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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り head out
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World affairs Ⅳ

 城塞都市カランコエの救援に向かった皇帝とゼピュロス騎士団が帰還し都市は守られたとの知らせが流れると帝都は喜びの声に包まれる。

 長年争ってきた王国の騎士団が内戦で分裂し独自の政府を立ち上げたとの情報が流れると国内は不安の声が多くなった。更にその騎士団と同盟を組むというのだから国民は大いに困惑していた。

 それでも新皇帝のする事だからと比較的好意的に見る向きはあったのだが、初めての共同戦で防衛に成功し皇帝アレックスの支持とともにゼピュロスとの関係改善に歓迎の声が高まる事になった。

「私たちの出番はありませんでしたね……」

 帰還前にアンテミウスがこぼしていたがゼノンの「今は役割を全うする事だ」という言葉に強く頷き救助と行方不明者の捜索に向かって行った。

 ゼノンの言葉に同意したのは何もアンテミウスだけではない。

「今回は我々も同行したにも関わらず何もすることがなかった」

「それは俺もユリウスも同じこと。しかし貴公のチーム・プロトルードの働きがあってのこと。これからもよろしく頼む」 

 アレックスとファウオーは握手し改めて同盟の意義を確認した。


 その夜は改めて懇親会が開かれる事になり場内の大広間に集まる。

 ファウオーは行政担当者が代わる代わる挨拶に訪れその場から動けずにいる。フラムもかの<炎剣>として名は通っているので軍事に関わる者たちから挨拶や質問攻めにあっていた。他のメンバーはそういった煩わしさから逃れる為にアレックスの近くにいるので誰も近づけず、アウローラとユリウスも同席してゆっくりと話ができていた。

「みなさんご無事で何よりです。豪華なお食事は用意できませんがたくさん食べてくださいね」

 肉や魚がメインで庶民的な料理もいくつか並ぶが食糧難で喘ぐが故に工夫されていてバラエティに富んでいる。

「お肉がたくさん……え、うまっ! めちゃくちゃ美味しいです!」

 シエルはテーブルの料理に次々と手をつけて堪能している。

「こんなにガッついているのに上品に見えるの流石は公爵家のお嬢様って感じね」

 少し呆れたようにシエルを見つめるセレナにお前もだろうとアレックスに指摘され笑いが起きる。

「王国は未だ貴族階級が残っている割に教会については排除しようとしている。どうなっているのだ?」

「それって……どういう事? 階級と教会は関係ないと思っていたけれど、何かつながりがあるの?」

 アレックスは手にしていたグラスに口をつけるとテーブルに置く。

「歴史的に階級制度の始まりははっきりしていない。だが西側の有力な説として残っているのは教会が階級を作ったという事だ」

「現在のイーリア教も元々は複数の神を崇める宗教だったものが女神イーリアのみを唯一神とし、その時に階級制度が設けられたとの説です。教会の政治的権力を維持し、……高い能力を有する獣人族を貶める為……という見方も研究が進んでいて、現在の国際情勢を見ても裏付けが出来そうなのです」

 アウローラの補足に感心してシエルが感嘆と共に拍手するから照れて下を向いてしまう。

「すごいですねアウローラ……さん」

 グーテスがアレックスの視線を気にして“さん”付けしてしまいアウローラは少し寂しそうな顔をする。

「呼び捨てで良い。これからも仲良くしてやってくれと言ったであろうが。話を戻すが、獣人差別は至る所で行われていて共和国は南の獣人国“アフティア”を支配下にして民を奴隷にしている。その奴隷は東の国やテネブリス国内で売買されているとの噂なのだが——」

「王国でそんな事はない! って言いたいけど実際はわからないわね。3国間での怪しい取引きとか裏で何が行われていたかなんて」

 王国でのクーデターの発端は裏取引きの内部告発である。敵対関係にあるはずの国同士で実は取引きされていて戦争をすることで一部が利益を得て、何も知らない一般国民が泥を被る構図が密かに行われていた。

 そこだけ見れば不正を正すための改革なのだが何故か獣人族の排除もおこなれており混乱が起きている。

「うむ、また話が逸れそうであるが、歴史や利権など複雑に絡んでいて被害の多くは獣人族であるということだ。故に現在の王国の動きもこれまで以上に注意が必要なのだ」

「王国と共和国が手を組む可能性があるっていう事なの?」

「資源は豊富だが食料が少ない我らの帝国。資金や技術力が高い共和国は帝国の資源を欲する。王国は食料を帝国に売って資源を買い、その資源を共和国に売って技術を得る——これがうまく共存していた時代の関係性だ」

「王国にも資源はわずかでもあるから帝国を抜きにして2国間だけでも友好的にいてもおかしくない……そういう事ですか?」

 グーテスの意見に概ねその通りだとアウローラが答える。

「それぞれが求めるモノのために長い間争いが続いてきたのが3国の歴史です。ですがいくつか謎があります。それは教会の影響を受けていない共和国が獣人族を差別する理由と何故王国とは敵対するのかです」

