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【第1話】裏切り

「レイン、きみをこのパーティーから追放する!

 いや…俺たち全員このパーティーから抜けさせてもらう!」


 ドラゴン退治の帰り道、

 剣士ルークの発した言葉に僕は唖然とした。


 同時に怒りが込み上げる。


「何だって?今なんて言った!?

 勇者の僕を追放する?!ふ…ふざけるな!」


 いつにも増してルークの表情は真剣で、彼が本気で言っていると察した僕は顔を真っ赤にしてその胸ぐらを掴んだ。


「おいルーク、誰に口を聞いているのか分かっているのか!?

 僕は最強の…SSランクの称号を持つ勇者にして、このヴァスギニアの領主、グローウェン・ヴァスギニアの息子、レイン・ヴァスギニアだぞ!!」


 心外だ、実にこの態度けしからん!

 誰のおかげでヴァスギニア一番の最高ランクパーティーになれたと思っているんだ!


 高ランクの魔獣討伐も、ダンジョンの攻略だって全部、全部僕がお父様に言って回してもらった仕事じゃないか!最近は指名も増えて僕がお父様に頼む機会は減ったけど、恩を仇で返すつもりか?!


「レイン、君には感謝しているよ、おかげで俺たちは4人パーティでありながら、勇者である君の力を必要とせずとも3人でSランクのドラゴンを討伐できるまで強くなった」


「何が言いたいんだよこのへなちょこ剣士!Aランクのくせに生意気に一丁前発言か?!」


 僕はルーク、そしてその後ろにいる2人の女共、魔法使いエルナと僧侶リリア、そう、パーティーの仲間たちを睨みつけた。


「僕を怒らせたなお前たち…僕を怒らせて唯で済むと思うなよ?お父様に言ってこのヴァスギニアにいられなくしてやる!特にルーク!お前は家族も道連れだ!」


 さあ謝れ!謝っても許さないけどな!天罰だ!一生僕の靴を磨く下僕にしてやる!


「ああ、構わないさ。俺には家族なんていないからな」


「へ?」


 ルークは手にしていた手紙を僕に突きつける。


「レイン、君は少し自分の立場を理解した方がいい」


 手紙にはこう記されていた。

『ヴァスギニア領主毒殺されたし、よって革命軍が領土を支配し、ヴァスギニア改め、平和で自由の地

 リーヴェンとしてこの地を統治する』


 毒…殺?

 お父様が…僕の王国が…!!


「お前ら…!!!」


「誤解しないでくれ、俺たちは裏切っちゃいない。やったのは三等市民達なる革命軍だ。俺たちは君のお父様、グローウェン領主率いる勇者パーティーであり討伐依頼を受け領地から離れていただけのこと」


「な…ふ、ふざけんな!!!」


 僕は手紙を地面に叩きつけ、ルークの頬をぐーで殴った。


「信じるものか!信じないぞ僕は!殺してやる…!!!お父様に言ってお前らなんか…!!」

 予備の鞘から小剣を抜き、振り下ろさんと頭上で構えた。

 殺してやる…!ぎたぎたに切り裂いて殺してやる!


「ふ…SSランクの勇者のパンチはこの程度か…」


 ゆらりとルークは立ち上がり、蔑んだ目を僕に向けた。


 ドスン!!


「が…はっ…!!」


 小剣を振り下ろす前に、一瞬で懐に入った拳が僕の腹にめり込んだ。


 視界がぐるりと回転して、出かける前に食べたチェリーパイを嘔吐する。

 痛みに体を痙攣させて、薄れる意識の中で僕は3人の言葉を耳にした。


「なにこいつ…ワンパンで気絶って弱すぎない?おまけに嘔吐とかまじで気持ち悪いんですけど、そう思わない?リリア」


「まぁまぁエルナ、気持ち悪いだなんて勇者様が可哀想ですわ。実力も無いくせに父親の権力で手にしたSSランク、本来Sランクの実力を持ったルークに一発でのされるのは当然です、ね?ルーク」


「これでも相当手加減したつもりだったんだが…ここまでとは、しばらくここでのびていることだ、殺さず革命軍にも渡さないのは、せめてもの優しさと受け取って頂きたいものですね()()()()()()


 ふざ…け…な…


 がくり。



 僕は意識を失った。



 ※※※※※※※※※※


 気がつくともう日が暮れていた。


「う…ゲホッ!ゲホッ!」


 痛い…お腹が痛すぎる。ルークのやつ…思いっきりやりやがったな。ズキンズキンと痛む腹を抱えながら、僕はフゥー…フゥー…と呼吸で再び薄れる意識を何とか保つ。


「帰らなきゃ…帰ってお父様にこの事を伝えなきゃ…」


 足を引き摺りながらも僕はヴァスギニアに急いだ。


 灯りが見える!帰ってきたぞ、ヴァスギニア!

 なにやらお祭り騒ぎが起きている様で、愉快な音楽が聴こえてくる。


「ドラゴン退治のお祭りがもう始まっているのか?

 …なんだよ、主役を差し置いて、まず最初に英雄であるこの爆を祝うのが先だろうに」


 ふらふらと灯りを目指し足を精一杯急がせる。


 …あれ?何かおかしくないか?


 違和感が先走る足を止めた。

 何だあれ…燃えている?


 それはヴァスギニアの象徴、ヴァスギニア城の最上階に立てられた一本領旗。


 な…嘘だろ?!燃えてる…燃やされてる!


「ほ…本当だったんだ…!ルークが見せたあの手紙の内容は…!

 や…やりやがった!本当にヴァスギニアを奪い取りやがった!!!」


「返せよ!なあ返してくれよ!!」


 膝から崩れ落ち、涙と鼻水で顔がぐちゃぐちゃになった僕は帰ることのできない自分の故郷を前に唯泣き叫ぶことしかできなかった。


 夜が明けると

 地面にチラシがばら撒かれているのに気がついた。

『尋ね人、レイン・ヴァスギニア。見つけ次第生け捕りにてリーヴェンまで、懸賞金1千万ゴールド』


 僕は半ば放心状態になりながら、今は無きヴァスギニアから逃げるように背を向けた。


 行く宛もなく、唯ひたすらにここじゃない何処かを目指した。

 1つの感情だけを抱いて、僕は旅に出た。


「待ってろ…必ず…絶対に復讐してやる…!!!」

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