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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 聖女審判
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臆病者と少女の見た夢Ⅺ

 大通りへと戻ったテコたちは飲み物を買って一息ついていた。軒先に椅子とテーブルが並べられたカフェでテコたちは休憩を取ることにした。

 領主たちは脅しが効いたのか追ってくる事も周囲に隠れている気配もない。きっと今頃は教会へシエルたちの事を報告しに向かっている最中だろう。

「あのクソ領主……ぶった斬ってやれば良いんですよ」

「ライニ! お客様も居るのですから過激な発言は禁止です!」

「はーい」

 幼い主人を軽んじているというよりは姉妹のようなやりとりに感じられる。どちらが姉かは言うまでもないが。

「アスゴールド様はあんな感じではあるのですが領主としてのお仕事はしっかりされていてメガリゼアの中では比較的暮らしやすい領地経営をされているのです。教会に媚びへつらうのも回りまわって皆の暮らしに還元されているのであれば、それは大いに有難い事だと言えるのです」

 しっかりとした言葉に思わず拍手を送るとベニーは照れてしまって顔を手で覆ってしまう。

「あんなクズみたいな奴に襲われそうになっても悪く言わないんだな」

 テコの言葉に手を降ろして嬉しそうな顔を覗かせると祖父のティミドの教えだという。

「どんな人でもきちんと評価すべきところは評価しなさいと教えられました。その人が嫌いだからと良いところに目をつぶっていてはいつまで経っても仲良くはなれません。誤解や偏見があるかもしれないのですから人を見るときはその言葉と行動もみて対話の中から判断するべきだと」

「あのおっさんに至っては言動も話した感じもまるでダメだけどな」

 テコの領主に対する評価はかなり低いが十分に共感できた。少し可哀想な気もしてベニーをはじめ皆が苦笑いする。

「で、あのガキどもが領主の子供で親父の命令で猫を捕まえるために走り回っているのか。ベニーはあいつらとは知り合いだったのか?」

「領主のご子息ですし、わたしは国王の孫ですが……顔見知り程度です。交流するような場もありませんし。領主様は……わたしたちの事を疎ましくお思いのようですからあまり近づくのも……」

「そんなに気にしなくても良いのよ」

 女性の声と共に甘い匂いがする玉のようなお菓子が並べられた皿が差し出される。声のする方を見ると朗らかな笑顔の店主だった。

「まだ小さいのに気を遣いすぎなんだよ。子供は笑って遊んでいれば良いのさ。さ、これ食べて元気だしな」

「あ、あの……これは?」

 店主は奢りだから遠慮せずに食べてくれてとすすめてくるがお茶のお代わりは有料だから注文してもらえたら嬉しいと笑う。

 それではと先に手を伸ばしたのはテコだったがシエルに優しく嗜められる。

「いや、絶対ウマイやつだろ? いただかなきゃ申し訳ねぇ」

「ははは、その子の言うとおりだよ。ウチ秘伝のあんころ餅だ! 店には出したことないから特別だよ」

 見ためも美しい美味しそうなお菓子を特別だと言われるとそれだけで魅力が増す。

「では折角なのでお代わりと一緒にいただきましょうか。皆さん、同じ飲み物で良いですか?」

「はい、ご注文ありがとうね。すぐに用意するから待ってておくれ」

 店主が店の中へ戻ろうとするとテコが呼び止める。

「なあ、リョクチャってやつはあるのか?」

「へぇ、緑茶を知っているのかい? このあんころ餅に合う良いのがあるよ」 

「ティミドの爺さん家でご馳走になったんだ。渋くてなんだこれって思ったんだけど、出された食事に合うから気に入った」

「なるほどねぇ……あんた良いセンスしてるよ! 待ってな」

 店主は嬉しそうに奥へと入っていった。

「意外です、貴方様が嗜好品に手を出されるなんて」

「テコは好きなもの多いよ。気に入るとずっとそればかりになるけど」

「良いだろ? お前だって好きなものなんだから……」

「緑茶はちょっと……」

「ええ……」

 テコとシエルの会話に和んでいると店主が飲み物を運んでくる。取り分ける為の小皿も用意してくれた。こういう時にソルフィリアは率先して取り分けを行うだが、美味しそうにあんころ餅を頬張る姿に余程早く食べたかったのだと思える。皆は食べることに夢中でそれに気づいているのはクロリスぐらいのものだった。

