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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第1章 騎士学校編 入学試験
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入学試験Ⅷ

「来い!」

 フラムから先手を促され試合が始まった。

「行きます!」

――呼吸置いた刹那にはフラムの目の前で右手の剣は振り下ろされていた。

――速い!

 最初の一撃を防ぎ、左手からの2撃目を警戒したのか防御態勢を崩さずにわずかに距離をとる。シエルは構わず間合いを詰めて剣戟を繰り出すが全て右手のみであった。それでも四方八方から出される高速の剣筋は並の剣士では捌ききれないだろう。

――やはり二剣持ちはブラフか?

 そう考えつつも警戒は怠らない。左手はバランスをとるためだけに動かされ攻撃の気配がなかったとしてもだった。

――まさか……

「舐めているのか?」

 攻撃を大きく弾かれたシエルはバックステップで一度距離をとる。反撃を意識したというよりもフラムの言葉に反応したようだった。

「試しているのはこちらだ。あまり調子に乗るな!」

 開幕のシエルほどではないがフラムもかなりのスピードで間合いを詰め、剣を振り下ろしてきた。シエルは右手の剣で受けたが両手剣の重い一撃には敵わないと悟り、受け流すように回転し身をかわした。

「重い……」

「逃がすか!」

 すぐさま剣を横なぎにシエルを追う。上手くかわしたつもりだったがフラムが最短距離で詰められる位置に誘導された。1撃目よりも半歩踏み込まれ、鋭い切っ先が弧を描きシエルに襲い掛かる。

「使えるじゃないか……左手」

 両手に持つ剣を交差させ一撃を止めて見せた。

「試験だぞ……全力でやれ!」

「じゃあ先生も全力でお願いします」

「生意気を!」

 何合切り結んだかわからないほど高速の攻防が続く。両手から繰り出される斬撃に素早く反応し、重い反撃の太刀を浴びせてくる。

 基本フラムの斬撃は3段である。上段から振り下ろし、薙ぎ払い、袈裟切りに打ち付けてくる。左右どちらからか以外は比較的読みやすい。まだ全力を出していないのか、一つの型を突き詰めているのか。もしかすると隠し玉があるかもしれない。シエルもそれを想定して踏み込めずにいたが、それ以上にフラムは防御が上手かった。

 二剣での攻撃に切り替えてからの方が攻撃のいなしやステップの巧みさが際立つ。素早い攻撃にも大きく重量のある剣を上手く扱い、時にかわして間を取り相手に有効打を与えないよう仕向けていた。

――普通に強いな。教員なんかやっているぐらいだからそこそこぐらいかと思ったが……もしかすると現役か?


 フラムのギアが徐々に上がり3段攻撃の間が短くなっていく。左右どちらからも繰り出され、3連撃が徐々に6連、9連と増え続け防戦一方になってしまう。

「どうした? 受けるだけで終わりか?」

 シエルも連撃を両手の剣で防ぎ、かわしながら場外に追いやられないよう上手く足を運んでいる。

 あまりにも高レベルな攻防に観衆は唖然とするしかなかった。

「すごい……あれだけの攻撃を受けきっている。……とてもじゃないけど、わたしではシエルの相手にならなかったわ」

「……フラム・シュヴェーアト……? もしかしてゼピュロス騎士団の《炎剣》フラム……?」

「《炎剣》て……元副団長の?」

「はい、西の国境線での戦闘の際に単騎で辺り一帯を焼き払ったと言われるあの《炎剣》です」

「そんなすごい人と渡り合うなんて……。急にやじ馬が増えたのもその所為なの?」

「多分そうでしょうね。僕はお顔を存じ上げませんでしたが、結構有名な方だそうですから」

 二人の会話からフラムがただの教員ではない強さに納得がいく。逆に言えば平均値の高さに対する期待は裏切られた。平団員でこのレベルなら噂の騎士はもっとすごいのかと思ったのだが……。

『あのフラムってやつ、噂になるぐらいのすごい騎士らしいぞ』

「え、そうなんだ! じゃあ……」

 シエルは3段目の重い攻撃を真正面で両の剣を交差し受け止める。と同時に流れるようにフラムの剣先が地面へと向かう。シエルは交差した剣で受け流すに合わせ、身体を回転させながらフラムの側面に詰め寄る。そのまま横なぎに二剣の切っ先を相手の死角から放つ。

 フラムは受け止められた攻撃が不意に消えたように感じたはずだ。確かに受け止められた感覚はあっただろう。それなのに、いつの間にか剣は地面を裂いている。そして視界の端に相手がいることにも驚くだろう。

――マズい!