 どういう事かすぐに分からずグーテスが尋ねるとセレナが答えた。

「獣人族への差別は属国の民として下に見ている可能性はあるけど、王国は資源もそこそこあるから敵対するよりも交易を続ける方が安全で楽なはずなのよね。支配を目論むにしては攻めてくる場所が限定的だし、大規模な侵攻は歴史的にも見られない。あの旧ベルブラントでさえ壊滅させるだけでそれ以上は攻めて来なかった」

「セレナのいう通りだ」

 もっと話を聞きたいと追ってくる軍事関係者から逃れてきたフラムが話の輪に加わり当時の戦況を回顧する。

「例の兵器で街を消滅したあと奴らは追撃どころか撤退を始めた。まるで大勢の人を街ごと消すためだけに攻め入ったようにも思えた。俺が撤退する奴らを焼き払った後も報復はなく10年以上まともな戦闘が行われる事は無くなった」

 食事に手をつけずに黙って聞いていたユリウスが「もしかしてと」つぶやく。

「共和国の目的は物資や領土などではなく……兵器の開発……なのかも」

 その呟きに一同の視線が集まり考えを披露する。

「魔獣の使役は西の海を渡った大陸の技術だと聞いたことがある。魔獣を使役する術なんて怪しいけど実際に使役した魔獣を封じておく魔道具があるって話だし」

 魔物を封じる魔道具——プロトルードの4人はその魔道具を知っている。シエルも食事の手が止まってしまった。

「その魔道具は東の大陸のモノではないのですか?」

 グーテスの質問にユリウスは商人出身のグーテスなら知っていて当然と思ったが、セレナがその魔道具から出てきたゴーレムと対峙したことがあると聞いてグーテスに質問で返す。

「君たちはそれの出所が東の大陸だと聞いたんだね?」

「はい。商人の間では魔物を捕まえる道具として伝わり、王国では使える者がいないだろうから誰も取り合わなかったのです」

「でも実際は魔物が入っていて操る術がないから野放しになったと。因みに僕たちがいう西の大陸と君たちがいう東大陸は同じ大陸だよ。どこの国かはちょっと複雑だからここでは説明しないけど」

「それでユリウスよ、兵器開発という事は、我らは実験場に使われているという事か?」

「ああ、間違いないね。前線を破ったのならわざわざカランコエに侵攻する必要ないからね。迂回して戦線を広げる事もできるし、資源が目的ならそっちへ向かうはずだろ? 違和感の正体は僕たちが考える目的と違っていたからなんだ」

 仮説として話していたが自分の中で途中から確信めいてきて断言する。

「それなら……またあの街やベルブラントに攻撃してくるかもって事ですよね? 戦いの終わりは実験が終わったら? 終わったらどうするのかな?」

 シエルの指摘は全員が同意する。

「でもまた攻めてきたら困るから連絡手段だけでもあった方が便利じゃないですか?」

「それも一理あるわね。ゼピュロスの通信魔道具を帝都とカランコエに設置してゼピュロスとも通信できるように出来ないですか、フラム先生?」

「先生はやめろ。だが今後を考えると一考の価値ありだな。ゼピュロス本部とも繋げば色々と便利だろう」

 通信手段は欲しいとは思ってはいたが切り出すには時期尚早と考えていたユリウスはこの機を逃すまいと交渉を進め、新たに作られた通信機器が帝国に送られる事となった。

 更に食事が終わる頃、デザートについて話が及ぶ。

「ゼピュロスでいただいたお菓子はどれも甘くてとても美味しかったです」

「帝国のお菓子も美味しいのだけれど……少し物足りないのよねぇ」

「騎士学校の食堂で売っているエクレアは最高だよぉ! アウローラにも今度買ってくるからね!」

 女子の話を聞きながらグーテスが何気なく独りごつ。

「転移装置とか出来れば物流が楽になって食品なんかも流通させられるし……兄さん喜ぶかなぁ」

「だからグーテスの父ちゃんのスキルをコピーして道具に移す実験をすればできるかもしれないって言ってんだろ?」

「まぁこの機会に本気で考えてもいいかもしれませんねぇ…………って、テコさんっ⁉︎」

 いつの間にかシエルの横でまだ肉料理を堪能しているテコがいた。

「転移のスキル持ちがまだいるのか?」

「ああ、こいつの父親が持っていてな。遠くで仕入れた商品を転移で運んでいるんだ。物だけの縛りがあって時間差もあるけど結構便利なスキルなんだ。……あ、これって企業秘密だっけ?」

 話終わってからグーテスの泣きそうな顔を見て焦った様子を見せるがアレックスとユリウスは不適な笑みでグーテスに詰め寄り、セレナは頭を抱えていた。

「やっぱり君の兄さんとは会わせてもらわなきゃいけないようだね?」

「うむ、お前いっその事アウローラの婿にならんか?」

「お、お兄様っ⁉︎」

「レオのお墨付きならアウローラも満更ではなかろう?」

「な、なんの話をしているのですか⁉︎ それよりも今は魔道具の作成について——」

 ずっと黙っていたソルフィリアまで入りその後は収集がつかなくなりセレナが強制的に解散させた。

 数ヶ月後には通信機器と一緒に転移装置も帝国に送られる。街道の整備も始まり食料や鉱物資源などの物品だけではなく人の行き来も徐々に行われることになっていく。

 本格的な稼働まではテコがウェッター商会の秘密を暴露した罰として運搬役をする事になった。


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