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【第15話】黒羽の魔女Ⅱ

「ねえレイン私この依頼、断然やる気出てきたかも」

 

 アズサが意気込むその時だった。


 応接室の扉がバン!と開いて、

「勝手に話を進めるなーー!!」


 1人の男の子が部屋に怒鳴り込んできた。


 栗色の髪に緑の瞳。


「き、君は……!」

 僕はこの男の子を知っていた。

 僕がハッと顔を上げると、男の子は驚いた顔をした。

「!銀髪の女……生きていたのか」


 その口の聞き方に、僕は少しムッとする。

 失礼な!ピンピンに生きてるよ!


 この子、確かワカバっていったっけ?相変わらず生意気なガキ!


 しかしワカバは僕とアズサを目にすると、すっごい小さな声で「よかった……」と呟いた。


 ワカバは町長たちを睨みつけ、彼らに向かって大声で叫んだ。

「何だよみんな!余所者なんかに頭を下げて!恥ずかしくないのかよこんなやり方!」


 何故だかワカバは激おこだった。

 余所者に恨みでもあるのだろうか、ワカバは続けた。

「何でみんな信じないんだ!?

 こいつらなんかに頼まなくても、この町にはお姉ちゃんがいるのに!」

お姉ちゃん?

「オチバ姉ちゃんが帰って来れば……蜂も魔女も、みんなすぐににやっつけてーー「ワカバ!!」


 町長がその言葉の途中で怒鳴り、叫ぶ彼を黙らせる。


 前にも同じ様な光景を見た。ーーが、

 今回のワカバはそれだけでは下がらなかった。


「……ッ!何だよ弱虫!だったらいいよ!」

 ワカバは涙目になりながらも、町長に向かって刃向かった。

「こんな余所者に頼るくらいなら、いっそ俺が戦ってーー」

 パーーン!!

 そこに町長の平手が飛んだ。


「いい加減にしないかワカバ!まだ分からないのか?!お前の姉はーー

 ()()()()()死んだんだろ!」


 その言葉がトドメとなった。

 ワカバは震えた手で叩かれた頬に触れると、ボロボロと涙をこぼして

「ぶたれた……ううっ……今まで父さんにも…死んだ……嘘だ!

 姉ちゃんは……オチバお姉ちゃんは死んでなんかいないのにー!!」


 そう言って泣きながら部屋を出ていった。



「……お姉さん?」

 アズサが聞くと町長は

「そうです、フランシード家にはワカバの上に1人、7つ歳の離れたオチバという姉がいたのです」

 そう言って席に戻って話してくれた。


 ワカバの姉

 名前はオチバ・フランシードというらしい。


 彼女は正義感が強く、都会の魔法学校(マギナスクール)に入学するほど優秀な娘であった。


「しかし半年ほど前、巨大蜂(やつら)を倒すと町を出たきり行方不明に…… 」


「そうでしたか」

 話を聞いたアズサが席を立つ。


「どちらへ?」

 町長の質問にアズサは上を指差し、そして応えた。


「あの子の部屋、確か2階でしたよね?」

「え、ええ、ですが……」


「このまま依頼を受けてもいいけど、あの子は納得していないみたいだし……どうせ依頼を受けるなら、討伐に向かう時、この町の全員から歓迎されたいじゃない?」


「まさかアズサ……説得するつもりなの?!」

 アズサが1人2階へ向かう。

「ちょ、ちょっと待ってアズサ!

 僕も付いてく、付いてくよ!」


 僕とアズサは2階へ行くと、ワカバの部屋の扉を開けた。


 ※※※※※※※※※※


 少年は泣いていた。しかし僕たちに気がつくと、ぐっと涙を拭いて睨みつけた。


「……何だよお前ら」

「私はアズサ、そしてレイン。あなたがワカバ、()()()ね?」


「だったら何だよ、用がないなら出ていけよ!」

「あら、辛辣ね。用ならあるわよ?あなたのお姉さんのこと、私たちに教えて欲しいの」


「姉ちゃんの……ことを?」


 すると彼は意外とすんなり、お姉さんのことを話してくれた。


 ワカバの部屋の壁には、彼女の肖像画と思われる絵が飾られていた。

「これは姉ちゃんが魔法学校(マギナスクール)の入学試験に合格した時、画家に描いてもらったものなんだ」


 (ワカバ)と同じ栗色の髪に緑の瞳、透き通った白い肌の綺麗で優しそうなお姉さん。


「スゥルダイ魔法学校、主席のバッジ……」

 肖像画に描かれた彼女を見ながら、アズサがぽつりと呟いた。


「町の皆んなは……姉ちゃんが蜂に襲われて、死んでしまったと思ってるんだ」

 しかしワカバは違うと言う。


「でもそうじゃない!オチバ姉ちゃんは生きていて、今も奴等を倒す方法を探してるんだ!

