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転生したら天の声に転職させられたんだが  作者: 不弼 楊
第2章 国割り head out
100/240

Divide

 新たに王となったエクシムは玉座で酒を片手に遠くを見つめている。近衛騎士団とボレアース騎士団が剣を交え、逃げ惑う貴族や文官たちで騒然としていた城内も1ヶ月が経ち落ち着きを取り戻していた。

「エクシム王、報告があります。よろしいですか?」

「トリニアスか……父上たちは見つかったのか?」

「見つかった……というよりも情報が入りました」

「生きているんのだな?」

 ふたりの会話に割って入ってきたのはボレアース騎士団団長のカイ・エキウスだ。

「オストシュトラに入る予定だった隊が全滅させられた。アスペリオにも悪いようにはしないから大人しくしておけと伝えていたのに勝手に動きやがって……まあそれも何者かに阻止されて東へ逃げていったらしい。どうやら内通者がいたようだ」

 トリニアスは先に報告をしようとしていたのはこちらなのだと割って入られたことに内心腹が立ったがそれどころではないと報告を続ける。

「共和国は言うまでもなくゼピュロスに敗れましたが帝国は国境付近で何もしないまま撤退したようです」

「ゼピュロスかノトスの介入があったと見ていいだろうな」

 徐々に苛立ちが表情にでてくるエクシムのことなどお構いなしにカイが続ける。

「無理に王位を継ごうとすればゼピュロスとノトスは反対してくる。だから強引な手段にでた。それは諸外国に対する牽制でもあるが……奴らにとっての脅威は俺たちボレアースとゼピュロスの<炎剣>と<風神>だけだぞ」

「もう一人いる……」

 トリニアスの言葉で思い出し<雷神>かと呟く。

「カウコーを暗殺したのは共和国か帝国の所為にして奴らごと潰す算段が早くも崩れている。これからどうするつもりだ?」

「それを話し合うために貴公を呼んだのだ。少し黙っていてくれ」

 そうは言っても今後の方針の前に話さなければならない内容が良いものではなく気が重くてすぐに声は出せなかった。

 計画では王は幽閉し父である宰相はゆっくり時間をかけて説得するつもりだった。王は人質でもあり近衛騎士団との戦闘も最小限で済むはずが重軽傷者の他に死者も多く出る激しい戦闘になってしまった。カウコー暗殺も諸外国の所為にして騎士団の結束と報復を煽るつもりだったのだがカイの犯行だとバレている。

「ゼピュロス騎士団が前王を保護したとの連絡がありました」

「ほう……」

 反応したのはカイでエクシムは眉ひとつ動かさずに黙ったままだった。

「ノトスとの連名で今回のクーデターに対して遺憾の意を表明し……」

 言い澱み沈黙が流れたが誰も口を開かない。トリニアスはふっと息を吐いた勢いで言葉を繋ぐ。

「自治政府を樹立し今後の王国政府の動向に注視する、との宣言が出されました」

 エクシムは玉座から立ち上がると持っていたグラスを床に叩きつけ叫んだ。

「何なのだこれは⁉️ 俺が見ていた未来とはまるで違う! あの瞬間からまるで違う世界ではないか‼」


 あの瞬間とは——カイがストゥール王を捕えようと切り掛かりフォルト近衛騎士団長がそれを防ぐ——ここまでは未来視でみた光景と同じであった。この後はカイのスキルでフォルトが動けなくなりストゥール王は捕らえられる……はずだった。

 だがフォルトはカイの拘束から逃れる。まるで誰かに突き飛ばされたような動きでその場を離れる。その隙を狙って近衛騎士の誰かが王と宰相を逃がしてしまう。周辺で戦闘を繰り広げていたボレアースの騎士は誰一人として気が付くことがなく王を逃がしてしまう。後を追おうとしたカイの行方をフォルトが抑えたことで戦況が変わってしまった。

