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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り 聖女審判
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Invitation Ⅵ

 出立までにしなければならない事がいくつかある。

 一つはドレスの用意だった。不躾で上から目線の腹立たしいが内容ではあったが、それでも教会の正式な招待である。

「で、何で教会が王家の催しみたいな真似をするんだ?」

「それにはメガリゼアの成り立ちが関係しています。元々大陸東の地域は小国が寄り集まっていましたが対立も協調もしないそれぞれが孤立したような状況だったそうです。教会は各国での布教と同時に少しずつ政治に介入していき裏から手を回して統合を進めて国土を広げていったようです」

 テコとクロリスの質問にいくつもの本を広げてアウローラが答える。

 教会について知っていることがあまりにも少なく、その状態で赴くのは危険が多い。規模の割に謎が多い団体だからせめて知り得る情報だけでも仕入れておいて損はないだろうと情報収集が当面の任務としてシエルとソルフィリアに課せられる。それが二つ目のしなければならない事だ。

「各国を統一して行き、最後に残ったのがイーリオスという国です。この国の王家は神アイリスの神託で興ったという伝説があって、イーリア教は広まることがなかったのです。ですが今やイーリオスはメガリゼアの中心地であり唯一残った……いえ、残された王家なのです」

 ソルフィリアは出身地であり教会の関係者でもあるため今回は教える側にいる。アウローラが帝国にある資料をもとに客観的視点で解説しソルフィリアが知り得る事実を補足する。

「残された理由は王家が神アイリスではなく神イーリアより始まったからだと訂正させてイーリア教における聖地として認定したからだと。私たちは教会によって王家は正しく導かれたのだと教え込まれてきましたが証拠はありませんし、はるか昔のことなので事実が明かされることはないでしょう」

 ソルフィリアが言い終えるとクロリスは資料を手に取って年表に目をやり、それをテコが横から覗き込んで疑問を口にする。

「そんな簡単に王家の歴史を変えられるものなのか? 国民もそうですかってすぐに納得は出来ないだろう」

「確かに貴方様のおっしゃる通りです。どんな布教をすればこれほどの短期間に多くの人々を信者にして国を統合していけるのか……? 集団催眠のスキルでも使わなければ説明がつかない異常さです」

「この本の著者もわずか数十年で現在に匹敵する地域での布教を実現したことを指摘しています」 

 首を傾げながらもシエルが口を挟んで話の軌道を修正する。

「とにかくパーティーみたいなことをするのは教会が王家と関わりがあるから式典とかの行事は王族っぽい感じになる、で良いのかな?」

「はい、そういう認識で間違いありません」

「イーリオス王家は教会の傀儡でしかない……私たちイーリオスに住む者だけではなくメガリゼア全体でそう思われているのです。ですが認識の仕方が違っている人も大勢いて、教会が絶対であるから当然なのだという考えも少なからずあります」

 ソルフィリアの言葉を受けてシエルはなるほどと手を打つ。

「そっかぁ……教会を指揮している人だけじゃなくて、本当に信じてついてきている人が一般の人の中にもいるんだね。仕方なく従っている人と本気で教会を信じて手伝う人がいて、誰がどっちかわからない」

「つまり敵味方に分けるとしたらどちらか見分けがつかない。俺たちは俺たちだけで戦う必要がある、ってことだな」

 テコもシエルと同じく納得がいったという顔をする。

「フィリアがわたしを行かせたくなかったのは、周りに味方してくれる人がいないから大変だと思ってくれていたんだね。味方だと思っていた人に騙されちゃうかもしれないもんね」 

 シエルには不要な心配かもしれないが、搦手に弱いことを知っているだけに不安だったのだ。それを今の流れで理解してもらえたことが少し嬉しく思える。同時にやはり自分一人で行く方が良いのではと考える。

「やっぱりフィリアは色々なことを考えて心配してくれていたんだね。ありがとう」

「いえ、私も上手く説明できていればと反省しています。正直、目的も何もはっきりしない中で敵地に飛び込むことになるのですから少し焦っていました」

 教会の目的についてはこれまでも何度か仮説を立てるなどしてきたが全く見当がつかないでいた。

 当事者のソルフィリアもわからず、アウローラも同様の事例がないか調べたが過去の記録にはなかった。

「ところで聖女ってなんだよ? それっぽい称号をつけてステータスアップしても教会に得することがあるのか?」

「“称号をつけてステータスアップ”とはいったい何のことでしょうか?」

 クロリスがテコに笑顔で聞き返すが目だけは笑っていない。既にまとっている空気が不穏な雰囲気をまとっていてシエルはまたテコが何かをやらかしたのだろうと苦笑いしている。そして当のテコはそれに気がついていない。

