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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 獣人狩り
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銀狼と騎士Ⅴ

「クソっ! どうなってやがる⁉︎」

 ルゥたちたった10人の銀狼旅団は謎の傭兵たちとボレアースの騎士に追い立てられていた。

 助けた獣人たちを匿うセーフハウスに異変が起きた。人間の協力者たちも騎士団の標的になったため彼らを助けるためにルゥ達は罠と知りながらも救出に向かう。

 協力者たちを助け出すところまでは良かったが騎士団の動きがいつもと違っていた。

 普段は獣人と見るや切り掛かってくるような血の気の多い騎士たちが連携して退路を塞いでくる。

「まるでどこかに誘導されているようです。みんな気をつけて!」

 タイヨウの注意喚起にルゥがはっと気づく。

「どうして全員で固まって動いているんだ⁈ 散れ!散開っ‼︎」


【離れるな】


 何処からともなく声が聞こえた気がする。しかし今はそれどころではない。

 こちらからの攻撃も十分な距離を取られていては効果を発揮できない。徐々に袋小路に追い詰められていく。

「上だ! 飛べっ‼︎」

 ジャンプ力がないアルボレ、アウストの巨体をルゥは持ち上げて投げ飛ばすと上昇気流を起こして一緒に屋根上に登る。他のメンバーも気流に乗るか自身の跳躍力で同じ屋根に登る。

——おかしい……動きが違うのは奴らだけじゃねぇ……俺たちもいつもの動きじゃねえ

 屋根をつたって逃げながらルゥはタイヨウとタリタに向かって叫ぶ。

「違和感を探せ! いつもの俺たちならどうしているか思い出せ!」

 タイヨウはハッとうたた寝から目が覚めた思いで全身から汗が吹き出すのが分かる。周囲を見回して止まっていた思考をフル回転させる。

「なんて事だ! 精神操作なのか……スキルというよりも術のような……」

 タリタも同じく鋭敏な五感を取り戻す。他のメンバーもルゥの言葉の意味がわかるといつもの調子を取り戻す。

「嵌められた。いつから、どうやってかを考えるのは後だ。タニアとラリスは街を出てゼピュロスを目指せ。ノトスにも今の事を伝えろ」

 走りながら指示を飛ばす。

「アルラ、ムシダはタイヨウについていけ。タイヨウ!」

 重要な役割を与えるときは必ず名前を先に言う。ルゥの癖でもあるが仲間たちはこれでスイッチが入る。

「立て直すぞ」

 たった一言だったが全てを理解できた。

「タリタ、アルボレ、アウスト! 四方に分かれて奴らを引きつけろ。タイヨウたちを援護する。行けっ!」

 一行は掛け声と共に各方へ飛び出して行った。


 ルゥはその場に留まり追手を迎え撃つ為にマナを全身に巡らせて自身を強化すると遠吠えを街中に響かせてその存在を示す。

「よし、来やがれ」

 屋根上から見下ろすとボレアースの騎士が数十人と異国の傭兵団が集まって来ていた。そこには傭兵団リーダーの炎渦の姿もある。傍にはフードを被った人物と数人の団員がいる。

「囮になって仲間を逃したか。殊勝なこった」

「囮? バカを言え、お前らなんざ俺一人で十分だ」

「……そうかよ、なら良かった。囮になっていないから傷つくんじゃないかと心配してやったんだ」

「はっ! 余計なお世話だ。心配ならテメェの心配をしやがれ!」

幻爪ファントム

 ルゥの肩上から蒼白い炎が立ち上ると大きな狼の腕が浮かび上がる。

「ほう……幻装使いか?」 

 4本の腕から風の刃を繰り出して先制攻撃を仕掛ける。騎士の何人かは躱すことができずに切り裂かれるか防御したまま吹き飛ばされる。傭兵たちは躱すと同時にルゥの左右に展開する。

 壁をよじ登る騎士たちを尻目に傭兵たちは屋根よりも高く跳躍し攻撃の狙いを一点に定める。

「スキルじゃない……こいつらもマナを!」

 飛んできた短刀のようなものをエーテルで作り出した腕で弾き、直接攻撃は剣と強化した爪で防ぐ。同時に切り掛かってきた一人を蹴飛ばして返し刀で反撃するが相手もうまく回避して距離をとる。

 一瞬の間ができると銃声が聞こえる。反射的にその場から離れて音と反対の方向にある遮蔽に身を隠す。この動きに炎渦も他の傭兵団も驚いていた。

「反応しただけではなく身を隠した。こいつ銃を知っているのか?」

「幻装を知っているから多分……」

 フードの人物が言葉を発すると炎渦は見えない何かを引っ張る。

「うっ……!」

「分かってんだよ、そんなことは! てめぇは喋んなつってんだろうがっ!」

 さらに強く引くともっと苦しそうに首を押さえて呻き声を上げる。よほど苦しいのか膝をついて踠いていると炎渦に武器で殴りつけてられてフードが取れてしまい顔を晒す。

——子供? 奴隷か……? しかし何故こんなところに連れて来ている

「いや、それよりも……あれはセレナの魔弾?」

 咄嗟に躱せたのはセレナがグラウリから放つ魔弾を見て知っていたからだった。セレナは天の声グラウリの形状を変化させて炎のマナでコーティングしたエーテル弾を放つ技を持っている。

