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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 聖女審判
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神の審判Ⅸ

 何が起きたとしてもテコには何とかできる自信があった。その自信が少し揺らいでいる。

 目の前には泣き崩れているソルフィリアが居る。彼女は両親の事は諦めていると言っていたが会って話ができる方が良いのだろうと思っていた。

 しかし感動の再会は何故か教会に利用されてこちらからの告発を有耶無耶にされてしまう。

 事前に掴んだ情報では何らかの方法で毒を盛られるらしい。それはふたりにとって大したダメージにはならないが、今のソルフィリアの状態で無効化できるのかと思ってしまう。

 そもそも飲まされるとは限らない。霧状にして散布されても普段のソルフィリアなら空気中の水分をコントロールして中和か除去できるだろう。それが出来ないとなればティミドやベニーたちも危ない。

——ぶっつけ本番で俺がやるか?

 色々な策を考えている間にクロリスがソルフィリアの傍に寄り添い何かを耳打ちしていた。顔を上げたソルフィリアは動揺の色は隠せていないが涙は止まっていた。クロリスはソルフィリアのメイクを落とさないように涙を拭ってあげテコの隣へと戻る。

「なあ、いったい何をしたんだ?」

「おまじないのようなものです。精神を安定させる作用がある香りと少しの助言です」

 自由奔放なイルヴィアを幼少期からコントロールしてきたクロリスは相手の気持ちを落ち着かせる術に長けている。知らずにスキルへと昇華し使いこなせるまでになっているがクロリス本人はあまり気にしていない。


 立ち直ったとまでは言えないが平静を取り戻しつつあったソルフィリアをみて“水瓶”の枢機卿の片眉が上がる。その様子が見えていないはずの“天秤”の枢機卿が咳払いをすると表情が戻った。それと同時に扉が開き布に覆われた人の背丈の倍はある大きな板らしき物が台車に乗せて運び込まれてくる。

「では彼女らに資格が有るのかどうかの話をしましょう。シエル・パラディス、貴女の姿は神アイリスの御姿によく似ていると言われている。その理由はこの絵を見てもらえればわかるだろう」

 大きな板を覆っていた布を神官がゆっくりと降ろしていくと所々傷んだ絵画が姿を現す。

 その絵画に描かれている女性の姿はシエルとよくに似ていて、もう少し大人になった時のような印象だ。優しい光を纏っているようにも見える。たが背景は不安や恐怖心を煽るような印象でまるで戦火の炎のようだった。

 まるで描かれている人物が全てを焼き払っているかのように見えその微笑みが不気味に感じられる。一方でその先に在るものに向けて手を差し伸べている風にも見える。

——…………

  絵画をみた信徒たちは歓声を上げ一斉に祈りを始める。

「神アイリスはこの世に『悪』を生み出した忌むべき神」

「はぁっ⁈」

 テコが思わず声を上げるが“天秤”の枢機卿は構わず続ける。

「知ってのとおり神イーリアの尽力により『善』も広まっているが『悪』が滅んだわけではない。この世に残り今もなお燻り続けている。そのアイリスと同じ姿の彼女は果たして『善』か『悪』か?」

「こいつ、何をい……」

 今にも飛びかかりそうなテコだったがシエルが耐えているのを見て思い止まる。枢機卿の話はなおも続く。

「皆の者、姿形が似ているからと言って同じだと判断はできない。秩序を重んじるイーリア教徒ならばその人となりを見て判断する必要がある」

 話を聞いていたシエルの表情が少し明るくなる。

——どうせ、「対話でなんとかできるかもぉ」とか、思っているんだろなぁ……

 楽観的すぎるとは思うが最後まで人を信じようとするシエルに少しほっとする。もう少し感情のままに怒を露わにして良いのにとテコは思うが、怒りのぶつけ合いをよしとしない考えもシエルの良いところだと思う。

