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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 大陸騒乱
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ゼピュロスの三馬鹿Ⅳ

 侵攻してきた帝国軍は数が多く攻め方も巧妙で迎撃に向かった騎士団は苦戦を強いられている。そこでベルブラントからも援軍を出すようにとの指令だった。

「フラムとファウオーは残ってくれ。あまり大勢で向かうわけにもいかないから他の部隊と合流しながら向かう」

「わかった、こちらは任せておけ。編成はどうする」

 カウコーとフラム、ファウオーの三人で話し合いを進め、周りで聞いている分隊長たちは話の流れでどの部隊が選ばれるのか予測する。帝国軍は強力で今回ばかりは撤退を余儀なくされる場合を想定し少数精鋭で向かう流れだった。

「では部隊に関係なく人選する、良いな?」

「ああ、頼んだ。あ、それと――」

 1時間もせずに選ばれた精鋭たちは出立の準備を行い集合していた。その中にはヘルマ、ロージア、そしてアルドーレの姿もあった。

「本気で連れていくのか? こちつらにとっては初陣だぞ」

 初めは耳を疑いフラムは何度も聞き返していた。今なら引き返せるという意味で聞いている。

「大丈夫だよ、基本は後方待機だし。何より僕がついている」

「いや、お前だから心配して……」

「時間がありません。ご武運を」

「おい、ファウオー⁉︎」

「心配すんなって。俺らがぱぱーっと片付けて来てやるから。おっさんは俺らいなくで寂しいかもしれんけど我慢してくれ」

「では行ってくる」

 カウコーを先頭に一団は砦をあとにする。見送るフラムの顔はまだ不安の色が消えずにいた。

「兄さんに野生的な直感はありません。総合的に判断した結果でしょう。我々は無事を祈ることしかできませんが、心配は不要でしょう」

「お前は達観しているのか兄の行動に諦める癖がついているのか……」

「私はただ……信じているだけです」


 数日かけて一団は騎士団本部を経由して戦場へと着く。途中で合流した部隊を合わせると数百人規模であったがそれでも帝国軍に及ばない。応戦している部隊は増援を歓迎していたが、負けを覚悟しどこまで撤退するのかが次の作戦になると誰もが考えていた。

「状況はわかった。部隊を南下させて領内へ誘い込む」

「え? それでは大幅に踏み込まれてしまうのでは? 拠点にされては益々状況は不利になります」

 不安そうに意見する将校にカウコーは笑顔で返す。

「大丈夫だよ。東からの挟撃の可能性を考えれば深くは攻められないはず。実際に僕たち増援部隊は東へ向かって側面を突く。彼らもそこまでバカじゃないから警戒はしているはずだよ」



「よし、本体が南に下がった。このまま進軍し王都への拠点にする」

 帝国軍の司令官はゼピュロス騎士団が南へ撤退したことを確認すると王国領内への進軍を命じる。

「おいおい、司令官殿……流石に罠じゃぞ。進軍しても奴らは反転してくるじゃろ? それを相手にしているうちに側面をつかれる。ボレアースが来たら海軍の二の舞ぞ」

「私に意見するな! いいか、ゼノン。海軍が敗れたからこそ私が戦果を上げて出世するチャンスなのだ。この機を逃すようではまだまだだな。所詮は武力だけの木偶の坊、戦場以外では子守でもしていろ」

 絶大な武力をもって後に“個にして軍勢”とまで称される将兵ゼノンは明け透けな物言いの司令官を冷めた目で見つめる。誰に何を言われても聞き流せるほど周りの言葉を気にしない性格ではあったが子守という言葉には片眉が少し上がる。予測される次の言葉が出た瞬間は司令官の頭を吹き飛ばせるよう腕に力がこもる。