 セレナと比べて弾速が劣るから回避できたといえる。

「劣化版とはいえ武器として確立させている。まさか持っているのは……」

 四方から銃声が聞こえると屋根を壊して屋内に逃げ込む。

「やっぱりか! 全員があんなモノ持っているなんて反則だろ!」

 危惧するのは他のメンバーが対峙している相手も同じ武器を持っていること。初見で対処するのはかなり難しく、致命傷になりかねない。

「みんな、無事でいてくれよ」


 傭兵団の人数は全部で20人。その内、炎渦とノアを含む10人がルゥに狙いを定めていた。残りの10人は二人ずつに分かれて他のメンバーを追っていた。

 ルゥの不安は的中し追ってきた傭兵全員が銃を携帯していた。

 しかしまだ誰もその脅威に晒されてはいない。

「弾を無駄使いするとリーダーが怒るからな」

「ああ、ここぞって時にしか使えねぇ。リーダーはすぐにぶっ放つのにな」

 傭兵にとって銃は切り札らしく温存している。

「ここで戦果をあげりゃあ、王国や教会に高く売れるって話じゃないのか?」 

「知るかよ。とりあえずトドメに使えばいいんじゃねぇの?」

「何やら切り札があるようだな」

 二人の傭兵に後ろから斬りかかったのは犬系獣人タリタだった。

 気配を消して斬りかかったはずだったが躱されてしまう。

「危ねぇ、危ねぇ。獣人相手は油断できねぇ」

「我の剣を受けず避けるか。ならばこれはどうだ」

 タリタの高速の剣戟が二人を襲いダメージを与えるがかすり傷程度だった。

「こいつは強ぇな。アレ使うか?」

「いや、まだだ。アレを使うぐらいなら銃を使う」

 他の騎士が次々と斬りかかってくるがタリタは全て受け切っては切り伏せていく。


 タリタをはじめとした銀狼旅団のメンバーは領主護衛の任務の際は並以下の能力しかなかった。

 ボレアース騎士団の思惑によって入団できただけで他の騎士団試験では入団できるレベルではなかった。獣人としての能力があっても騎士学校で上の中程度だろう。

 そんな彼らを基礎から鍛えて任務をこなして行き、今では一人で数十人の騎士を一人で倒せるまでに育てたのはルゥだった。

「ここまで鍛え育ててくれた恩に報いるには生き延びてリーダーの念願を成就させることのみ!」

 タリタの剣才に気づいたがルゥの剣術は我流であり騎士学校時代に学んだ基礎しか教えられなかった。それでも真面目なタリタは基礎練習を愚直に行い続ける。

 ルゥがタリタの剣才を感じたのは2回。ただの基礎練習を独自の型に昇華しはじめた時だった。

 剣対その他——

 あらゆる攻撃方法があることを知るルゥはタリタにそれを教えて乱戦や未知との1対1に対処できるよう鍛える。それは他のメンバーの強化にも繋がりチーム全体の強化が早く進む結果にもつながった。

 タリタは最前線で戦えるアタッカーとしてチームから信頼されている。鋭敏な聴覚と嗅覚で敵の位置を正確に把握し鍛え上げられた技はマナで強化された瞬発力によって無敵の剣術となった。


 タリタの一番の長所は観察眼だった。仲間や他の騎士の太刀筋を見て分析したことが上達につながっている。

 その長所は戦闘にも活かされていて攻防の間も二人の傭兵からは目を離さずにいた。——はずだったのだが突然傭兵は姿を消してしまう。

「消えた? どこに……」

 わずかに動揺したが周囲の警戒は怠らない。近づく音は消せず独特な異国の匂いで場所が特定できる。

「そこか!」

 振るった剣は傭兵の身体を袈裟斬りにするがわずかに後ろに逃げられて浅く入っただけだった。追撃を仕掛けて仕留めようと踏み込んだ瞬間、大きな音と共に左肩を何かが掠めて行く。すぐ後ろにいた騎士が叫び声をあげて倒れる。同じ音が鳴る瞬間に物陰に飛び込むと遠くにいた騎士が同じように倒れた。

「何をした? 魔法……なのか」

 自分が元居た場所を見ると前方とすぐ左側から傭兵が姿を現す。手には銃を構えていた。

「一時的に姿を消すスキルか。あの見慣れぬ物が騎士を……。実に厄介な」

 同時刻、ルゥとタリタ以外も別々の場所で傭兵たちと対峙し銃の存在に苦しめられていた。


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