「彼女のことを調べさせてもらった」

 そんな思いを目の前にいる枢機卿たちは踏み躙ってくる。

「彼女は剣の才を持ち10歳で大人たちと肩を並べるに至ったが幼少の頃から人を殺している」

 礼拝堂には驚きの声と恐怖による悲鳴が漏れる。

「更に騎士学校では暴徒化したとはいえ同輩の首を切り落としている」

「まて……何故それをコイツらが知っている?」

「やはり教会の差金だったのでしょう。ヴィアたち騎士団の推測は正しかった、ということです」

 話を知っているだけでは証拠にはならないがついに尻尾を出した。しかしクロリスの声はテコの耳に入らなくなっていた。

「先日のテネブリス王国での内乱時には数千から数万の兵士を屠ったとも。そのような事一人で到底出来るわけがない。ただ……生き残った兵士の証言では彼女は悪魔を連れていたと聞く。……それが後ろに控える其奴だっ!」

 神殿騎士が一斉に剣を抜いて現れテコたちの周りを囲む。信徒の影に隠れているのは分かっていたがこのタイミングで囲まれるとは思わず虚をつかれてしまった。囲まれただけなら問題はないがティミドやベニーたちとの間に入られて分断されてしまった事が問題だった。

「お待ちください! シエルが、彼女が人を殺めたのは大切な人たちを守るためです。沢山の命を救うために仕方がなかった事。その痛みを今も抱えている彼女に何の咎があるのだと……」

「おおっ! 心優しき敬虔な信徒ソルフィリアよ。貴女こそ聖女に相応しいだろう! ……しかし貴女も彼女たちに与し我々を貶めようとせん異端者の疑いがある。それを見極められるのは神の試練のみ。ふたりで試練に臨めば全てが詳らかになるでしょう。さあ試練を受けその身の潔白と聖女たる資格を得るのです‼︎」

 めちゃくちゃな言いがかりではある。しかし虚実内混ぜで反論するにも一つずつ説明がいる。その説明をさせずに自分たちの計画を強引に推し進めようとしてきた。

 ソルフィリアが反論を訴えようとするが信徒たちの誹謗中傷の声にかき消されていく。

「ティミド王よ……もし彼女らが異端者であると判れば、貴方からも色々とお話を伺わねばなりませんな。王である貴方には慎重に対処する必要があります。かなりの時間がかかるかもしれませんな」

 3人の枢機卿は気味の悪い薄ら笑いを浮かべながら更に続ける。

「なあに、心配なさらずともベニー姫には婚約者を選定し一緒に住んでいただきますから。……少々年上の婿になるかもしれませんが」

 ベニーは枢機卿の笑顔に気持ち悪さを感じ思わずティミドの腕に縋り付く。膝に置いていた鞄を大きく傾けてしまい中から小さな声が漏れ聞こえてくる。

「ん? 今何か聞こえなかったか? ワシの嫌いな猫の声がしたような?」

 “釣竿”の枢機卿がベニーの方をじっと観察していたが2人の神官が銀色の杯を持ってくるとそれを受け取り前に向き直る。アルフラウは気が付かれたかと肝を冷やしたが運良くバレずに済んだと胸を撫で下ろす。ベニーには気をつけるようにとそっと耳打ちする。

「さて審判の方法は至ってシンプルだ。“水瓶”の聖遺物レリックから湧き出る水は心正しき者が飲んでも唯の水だが、異端者には毒となる。まずは我々が飲んで見せよう」

 “天秤”と “釣竿”の枢機卿が手に持つ杯に“水瓶”から透明な水が注がれる。杯を持つ2人は前を向くと同時に杯を傾け飲み干してしまう。そして何ともない事をアピールするため両手をあげて見守る観衆に笑顔を向ける。礼拝堂内は大きな歓声と拍手に溢れる。

「さあ今度は貴女たちの番だ」

 シエルとソルフィリアの前にも神官がやってきて杯を差し出す。“水瓶”の枢機卿も壇上から降りてきて聖遺物レリックの水を二人の杯に注ぐ。

「貴女たちの過去の行いが神の意思に背いていないと言うのであれば、その水を飲み干せるはず」

 杯に注がれた水は透き通っていて一見すると唯の水だ。恐らくあの聖遺物レリックには自由に変質できる能力があるのだろう。

 シエルとソルフィリアは互いに視線を合わせると同時に杯の水を飲み干す。

 多くの視線がふたり集まり静寂が数秒ほど続くと杯を落とす音が響きわたる。

 手にしていた杯を落としたシエルとソルフィリアは身体を大きく震わせたあと倒れ込んでしまった。


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