 その場で見ていたエクシムもトリニアスも予定と違う出来事に戸惑い動けずにいた。


「俺の背後からのバインドをフォルト団長がかわせるはずがない。あれは何かのスキル……いや危機回避の隙など持っていなかった。見えない何かに突き飛ばされたようだった」

「あの場を見ていた私もそのような感想を持っている。……王よ、あの日以来弟君の姿を見ていない。この混乱に何も言って来ない事にも違和感を感じる」

「シーディオが関わっていると?」

「彼の持つ魔眼の能力が何か分からない以上は推測の域を出ないが、介入出来るだけの力があるという事ではないのだろうか」

 再び玉座に腰を下ろしたエクシムは眼を瞑って考えを巡らす。次に口を開いた時には落ち着いたいつもの口調に戻っていた。

「力の詳細は分からないがあいつが関わっている事は間違いないだろう。シーディオの行方も探せ」

「構わないが……生きて捕らえた方が良いのか?」

「出来ることならば。奴には聞きたいことが山ほどあるが……邪魔をするならば止むを得んだろう」

「そいう事なら承知した。それと王の居場所が分かったのなら攻め込むのか? ゼピュロスとは一度どちらが上か白黒を付けたかったところだ」

「早まるなよ。まずは引き渡しに応じるのか否かだ」

「応じなければ……良いのだな?」

「……武力行使は最終手段だ」

 表情は変えなかったがトリニアスはこの好戦的な騎士の事が苦手であった。力で物を言わせるタイプではなく裏で何を考えているのか分からない狡猾さ見せてくる。

 エクシムとの計画に彼を加えることは最後まで反対だった。裏切られる可能性はもちろん、最後の最後ですべて自分の思うとおりにしてしまいそうな嫌な予感もあったのだが、エクシムの未来視で裏切りは察知できるからと計画に引き込んだ。

 カイが誘いに乗った理由は二つある。一つは騎士団の力を大陸中に示したい野望を持っていた事。そしてもう一つはエクシムが掲げる獣人排除の計画に賛同したからだった。


 遥か昔、王国北部には獣人族が多く生活しており、ヒト族と上手く共存できていた。しかし突如として獣人族は魔族の末裔だと噂が出回る。だがそんな噂を信じる者はおらずヒト族も獣人族も気にしている様子は見られなかった。

 しかし帝国との戦いの中で獣人族の出身者ばかりが狙われて多数の犠牲をうむ出来事があった。それから微妙な雰囲気が流れ始めついには獣人族を盾にしたのではないかとの噂まで流れる。ついに一般人にも被害が出るようになったのだが王国の対応は遅かった。長い間被害に遭い続け集落が滅ぼされるまで手を打たなかったことで獣人族とヒト族の溝は埋まらないまま現在に至り、一部のヒト族優勢の思想を持つ者たちの間で獣人族への偏見はなくならないでいた。

——獣人など魔物と変わらん。滅ぼしてしまえばいい

 カイもまた強い獣人差別の思想を持っておりエクシムの考えに賛同した一人であった。


 自室に戻ったエクシムはトリニアスを招きいれる。王になった今も変わらず同じ部屋を使っている。変に気取った欲を持たないところはエクシムの良さのひとつであると常々思っているが口には出さずにいた。少し気が緩み表情が語っていたのか「何を笑っている」と怪訝な顔で睨まれる。

「いや……別に何でもないさ」

「ふん……まあいい。それよりも貴族の中でも優秀な者を取り立てる話はどうなった?」

「目ぼしい人材には声を掛けている。貴族による議会制度の廃止と王政の復活、貴族階級の撤廃……彼らには明日食うに困るような状況に近いからな、きっと応じるだろう」

「領主たちはどうだ?」

「北と東は大人しくさせた。だが西と南は厳しいだろう……食料供給や財源として有能な領地が多くあったからな……これは大きな痛手だが備えてはいる」

 北部と東部は完全に王国の管理下に置かれ王都に近い一部の領主は王国の圧力に屈して領地を変換するが西部と南部の大半が騎士団主導の自治区として動き始める。

「国が割れた……だが大陸は割れたままだ。すべて奪い返してみせる」


 二つに分断され王都へ逃れる者、王都から逃れる者で王国は混迷を極めた。やがてストゥール王の無事が発表され南西部をゼピュロス・ノトス自治区の発足が宣言されると人の流れも制限され自然と国境が形成される。

 歴史的に国割りと称されるこの政変は世界が変わる第一歩であると記される事になる。


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