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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 獣人狩り
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銀狼と騎士Ⅺ

 ボレアースの騎士たちも剣を抜いてじりじりと迫ってくる。

 異国の傭兵は半数以下になっているが残っているのは戦闘能力の高い者ばかり。マナによる身体強化だけではなく姿を消す術や瞬間的な高速移動などの戦闘スキルを駆使するがルゥひとりを相手に苦戦し今や本気になっている。

 それでも今のルゥなら互角の勝負ができる。勝てずとも負ける事はない。

 誤算は行動を操られる能力が音声によるものだと思っていたが違ったことだった。

「クソったれ……気合い入れろ、ルゥ・アインザム!」

 シェルティオが上空からもう一度【虚なる叫び(フェイズ・ハウリング)】を放つ。同時にルゥ自身も雄叫びを上げる。

「マナの波動? 遠くからのと、同じ……混沌の波動⁈」

 ノアが怯むとルゥは身体の自由を取り戻す。即座に周囲の騎士数人を倒してノアへと迫る。

「元凶を絶つ!」

 疾風かぜの爪に力を込めて振りかざす。

「いや、やめて……」

 フードからのぞく少女の目には涙があふれ恐怖で引きつっている。


——殺さないで


 一瞬ためらったルゥは側面からの蹴りに吹き飛ばされる。

「危ねぇ……大丈夫か、リーダー?」

「ああ、問題ねぇ。……っ⁈」

 仲間に助けられた炎渦はノアを繋いでいたスキルの鎖が手元にない事に気が付く。ルゥの攻撃に腰を抜かして座り込むノアは自身の首に繋がれた枷がないことに気が付かず声を出すこともままならないでいた。

「……あの狼、鎖を切りやがった! 【隷属の首輪(サーバント)】」

 慌ててスキルを発動して枷と鎖をつなぐ。

「切れるものなのか?」

「知るか!」

「頼むぜ、リーダー……そのガキを野放しにしたら世界が滅ぶぞ」

「いいからさっさと狼の魔石をってこい!」


 吹き飛ばされたルゥに巻き込まれて何人かの騎士が倒れている。おかげでルゥは左程大きなダメージは負っていない。

「畜生……、散々殺しておいて死にたくねぇとか、あのガキ……」

 ベルブラントで助けた子供たちと歳は同じぐらいに見えた。あの能力ちからをもつ所為で無理やり従わせられているのかもしれない、と一瞬でそこまでは考えたわけではなかったが躊躇いが隙を生んだことは間違いない。

「次は……迷わねぇぞ! それにタイヨウの考えは間違っていなかった。ただ声が伝わるのは……」

 ルゥは騎士学校を卒業前にゼピュロス騎士団でテコたちと話したことを思い出す。


「ルゥ先輩はどうやってシェルティオから自分の声を出しているのですか?」

 グーテスの唐突な質問にしばらく考えてから答える。

「お前は自分の声がどうやって口から出ているのか説明できるか? できるからできるんだよ」

「何それ? 答えになってないじゃない。音が伝わるのは空気の振動とかそういうのを期待していたのに」

 セレナのがっかりした顔に『知らないものは知らない』と強がって見せたが尻尾はうなだれていた。

「マナで音を伝えているんだろう?」

 近くで聞いていたテコが口をはさむ。

「世界の至る所にマナをはじめとした魔力素子は存在する。振動するわけじゃないけど“音の情報”を伝える性質はある。特に風のマナはその性質が強いから風属性のシェルティオも魔力素子でルゥの声を伝達させて発声している……そんなところじゃないか?」

「意外と博識なところ見せるじゃない」

 セレナに関心とも驚きともとれる表情で言われてテコは不快感を示すがシエルの次の言葉ですぐに機嫌を直す。

「テコもわたしと同じぐらい本を読むし、【全知観覧アーカイブ】で色々なことを教えてくれるの。実はすごく物知りなんだよ」

 感心する一堂に鼻が高くなる思いだったがグーテスに水を差される。

「あまり活かせているようには……」

「グーテス、何だこのヤロー? 俺に喧嘩討ってんのか、ああっ⁈」

「ガラが悪いよ、テコ。めっ!」


 まだ手足に力が入ることを確かめる。連戦と長丁場で体力も魔力も消耗している。だが特にあの行動を制限される能力は今のうちに叩いておく必要がある。次に戦うことになればきっと姿を隠したり守備を固めたりしてくるはず。チャンスは2度とないだろう。仲間の敵討ちと次につなげるため……そう思えばまた戦う力はわいてくる。