 騎士としての百戦錬磨の勘だろう。右目の端に捉えた影に死の恐怖を感じる。反射的に左へ、転がるように身をよじりかわした。

 シエルの攻撃は空を切り、時が止まったように静まり返った。

 フラムはすぐさま体勢を立て直し大きく間をとった。


 同時にシエルも構えなおし再び対峙する形に戻った。観衆も呼吸を取り戻し、歓声を上げる者や何が起きたのかわからず周りに確認をとる者などざわつき始めた。

「今のは……何が起きたんだ?」

「全く攻防が見えない。レベルが高すぎやしないか?」

「しかし最後の攻撃はかわせなかったらヤバかったんじゃないか……?」

「それをかわせるからシュヴェーアト様はすごいのよ!」

 口々に興奮した言葉を放っている。


「本当にすごいです。魔法やスキルを使わずにいったいどうやってあんな動きが出来るのだろう?」

「まだまだ本気じゃなかったのね……。ところで魔法はともかくとして、スキルを使っていないってどうやってわかるの?」

「あ、えと……スキルを使用するにもわずかに魔力を消費するじゃないですか。その時にわずかな魔力が放出されるんです。……商人の息子なので変なところを観察する癖があって。錯覚スキルで代金や商品数をごまかそうとする人もいますので。その……スキル使用時の魔力の動きが見えることがあるんです」

「へぇ……スキルにそんな現象があったなんて初めて知ったわ。グーテスはそれを見ることが出来るのね。すごいわ!」

「いや、集中していても僅かなので! シエルさんがスキルを使っている可能性もありますから!」

 褒められてそんなに慌てて謙そんすることもないだろうに。というかスキルの使用にそんな現象があるなんて俺も知らなかった。

――集中しているとはいえグーテスでも感じ取れるなら達人級になると当たり前に出来そうだから対策を考えないと


 とはいえ対峙しているフラムがスキル感知できる可能性は極めて高く、既にその能力を使用しているかもしれない。

 これまでに他の受験生が強化スキルを使用していることもあった。だから多少の警戒はあったはずだ。

 だがこの対戦でシエルはスキルを一切使用していない。だからフラムの動揺を誘っているかもしれない。この世界にスキル感知の対策がすでにあったとしても、一受験生がそれをすることに驚きはあるだろう。そろそろ相手の目の色が変わってきてもおかしくはなさそうだった。


「結界を張れ!」

 フラムがそう叫ぶと両手剣は炎を纏い大剣のように姿を変えた。わずかではあるがフラム自身もうっすらと炎を纏っているようにも見えた。

「待てフラム!」

 舞台上の試験官が思わず呼び捨てで制止するもフラムの気炎に呼応するように纏った猛火は更に激しさを増す。

「お前の実力はわかった。今度はそれで何が守れるのか見せてみろ」

『あいつ結構マジだぞ。気をつけろよ、シエル』

「うん、わかった。大丈夫」

 舞台の周りにいる試験官数名が慌てて周囲で観戦していた受験生を下がらせて魔法結界を展開していく。結界の中には舞台上のシエルとフラム、試験官の3人だけとなった。

「お前も下がれ」

「馬鹿をいうな! 受験生を残して行けるか! 万一があってたまるか!」

 さすが騎士団員の一人だ。命に代えてでも受験生を守るつもりらしい。それに近衛騎士団長の娘に傷でもついたらヤバいだろうに。少し同情してしまう。

「大丈夫です。あの……そこにいられる方が危ないかも……なので」

 戸惑ってはいたが凡そは察してもらえたようだ。巻き込まないように気を遣っていたのは今に始まった事ではないのだが。

「せめて舞台の下にいていただけると助かります」

 シエルの笑顔でお願いされて落ちなかったのは屋敷の執事長ぐらいしか俺は知らない。

「降りていてくれ。頼む」

 フラムの言葉に観念したのか試験官は舞台袖に降りたが、決してやり過ぎるなとフラムに釘を刺している。いざとなれば自分が割って入るとも。

 残念ながらそれは無理だろう。これから始まる攻防に割って入れる奴はそう多くはない。試験官たちの実力がわからないから断言はできないが、シエルが危うくフラムの首を刎ねかけても反応できなかったのだから。

 ここにいる全員にとって想定外の事ではあるけど、また起きる可能性はある。相手のレベルやステータスを確認できればある程度対処のしようもあるかもしれない。天の声経由でできないか試してみても良いかも。


 などと考えているうちに双方、臨戦態勢が整った。フラムの炎は激しさよりも熱を高めているように見える。シエルもそれに合わせて〖魔技マギ〗による【強化エンハンス】の濃度を高めている。

 まさか入学試験でこの国のトップレベルの騎士と対峙するとは思わなかったが、シエルの力を計る良い機会に恵まれた。

 シエルが知りたい真実はこの国の中枢と闇にふれるものだから、たくさんの関係ない人を巻き込むかもしれない。その時に後悔しないよう力をつける努力を一緒に続けてきた。

 それは十分に足りているのか、もっと必要なのか?

 シエルと俺の本当の試験が始まる。


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