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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 獣人狩り
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爪痕Ⅱ

 ルゥとその仲間を騎士団本部へ連れ帰り団長のファウオーに事情を説明すると葬儀の準備を指示してくれた。

「せ、先輩…………、せんぱーーーーいっ‼︎」

 ルゥにしがみついて泣き叫ぶグーテスの取り乱しように他の団員も涙を堪えきれずにいたが彼らのためにと口を一文字にして動き続ける。

 もうひとり、ルゥを失った悲しみにその場から動けなくなった者がいる。

「今ぐらいは側に居てやれ。大切な教え子だったのだろう」

「……すまん」

 カウコーはフラムの肩を叩くと横たわる騎士たちに祈りを捧げて会場の出口へと進む。会場を出ようとすると後ろでテコの声が聞こえてくる。

「すまん、誰か手伝ってくれ」

 振り返ると目が合い会釈すると手を上げて応えてくれた。テコは2体の獣人らしき身体を連れていた。牛と馬の獣人は身体がなかったからテコが探して見つけてきたらしい。

「あまり意味はないけど……気持ち的に、な」

「うん、探してきてくれてありがとう。ルゥ先輩も、安心すると思うよ」

 シエルは目を晴らしていたが普段と変わらない振る舞いをしている。グーテスの声がする方を見るとソルフィリアとアウローラが付き添っている。

「あいつには、堪えるよな」

 見渡してセレナの姿が見えない事に気がつきシエルに尋ねる。

「時差もあって全然寝ずにきたから、今は疲れて眠っているよ。寝てないと……ダメだと思うから」

「お前も無理するな、少し休んどけ」

「ううん、大丈夫だよ。動いている方が……ね」

 そんな会話をしていると段々と人の出入りが多くなっている事に気がつく。ルゥと関わりがあるゼピュロスの騎士たちが最後の別れに訪れていた。

 卒業までの数ヶ月は騎士団にも顔を出してセレナたちとの訓練に参加したり、何人かの団員とも交流があったりした。何より本部に乗り込んで大立ち回りを演じた一人なだけに騎士団内で知らない者はいない。

「失礼。この度はお悔やみ申し上げる。俺も……こんなにも悔しい気持ちは二度とないと思っていたのに」

 ふたりに声をかけてきたのはエヴァンとそのパーティーメンバーたちだった。

「私たちの時とは違うけど……ずっと一緒だった人が亡くなるのは辛いよ。我慢しなくて良いからね」

 リーシャに抱きしめられるとシエルはまた泣きそうになる。

「気遣ってくれてありがとう。大丈夫だよ、まだやらなきゃいけない事もあるから」

「やらないといけない事といえば」

 エヴァンが切り出すとリーシャと他のメンバーが整列して改まった顔をする。

「俺たちも正式に遊撃部隊に任命され新たな任務を受けた。チーム名は『エルーゾン』、任務は北部からの逃れてくる人々の救出……王国からの難民以外に獣人の捜索と保護も行う」

 獣人の保護と聞いてシエルとテコは暗い表情に少し光が差したようになり互いに顔を見合わせる。

「もしかして、ルゥの……」

 力強く頷いてからエヴァンはルゥの方へと視線を移す。

「フルーメン卿の話では先輩たちが助けた獣人の保護をしている人たちがいるらしい。俺たちは彼らを見つけ出して協力することにした」

「ケリンの転移は距離こそテコさんに及ばないけど一度に大勢の人や物を転移できるから」

 リーシャがいうケリンの『転移』とは文字通り転移魔法のことだった。

 訓練中に偶然、ごく短い距離を転移して攻撃をかわした事がありテコの指導のもと習得できてしまった経緯がある。実用的な運用を検討した結果、ケリンはチームを抜けて負傷者や民間人の避難を担当する事に決まっていた。

「ここまで一緒にやって来て……救ってもらえた。私は……このチームに残りたかった」

 ケリンの言葉をエヴァンがつなぐ。

「相談を受けてチームで出来る事はないかと模索しているところにクーデター勃発時の北部からの難民救出や獣人狩りの話を聞き、実績もあったから認めてもらえた。俺たちは今から北部へ向かい先輩が助けた人々の救出に向かう。出来るならば……先輩の手が届かなかった人々も俺たちが救いたい! それを伝えてから出立しようと思って……」