「称号ってのは特別な何かをしたヤツに付いていてな、それを持っているヤツはやっぱ一味違うんだよな。騎士団の中じゃカウコーにファウオーだろ、それとフラム! それ以外だったらトルネオとシドもだ」

「兄さんとシドが……?」

「スキルと同じで戦闘に特化したものばかりじゃないからな。シエルやイルヴィアも持ってないし、どうやって獲得するのかとかどういう効果があるのかは俺もまだ分からない。だからシエルに【食いしん坊】とかの称号でスキル【大食い早食い】とかついたらどうしようかっていつもヒヤヒヤしてるんだ」

「そんな称号やだ! それに【食いしん坊】がつく要素ないし!」

「いや最近甘いものばかり食べてないか?」

「た……食べて、るけど……そんなにだし大丈夫だし‼︎」

 ふたりのやり取りに笑いが起きるがクロリスだけは違った。

「貴方様は……またそのような事を……」

「え? なんで……怒ってるのかな? 俺、なにもしてないよ?」

 ようやくクロリスの様子に気がついたは既に表情が怒りに変わっていたからだった。

「あっ称号⁉︎ 称号の事か⁉︎ 確かに初めはなかったけど、シエルに変な称号ついたらやだなぁって考えてたら項目増えてたけど……でもそれは俺の所為じゃなくないか⁉︎」

 必死に弁明するテコの姿に周りから笑い声が聞こえるからクロリスもこれ以上の追求は無駄だと諦めてしまう。

「全く貴方様ときたら……これ以上はご勘弁いただきたいです。とはいえ意図的でないのであれば咎めるのも筋違いというもの。天の声として変化にお気づきになられたら情報共有をお願いしますね」

「お、おう……わかった。……ていうかなんで俺が怒られるわけ? 知らないうちに俺が称号の概念つくっちゃったの?」

 クロリスは力なく肩を落とすが話を逸らしてしまったので自ら切り出して話を戻す。

「聖女についてはフィリアさんの方が詳しいのではないでしょうか。何かご存知ではありませんか?」

 話を振られ考えるための沈黙が少し長く感じられたが答えはわからないだった。

「魔力適性が高く優秀で従順な者は修道院を出て教皇のもとで更に修行に励むのだといわれていました。教皇の加護の元であれば待遇がよくなるとも。修道院はあまり良い環境とはいえませんでしたし、逃げ出して酷い目に遭う子は沢山いました。何故自分たちはこんなところにいるのだろうと思わない日はありませんでしたから……」

 話しているうちに思い出したことがあるのだろう、途中で腕組みし考え込む。

「そう……本気でイーリア教の教えを信じている子がいました。彼女は優秀で努力もしていましたから、ある日教皇の元へと連れていかれました。彼女が最後に私たちに残した言葉…………『私は聖女だから神イーリアになる』と……」

 言葉どおりに受け取れば盲信的で世迷言であろう。神になるということ自体捉えようによっては冒涜だと受け取られかねない。だが——

「何か怪しいな。金を払ってまで親から子供を引き離して……しかも魔力適性の高い子供ばかりを。親には何て言っているんだ?」 

「あまり詳しくは覚えていませんが……将来、“神子”になる可能性……とか……神子が何かは聞いても誰も教えてくれませんでしたが」

 聞き慣れない言葉が出てきて更に調査が必要となるが教会が修道院で行っている不可解な事柄につながっている可能性が見えてくる。

「調査する項目を絞った方が良さそうですね。私は引き続き資料から教会の目的が何かを調べます」

 アウローラに続いてソルフィリアとクロリスがすべき事を選択する。

「過去の事を……もう少し思い出してみます。何か手がかりがあるかも……」 

「私は東で起きているテロが教会によるものらしい事をヴィアから聞いていますのでそちらの線から探ってみますね」

 最後にシエルとテコに視線が集まる。シエルが言い淀むとすかさずテコが間に入った。

「悪いけど俺たちは別にやることがあるからそっちは任せた」

 言い終わるとテコは姿を消してしまい今日はもう終わりだという空気にしてしまう。

「えっと……そういうわけなので、お願いします」

 理由は告げなかったがシエルが頭を下げるとその場は解散となり3日後に再び集まることになった。


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