「マナによる音の“情報伝達”……それだったら遠くに離れていても聞こえるだろう。何かで個人を特定すればピンポイントで届けることもできる。特定範囲内の不特定多数かピンポイント……個人を狙うにはそれなりに制限がありそうだな。でもカラクリがわかれば対処もできる。試してみるか」

 エーテルの腕を2本生やしてもう一度炎渦とノアに向けて突進する。

「そろそろ狩られろ、銀狼!」

 3人の傭兵が正面と右側面、そして上空から攻撃を仕掛けてくる。

 正面と側面の同時攻撃を受け流して上空からの攻撃もかわすと3人まとめて疾風で切り裂こうとする。

「【城壁ランパート】」

 傭兵の一人が腕をクロスさせると鉄のように硬化して壁になり遮られる。後ろに隠れていた別の二人が同時に魔法で反撃する。後方宙返りで躱すとそのまま距離を取る。着地すると一蹴りで炎渦との距離を詰める。

「させるかよ!」

 タイヨウを連れ去り体内から魔石を奪った傭兵がまたしてもルゥの攻撃から炎渦を守る。

「お前がナンバー2か⁉」

「戦闘力だけなら俺が1番だ! 【亡霊レイス】」

 姿を消してしまうが気配で背後に移動していることは察知できる。

「それがどうした!」

 ルゥは傭兵を無視して炎渦へ向かっていく。

「こいつ噓だろ、無視してリーダーを⁈」

 虚を突かれた傭兵は慌ててルゥの背中を追う。

「死ね! 【疾風の爪(ガスト・ファング)】!!」

 炎渦に狙いを定めて襲い掛かる。

「ノア!」 

 炎渦は命令しながら鎖を操りノアを自分の前に引き寄せて盾にする。


【止まれ、銀狼】


 攻撃される恐怖に怯えながらもノアは呪いの言葉を口にする。


銀の雄叫び(キャンセリング・ロア)


 ルゥの動きは一瞬止まってしまったがガラスが割れるような音と共に自由を取り戻す。そして勢いを失ってしまった事で鋭い爪はノアの目の前で止めることができた。

「やはりな、グーテス仕込みの魔力障壁を混ぜたマナの位相音だったら打ち消せる」

「マナの位相音⁉ そんなことが……」

 思いついても即実行するには高難易度のマナ操作が必要であり習得すら困難だろう。理論的には考えたことがあるノアでさえ実現は不可能と思っていた。

 驚愕すると同時に少し嬉しそうな表情を浮かべるノアを見てルゥは少し戸惑う。


——やはり無理やりに……


「こっちに来い。助けてやれるかもしれねぇ」

「助けて、くれる……?」


「動くな、銀狼。こっちを見ろ」

 炎渦の声にノアも振り向く。炎渦の側には幼い少女が刃物を握って立っていた。

「ああ……ち、違うの! ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい! ぼく、ぼくは……」

 子供を見たノアは取り乱してその場で泣き出す。

「何だ? 何があった⁈」

 ノアの取り乱しようと炎渦の気味の悪い笑い。少女は怒りに満ちた表情でルゥを睨み続けている。

 傭兵と騎士は遠巻きにルゥを包囲している。傭兵は弾切れなのか銃は構えておらず短剣などの武器を構えている。

「手こずらせやがって。思ったとおり、子供相手にはまともな攻撃はできないようだな。こいつらヘボ騎士よりもよっぽど騎士道を弁えている。ウチの兵隊も半分以上はお前がられた。だが、これで終わりだ」

 少女はルゥに近づいてくる。

「ノア、やれ」

 怯え切った様子のノアは首を横に振って拒否を示す。

「命令だ、やれ! それともお前も死にたいのか?」

 首に繋がれた鎖が締まりノアは鎖を外そうと首をかきむしるが自分の首を傷つけるだけで意味はない。

「死にたくなくてやったんだろ? 最後までやり切れよ——」


 殺戮者レーヴァテイン


 ノアはすべてを諦めたように力なくその場に崩れ落ちる。

「ぼくは死ねない……殺さないで…………もう誰も殺したく…………」

 あとはひたすらに謝罪の言葉を唱え続ける。

 周りを取り囲む敵と近づいて来る少女を警戒しつつノアの様子も気にかける。

「いったい、どうなってやがるんだ?」

 炎渦も動く様子はない。

「さあ始めろ、ノア!」

 ノアは『ごめんなさい』を繰り返して泣いている。


【銀狼よ、その子の言葉を聞け】


 虚を突かれて防ぐことができなかった。ノアの口からではなく全身で言葉を浴びたような感覚だった


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