【第5話】初めてのご奉仕
後悔しても遅かった、鍵は閉まっていて出られない。
「どうしたの?早くこっちにおいで」
嫌だ……相手をするってそういう事だろ?
「早く!!」
ひいっ!離れているのに黄色い唾が飛んで来た。
「す、すみません!今行きます」
仕方がない、時間までどうせ外には出られない。
「ぐひひ……近くで見るととっても可愛いねぇ……
名前はなんて言うの?」
「な、ナナシです」
「ふーん、ナナシちゃんって言うんだ〜名前も可愛いね。ナナちゃんって呼んでいい?いいよね呼ぶよ?
今夜はナナちゃんに僕のこれを綺麗にして欲しいんだ」
うっ……!
ボロンとぶら下がった男のそれは、異様な程大きく太くグロテスクな代物で、
目に染みるほどの酷い悪臭を放ちながら、ビクビクと浮き出た血管が脈を打って高ぶっていた。
「僕ちゃん、お口でされるのが大好きなんだ」
じょ、冗談じゃない、こんなのを口に入れたら、病気になっちゃうよ!
「ほら早く」
僕の口元にそれを突きつける。
「んもう愚図愚図しないで早く舌を出すんだよ!」
最悪だ、臭い汚い気持ち悪い……!
「ああ〜いいよぉ……でも舐められるだけじゃ満足できないよ、だからーー」
!!!
頭を両手で固定されて、無理矢理喉に男はそれを突っ込んだ。
う゛ごっ!
「いいよぉナナちゃん!最高だよぉ〜ああもう我慢できない!ねぇ出すよ?全部飲むんだよ?」
押さえつけられて逃げられない!
咥えた物が大きくなる。
「おお゛〜ん゛!!出る!ナナたん出すよ!」
嫌だ無理!それだけは絶対無理!!
咄嗟の判断で僕は顎に力を入れた。
ガリッ
「が゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛!!!」
男の叫び声が部屋に響き渡る。
不快な鉄の味が口いっぱいに広がった。
「この雌猫!思いっきり噛みつきやがった!!!」
男はだぶだぶの腕をしならせて、そのまま平手で僕をぶった。
バシーン!!
床に叩きつけられる、
頬はビリビリと痛み、頭は強く揺すられて、叩きつけられた衝撃で意識が朦朧とする。
男はそんな僕をお構いなしに、頭を鷲掴みして起き上がらせると、コフー!コフー!と荒い息を吐きながら怒りに任せて大きな両手で首を締め上げた。
「僕ちゃんに噛み付くなんて、教育が成っていない不良猫ちゃんでちゅね!
そんな悪い猫ちゃんには、きつ~ーいお仕置きが必要でちゅね!!」
気道が塞がれ息ができない、手足を暴れさせて精一杯の抵抗をするも両手は首を離さない。
意識が次第に薄れていく、
このままだと……死ぬ……ごろされる……!!
その時だった。
「おい!何をやっている!!」
部屋のドアが開いて店主が入ってきた。
男の両手から解放されて、下へドンと落とされる。
酸欠状態になった僕は倒れたまま息を吸うのに必死で動けなかった。
薄れる意識の中、店主が男を宥めているのが聞こえた。
もう……嫌だ……
目の前が真っ暗になって、僕はそのまま気を失った。
「チッ、客に噛み付くとはとんだ馬鹿猫だぜ。こういう馬鹿にはしっかりと、自分の立場ってやつを教えてやらねぇといけねえな、こいつは明日から教育部屋行きだ」
※※※※※※※※※※
黴臭い灯のない部屋、ここはどこなのか、
部屋の中には他に数人の女の子達が入れられていた。
ガクガクと体を震わせて怯えている子、虚ろな目でボソボソな独り言を呟いている子、
おおよそ察しはついた。
客に反抗したんだ。
それの罰を受ける為にこの部屋に入れられている。
「もううんざりだ。こんな世界、もう嫌だ……」
追放されて、地位も名誉も何もかも失って……こんな仕打ちあんまりだ!
悲しくて涙が溢れた。
「ねぇ、あなた」
?
誰かが、耳元で呟いた。
「あのオークに噛みつくなんて、中々やるじゃない」
振り向くと、同い年くらいの、14、5歳くらいであろう長い髪の少女がこちらをじっと見つめていた。
夜空の様な黒い髪、燃える紅玉みたいに赤い瞳の少女。
それは僕とは正反対で、意志の強そうな顔をしていた。
「ねえ相談なんだけど、あなた、私と一緒にここから出ない?」