「司令官殿の采配を学ばせてもらおうじゃないか」

 ゼノンの腕に触れて緊張をほぐしたのは若くして士官候補となったアレクサンドリア・ウーヌス、後にクーデターを起こしてシデレニオ皇帝となる少年だった。

「明らかな誘いを敢えて受けてたつ。それを破ってこそなのでしょう、司令官殿?」

 司令官は無表情のままアレックスを無視して作戦概要を指示する。

「若……」

「気にするな、ゼノン。いつも通りで良い」

「うむ、相わかった」


 斯くして南下したゼピュロス騎士団を追う形で帝国軍は進軍を開始する。戦況は帝国軍優勢であったが予測通り側面からカウコーたちの部隊が攻め込んでくる。

 しかし帝国軍は別部隊を伏せていて挟撃を阻む。

「それ見ろ! 猿知恵が私に通用するものか! 行け、進めっ‼︎」

 得意満面の帝国司令官は︎更に進軍を指示する。

 一方で苦戦しているゼピュロス騎士団は撤退のタイミングを見計らっていた。

「このままでは更に撤退することになるかもしれん。であればいっそう本部まで引くか……」

 増援が来てカウコーの指示に従うも劣勢は覆らず弱気になっていた騎士たちは帝国軍の勢いに呑まれそうになっていた。そのうえ一騎当千の将ゼノンを止められずにいたことも心を折るのに十分だった。

「もうダメか……」

 諦めかけていた騎士団の最後方から2頭の馬が駆け抜けて行き最前線に躍り出る。更に後方からも多数の弓矢が援護射撃し道を開く。

「どけどけどけ、退けーーっ‼︎」

 剣を振るうだけで離れた兵士が吹き飛ばされていく。更に異なる種類の魔法による波状攻撃も止まない。

 駆け抜けて行ったのはヘルマとロージアだった。

「ええっ、あいつら⁉︎」

 驚く騎士たちの背後からアルドーレが声をかける。

「ありったけの矢をくれ。あいつらを援護する」

 訳が分からず言われるままに矢を集めてアルドーレに渡す。受け取った矢は3本ずつまとめて放たれ全てが帝国兵を射抜いていく。

「まとめて⁉︎ いったいどうやって……」

 呆気に取られているうちにヘルマたちは次々に帝国兵を倒して追い込んでいく。

「あいつら……。お、おい! ぼさっとするな、俺たちも行くぞ!」

「お、おうっ‼︎」

 息を吹き返した騎士団の猛攻が始まる。

 たった一人で騎士団を蹴散らしていたゼノンも遠方で起こった異変に気がつく。

「潮目が変わったようじゃの。どれ様子を見に行ってみるか」

 ゼノンは馬に跨って進路を定めるや否や斬撃が飛んでくる。手にしていた大斧で防ぐと今度は炎と氷の魔法が同時に襲いかかる。馬から飛び降りてかわすと目の前にはヘルマが勢いよく切りかかってきた。

「テメェが大将かっ⁉︎ いや、もうあんたが大将‼︎」

「何じゃあ、小僧⁉︎」

 何合か切り結ぶがゼノンの攻撃に屈することなくヘルマは打ち返してくる。時折襲いかかる魔法攻撃もヘルマを避けるように撃たれる。

「此奴らの連携、やりおる!」

 周辺の帝国兵が援護しようとするが無数に放たれる矢に近づくことができない。魔法攻撃もゼノンだけではなく他の帝国兵を仕留めていた。

「ははぁっ! お主らやるではないか。久しぶりに楽しめそうじゃ‼︎」

「うるせぇっ! さっさと倒れろ‼︎」

 ヘルマたちの猛攻は続き遂には3対1になってしまう。ゼノンを抑えたこととカウコー率いる精鋭部隊の活躍で形勢は逆転。長時間にわたる戦闘で帝国軍は徐々に撤退に追い込まれていく。そしてとうとう陽が傾き始めた。

「む、日暮か。今日のところはここまでじゃな」

 ゼノンは背後に跳躍しヘルマと距離をとる。尚も攻め込もうとするヘルマに対し武器を収めて一喝する。これには流石に驚いた3人は攻撃の手を止めてしまった。

「もう日暮れじゃ。それにお前さんたち、腹は減らんのか? 今日はここまでで帰って飯を食って休め」

「はぁ? おっさん何言って……」

「戦争しとっても腹は減る。疲れたら眠くもなるじゃろ? 生きるために戦こうとるなら生きるための行動をせにゃいかん。ワシもお前さんたちと剣を交えるのは楽しいが今日はここまでじゃ。また会えたら戦おうぞ」

