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07:初めての試合

 基礎打ちを終え、僕たちはフットワーク練習をしていた。


「ほらほらぁ、声出していこう〜」


「ファイトー!!」


「ガンバー!」


 声を出しながら必死に足を動かす。コートの前方には俊太郎が立っている。俊太郎がラケットで指し示した方向にフットワークをする練習だ。そして、指示が出されるまでは足踏みをして待っていなければならないのだが、これが存外厳しい。



「はぁっ、はぁっ、おいっ、そろそろ、指示出して」

 ダダダダッと足踏みを続けながら俊太郎に懇願するような目を向ける。もう20秒は足踏みを続けている様な気がする。


「うーん、まだいける!」


(こ、このクソガキ……!)





「ぜぇ、ぜぇ、結局、フットワーク2回しか、やってない、ぜぇ」


「よかったな! 太ももがきたえられたぞ、じゅんぺー」


 少し伸びた自分の坊主頭を撫でつけながら、俊太郎は悪びれもなくにかっと笑った。


「……次は僕が指示を出す。コートに入れ、俊太郎」


「……なぁ、そんな怖いカオすんなよ。ごめんな。な? じゅんぺー」


「……コートに入れ」







「はぁっ、……おい! 動かしすぎだろっ」


「いい気味だ」


 俊太郎には、逆に絶え間なく指示を出してやった。しかし、認めるのは癪だけど、俊太郎は素人目に見ても凄くフットワークが上手い。俊太郎の身長は130センチくらいで僕よりずっと低いのに、凄い足の回転で大人顔負けのフットワークをする。僕がフットワークの練習をする時の手本にしているのは、本人には言えないけれど。


 フットワークの練習の列に並びながら、ふと俊太郎に聞いてみた。


「ねぇ、僕のフットワークで気になるところってある?」


「えー? じゅんぺーは初心者だから、全部だな!」


「本当のこというなよ、落ち込むから」


「まあでも、けっこう上手くなってるとおもうぞー? 直すとしたら……、頭が動きすぎてるところかな。佐竹さんがよく頭動かすなっていってる」








「頭を動かさない、か」


 フットワークで再び僕の番が来た。俊太郎に言われたことを反芻する。そういえば、上手い人達はホバー移動をするかのように頭の位置が動いていないかもしれない。

 よし、試してみよう。


「かかってこい、俊太郎!」


「よっしゃー! 前!」


 指示が出される。僕は軽くリアクションステップをすると、頭の位置を極力動かさないよう、平行に身体を運ぶ。お、確かに、なんだかこれの方が疲れないし、ブレない。


「次、後ろー!」


 後ろも頭を動かさないように――


 あれ、頭を動かさないまま、素振り? どうやるんだ?



「にはははは! じゅんぺー、なんだそのフォーム! 腰も膝も曲がりすぎだろ!」


 僕は、頭を動かさない事を意識するあまり、カチカチのフォームのままオーバーヘッドストロークをしていた。目の前の俊太郎は腹を抱えて笑っている。

 顔が凄く熱くなった。




◆◆◆




「次、ゲーム練習ぅ〜。ノック片付けて〜」

「「はい!」」


 練習開始から2時間ほどが経過し、次はゲーム練習だ。と言っても、僕はこれまでゲーム練習に参加したことは無く、専ら別の場所で佐竹さんに基礎的な技術を教わっていた。

 佐竹さんがゲーム練習の組み合わせを指示していく。

「はい、1コート、啓介、純平」


「んぇ!?」

 てっきり今日もフットワークの見直しをすると思っていた僕の喉は虚をつかれて変な声を出した。


「今日は皆と同じメニューやらせるって言ったろ〜? ほらほら、早くコートに入って〜」


「は、はい!」




◆◆◆




「よろしくお願いします、純平。僕もそこまで上手くないので、あまり手加減はできませんが」


「お手柔らかに……」


「ファーストゲーム、ラブオール、プレイ!」


 試合開始のコールがなされる。周りの審判の子に軽く会釈して、構える。一面まるまる自分だけで使うなんて、初めての体験で変な緊張感がある。

 ファーストサーバーは啓介。眼鏡をクイと直して、此方に半身で相対する。構えはロングサーブ。来る。


 ぱぁん! シャトルは高く打ち上げられた。左手を上げながら後ろに下がる。ここで……ドロップ!


 僕の打ったシャトルはネットスレスレを通過して地面に落ちる。啓介は反応できない。


「サービスオーバー、1-0」


「おぉ、……! よし!」


 上手くいった! 上手く行きすぎたくらいだ。ともかく、最初の1点は僕が貰った。


(よしよしよし。このまま行くぞ。……あれ。サーブって、どうやるんだ)






「あ」


「どうしたんです? 佐竹さん」


「あぁ、ハセさん。いや〜、僕、純平にサービスの打ち方教えてないや」






(やっばい! 分からない!)


 焦る。皆がやっているロングサーブはよく分からない。野球のノックみたいなものか?


 僕はノックをするようにシャトルを前に放り、スイングして打ち抜いた。


「あちゃぁ〜」

 佐竹さんは申し訳なさそうに頭を搔いていた。


「フォルト!」


「えぇ?」


「純平くんね、サーブの時足浮いたらだめなのよ」


 審判をやってくれていた須狩ジュニアの大人に指摘される。これで得点は1-1だ。僕の取った1点のアドバンテージはあっけなく失われてしまった。




◆◆◆




「15-3、ゲーム」


「ぐっ……」


 結局、1セット目は、啓介のミスも含めて3点しか取る事が出来なかった。ラリーが出来なかった訳では無いが、最後にはいつも甘い球が相手に行き、決められてしまっていた。


(どうしよう。このままじゃ2セット目もおんなじだ)


 焦りながら向かいのコートに移動する。と、佐竹さんがチョイチョイと手招きをしている。


「純平、こっちきて」


「はい?」






「まずは、悪くなかったよぉ」


「本当ですか? ぼこぼこでしたけど」


「まあ啓介も小3からやっているからね〜。流石に強いよ。でもね、結構ラリー出来てたよ」


「でもいつも僕が甘い球を上げてしまうんですよ、最後に」


「そう! そこだよぉ」


 佐竹さんのメガネの奥の目がぐわっと開かれた。驚いて僕はびくりと体を震わせる。


「なんで甘い球になっているか? それは、君が打ちたい体勢から打っていないからだ。つまり」


「フットワークで追いついてしっかりした体勢で打てば、いい」


 佐竹さんはにこりと笑って口を止めた。「そういうこと。」


 僕も、初めての試合に気が急いてフットワークを意識できず、両足をベッタリと地面に付けて止まってしまっていたかもしれない。次のセットは、動き続けよう。啓介に一泡吹かせるんだ。


「あ、あとサーブは軽く相手のコートに入れるような緩いやつで今は十分だよ〜」


「分かりました。……ってそういえば、サーブ教えずに試合させないで下さいよ!」


 佐竹さんは知らん顔をして隣のコートに逃げていった。

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