 騎士団を辞める覚悟で仲間を救いに行こうする姿勢にプロトルードのメンバーはかつてシエルを救うために騎士団本部へ乗り込んだことを思い出す。それと一緒に救えなかったルゥのことも頭をよぎった。


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