 ゼノンは近くにいた馬を呼び寄せてまたがると背中を見せて悠々と撤退して行った。ヘルマたちはそれを見送ると3人で顔を見合わせる。

「腹減ったし、俺らも帰るか」

「だな……」

「……」

 ヘルマたちが帰還すると総出で迎えられる。

「スゲェよ、お前ら! たったの3人で、しかも初陣でここまでの戦果を上げるなんてよ」

「本当にもうダメかと思った……全部お前たちのお陰だ‼︎」

 思わぬ賞賛と歓迎に3人は戸惑っていたが、ヘルマとロージアはすぐにいつもの調子で自分たちのお陰だと鼻を高くしていた。

 アルドーレだけは戸惑いが尽きない。次から次へとアルドーレに感謝を伝えに騎士がやって来て、彼を囲む輪が消えなかったからだ。解放されたのは夜遅くになってからだった。

 ひとり夜風に当たっているとカウコーが声をかけてくる。

「戦闘より疲れた……」

「お疲れ様。大活躍だったね」

「まあ……やる事やっただけっす」

「いや、想定以上の働きだったよ。君の矢のおかげでここに帰ってこられた人たちが大勢いる。みんなが君に感謝しているんだ、もっと喜んでもいいんだよ」

「……役に立てて、よかった、です」


 翌朝、帝国軍は全軍を率いて撤退する。

「なんたる様だ! ここまで優勢だったのに何故だっ⁉︎」

 大逆転劇とも言える大敗を喫し、帝国軍の司令官は物や人に当たり散らしてもなお怒りが収まらずにいた。

「言ったじゃろ……罠だと。ちゃんと隠し玉も持とった。あんたの采配ミスで何人死んだと思っとる?」

「ええい、黙れ黙れ黙れっ‼︎ 夜明けと共に……いや、これから夜襲をかけよう。総員戦闘準備をしろーっ‼︎」

 流石のゼノンも戦いを終えたばかりの兵を労わるどころか継戦の号令には呆れを通り越して怒りが湧いてくる。殴り飛ばして本国へ連れ帰ろうかと考えていたところにアレックスが進みでる。

「これ以上の愚策は目に余ります。たった1日で被害は甚大です。撤退し共和国側の防衛に回った方が賢明では?」

「き、貴様……士官候補の癖に何を生意気な! 皇帝陛下の血を引いているからといって調子に乗るなよ」

 拳を固くしたゼノンが前に出ないようアレックスが制止する。

「貴様は陛下の気まぐれで下賎な女を手籠めにしてできた子だろうが。王位継承権は正統な皇子が生まれたことで剥奪、そのうえもう一人産んで母親は死にお前たちは追い出された。それでも陛下のご慈悲で士官できたんだ。実力ではなくお情けだということを忘れるな!」

「貴様ぁ‼︎」

 ゼノンは我慢できずに声を上げるがアレックスは尚も彼をその場から動かさない。

「貴方の言うとおりだ司令官どの。確かに実力でここまで来た自覚は毛頭ない。だからそろそろ実力を見せる時なのかもしれないな」

「なんだその口の利き方は⁉︎ 低俗な身分の血がありありと見えるな。どうせ妹が年頃になれば皇族に色目を使わせて近づき潜り込む魂胆なのだろう。まったく卑しいにも……」

 司令官の言葉はこれ以上続くことがなかった。

「妹を、アウローラのことを悪く言えば首が飛ぶ、そんな噂が流れている事を知らないのか? こいつは部下の事を本当に何も知らないのだな」

「若、流石に司令官はマズくないか?」

 言葉とは裏腹に溜飲が下がった思いが表情に出ている。

「司令官どのは不慮の事故で首を失くされてしまった。これより俺が司令官代行として指揮をとる。欲に駆られて勝手な出兵をするのではなく警戒すべきは共和国だ。夜のうちに帝国領内へ撤退しカランコエの防衛に向かう」

 アレックスの読み通りに共和国は帝国領へ進軍を開始。これを阻止したアレックスは数年をかけて対共和国戦線の最高司令官へと登り詰めていく。


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