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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 大陸騒乱
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ゼピュロスの三馬鹿Ⅲ

 多数のけが人を出したが幸い軽傷者ばかりで大事には至らず騒ぎは収まる。

 しかし監督役のカウコーはフラムのお説教を受けて数時間経つが解放に至っていなかった。

「えっと……本当に申し訳ない」

「は? お前本当にわかっているのか?」

「いやでも、あの三人の戦いぶり見たでしょう? 本当に凄かった……あれ程だとは流石に思ってなくて……」

「話を逸らすな。そもそもお前は——」

 戦いを思い出してニヤけ顔のカウコーにフラムは苛立ちを露わにするが、もうこの辺で勘弁してあげてくれとファウオーが頭を下げてようやく説教が終わる。

「いやはや、今日は長かったね」

 フラムのいかりが再点火する前に兄の頭を無理やり下げさせる。フラムも弟に感謝しろと呆れ顔でこの件を終わらせる。

「もういい、どうせそいつは何を言っても聞かんだろう。それよりも難民の件はどうするつもりだ? 受け入れは可能なのか?」

 少しの間をおいて真面目な顔に戻る。

「パラディス近衛騎士団長の指示だしウチの団長も乗り気だからね。実際にベルブラントでは多数の難民が新しい暮らしを始めようとしている。今更出ていけなんて言えないだろ? 何より多種多様な人種が暮らす街なんて楽しそうで良いじゃないか」

 フラムはまたその話かとうんざりした顔をする。

「共和国は自国民を王国が誘導して引き入れている、これは誘拐や拉致の類ではないかと言っているらしい」

「貧富の差が激しく困窮して逃れてきたと彼ら自身が証言しているのに、そんな馬鹿げた論理が通ると?」

 言いがかりにも程があるとファウオーも思わず口を挟む。

 その意見はもっともだとカウコーは頷く。だが実際はそうではないとも言う。

「普通に考えれば馬鹿げている。それでも戦争が始まる理由は単純なことからだし、侵略するものの言い分は適当で理屈があるようでない。結局は何かしらの利益を求めて他者から奪うための口実なのだから始める理由なんて直ぐに忘れるだろう、そう思っているのさ」

 気が滅入るような話に渋い顔を見せたファウオーにカウコーは能天気な笑顔を向ける。

「ま、相手の言うことなんてコントロールできないんだし、戦いになれば全力で守れば良い。守ってこその騎士団だ! て団長の受け売りだけどね」

「そもそも争いが起こらないようにしてほしいものです」

 そのとおりだとフラムも笑う。ファウオーもいつもの顔に戻っていた。



 フラムとカウコー、ファウオー兄弟は年齢こそ違うが騎士団の同期である。

 宰相官邸襲撃事件の後、本格的にテロ防止に動き始めた王宮騎士団は中央の近衛騎士団と東西南北の四方に騎士団を新設。治安維持と他国の侵攻を防ぐ役目を授けた。

 今いる騎士を5分割するには少なすぎるし戦力を分断しただけになるため国内で大々的に騎士候補を募る。

 その時に三人は出会った。

 募兵で集まったのは貴族でも家督を継げない者、冒険者や農民など様々だ。

 当時のフラムは有名な冒険者で近衛騎士団長のフォルト・パラディスが直々にスカウトしてきた。

 攻撃力には自信があったフラムは凶暴な魔獣を討伐するなど並の冒険者では歯が立たず少し天狗になっていたところフォルトに傷一つ付けられず負けてしまう。周りからは渋々入団することになったと思われているのだが、フォルトの強さに憧れ目標となる。そのうえゼピュロスのエースになれと言われてその気になったからだった。

 因みにフォルトはこの頃、頭角を現し始めたシエルとの稽古で常人の剣筋は止まって見える程に鍛えられていた。


 カウコーとファウオーのルース兄弟は全くの無名であり、孤児院育ちから職を求めにやってきた可哀想な子供たちだと思われていた。

 しかし気がつけば新規採用した騎士たちは皆カウコーの周りに集まっている。

「兄さんは昔から不思議な求心力を持っています。戦闘能力は並でスキルも持っていないのに、人を惹きつけるところだけは天賦の才がある様に思います」

 贔屓目なしの冷静な分析をするファウオーは当時まだ13歳だったが将来の指揮官候補として注目され兄弟で名をあげていく。

 余談だが、見た目と寡黙な性格からファウオーが兄だとしばらくの間思われていた。

 やがて三人は国境線に近い都市ベルブラントに配属され今に至る。



 しばらくは平穏な日々が続いていたが大陸の最北端沖に帝国の船団が現れて戦闘が始まる。海での戦闘は不利と思われていたがボレアース騎士団はこれを撃退。続いて北西の領内でも幾つかの町が被害に遭ったがボレアース騎士団は攻め入ってくる帝国兵を押し返して最強騎士団の名をほしいままにしていた。

「すげぇなボレアース。俺も早く戦いてぇ」

「相変わらずバカ言ってんなぁ。いの一番にやられて来いよ」

 ヘルマとロージアの言い合いもゼピュロス騎士団にとって日常となっていた。かつてのカウコーたちの様にヘルマたちの周りには人が集まってくる。

「なんだよ、三馬鹿って。バカはこいつひとりだろ? なあ、アル?」

「そうだな」

「はあぁっ? お前らも並べた槍の上を板で滑る戦法で爆笑してただろうが⁉︎ あんな方法で移動が早くなるわけないだろう?」

「お前が考えたんだろうがっ⁈」

 ヘルマとロージアが騒いでいる側でアルドーレが見守る構図はファウオーにとっては昔の自分たちの様で少し気恥ずかしくなる。同時に無口なアルドーレが少し心配でもあった。

——彼には暗い経歴の所為で周りと少し距離がある。あの二人と一緒なら心配いらないかもしれないが……


 人を殺した事がある


 初陣もまだの騎士たちにとってはそれだけでも近寄りがたい。大勢の騎士相手に戦った実力の高さも裏付けとなり周りから恐れられている。いつか罪人を見るような目で見られやしないか、その事が気がかりだった。

「あまり心配しなくても大丈夫じゃないかな。戦場では頼もしい仲間なのだと分かれば、彼の周りにも人は集まってくる。ファウオー、君に似ているからこそ僕はそう思うよ」

 兄の言葉に少し嬉しくもあったが気掛かりは残り、やがて騎士団本部から北の国境線に帝国の軍勢が押し寄せてきていると知らせが届いた。


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