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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り head out
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encounter Ⅳ

 グーテスとレオの勝負はベルブラントの砦にある修練場で行われることになる。アウローラはベルブラントに滞在する事になっていたし、今の騎士団本部には勝負できるだけのスペースがなかったからだ。

 ベルブラントと本部は転移装置で行き来できるようになっている。稼働させるには膨大な魔力が必要であるがテコとシエルのどちらかがいれば日に数回は使用できる。動力源として利用されることにテコは毎回愚痴を言うのだが、今回は何も言わない。

「テコ、ちょっと怒ってる?」

 シエルが顔を覗き込んでくると表情が一変する。

「いいや……帝国の奴らにもあいつの実力を知らしめてやらないとな」

 広場にはいつの間にかギャラリーが集まっていた。

「やったれー! グーテス! ぶっ殺せー‼︎」

「いや、殺し合いじゃねぇよ」

「お前らすぐに嗅ぎつけてくるなぁ……」

 最前列にいるヘルマとアルドーレを見て流石のテコも呆れてしまい力が抜ける。

「面白そうな匂いに釣られてきた。だってよー……あいつのタイマン見るの初めてやろ?」

「そうそう……勝負の中で1対1になることはあっても、基本的に多数対多数だからな」

 普段は見ることがないグーテスの戦いに騎士団員のほとんどが興味を持って観戦に来ている。魔法士として支援に回ることが多いグーテスの実力は誰もが認めている。それを知っているからこそ今回の決闘はまだ見ぬ実力を知るチャンスなのだ。


 予想以上に集まった観客の安全に配慮して演習場に結界が張られる。レオとグーテスが結界内のほぼ中央に進み出る。

 どうしても負けられないと気合いが入った表情のレオに対してグーテスの表情は冴えない。

「何故僕が……どうしてこんなことに……」

「すまない……巻き込んでしまって」

 金髪の美剣士は表情を変えずに言う。その言葉と表情だけでなく声色にも違和感を覚える。

——ん? いや、まさか……ね

 結界の外からフラムの声が聞こえる。

「勝負は1度。相手を戦闘不能にするか降伏させた方を勝ちとする。危険だと判断したら止めに入るが、その場合は引き分けとする……いいな」

 隣にいたユリウスが口を挟む。まるで自分が戦っているかのような目つきはフラムに戦場にいる感覚を思い出させる。

「他にルールは無しでいいんだよね? ……止めに入るってそんな事できるの? 言っておくけど、あいつが死んでも責任は取らないよ。恨まれるのもごめんだ」

「心配ない。いざって時は……テコ、頼んだぞ」

「おう! って俺かよ⁉ まぁいいけど……任せな」

 てっきりフラム自身が止めには入るのかと思っていた。いくら<炎剣>といえども戦闘中のレオに割って入ることなど不可能だと思ったから馬鹿にするなと言ってやるつもりだった。だがテコにそれを頼むという事は不可能であることを認めると同時にこの得体の知れない人物であれば可能だと言っていることに等しい。

「それ……本気で言ってるの? 転移できるといっても勝負の瞬間は話が別だよ?」

 大きなため息をついたテコが挑発したような笑いをユリウスに向ける。

「お前って帝国の軍師なんだろ? 人も戦局も全く見る目がないな。俺たちも勝負をしよう。お前の……いや、帝国の実力を測ってやるよ」

 普段のユリウスならみえみえの挑発に乗ることはないが国の威厳がかかるとなれば話は別だった。既に国の貴人を助けられて貸しを作っている。

「そこまでバカにされたのは初めてだよ。いいよ、その勝負受けてやろう」

 頭に血が昇っているのが見えるかのように顔を真っ赤にしている。そんな姿を見たことがないアウローラが心配して宥めようする。

「心配ないよ、アウローラ。レオも僕も……アレックスの配下である僕たちが負けるわけがない」

「ユリウス……」

「じゃあ俺たちの勝負は……観客を守っているこの結界が破られるかどうかだ」

 てっきりどちらがどうやって勝つのかや、決着がつくまでの時間当てのような勝負だと思っていたから拍子が抜ける。

「意味がわからないな……? でもそんなのは決まっているよ。レオは観客に危害が加わるような戦い方はせずに勝つ。割って入るのにこの結果を破るという意味ではあるかもしれない……でもその前にあいつは死んで決着がついているだろう。その場合は僕もレオも勝ちって事でいいよね?」

「いいぜ。俺はグーテスが内側から破る方に賭ける」

 傍で聞いていたシエルが困った顔でテコを止めようとする。

「ちょっと、テコぉ……それ……」

「さぁ、さっさと始めようぜ!」


 フラムの号令で勝負が始まる。グーテスは相手を正面に捉えるために体の向きだけを変えている。剣を抜いたレオは左回りに間合いを詰めて行く。一定の距離まで近づくとそのままグーテスを中心に円を描くように歩き続け、一周しても足は止めずに回り続ける。