 エヴァンたちの決意を聞いてシエルとテコは嬉しさが込み上げて胸が熱くなる。志半ばで散っていった獣人部隊の魂はゼピュロスの後輩たちが引き継ぐことになる。

「ああ、ケリンなら千人規模でも可能だしエルの魔力譲渡もあるからな。みんな……、頼んだぞ!」

 エヴァンたちはルゥたちの前で祈りを捧げて足早に出て行く。

 数日後、ルゥたちに協力していた者たちや助けた獣人、そしてゼピュロスへ情報を伝えに向かったラリスを見つけて騎士団へと連れてくる事になる。




 時を少し戻してセリアヌスで銀狼旅団との戦闘を終えた傭兵団は取り逃がしたルゥの捜索を諦めて街はずれに集まっていた。

「残ったのは俺たち5人だけ、銀狼も見失った……。これからどうするんです、リーダー?」

 険しい表情のまま黙り込む炎渦は明らかな苛立ちを見せている。ノアは炎渦の視界に入らないよう少し後ろに下がって黙っている。

「被害が大きすぎる……このまま撤退するか?」

 日が昇り操っていた騎士たちを銀狼の捜索に駆り出すことはできない。騎士たちを操っていたのは炎渦の独断でだからだ。団長のカイ・エキウスに知られて戦闘になれば今の人数では太刀打ちできない。

「クソっ! どうする……。しかし、こちらは旅団を壊滅させ魔石を7つも手に入れたんだ。働きとしては十分だろう⁉」

 炎渦の独り言に背後から答える声が聞こえる。

「ぎりぎり及第点だな」

 聞き覚えのある声に炎渦の心臓は跳ね上がる。立ち上がって振り返ると既に団員が武器を構えて前に出ている。ノアも急いで団員の陰に隠れるように移動する。

「お、お前は……騎士団長の…………」

「回収した魔石を渡せ。俺は雇い主の代理だ」

 どこからともなく現れたボレアース騎士団団長のカイは早く渡せと言わんばかりに手を伸ばす。

「ま、待て……今回の俺たちは被害が大きい。聞いていた話と違ってだな……」

「黙れ、貴様らが払うコストなど知ったことか。依頼通りの仕事ができないならお前らに価値はない」

 カイの刺すような視線に耐え炎渦は反論する。

「ま、魔石ならここにある。お前たちが手を焼いていた銀狼旅団も俺たちが壊滅させた。大した情報も提供されないまま俺たちは依頼通りの仕事はした。たった半日で達成したんだ、報酬をはんずんでくれても文句を言われる筋合いはねえ」

 カイは溜め息を吐くと懐から拳大の魔石を取り出して炎渦に見せる。

「銀狼の魔石だ。追い詰めたまでは良かったが詰めが甘い。それに……」

 言葉を区切るとカイの視線は更に冷たさを増して殺気がこもる。

「俺の騎士団に手を出すなと忠告したはずだ。そこのガキともども死にたいのか?」

「ぐっ……」

 最大のターゲットであった銀狼を逃してしまい勝手に騎士団員を操っていたことがバレてしまっている。ここでカイを相手にしても勝ち目がないと悟った炎渦はおとなしく魔石の入った革袋をカイに放り投げて渡す。

「分かった……。だが報酬はきっちりいただく」

 受け取った袋から魔石を取り出して確認するとカイはもう一度溜め息を吐く。

「失った兵隊2人に対して魔石一つか……効率が良いとは言えないな」

「てめ……」

 傭兵の一人がカイに歯向かおうとしたが炎渦が静止する。

「で、報酬と次の仕事は?」

「報酬は後だ。先に次の地点へ移動してもらう」

「何だと? 俺たちは予備兵を招集して物資の補給が必要なんだ。じゃねえと次の仕事なんてできねぇ。報酬と補充が先だ!」

「慌てるな、待機させている予備兵も次の地点に呼んでいる。じきに迎えが来るから合流して準備をしろ」

 舌打ちで不満を見せながらもカイの指示に従うことを伝える。

「で、依頼主はこないのか?」

「昨夜の魔力の波動はお前たちも感じただろう? “あれ”にてられたようでな」

「はっ、情けねぇ。そんなんで次の作戦は大丈夫なのかよ?」

「支障はない。次の作戦が成功すれば報酬を倍にしてやる。王国との武器の売買契約も実現させるそうだ。精々励め」

 そういってカイはその場を後にする。緊張から解き放たれた炎渦をはじめとする傭兵たちは不満を口にしながらも次の報酬が倍になることや自分たちの売り込みに成功したことに満足そうな笑みを見せていた。

 ほどなくして迎えが来る。そして炎渦たちは次の戦地へと向かうためセリアヌスを後にする。


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