【第20話】魔女との接触
(う……)
冷たく湿った空気が肌を湿らして、ポタ……ポタン……。と落ちる水滴の音に目を覚ます。
(ここは……何処……?確か僕……後ろから巨大蜂に襲われて……)
まだ意識がはっきりしない。
毒でも打たれたのか、体が上手く動かない。
ここは……部屋?
気が付くと、僕は薄暗い部屋の中にいた。
(巨大蜂の巣窟じゃない……?)
薄暗さに慣れてきて、やがて周りの景色が見えてくる。
そこは至る所に奇妙な道具や薬の瓶が陳列した薄気味の悪い場所で
「!? な、なんだよこれ……!」
僕は自分の状況に戦慄を覚えた。
まるで吊り井戸の様な設備に吊るされた身体、
頭上の滑車から伸びたロープによって両手は縛られ、ぶらーん、と浮いた足は暴れられないよう鉄の錠に掛けられて、鎖によって繋がれていた。
足元には床が無く、代わりに四方1メートルほどの底の深い水槽が設置され、たっぷりと水が張っている。
(まさか……これって……!)
ガチャガチャと手足を動かすもびくともしない。
水珠で脱出を試みるも、何故か魔力を上手く引き出せない。
淡い光を発するロープ。
僕を縛るロープと鎖には、魔封じの術が込められていた。
(そんな、これじゃあどうやっても逃げられない……!)
「あら、お目覚めかしら?」
「ーー誰!?」
暗闇の中から女の声が。
声の方へ顔を上げると、そこには黒衣に身を包んだ女の人が。
「初めまして勇者さま
ーーと言っても、私の蜂達が随分とお世話になったけど」
背中まで真っ直ぐに伸びた黒い髪、腰には魔法の杖にも似た長い横笛を刺し、顔は仮面に隠されて分からないけど、僕は彼女が何者か直ぐに分かった。
「あ、貴女はーー」
(仮面を被った長髪の女……この人がーー)
「黒羽の魔女……!」
「あら、私を知ってるの?……姿を見せた覚えはないけど」
「ぼ、僕をどうするつもり!?」
「どうする?さあ……どうしましょうか」
魔女はこちらに近づいて、僕の耳元で囁いた。
「あなたの仲間に……闇の魔法を使う魔法使いの女がいるでしょう?」
アズサの事だ。
「あの女の……そうね、弱点を教えて貰えないかしら」
アズサの弱点……?
「貴女たち2人とも、町の差し金なんでしょう?
私の計画を邪魔する悪い虫……害虫。
害虫は直ぐにでも殺さなければいけないけれど、中々どうして、随分と手を焼かせてくれるじゃない?
……だから弱点を知りたいの」
「そ、そんなの……知らないよ!」
アズサは命の恩人だ。たとえ知ってたって話すもんか!
「それは残念、じゃあいいわ、あなたの体に直接聞くから」
え、ちょっと待ーー
魔女はそう言うと、引き上げた状態にあったロープからロックを外し、
僕を水の中へと突き落とした。