表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り head out
117/239

World affairs Ⅶ

 東の宗教国——メガリゼア神聖国はイーリア教を国教として教会が国政の中枢を担う。元はイーリオスという小国を中心に教義を広めていく過程で集まった共同体のようなものだった。教会が各地に建てられ勢力を拡大していくとイーリオスを手始めに政治に介入を始める。あれよあれよと各国の中枢に入り込み統合を繰り返していく。

 政治的な介入だけではない。腕に覚えがある教徒を集めて神殿騎士団を結成、その名で圧力をかけて大陸の東側大部分を手にする。

「それも遥か昔の話。大陸の4分の1も我らは手にしていない。即ち信徒の数もそれ以下であるという事だ」

「数千年前には神の奇跡を目にする事も珍しい事ではなかったという。そもそも神が街を闊歩していたというのだから」

「神話の世界を持ち出すな」

 並んで座る3人の枢機卿は白髪の老人ではあるが背筋は真っ直ぐに伸び髪の色が違えばもっと若く見えただろう。身に纏う法衣には〈天秤〉〈水瓶〉〈魚〉を表す紋様が刺繍されていてそれぞれが管理する司教区の呼び名に因んだものである。

 そんな彼らの前には若い騎士が跪いていた。

「王国は二分され片方は共和国と手を組み、もう片方は帝国と同盟を結んだそうだ。さて我々はどちらと手を組むべきか?」

「前王とは違い獣人を屠っているのは我らの教義に迎合するという意味ではないのか? 何か聞いてはおらぬか、アスペリオ・アペリ」

 名を呼ばれた騎士は顔をあげる。彼は元エウロス騎士団団長でありクーデターに乗じて王都に攻め入ろうとしたが、テコの妨害に屈して騎士団ごと神聖国へ合流し、今は神殿騎士団の一団長として身を置いている。

「エクシム国王には別の思惑があってのこと。我らを屈服させようとしても手を組む事は決してないでしょう。東大陸と交易のために街道を確保させたいはず。今すぐでなくとも警戒は必要かと」

 3人は顔を見合わせてやはりそうかと確認し合う。あまり重要ではなかったのか早々に話題を変えてくる。

「本題に入ろう。アスペリオ……先の戦で汝が見た事をもう一度ここで話せ」

 暗く強張っていた表情は一変し雲が割れて日の光が差し込むように明るくなっていく。高揚していく自分に気がついたのか目を閉じて大きく息を吐くと元の表情に戻り、忘れることのできない光景をもう一度思い出しながら語り始める。

「あの日、王都への侵攻を恐るべき悪魔に阻まれたのです。如何なる攻撃もかき消されてしまい今でも恐ろしくて夢に出てくる程です」

 トラウマになっているのか話しながら震える身体を腕で押さえつけている。暫くすると震えは止まり心なしか口角が上がっているようにみえる。

「そこに現れたのです……神々しい光と共に天から降りて来られたのです……神アイリスが‼︎」

 その言葉を聞いた2人の枢機卿は眉を顰める。

「神アイリスだと? 貴様、自分が何を言っているのか分かっているのか?」

「イーリア様こそが主であり唯一我らを救う神……よりによってアイリスの降臨など……」

 〈天秤〉の紋様が入った法衣を纏った老人が2人にまあ落ち着けと宥めてからアスペリオに向き直る。

「其方の説明に一つ抜けている事があるのではないか? 例の悪魔の姿形も説明しろ」

 思い出したくもない光景だが奇跡の体験と繋がるため複雑な心境になる。力でねじ伏せられたことよりも自分自身に今も腹が立っていて話したくはないのだが、今は命令に従うしかない身分である事を思い出す。

「あの悪魔が現れた時……不覚にも奴を神アイリスと思ってしまったのです。後に降臨された本物のアイリス様と並んでも瓜二つ。悪魔はアイリス様が従えていた様子なのですが……何故に御身と同じ姿をお与えになられているのか……」

 〈天秤〉の枢機卿は2人の枢機卿に目配せしてから口を開く。

「其方が見たという神アイリスは悪魔が作り出した偽物かも知れぬぞ?」

 何故否定するのかと思わず立ち上がりそうになるが踏みとどまる。それでも言葉だけは止められずに枢機卿へ向かって行く。

「偽物なはずがありません! あの神々しい迄の輝きと美しさは大聖堂に飾られた神アイリスの絵画そのものなのですから‼︎」

 アスペリオが見た少女がアイリス神と認識できたのは絵画として描かれた姿を見ていたからだった。信仰心が篤い彼はイーリア教の全てを知ることで受け入れようとして歴史を探り大聖堂の絵画にまで興味を示していた。

「最早、誰も立ち入る事がなくなった“旧”大聖堂にまで足を運んでいたか。だがそれだけでは本物と断定は出来まい」

「何故ですか⁉︎」

「お前が見たのはゼピュロス騎士団の新米騎士……名をシエル・パラディス、近衛騎士団長の御息女よ」

 枢機卿がなぜその様な事を知っている、というよりも敵対するかも知れないゼピュロス騎士団に神がいる事に驚き悲しくなる。

「悪魔がアイリス神の御姿で我々を騙そうとしているのかも知れない」

 受け入れ難い言葉にアスペリオは項垂れたまま返事もしなくなる。

「だが案ずることは無いぞ、アスペリオ。幸い我らの同胞に聖女候補が見つかった。彼女はシエル・パラディスと親交がある事が分かっている。彼女と共にメガリゼアへ招待し審判を受けてもらおう。そうすれば本物か悪魔かが明らかになる。本物であれば我が国へ向かい入れてこの地へ留まっていただく……というのはどうだろうか?」

 天から降臨した少女が神である事を疑わないアスペリオにとって、結果や過程は二の次で神がこの地に留まる事の期待しか頭にはない。

 期待の眼差しに笑みを見せた枢機卿は招待するための書簡を用意するからそれをゼピュロスへ届けるようアスペリオに命じて下がらせる。

「上手くいけば教会の力はより大きくなる」

「しかし我らだけで決めてしまって良いのでしょうか?」

「神を消して祭り上げた聖女は王国にも神聖国にも利を生む。それにイーリア様がアイリスなどお許しになるはずがない。上手くいけば王国もゼピュロスも……」


 程なくして2通の招待状が送り出される。それと併せてアスペリオには王国から逃れてきた獣人たちの対処を命じられて西へ向かっていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