【第18話】約束
翌朝、
何やら外が騒がしく、その声に僕とアズサは目を覚ます。
部屋の窓から外を見ると、屋敷の周りには大勢の町人達が、わんさかと集まっていた。
「勇者様ばんざーい!」「魔法使い様ばんざーい!」
僕たちが屋敷から出てくるとそれはもう大騒ぎで
町人達の激励に、僕ら2人はちょっとした英雄みたいになっていた。
「こんなに期待されるなんて、身が引き締まるわねレイン!」
「そ、そうだねアズサ!」
でもこれだだけ期待されてるって事は、巨大蜂の巣の殲滅、この依頼がそれだけ危険だという事だ。
正直怖い。あの巣窟で僕は嫌というほど恐怖した。
……でも大丈夫、もう今はあの時の僕じゃない。
そうだよ、だって僕は魔法という新たな力、戦う力を手に入れたんだ!
討伐に向かう準備を済ませ、
「じゃあそろそろ行きましょレイン」「うん!」
パン!とほっぺを叩いて気を引き締めたその時だった。
「おーーい!黒の姐ちゃん!銀の姐ちゃん!ちょっと待ってよ、待てったら!」
屋敷の中からバタバタと、階段を駆け降りる音がしてーー
「ったくどうして誰も起こしてくんないのさ!」
現れたのはパジャマ姿の少年ワカバ。
ぜー……はー……と息を途切らせながら
こちらへ走って来るワカバ。
僕は「げ……」と苦い顔になる。
まさか、連れて行けって駄々こねるんじゃ……
「駄目!言ったでしょ?あなたを一緒に連れては行けないわ」
アズサがぴしゃりと抑止する。
しかし
「ち、違う!そんなんじゃないよ!」
ワカバはアズサの手を払いのけると、
「これ持ってって!」
そう言って両手を僕らに差し出した。
手には甘い香りの紫の宝石?のついた首飾り。
(え、いいの?!売り物になるかは分からないけど、
貰えるなら貰っちゃう!)
「ダメよそれは受け取れない」
え!
アズサがその手を下げさせる。
「え、アズサ?!」
「何よレインその顔は」
「いや……だって、せっかくくれるって言うんだし……」(それに僕は、アズサもお金になれば嬉しいかなって……)
「ワカバ、これはあなたにとって大切なものでしょ?お姉さんから貰ったたった1つの」
あ……。
それを聞きワカバがアズサから目を逸らす。
「でも俺……昨夜沢山考えて……姐ちゃん達の役に立ちたくって、何か渡せるもの無いかって……でも、これ以外渡せる様な、役に立つものなんて見当たらなくて……!」
俯くワカバ、アズサがそっとその頭を撫でて言う。
「ありがとう、その気持ちだけで充分だから」
「でも……!」
「何も無しじゃ不安?」
「うん……」
「じゃあ私達が戻って来るまで祈ってて」
「祈る?」
「そう、巨大蜂をやっつけて、無事戻って来ますようにって、それが1番の力になるから。ね?」
「……わかった」
アズサの言葉にワカバはこくりと頷いた。
ぎゅっと抱き合う2人の姿は、まるで姉弟の様だった。
第19話〜第2章最終話までの加筆修正のため1週間ほど投稿をお休みさせて頂きます。 次回は7月18日からの投稿を予定しています。