表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/15

08:スマッシュ

「セカンドゲーム、ラブオールプレイ!」


「お願いします」


 僕は啓介を見ながらラケットを前に出し、構える。啓介はロングサーブを打ち出した。


 まずは焦らず、クリアだ。

 クリアを打ち上げ、高く飛んでいく球を見ながら、次の動きを考える。僕が使える手札は、クリア、ロブ、ドロップ、スマッシュ。この少ない手札で、一体どう戦うか――。考えろ、考えろ。


 圭介は僕のクリアに対して、僕から見て左側、ラウンド側にクロスのクリアを打ち返した。追いつけ、足を動かせ! 


 ラウンド側のショットは、利き手と逆であることから、フォア側に比べて非常に取りづらい。頭の後ろを回すようにして振らなければならないし、体幹の軸も崩れてしまう。僕はまだラウンド側の素振りを習っていない。じゃあ、どうするか。


 球が利き手側に来るように回り込んでしまえばいいだろ!


「おりゃぁぁああ!」


 僕は全力で足を動かして、球の下に潜り込む。かっこいいフォームなんて、後で習えばいい。僕は、今使える手札で戦うしかないんだ。

 この球を、どこに打つ。球がもうすぐ落ちてくる。相手はクロスに打ったせいでコートの反対側に立っている。なら、ストレートだ。


 僕はストレートにドロップを打った。あまり上手く打てなかったので浮いてしまったが、啓介は離れた場所にいたので問題なかった。足を目一杯伸ばした啓介がロブを上げるが、上がりきらず。コートの半ばに絶好球となってふわりと浮いた。


(今! スマッシュだ!)


 後ろ足重心から、前に重心を移す。腰、肩、肘、手首を捻り、そのパワーをぜんぶ、ラケットの、この面に!


 スパァァン! 破裂音と共に、スマッシュは相手コートのライン上に叩きつけられた。




「うおぉぉ!」

「じゅんぺー、なかなかやるなー!」


 コート外が沸き立つのが聞こえる。ちらりと目を向けると、佐竹さんがニコリと笑って親指を立てた。




「サービスオーバー、1-0!」


(よし、スタートは順調)


 啓介を見ると、軽く自分のラケットのガットを弄った後、こちらに好戦的な目を向けてきた。


(やば、本気にさせちゃったかも)


 そう思いつつ、僕は口の端が上がるのを抑えられなかった。サーブを構える。



 ぽいん。と、弾くように打たれたサーブは、意外にもあまりネットから浮かずに綺麗なショートサーブの軌道を描いて相手コートに入った。それを啓介は、ラケットの面にシャトルを乗せるようにしてころんとネット際に落とす。


 ヘアピン。僕がまだできないショットの1つだ。僕がここで対抗してヘアピンを真似しようにも、浮いてしまって叩かれるのがオチだろう。潔く、僕はロブを上げた。


 啓介はトトトンと後ろに下がると、打つ前に肘を下げる独特のフォームから、コート左前にドロップを打ってきた。どうやら、僕がネット前を苦手としていることがバレてきたらしい。初心者相手に、大人気ないことだ。


 しかし、今のショットを啓介が打ったのはコートの奥から。もし僕のショットが浮いても、啓介が追いつくまでに球は落ちるので、叩かれる心配はあまりない。ということは、ヘアピンを試してみてもいいかもしれないな。先程の啓介のフォームを真似するイメージで、僕は啓介のドロップをヘアピンでネット際に落とした。


 やはりと言うべきか、僕の打ったヘアピンは1メートルほど浮き上がってしまった。しかし、読み通り啓介が追いつく頃には球は既にネット程度の高さまで沈んでいた。


 その球を啓介はヘアピンで返してくると思いきや、直前で手首を返した。


 僕の目の前をシャトルが横切り、反対側のネット前に着地する。

 啓介が打ったのは、ネットの端から端に向かって打つヘアピン、クロスヘアピンだった。


 僕の足は虚をつかれて完全に止まっていた。


「ふっ、結構上手く決まりましたね」


「啓介……。加減というものを知れよ、少しは……」


「純平が思ったより強くなっているので、やっぱり手加減出来そうにないですね」


「おい! 自分がのびのびやりたいだけだろ!」


 僕はそういって苦笑しながら啓介にシャトルを渡した。




◆◆◆




「純平が思ったより強くなっているので、やっぱり手加減出来そうにないですね」


 啓介の言葉は、半分本当だった。


(純平。本当に初めて1ヶ月なんですか、これは。)


 初心者離れしたフォームでライン上にスマッシュを決めて見せた純平に、啓介は驚きと、僅かな嫉妬心を覚えていた。


(まだ、純平の上でいたい。もしかしたら直ぐに抜かされるかもしれませんが、先に始めたのは、僕なんだ)


 傍から見ても、純平からしても、啓介の方が実力が上なのは明らかであったのに、当の啓介には、なぜだか勝っていると安心できないような雰囲気が、試合中の純平から発せられるように感じられていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