 歓声が止み聞こえるのは足音だけになると息が詰まりそうな緊張感に支配される。息をするタイミングが周りと同じように感じられ観衆までもがレオのペースに巻き込まれていく。

「うわっ!」

 瞬きする間にレオはグーテスの背後に回り剣を振り下ろしていた。だが鋼鉄の盾を打ちつけた時のような硬く重い衝撃が腕から身体へ伝播する。

——背後をとったはず……しかも防がれた⁉︎

 完全に背後を取ったはずであったが一瞬で振り向き魔力の盾で防がれる。

 驚きはしたがすぐに切り替えて高速ステップであらゆる角度から斬りつける。だがその尽くが正面で防がれてしまう。

——反応だけでなく身体がついて来ている……予測されているのか?

 波状攻撃がグーテスの障壁を打つ音が響く中、時折空を斬ることが増えてくる。

「あいつ、動かん相手に空振りしとるぞ?」

 一般騎士は剣筋さえも見えないがヘルマは見切っている。

「……トラップか」

 アルドーレにもレオの動きが見えていることにユリウスは内心驚くが、王国にも同じぐらいのレベルの戦士がいてもおかしくはないだろうと思い直す。

 アルドーレの予想どおりグーテスの周りには光の剣が幾重にも貼り巡らされ、その切先はグーテスに狙いを定めていた。

「【コースティック】」

 レオの声に応じて光速の刃は解き放たれ姿を表す。ただし突き刺さった先は全てグーテスの障壁であった。

「全方位のシールド⁉︎ ていうか何であいつまでレオの動きを捉えているんだっ⁈」

 ユリウスの方が驚いているがレオは冷静に間合いを取って立て直しを図る。全て防ぎ切ったのであればカウンターがくると予想していた。ここまで防戦一方で反撃の兆しが見えない。

 ——防御特化で反撃の術がない……のであれば勝負を受けるはずがない。……まさか引き分け狙いか?

 攻撃してこないからといって警戒を緩めたわけではなかったが反射的に身体が動いた。全く動かないグーテスがこちらを狙って何かを仕掛けてくる気がしたのだ。

「コラー! グーテス真面目にやれっ!」

 ヘルマの罵声が飛ぶと周りの騎士たちからもブーイングの嵐が巻き起こる。

「ちゃんとやってますよぉ! 気を抜いたら殺されそうなんですって‼︎」

「お前が死ぬわけねーだろが! いい加減ぶっ殺すぞっ⁉︎」

「矛盾してないか?」

 ヘルアルの漫才に気を取られたグーテスは一瞬レオから目を逸らす。この瞬間を見逃してもらえるはずもなく目の前にまで距離を詰められる。

「……っ⁉︎ しまった!」

 高い壁を作り出すがレオにこれを粉砕されるとそのまま切り込まれ、かろうじて障壁で防ぐも強力な攻撃に吹き飛ばされる。

 レオは更に地面を踏み込み吹き飛ばしたグーテスを追い抜くと背後をとる。

——取った!

 しかしレオの剣は空を斬りまたしてもグーテスには届かない。はるか手前で背中を強打して痛がる姿が徐々に恐ろしく感じ始めた。

「障壁を展開して強引に止まったのか? 本当に予測スキルを?」

「いてて……予測じゃありませんよ。攻撃の気配を探知しています」

「探知スキル? だから僕の居場所をいつも突き止められていたのか?」

 テコが声に出して笑うとユリウスは何が可笑しいのだと突っかかる。

「スキルなんてもんじゃねーよ。あれはあいつが努力して得たものなんだ。魔力の“根”を張り巡らせてどこに誰がいるのか、何をしようとしているのかを見ているんだ。空中にいても僅かな魔力の流れで察知できる。グーテスは魔力量もコントロールもすごいが、魔力の感知は飛び抜けたセンスの持ち主なんだよ!」

「ぐぬぬ……」

 二人のやりとりを見ていたソルフィリアがシエルに呟く。

「子供のケンカのように見えてきて、なんだかほっこりしてきたのは私だけでしょうか?」

「フィリアも? わたしもずっと可愛いなって見てた」

 二人のやりとりにフラムもため息を吐く。

「騎士団の精神年齢が下がってきているぞ。ファウオーなんとかしてくれ」

「あの世で兄さんに言ってくれ……」

 アウローラは二人が怪我で済まないのではないかと気が気でないが彼の仲間は全く心配している様子がない。

「あの……みなさんは彼の事が心配ではないのですか?」

 不安そうに尋ねるアウローラにシエルが笑顔を見せる。

「心配よりも信頼している……っていう方が強いかな? 大切な人たちを守りたい気持ちは……誰よりも強い人だから」

 グーテスに視線を移すとその姿に目を見張る。戦う前の自信無さげな言葉とは裏腹に帝国の“軍勢”と対峙する姿に次第に目を奪われていく。


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