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【第19話】襲撃

「それでは討伐の依頼、よろしくお願いいたします」


 町長が契約書に印を押し、巨大蜂(キラービー)の巣の殲滅、その依頼(クエスト)が始まった。

「山林までは我々もお供します」

 心強い?かはさておいて、ローブ達も途中まで来てくれるそう。


 こうして僕とアズサ、3人のローブ達の計5人で出発し、

 町を出て山林近くまで来た時だった。


「みんな止まって」

 先頭を歩いていたアズサが僕らを止める。


「どうしたの?」

「しーっ、静かに」

 アズサは口元に指を当てて辺りを警戒、

 声を潜めながら僕らに言った。


「何かの音が、こっちにどんどん近づいてくる」


 音?

 全員で耳を澄ませた。すると本当だ、

 僅かに空気が揺れる音、ブーンと低い不協和音、それがこっちに近づいてくる。

 これはーー「羽音?!」


「おい!あれを見ろ!」

 気づいたローブが上空を、指さし同時に全員が上を見る。

 すると雲の切れ間から現れたるは黒い影、闇色の羽、4匹のーー


巨大蜂(キラービー)だ!!」


 ローブが叫び声を上げると同時に、

 はてなが僕の頭を駆けた。

 何故

 夜行性の筈の巨大蜂(キラービー)、それがどうして早朝に?!


 ピローン……ピロローン……。

「ーー!?」笛の音?ーーまさか!!


「魔女だ!黒羽の魔女に見つかったんだあ!」

 笛の()を聞いた途端、みるみると青ざめるローブ達。

 震えた声で叫びながら、ローブ達は逃げ出した。

「あぁあ殺される!後は任せたぞ勇者様!」

「みんな退避だ、逃げるんだあ!」


「ちょ、ちょっとあんた達!?」

 振り返る僕。

「駄目!今奴らに後ろを見せちゃーー」

 アズサが叫んだその刹那


「ぎゃああああ!」

 ズバン!!


 真っ先に逃げたローブの1人、 その首を

 巨大蜂(キラービー)前翅(まえばね)が一瞬にして刈り取った。


 ザーーッ!

 降り注ぐ赤い雨。


「うっ……うわああああ!」


 仲間の死に、パニックに陥るローブ達、

 背中を向けて逃げる彼らに向かって、襲い掛かる巨大蜂(キラービー)

「ぎゃああ」ズバン!!


 また1人、

「アズサ!こいつら巣窟の時より動きが速い!」

「ママぁ!」「きゃっ!!」

 

 残されたローブの1人が、僕の腰に抱きついた。

「な、何で!?やめてよ、ひっつかないで!」


「た助けてくれ、あんた勇者で強いんだろう!?」


 正面から2匹、まずい、これじゃあ攻撃を避けられない!


「『幻影のナイフ(イリュージョンナイフ)』!」

「「ギイイ!!」」


 2匹に突き刺さる投げナイフ、

「あ……アズサ!」


 落下する巨大蜂(キラービー)、2匹撃破、これで戦局は3対2。


「レイン!1匹あなたの方に!」


 ぐ、今度こそ回避……出来ない!

 僕にびったり抱きついた、ローブが重くて動けない!

「ーーレイン魔法を!」

 魔法ーーそうだ!


 巨大蜂(あれ)に向かって魔法を撃てば!


 僕は咄嗟に手を前へ出して構えると、狙いを定めて魔法の呪文を紡ぎ出す!

 水の魔法ーー「『水珠(アムル)』!」


 ザン!!!


 飛び散る赤い水滴が宙を舞い、滴が僕の頬へとはねた。


「……え?」

 通過する強い風(ソニックブーム)


 しがみ付いていたローブの体が、2つの肉片となって地面に落ちる。


 うそ……僕の手から水が出た形跡が無い。

 力みすぎて……不発……!?


 ゴロン……

 ーー!

 転がる死体と目が合った。


「ひっ……」ご……ごめんなさい……!

 発動さえしていれば……きっと助けられたのに。


 アズサの言葉を思い出す。

(いい?レイン、魔法の発動には精神の状態とそのコントロールが大事なの)


 実戦での精神コントロールがこんなに難しいなんて……!


「『幻影のナイフ(イリュージョンナイフ)』!」


 アズサが残る2匹を始末した。



 ※※※※※※※※※※



「レイン大丈夫?!」


 駆け寄るアズサ。


「僕は大丈夫、でも……ローブ達が……」

 肉塊となったローブ達。みんな命を落としてしまった。


「人がモンスターに殺される、危険な依頼(クエスト)ではよくあることよ」

 アズサが僕の頬に付いた血をぬぐう。


「強いねアズサ……1人で4匹、巨大蜂(キラービー)を全員倒しちゃうなんて」


「そりゃあもう、アズサちゃんは優秀ですから!」

 アズサはえっへんと胸を叩いて自慢げな顔をした。


「でもレイン落ち込まないで、彼らの命を救えなかった、それは貴女のせいじゃないし、レインが責任を感じる事じゃない」


 ありがとうアズサ……。


 アズサがぐるりと辺りを見回す。

 完全に生き絶えた4匹の巨大蜂(キラービー)

「でも、この襲撃は誤算だったわね」


 まさか先に待ち伏せされていたなんて。


 情報の漏洩か、はたまた偶然だったのか、どちらにせよ今の戦闘で、巨大蜂(やつら)に僕たちが攻めてくること知られてしまった。


「できるだけ早く山林に行きましょう、態勢を整えられるその前に」

「うん!」


 そうだ、僕たちの行動が既に巨大蜂(キラービー)、そして黒羽の魔女に知られているのなら、愚図愚図してはいられない。

 急いで巣窟へと向かおうとしたーー

 その時だっだ。


「レイン!後ろ!!」


 ーーえ?

 突然アズサが叫んだその直後、


 ドッ!!「ーーゔ……!」


 僕は脇腹に重い衝撃を受けて、身体がふわりと宙を舞う。


「レイン!!」


「な゛……」 後ろに気配。

 ーー巨大蜂(キラービー)!?


 地面に落ちる直前、巨大蜂(キラービー)が僕をキャッチして、そのまま上空へ舞い上がる。


「や……やだ離して、離せったら!」

 さっき全員倒されたはず、なのに何故!?


 捕らわれた身体が、地上から遠ざかる。


 上空から下を見てハッとする。

(あ、あれは!)

 さっきアズサと一緒に立っていた場所のすぐ後ろには、最初は無かった筈の、大きな穴が空いていた。

(地中に1匹……飛んで来た巨大蜂(キラービー)とは別に隠れてたんだ……!)


「ひ……卑怯者ーー!」


 僕は脇腹の痛みに耐えながら、手のひらを巨大蜂(キラービー)へと突き出した。

 集中して精神をコントロール!「僕だって……魔法が使えるんだーー!」


 アズサに貰った魔法石(ペンダント)が光る。これでも喰らえ!

 もう1度今度こそ、魔法による攻撃を試みたその刹那

「『(アム)ーー


 ギュム!! 「がっ…………!」


 危険を察知した巨大蜂(キラービー)にお腹を強い力で締め付けられて、

 詠唱を寸前で止められる。


 喉から胃液が込み上げて、たまらず口からぶちまける。

「げはっ……お゛……うえ゛……」

 ぐにゃりと視界が歪んで霞む。


「レイン!!」


 段々と視界から遠のくアズサ。


 前脚で僕の体を掴んだ巨大蜂(キラービー)はそのまま僕を盾にしながら、山林の奥へと飛び去った。

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