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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 聖女審判
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神の審判Ⅵ

 テネブリス王国王宮のとある一室で新国王となったエクシムに新宰相トリニアスは教会で審判が始まった事を知らせる。

「今し方始まったようです」

 エクシムは無言のままでいる。返事をしないのは今回の作戦に幾つか釈然としない事があるからだ。

 一つはトリニアスが恨んでいるシエル・パラディスを捕らえる事についてだ。教会に任せてしまってトリニアスは良いと思っているのかと考える。その首どころか捕らえる事さえ出来ないのは明らかだったからだ。トリニアスが結果を重視する性格である事を知っているだけに自分の気持ちを押さえ込んでいる事が心苦しかった。一方で職務の一つだと言い出すこともわかっているから半分は諦めている。

 もう一つはこの作戦の提案者の事だった。これについてははっきりと気に入らないと口に出している。

「さぁどうなるか楽しみだねぇ、兄さん」

 その提案者とはエクシムの弟シーディオだった。

「僕のところにも知らせが来たよ。少し時間は押しているようだけどね」

 エクシムはソファーに深めに身体を預けたまま射抜く様な視線でシーディオをじっと見つめたままでいる。

「そう睨まないでよぉ、こわいからさぁ。兄さんが石化の催眠の魔眼だったら僕終わっちゃうよ」

 ケラケラ笑いながら戯けてみせる。流石にエクシムも違和感を覚えて怪訝な表情を浮かべる。それに気づいたシーディオはエクシムと対面するソファーに腰を下ろすといつもの顔に戻る。

「お前は本物のシーディオか……って思ってる? 僕はもう偽る必要がなくなったからね。今のこれが本物の僕だと宣言しておくよ」

「では本当に継承権を放棄するというのだな?」

「うん、元々興味なかったしね。だから放棄の書類にもサインをしに来た。ついでに言うと僕の魔眼は【鑑定】だよ。物質の解析や他人のスキルも分かるけど魔眼はスキルではないみたい。こればかりは信じてもらうしかないけど」

 魔眼の事まで話すとは思っておらず驚いたがエクシムは眉ひとつ動かさずにいた。シーディオの背後にいたトリニアスは少し顔に出てしまっていた。

「なるほど、その【鑑定】の魔眼で研究が捗っていたというわけか」

「まあそう事。僕にとっては願ったり叶ったりの能力だよ。だから王政なんて興味ないものに時間を使いたくないんだ。本来は兄さんの助けにならないといけないし押し付けるのは悪いとは思っている。でも優秀な宰相もいる事だし弟の一生のお願いだと思って許してよ、兄さん」

 拝むような仕草に上目遣いでエクシムの様子を伺うが表情を変えずにシーディオを見つめたまま動かずにいる。シーディオはため息を吐いたあと観念したのか両手を上げて降参のポーズを取る。

「分かったよ、教会を誑かして件の騎士たちを引きつけたんだし次もちゃんと協力するよ。それに僕は顔が広いから、方々の繋ぎ役は任せてもらって良いよ。でも研究の時間の方が大事だから程々にしてもらえると嬉しいな」

 ようやくエクシムは身体を起こして姿勢を正す。

「わかった。ひと段落すればお前に頼ることも無くなるだろう。それで良いな?」

「うん、良いよ。ありがとう兄さん」

 シーディオは用意されたお茶に口をつけてほっとした表情をみせた。まさに重責から降りられた安心感を表しているようだった。

「さて、用も済んだしお暇するよ。……あ、そうそう——」

 立ち上がって扉の前まで進むと思い出したかのように振り返りニヤリと笑う。

「奴らも到着したようだから狼退治……頼んでおいたよ。報酬は教会が出してくれるってさ」

 じゃあね、と手を振りながら部屋を出て行くシーディオを見送り、扉が閉じた瞬間にエクシムの口角が上がる。

「あいつも偶には役に立つ事をするものだな。トリニアス、頼んだぞ」

「手筈は整っている。狼の遠吠えが合図だ」

「わかった。俺は少し休む。お前も今のうちに休んでおけ」

「ああ」

 エクシムが奥の部屋に入ると一人残ったトリニアスは窓から外を見上げて小さくため息を吐く。

「お前は俺に着いて来てくれないのだな……」

 目を瞑り深く吸い込んだ息を一気に吐き出す。再び開いた眼には鋭い光が戻りトリニアスは政務室へと向かって行った。



 王宮を出たシーディオは東へと歩いて行く。いつもの事だが従者などいない。流石に王族が一人で出歩くのは問題があるとして何人かの近衛兵をつけようとしたが彼はこれを拒否した。無理についてこようとした兵士に剣を振り回して追い払ったこともある。学者気質の変人との噂はその辺りから広まって行くのだが自らその様な噂を流している節もある。

「さーて、後は高みの見物だね」

『ぼクは期待していない? あまり楽しいコト、起きそうにないし?』

「何かハプニングでも起きない限りはつまらない、それは同感だね。それでも僕の【未来視】には面白い結果には繋がらない未来しか映らない」

 姿は見えないがシーディオの天の声ローズルはすぐ近くに居る。影も形もないから周りからはシーディオが独り言を言っているように見えるだろうが今は周りに誰もいない。

『エクシムはどんな未来を見たのだろう?』

「あの感じだと計画通りってところだね。兄さんの【未来視】は単一の近未来しか見えない。それに比べて僕は分岐する可能性と遠いその先まで見えている。まあ、その僕が見た未来も、同じく“計画通り”だけどね」

『本当に? 本当に計画通りになるのかな? ならないと良いね?』

 ローズルが何を言おうと未来が変わる事はない。シーディオはそう確信している。

 教会の企みは失敗する。だがそれは大した問題ではなく本来の目的は必ず達成できる未来が見えている。王国にしても教会の行動には利がある。だからこそエウロス騎士団の出奔を不問にして教会の行動を黙認している。

「何も問題ないよ。今の僕らには関係ない事だ。やる事をやったんだから帰って研究の続きをしよう」

 ローズルが展開した転移魔法陣に入りシーディオは姿を消した。


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