 その証拠にほら、俺は今でも姉ちゃんに会っているんだ!」


 ワカバそう言って、1つの首飾りを僕らに見せた。

「これは?」

 それは甘い香りがする、中央に紫色の丸い宝石?がついた首飾り。

(この匂いどこかで……そうだ!

 初めて(ワカバ)に会った時、あの時の甘い匂いはこれだったのか)


「これは1ヶ月くらい前に、姉ちゃんがくれたものなんだ。それを身につけていれば、巨大蜂キラービーからその身を護ってくれるって」


 1ヶ月前?! ってことは……

「じゃああなた本当に、お姉さんに会ってるの?」


「うん。事情があって顔は見せてくれなかったけど、あれは紛れもなく姉ちゃんだった。声も仕草も、匂いだって……この首飾り、姉ちゃんと同じ匂いがするんだ」

 ワカバはそう言って、ぎゅっと首飾りを抱きしめた。


「あなた、お姉さんが大好きなのね」


「あっ…当たり前だろ!?たった1人の姉ちゃんなんだから!」


「実は私たち、あなたのお姉さんに頼まれてこの町に来たの」


「え」

(え?)

 突然アズサがそんな事を口にした。


「なっ……嘘だ!そんなの口から出まかせに!」


 そ、そうだよアズサ、一体何を言い出すの!?

 しかしアズサは真面目な顔で


「本当よ、あなたのお姉さん、魔法学校(マギナスクール)の生徒だったんでしょ?私たちもそこに通ってたんだから!()()()()()?」

「え……あっ……ええっ?!」


 アズサはポーチから何かの(あかし)を取り出して、ワカバに向かって見せつけた。


「ほら、その証拠に学生証。お姉さんの通ってた学校の名前もほら、ちゃんと刻まれているでしょう?」


 まじまじとそれを凝視するワカバ。


「あ……あんた、本当に?」


「ええ、彼女……オチバ先輩はよくあなたのことを話していたわ「とっても可愛い弟がいる」って、私たちは先輩に頼まれてこの町に来たの。

 だからあなたにはこの依頼、私たちを信じて任せてほしいの」


「そりゃ……姉ちゃんがそう言ったなら……」


 アズサの説得に、少年(ワカバ)は小さく頷いた。


 ※※※※※※※※※※


「ねえアズサ本当なの?さっきの話」


「ええ勿論嘘よ」


「え、嘘?!

 どうしてそんな」


「だってあの子「自分が戦う」って言ってたじゃない。でも鑑定したら散々だったわ。

 力もない、魔法だって使えない。結局は口ばかりのお坊っちゃまなのよ」


「そ、そんな言い方……」


「口だけならまだいいわ、でも万が一後をつけて来られもしたら本当

 迷惑じゃない?」


 他人の事の筈なのに、その言葉を聞いて、僕は心がズキンと痛んだ。


「ちょ、レイン、何であなたがそんな顔するのよ」


「だ、だって、アズサ僕だって……力も魔法も……全然無いし……」

 僕も同じ、アズサにとって足手まといだ。


「そう、だからレインには今夜、最低限の魔法が使えるくらいには

 レベルアップして貰います」


 れ、レベルアップ?!

 夜、アズサは町長からこの屋敷の寝室をひと部屋借りると、朝まで誰も入れるな立ち入るなと忠告して、僕をその部屋に招き入れた。


 ※※※※※※※※※※


 夜、部屋の中


「ちょっと……アズサその格好は……」


「上着は全部邪魔だから脱いじゃった。いいじゃない、他に誰も来ないんだし。

 それよりレインあなたも早く上着を脱いでベットに座って。


 今から夜のマンツーマン、特別授業を始めます」

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