 店主も美味しそうに食べる姿が見られて満足そうにしている。

「気に入ってもらえて良かったよ」

「ああ、すんげー美味い! 今度仲間を連れて来ても良いか?」

「ああ、構いやしないよ。腕によりをかけてご馳走してあげるよ」

「ベニーちゃんも一緒に来ようね」

「良いのですか? 有り難くご一緒させていただきます!」

 午前中の出来事や領主とのいざこざなど嫌な事は全て忘れられるぐらいお菓子の魅力は絶大だったのだが、テコはふと店主や周り人たちがしているネックレスに目が止まる。

「なあ、首からかけているそれって何だ?」

「ああ、これかい? これは領主が教会から賜ったとかで、寄付という名の税金をたくさん払った人に配っているものだよ。これをしておけば税金を払った証にもなるからつけとけってさ。風呂や寝るときは外していたけど面倒になって今じゃ付けっぱなしだよ」

「へぇ……ちょっと見せてもらっても良いか?」

「ん? ……構わないよ。この中の誰かへにプレゼントかい?」

 明るい笑い声を上げながら薄い青の石がついたネックレスを外してテコに手渡す。

——これは……、微力だけど魔力が行き来している

 しばらくネックレスを手にして眺めたり石を触ったりして観察を続ける。一通り見終えると礼を言ってネックレスを店主に返した。

「で、どの子にプレゼントするつもりだい?」

「誰にもやらねぇよ。それより……もうそのネックレスはつけない方が良いぞ」

「えっ?」

 店主だけではなくシエルたちの手も止まりどういう事だと問いかける。

「コレはどこかに繋がっていて魔力を行き来させている。首にかけた時だけ反応しているから持っているだけなら問題ない。でも向こうから大量の魔力を流し込まれた場合は大怪我じゃ済まないだろうな」

 店主は掌に置いたネックレスをじっと見つめたまま当然の疑問を口にする。

「あたしは魔力なんてもの持っていないし、一体誰が何のためにそんな事を?」

「さぁな。教会が配っているなら教会だろ? 税金納めなかった奴に天罰じゃっ! ……とか言って罰でも与えるつもりだったんじゃないか?」

「じゃあ、あたしらは何も知らずにつけていたって事だね? あの領主のやりそうなこった。他の人たちにも知らせて外させたいけど……つけてないのがバレたら、それはそれで厄介ごとに巻き込まれないかい?」

 不安そうな店主にテコは心配するなと言いながらあんころ餅を一つ頬張る。

「俺たちがいる明日までは外してても問題ない。それ以降は……明日何とかしてやるよ」

 何をどうするのか具体的な事は口にしていないのに自信満々の態度に店主も全幅の信頼を寄せているようだった。頼んだ、任せとけと元気の良い掛け合いに通りすがりの人々が笑っていた。


 帰り際にシエルがテコに件のネックレスについて尋ねる。

「ねぇ……あのネックレス、他に何かあるんじゃない?」

 流石にシエルには読まれていたかと思っていたから話すつもりだったが先を越された。

「ああ……石の方には何かを特別な術式が刻まれている。もっとよく見ないと分からないけど、あれは魔力の相互通信だけではなく転移魔法並みに複雑なものだった。あの術式には嫌な感じしかしなかった」

「私も初めてみたのですが魔道具の一種、という事でしょうか?」

 ソルフィリアもただの装飾品だと思っていたし、あのような物を配布していた事すら知らなかった。

「平たく言えばそうだけど……ただの道具にしては違和感がある。何て言うか……」

 適切な言葉が思い浮かばず言い淀んでいるとベニーがすんなりと解決してくれた。

古代遺物アーティファクト……でしょうか?」

「そう! それだよ‼︎ まだエルフや魔族が世界に沢山いた時に作られた、今じゃオーバーテクノロジー的な…………」

「どうしたの、テコ?」

 言葉を途中で切ったままテコは動かなくなる。クロリスも少し不安そうな顔でテコを見ていた。

「いや、何でもない。と、とにかくあのネックレスは特殊な技術で作られている。あのままつけていても良い事は起きないだろうな」


 少し様子がおかしかったテコも平静を取り戻して就寝の時間となる。

 明日はいよいよ教会の枢機卿と相対する。罠を仕掛けられていたとしても突破して教会の真意を取り沙汰し、できる事ならば横暴を暴いて止めさせる。そして人質になったソルフィリアの両親を助ける。もう一度テコたちは向かう先を確認し合って眠りについた。


 ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


 ——アイリス姉様のように優しくありたかった

 ——エタルナ様のようにもっと自由でいたかった

 ——本当は好きな事をして、もっと私らしくいたかった

 皆を愛していると伝えたかった

 でもこの罪を償わなくてはいけない、この魂を切り裂いてでも

 生まれ変わって出会っても私は私でなくなっている

 つらいけど、悲しいけど……これが、私が私に与える罰です


『そこまでする必要はないのに……魂に色がつくまで意識を昇華出来たのだから……』

『君が自分で砕いた魂は……時空を超えて呼び集められる。君の形は成さなくても、君の想いは……』



 ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆


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